本のページ、ページの本 (後編)

山田太郎は、本を机に置いた。
「不気味な本だ。」
がっしりした指が、コツコツとカバーをつつく。
「そうだろう。いや、不気味というよりは・・・」
佐久間闇子が胸の前で腕を組んだ。
本の中で描写されたのと同じ黒髪が、今はポニーテールに結われている。
「まず、私は女言葉は使わない。」
「いや、使うよ。」
「お前の前では使わない。中学生の頃でも同じだ。」
「そうだったか?」
からかってるようにも見える山田を、佐久間は大きな瞳で睨みつけた。
「私は寝てるときに歌わない。」
「歌ってるよ。」
「・・・何だ貴様、イチイチ私の言うことに逆らいやがって。」
「いや、俺もおかしいとは思う。お前が高校時代に異世界で精霊と戦ったのは本当だが、そのことを中学時代に聞いた覚えは無い。・・・多分、だが。」
「ああ、それは私も話した覚えは無い。私の聡明な記憶力に間違いは無い。」
「そう言われると、かえって怪しくなってきたな。」
「内臓を粉砕してやろうか?」
「やめてくれ。俺の内臓は、お前と違って、容易く再生したりしないんだ。」
「私の内臓だって簡単には再生しない。くっつくだけだ。」
「同じようなもんだろ。」
「ぜんぜん違う。再生とは、無いものを生やすこと。私のは単に、回収してくっつけてるだけだ。」
「どっちにしろ人間じゃないな。」
「・・・話がズレている。ともかく、この本は事実じゃないということだ。」
「だが、俺たちしか知らないような事実も書いてある。」
「それと、デミ・リ・バースにディベスタル。これは『エスパー奇譚』の一節に違いないが、こんなシーンは見たことない。全てが描かれてるわけもないが・・・。」
「どの世界が本当なんだろうな。俺たちの世界も本物なのか?」
「安心しろ山田。私のお前に対する愛は本物だ。」
「死ね。」
「やれやれ、山田のツンデレぶりにも困ったものだ。しかし大丈夫だ。私は常にお前の側にいる。安心だろ?」
「何ひとつ安心できる要素が無ぇよ!」


- - - - - -


少年はページを捲った。
そこには自分と少女の10年後の姿が描かれていた。
自分と少女の関係は10年後も変わらないのかと思うと、安心感と疲労感が同時に襲ってきた。
「どう思う、佐久間。」
「私たちの世界をデミが読み、デミの世界を10年後の私たちが読み、それを私たちが読んでいる・・・ただそれだけのことよ。」
「いやいやいや、納得してんのかよ!?」
「・・・お前、本当に人間の常識に染まってしまっているのね。以前のお前になら説明するまでもないことだけど。」
そう言いながら少女は、ページを指で摘んだ。
白く細い指が、空間の中で透明感を放っていた。
「このページ、どちらが表で、どちらが裏? 片方のページに住んでいる者にとっては、もう片方のページは裏側に見えるでしょうけど。自分を表側だと称するのは、相手を常に裏側だとする思い込みに過ぎないわ。」
少女は幻想的な笑みを浮かべて席を立った。
夕暮れの日差しが差し込む窓辺で、彼女は言った。

「人間の、今の科学力でも、マルチユニバースの可能性までには到達しているわ。想像を巡らせてみて。可能な限り、果てしなく。物語に描かれた人物が、別の世界では私たちの描かれた物語を読んでいるかもしれないし、私たちの現実を自分の空想だと思って筆を進めているかもしれない。そう考えたとき、寂しくなるか、恐くなるか、虚しくなるか、それはお前の自由だけど・・・私は、とても面白い。」




   -終わり-

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この記事へのコメント

2014年07月20日 14:46
火剣「山田太郎と佐久間闇子。名前が出てきたぞ」
コング「切っても切れない仲なんだな」
ゴリーレッド「片方しか喜ばないセリフ」
火剣「異世界ということを考えると、どの世界が本物なのか。当然皆、今自分がいる世界が本物だと思っている」
コング「裏と表か」
ゴリーレッド「静岡と山梨の人は、共に言う。山梨が表富士だ! 静岡が表富士だ!」
火剣「さっきテレビでやっていたが、競技場を記者が取材に行ったら、若者がトラックを走っていた。話を聞くと、1940年の東京オリンピックを目指していると」
コング「昭和39年だろ?」
ゴリーレッド「西暦1940に幻の東京五輪がある。開催はしなかった」
火剣「2時3分になると消える若者。でも翌日も走っている。震災の時は5歳だったと。関東大震災のことだ」
コング「空想か」
火剣「でも中学の国語の教科書にもこういう空想物語が教材にされていた」
ゴリーレッド「想像力を育むことは非常に大事だと思う」
火剣「想像力は創造力を生む」
コング「妄想力は文化を生む。♪もーそーりっきー!」
ゴリーレッド「リキラリアット!」
コング「があああ!」
火剣「佐久間闇子の妄想力も親方級だからな」
ゴリーレッド「寂しくなるか、恐くなるか、虚しくなるか」
火剣「やはり面白く感じるだろうよ」
2014年07月20日 15:39
こんなところでデミ・リ・バースの名前を聞くことになろうとは。千里さんをウォッチングしている謎のキャラクター。千里さんだけでなく世界の裏側から全ての世界を視ているのかも。空を見る時、遠くの星に自分達と同じような生き物が同じように空を見上げて向こうには誰かが住んでいてなんて考えているのと似ている気がします。決して交わらない現実世界と小説世界。しかし、小説世界の中にいる者にとってはそれが現実世界。我々の世界もまた誰かから見た小説世界である可能性も大いにある訳ですね。
やっぱり小説を書いている時は楽しい。小説を書いている自分に感謝したくなります。
2014年07月20日 23:01
>火剣さん
天文学の世界でも、かつては地球を中心に全ての星が回っていると考えられていました。
まずは自分を基本に考える。これは間違ってないと思います。しかしどこかの段階で、相手にとっての自分を考える視座を持たなくてはならないですね。

佐久間「よく、相手の気持ちになって考えろと言われるが、ちょっと違う。考えるべきは相手の気持ちではなく立場なのだ。」
山田「何千光年も離れた星に生き物がいたとして、その気持ちを想像するのは困難だが、その星の生物にとっては我々が異星生物であると考えることは出来るわけだな。」
八武「君たちは中学時代、青春していたんだねぃ。」
山田「あの頃の佐久間に戻ってほしいものだ。」
佐久間「戻りたくない~♪別れたくない~♪」
維澄「子供心を失ったわけではなく、積み重なったものがあるだけ。」
佐久間「その通り。私は何も変わっていない。」
八武「色々と余計なものが積み重なった気がする。」
山田「切っても切れない縁か。黒い糸だな。」
佐久間「ちぢれた黒い糸? 貴様というやつは、どうしてそうエッチなんだ?」
山田「ラリアット!」
佐久間「おぶっ・・」
八武「19年前に会ったときは、荒んだ目つきをしていた2人だったが、今やすっかりドツキ漫才。」
2014年07月20日 23:16
>千花白龍さん
デミにまつわる話を語れるのは、いつになるやら・・・。中学時代の2人と同じく、たまに描きたくなります。今回、いっそ混ぜてしまおうと思いました。
果てしなく遠くにいる存在のことを考えていると、言いようのない素敵な気分になります。厳かというか、ロマンチックというか・・。それは遠くの星だけでなく、遠くの国でも同じことかもしれません。いや、近隣の住民でさえ、一生のうちに全て会えるとも限らないでしょう。交わらない存在のことを考えられる想像力は、宝物です。
小説を書いていて、楽しいことも苦しいこともありますが、“入り込む”感覚がたまらないです。

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