置き去りにされた四天王 (後編)

◆ ◆ ◆



勇者パーティーが魔王と共に逃亡し、勇者の幼馴染が行方不明になり、それから人類社会は目まぐるしく動き出していた。混乱と変革の、両方の要素が同時に存在していた。

魔王の処刑失敗の、あの一連の騒動は、魔王の演説を抜きにしても民衆に不信感を与えるに十分だった。
熱狂しているときは国王の大声に釣られて同調した者も、頭が冷えると得体の知れない気色悪さに襲われた。
ひょっとして自分たちは取り返しのつかないことに加担したのではないかという不安は、やがて聞こえなかった声が聞こえる耳を持つようになる。

小さな村から始まった、勇者無実を訴える運動。
それは各地へ飛び火し、勇者の無罪を訴える声が次々と王宮に寄せられるまでになった。

もちろん魔族と和解するという話は出なかったし、そこまで考えている人は少数派だったが、かつては荒唐無稽で話せば裏切者として処刑されかねないことでも、口に出せる雰囲気が段々と出てきた。

それは王政の、権力の衰退も意味していた。
国王は次第に弱気になり、どうしていいかわからなくなってきた。
このまま勇者と敵対すれば破滅は確実、あるいは魔族と敵対し続けるのも危ないのではと考えるようになっていた。



◆ ◆ ◆



「正直ボクらもねー、どうしていいかわからないんですよー。」

見た目は子供、頭脳は大人、魔族有数の知恵者イヴィルマリスは、困ったような顔で肩を竦めた。

「なまじっか四天王なんて地位にいるとー、ボクらが竜族の勢力圏に迂闊に入ると戦争になる危険すらあるんですよねー。魔王様と竜王様は友達ですけれどー、魔族と竜族が仲良しかというと違くてー、極端に言えば竜族から見れば魔族も人族も総じて虫ケラみたいなものですからねー、難しいんですよねー。」

「ふむ・・・・。」

「それでもねー、会うだけなら出来なくもないと思うんですー。魔王様が今後どうしていくつもりなのかー、それから勇者パーティーに会って人となりを見るとかー、それだけならー、少なくとも人間の領域に行って話し合うという選択はありませんでした。ですがー、危険でも混乱でも何でもー、こっちを選ばざるを得なくなった。」

「世界の危機、だったか?」

「そうですー。あなたたち人間はー、自分たちと魔族を分けていますがー、魔族の中でも竜族が別枠なのは知っていますよねー?」

「ああ。」

「でもそれはー、単純に力の差の問題でー、いわゆる魔族というのは様々な種族がごったがえしているんですよー。それでねー、人族も魔族も竜族も含めた“我々”と根本的に異なる存在、ご存知ですか?」

「・・・まさか。」

国王の顔が青ざめるところか土気色になる。
カボチャのスープを飲んで元気になったのに、また死にそうだ。

「察しが良いですねー、流石は国王ですー。大昔、まだボクらが生まれる前、魔王様と竜王様が冥界に封じ込めた奴が、戻ってきます。不死身で不気味な死族の王が、ねー。」

「死族の、王・・・。」

「根本的に異なるんですよー。既に死んでるから、死なないんですよねー。」

「ど、どうして、戻ってくると・・?」

「・・・単純明快で絶望的な話ですー。永久にかけられる封印なんてありませんってことですー。決して死なないから、どれだけ時間が経っても死なないから、いずれ出てくるってわけですよー。」

「ぐう・・・うう・・・・。」

国王は脂汗を浮かべて唸った。

「あー、別に魔王様が首だけになったこととは関係ないですよー。しかし人間が関係ないわけではないですねー。人間の中で悪くて愚かな奴が、冥王復活の儀式を行ったんです。」

「な、ば、馬鹿な! そんなことしたら、どうなるか!」

「だから悪くて愚かな奴なんでしょうねー。もはや人間じゃないのかもしれませんねー。人間社会だと犯罪者は人でなしなんでしょうー?」

「う・・・・あ・・・・・ど、どうすれば・・・・・・?」

「ボクらも手詰まりなんですよー。もう人間と魔族が争ってるとかー、そういう状況じゃないからー、一刻も早く講和を結ばないといけなくなったんですがー、だからこっちに来たわけですがー、はいそうですかと仲直りできるわけでもないですしー、仲直りしたところで、ただ最善を尽くしたに過ぎないんですよね。」

ただ最善を尽くしたに過ぎない。
その言葉は重い。

「死族の恐ろしさはー、さっきも言いましたけどー、単純に、死なない、これに尽きます。冥王を封印する以外に、完全に倒す方法はありませんー。ですからー、まずはー、せめて停戦条約。そして“導師”の協力を得ること。」

「・・・そうか、お前たちは、その為に。」

「そうですー。現在は魔族・竜族を含めてー、冥王を封印できる術者は皆無ですー。そしてー、あなた方が“導師”と色々あるのも知ってますー。だからこそボクらが話をつけにいくわけですー。利害の一致ですねー。」

「・・・・・・。」

「疑ってますかー?」

「そう・・・まあ・・・誤解を恐れずに言えば、そう・・・。わざわざ弱みを明かすメリットが無い。」

言いながら国王は、疑心暗鬼に囚われている風でもなかった。
彼の横でイヴィルパンプキンがスープおかわりを注いでいる。

「ボクは悪意の男でしてねー。善意で考えれば、言わなくても通じる、以心伝心、都合の悪いことは隠しておく方がいいってなりますけどねー、ボクはそういうご都合主義みたいなことは信じてないんですよー。言わなければ伝わらない、弱点を隠すと後々ろくなことにらなない、常に最悪の事態を想定し、最悪の事態を回避する。それがボクのモットー、やり方、生き方なんですよー。」

イヴィルジェラシーが注いだスープを飲みながら、イヴィルマリスは真剣な顔で国王を見つめた。


かつてない会談。
かつてない交渉。

世界は動いている。
世界は止まっていない。

最悪から世界を見ても、いつでも世界は最悪だ。
これが最悪だと思っていても、それを下回る信じられない最悪があって、自分の楽観を思い知る。

しかし、時として世界は、信じられない好転をするときがある。

どちらかが滅亡するまで終わらないと思われていた、人間と魔族の戦争は、停戦条約によって終焉の第一歩を迎えることとなった。





   置き去りにされた四天王   完

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この記事へのコメント

2013年11月16日 10:41
火剣「マリスは交渉のプロだったか」
ゴリーレッド「目覚めた民衆ほど強いものはない。聞こえなかった声が聞こえるようになる。これが大事」
火剣「勇者の無実を訴える運動か。冬未の思いは届いたか」
コング「僕の願いはなかなか届かない」
ゴリーレッド「届かなくていい」
火剣「権力者の心をも動かすのはやはり民の力か」
コング「一人の女が国を傾かせることもあるぞ」
ゴリーレッド「傾国の美女か」
火剣「ところで魔族よりも竜族。そして、それ以上の死族がいたのか」
コング「死なないとは最強だ。おい、鬼太郎」
火剣「死族は死なない。病気も何もない。不死身だ」
コング「♪げっげっ」
ゴリーレッド「シャラップ」
火剣「和解してもただ最善を尽くしたに過ぎないか。冥王とはそんなに凄いのか?」
ゴリーレッド「問題は導師だ」
コング「完結ではなさそう。ヒロピンもまだだし」
ゴリーレッド「ヒロピンはいらない」

2013年11月16日 19:15
ルビデ「?死族?冬未の力に引き寄せられたか?」
白龍「何者かによって封印が破られたんですよ。」
ルビデ「それが冬未か。」
白龍「こら、悪意。」
チュルーリ「傷心の冬未は考える。どうして世界は一つにまとまらないのか。それは共通の何かがないからだ。言葉が違う、種族が違う、考え方が違う、思いの伝え方が違う…。違う違う違う!何もかもが…。その時、冬未は思いついた。そうだ、共通の敵がいれば世界は一つになる、と。…というストーリーはどうだい?かかっ。」
白龍「止めなさい、悪意二号。」
フォールス「和解、か…。本当に実現出来るなんてな…。」
筒姫「死族というのがよほどの脅威のようだな。昔に戦ったようだし。」
白龍「この国王が直接見たり関わったりしたかは分かりませんが、封印したのは人間達で間違いないでしょう。ということは、昔にも人間と魔族が手を組んだことがあったかも。」
筒姫「となると死族を封印したら和解もパーか。嫌だな。」
ピアリティ「待って。前が駄目だったからと言って、今回も駄目ってことはないんじゃない?和解して、共闘している間に関係を作り直すの。それに勇者が無実だって訴えている人が大勢いるわ。今、人間も魔族も変わり始めているのよ。」
白龍「これが人間と魔族の戦争の終結の第一歩。さあ、もう一歩、もう一歩と踏み出してもらいましょう。」
2013年11月16日 22:47
>火剣さん
包み隠さず正直に話す。結局はそれが交渉を成功させる秘訣なのかと思います。もちろんそれには、民衆の力が必要不可欠。それぞれの思いや行動が段々と噛み合ってきました。
恐るべき力を持つとされている冥王ですが、果たして実体や如何に? 次も四天王が頑張ります。国王の次は、導師へ。

八武「いいや、ヒロピンは必要だ!」
山田「必ずしも必要じゃない。ヒロピンが無くても、弁論とバトルで魅せることが出来る。」
佐久間「しかし四天王編の次は、ヒロピン編に突入する予定だ。」
アッキー「勝手に名前を変えないでください。」
佐久間「あー、ヒロポン編だったか?」
アッキー「過去編です。」
八武「とにかくヒロピンがあるってことだね。」
山田「思わせぶりな罠かもしれんぞ。」
佐久間「からーん、ころーん、カランカランコロン♪」
八武「ふむ、確かに怪しいな。だが私は諦めない。」
山田「諦めろ。」
八武「人の足を止めるのは、絶望ではなく諦観。だから私は諦めない。」
山田「そのセリフだけはカッコイイんだけどさぁ・・・。」
2013年11月16日 23:03
>千花白龍さん
ダブル悪意による推測が、割と鋭いところを突いているような、そうでないような・・・(汗
共通の敵がいるだけでは、手を組むのも一時的なもの。ピアリティの言う通り、新たな関係を作り直さなければなりません。

佐久間「ルビデもチュルーリも、冬未の性格をよくわかってるなぁ。」
山田「確かにやりそうではあるが、そんなことはないと信じたい・・・。」
八武「善意の男。」
山田「皮肉か?」
佐久間「実現した和解も、冥王の封印よろしく永久のものとは限らない。だが、封印と違うところは、意思ある生き物たちの行動が世界に影響を与えるということだ。」
山田「佐久間こそいつもの悪意が抜けているぞ?」
佐久間「何を言ってるんだ。手を組んだだけじゃ、死族に滅ぼされて終わりかもしれないんだぞ。手を組んだって、たかが手を組んだだけだ。」
山田「しかし、昔に封印できたってことは、今やれないってこともないはず。」
佐久間「・・まあね。」
八武「何か含みのある顔だな。」
佐久間「冬未の“何でも斬れる剣”は、封印を斬ることも出来るよ。」
山田「急に話を逸らすな! ・・・いや、封印しても無駄だって意味か?」
佐久間「・・・・・・。」
山田「何とか言えよ!」
佐久間「ナン・トーカ。」
八武「踊らされるな山田。こいつは悪意の女だ。」
山田「うーむ。」

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