本のページ、ページの本 (前編)

放課後の教室で、少女が机に突っ伏して眠っていた。
「泉の精霊アーケンが♪水汲む人を争わせ♪生き血に染まった勝者をも♪パンガーニアが食べちゃった♪」
眠りながらも滑舌よく吟じる彼女は、さらさらした黒髪を床にまで流している。
耳や背中に、机や鞄に、黒い髪がかかっている。
「そのうち泉もザシュキフが♪手当たり次第に打ち壊し♪それを見ていたハモニーが♪首を傾け歌い出す♪」
手の隙間から見える表情は苦しそうだ。彼女はいつでも苦しい顔をしている。
少年は、少女と教室に2人きりでいる少年は、その顔を見ながら沈黙を尊んでいた。
「アルミジャスピス頑なに♪子守唄から耳塞ぎ♪それが苦痛に思えたか♪カンシャーレスは喜んだ♪」
少年の腕は逞しく、体躯から顔立ちまで相応にがっしりしている。
中学生離れしているのは少女とお互い様だ。
「水を求める村々を♪みな黙らせるキリゴリフ♪たまりかねたルヴィ=ファー♪赤い剣に鍵かけた♪それらを全てラグウィルが♪引っくり返して笑ってた♪」
綺麗な声だが、聞いていると不安になってくる。台風の前の日のように、不穏な気持ちが膨れ上がる。
ルヴィ=ファーではないが、たまりかねた少年は、沈黙を尊ぶことをやめた。
「何の唄なんだ、それ?」
声変わりを済ませた無骨な声が、少女の耳を揺さぶる。
少女の声が止み、少しして顔が、ぐるりと回転した。
「・・・・・・何か、歌ってたか?」
「本当に眠ってたのかよ。あんまり綺麗な声なんで、狸寝入りかと思ったぜ。」
「・・・バカ。」
少女は顔を赤くした。
「バカとは何だ。」
「馬鹿にしたわけじゃないわ。」
「そう。」
少年は短く答える。
彼女の言動がよくわからないのは今に始まったことではない。
「夢を見てたのよ。高校生の私は異世界に飛ばされて、悪魔と対決するの。」
「俺たちは中学生だぞ。」
「知ってるわ。未来の夢よ。」
「未来?」
少年は怪訝な顔をした。
「悪魔でなく精霊ね。思い出してきたわ。クッブルガアーケンシュブルス、略してアーケン。“争乱”のアーケン。」
「物騒な名前だ。」
「名前より物騒よ。いずれ私は、異世界に飛ばされて危機に陥る。そのときは先輩を呼んで。」
「先輩って誰だよ。心当たり無いぞ。」
「高校生になったとき先輩になるわ。林奈々先輩。私の2つ上。」
「夢の話じゃなかったのか?」
「未来の現実よ。」
「何でそんなことがわかる。」
すると今度は、少女の方が怪訝な顔をした。
「・・・お前ちょっと変じゃない? 未来予知なんて、我々にとっては当たり前の能力だったはずよ。」
「そうだったな。どうかしてた。」
「ああ、そうだ、最近は私も随分と人間に近付いて、それが当たり前でなくなりつつある。」
「仕方ないだろう。」
「私が私でなくなっていく。恐い・・・。」
「大丈夫だ。」
少年は少女の肩をポンと叩いた。
机には、少女の涎がついた本がページを開いていた。
少年は本に手を伸ばした。



つづく

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この記事へのコメント

2014年07月18日 21:45
火剣「いきなり物語が始まったぞ」
ゴリーレッド「しかもアニメのような少年と少女の物語」
コング「中学生かあ」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「だあああ! まだ何も言ってない!」
火剣「確かにヨコシマなセリフを言わないほうがいい空気を感じる」
コング「SFか?」
ゴリーレッド「未来予知が普通にできるとなると、エスパー?」
火剣「予知能力者」
コング「七瀬に恋した男を思い出す」
ゴリーレッド「少女が見たのは予知夢か?」
コング「♪処女と少女と娼婦に淑女! ハウメニーいい顔をー」
ゴリーレッド「ダブルアームスープレックス!」
コング「NO!」
火剣「この前半ではまだ全体像はつかめないが、ファンタジーな予感がする」
ゴリーレッド「異世界に飛ばされて危機に陥る・・・そんな穏やかな物語ではなさそうだ」
コング「危機のない作品なんて、キキのいない魔女の宅急便のようなものだ」
火剣「上手いこと言ったつもりか?」
ゴリーレッド「二人とも中学生離れしているのか」
コング「大事です。かごめ、ヨーコのような15歳か?」
火剣「アスカ、綾波みたいな14歳かもよ」
コング「バンガーニア? 昔、バーンガニアってレスラーがいた。スリーパーホールドすると皆1秒でギブアップしてしまうんだ」
ゴリーレッド「スリーパーホールド!」
コング「!」
火剣「歌詞にも意味があるんだろうな?」
2014年07月18日 22:32
>火剣さん
ファンタジーは突然に。繋ぎの物語なので短いですが、この独特の空気を楽しんでいってください。
自作コラボは以前からやってみたいと思っていました。この2人が何者かというと、実は・・・。

佐久間「バーンガニア。そんなレスラーがいたのか。」
山田「偶然にしては似ているな。」
佐久間「無意識の成せる業かも。」
維澄「2人の間に強い信頼を感じる。」
八武「この清涼感は中学生ならでは。大人になっても、清潔な気持ちを忘れたくないものだ。」
山田「その言葉に説得力を持たせる為に、今日から上品な会話を心がけよう。」
佐久間「どうして私の方を見る?」
山田「お前が最大の難関だから。」
八武「魔女の宅急便。キキが配達に来たら、むしろ君を受け取りますと言いたい。」
山田「よこしまな発言だ。」
八武「そんな馬鹿な・・・。」
佐久間「真摯な気持ちで言えばアリかも。ただしトンボに限る。」
八武「発育の良い少女は何歳でもストライクゾーン。それが私。」
山田「真摯な気持ちで言ったつもりか?」
八武「紳士な気持ちで言っている。」
佐久間「それでは私は淑女な気持ちで歌うとしよう。今日も♪また♪あの人は♪どこかで♪呑んだくれ♪」
山田「やさぐれてるよ!」
2014年07月18日 22:43
…!佐久間さん…?この少女は佐久間さんですか!?そして少年は山田さん!?林先輩の名前が出たということは、シリアスモードの佐久間さんに違いない。しかし首を回したり、寝ながら歌を歌ったりとやってることは人間離れしている。そして、異世界で精霊と戦う、だと…?壮大な物語のプロローグ、胸がワクワクしてきた!
2014年07月18日 23:23
>千花白龍さん
正解! この話は「光魔歴程」(未発表作品)と関係しているエピソードです。そして同時に、ある話と繋がりが・・・?

佐久間「バレたか。」
山田「こっちの佐久間の方が、俺は好みだ。」
八武「同じく。」
維澄「同じく。」
佐久間「このロリコンどもめ!」
山田「年齢でなく品の良さだということに気付いてもらいたい。」

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