遥かなる昏き闇の中 (後編)

◆ ◆ ◆



「ハルカ先輩っ! 私、ついに導師になるんですよ!」

50年前に拾った、ルミ家の末娘が、きゃぴきゃぴとスキップしながらハルカに報告してきた。
栗色の髪と、幼げな顔立ちの彼女は、この2ヵ月後に第四十七導師の称号を得る。

「驚かないわ。あなたなら、わたしの隣に立てるって思っていたから。」

「そ、そうですかー?」

照れながらフードをつまみ、スーラは笑顔になる。
それを見ながらハルカは、言わないでおいたセリフを心の中に思い浮かべた。

(そして・・・いずれは、わたしの前に立つのね。)

すなわち、敵として。



◆ ◆ ◆



それから70年ほど、魔族と人間の戦いは、ずっと続いていた。



◆ ◆ ◆



体の異常に気付いたのは、お腹が膨らむ前だった。
明らかに。

(まさか、冥王様との・・・!?)

男子禁制の“聖堂”で、あってはならないことだ。
不安で増大した吐き気をこらえていると、声をかけられた。

「ハルカ、大丈夫ですか。」

大導師クーアン・タムガット。
流れるような銀の髪を持つ、導師たちの長。

(まずい・・・!)

「大丈夫です、落ち着いてください。」

大導師クーアンは、耳元で囁いた。

「妊娠のことなら、わかっています。」

「・・・!」

「確かに“聖堂”は、外の世界と交流を絶った、女たちの園です。しかしそれは、男たちに傷つけられた女を保護する為のものであって、男と交わった女に肩身の狭い思いをさせる為のものではありません。ハルカが自ら望んだことであれば、詮索もしません。私は祝福します。」

「・・・は、はい。わたしが望んだことです・・・。その、相手は言えないのですが・・・。」

恐いくらいに都合よくいくものだと、ハルカは思った。
この世間知らずの大導師様に、悪意を教えてやりたいと思ったくらいだ。

心の中で邪に笑い、ハルカは満開の花のような笑みを浮かべて大導師の胸に飛び込んだ。

「大導師様・・・!」

「よしよし、つらかったんですね。もう大丈夫ですよ。これは私とハルカだけの秘密です。」

「はい、感謝します・・・。」(あなたの、ちょろさに。)



◆ ◆ ◆



やがてハルカは、ひとりの女児を出産した。
大導師の手配した、田舎の小さな村で、その女児は子供のいない夫婦の養子となった。

「大導師様・・・この子に、名前、つけてくれませんか?」

「おお、それはいい考えだ。なあ、おまえ。」
「そうですわね、あなた。」

夫婦も快く賛成し、大導師は優しく笑って筆を取った。

「そうですね・・・神の定めた運命に縛られることなく、神さえも繰り。厳しい冬の寒さの中でも、未来を目指せるように。繰神冬未。くりがみ、ふゆみ・・・どうかしら。」

「いい名前ですね、ありがとうございます!」

「ハルカ・・・あなたの名前は“遥”と書くけれども、別の字を当てると“春香”・・・春の香り。この子には、冬の中でも春を目指してほしいから。」

「何だか、照れます・・・。これからも導師として、頑張らなくちゃいけませんね!」

ハルカの顔は、幸せな笑顔いっぱいだった。

それがたとえ、偽りの笑みだとしても、この空間に確かに幸せはあったのだ・・・・。





   遥かなる昏き闇の中   完

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この記事へのコメント

2013年11月25日 17:44
火剣「スーラが四十七導師か。繋がった」
ゴリーレッド「驚くのはまだ早い」
コング「大導師クーアン・タムガットは心優しき人か」
火剣「妊娠はハルカが望んだこと?」
コング「あれが望んだことか? 冗談ではない。あれは無理やり犯したんだ。レイプだ。強姦だ」
ゴリーレッド「そこまで激高することか?」
コング「♪月光仮面のオジサンは・・・」
ゴリーレッド「うるさい」
火剣「あなたのちょろさにって、おい」
コング「ハルカは悪い子だったのか。お仕置きが必要だ」
火剣「スーラのキャピキャピは貴重なシーンだな」
コング「年を重ねるとキャピキャピしなくなる。残念」
火剣「何ぬねのはひふへほ! 繰神冬未!」
コング「驚きものの木20世紀!」
ゴリーレッド「ここで冬未が誕生したのか。激しい血統だ」
火剣「激しい・・・」
コング「激しい子好き」
ゴリーレッド「アホか」


2013年11月25日 20:17
白龍「ハルカ、老いたな…。」
チュルーリ「お、闇白龍降臨か。」
白龍「自分自身が後輩の一番嫌いなタイプの人間になっていることにも気が付かず、大導師の真意も見抜けず、大導師が自分の娘に付けた名前の意味すら…。どう考えても全部分かった上で呼びかけているのだろうに…。」
ルビデ「いやいや、大導師様は何も分かってはいらっしゃらないのだ。世間知らずのお嬢様に他人の悪意など理解不能。偽りの幸せの中で一生を過ごす。聖堂で関わりを避け、面倒事は導師を派遣し、自分は崇められて戦わず、血を見ることもなく一生を過ごす。いやあ、立派、立派。さすが空想家。」
白龍「ああ、切ない…。ああ、寒い…。春はまだ来ないのか…?」
チュルーリ「名は体を表す。これで『運命』は決定した。繰神冬未は冥王と遥を殺す。いや、この世界から抹消するだろう。」
白龍「ちょっと、嫌な予言は止めてくださいよ…。」
2013年11月25日 22:49
>火剣さん
真相が明らかになってきました。冬未の母親はハルカ! すっかり悪人になってしまっている元勇者ですが・・・。
そして第四十七導師スーラの貴重な過去。実年齢は70歳くらいですが、雰囲気的には10代半ばというところでしょうか。

八武「女の子は、いつでも10代に戻れるものだからな。」
山田「知った風な口を。」
佐久間「まあ、それは男女共通だろう。歳を重ねても、たまには子供に戻りたい。」
山田「スーラもハルカの前だからキャピキャピしてるのか。しかしハルカは、すっかり冥王のしもべに・・・。」
八武「ふゆみんが育つ間に、悪い子ハルカにオシオキをしようではないか。そうだ、けっこう仮面のコスプレをさせよう。」
佐久間「お前の守備範囲は全年齢じゃなかったっけ?」
八武「ボール球も打てるだけ。ちゃんとストライクゾーンはある。」
山田「威張れない。」
佐久間「ちなみに聖堂には、望まぬ妊娠で傷ついた女たちもいる。要するにイヴィルヘイトの推測が当たってるわけだ。」
八武「堕胎するの?」
佐久間「こっそり産んだ場合もある。拾ってきた赤子という名目で育てられた者もいるしな。」
山田「しかしコングは前回と打って変わって・・・。」
佐久間「聖者コングになったか。」
山田「聖者にはなってない。」
2013年11月25日 23:06
>千花白龍さん
果たして大導師は全てをわかっているのか、はたまた何も知らずにいるのか。現時点では謎のまま。
しかしチュルーリさんが凄く鋭いところを突いている・・・。例によって、何が鋭いかは秘密にしておきますが。

佐久間「冬未の役割は、ドラクエ的には言わずもがなだからな。」
山田「また思わせぶりな・・・。」
八武「大導師は、部分的に知ってるという可能性もあるか?」
山田「全てを知ってそうな微笑みなんだが。少なくとも、世間知らずというのは的外れだよなぁ。」
八武「聖堂の女たちは、強姦の被害者を含んでいることも示唆されていたからねぃ。」
佐久間「しかし的外れとも言い切れない。強い奴は世間知らずなところがあるからな。」
八武「確かに前世の佐久間も浮世離れしていた。」
佐久間「ハルカが精神的に劣化しているのは当たっている。アッキーみたいなものだ。」
八武「見た目が若ければ、それでいい。死んでいるから歳を取らないんだな。」
山田「お前ら・・・。割と最低だぞ・・・。」

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