佐久間と山田のけだるい日常 第七十話 ~喪失~(その1)

ある夏の日の朝、彼女は目を覚ました。
薄いシーツの上から、胸の膨らみと先端の輪郭が理解できる。
(ここは、どこだ?)
漆黒の黒髪を掻き揚げて、彼女は双眸を険しくした。白く細長い指の間から、野獣のような眼光が燃える。
(落ち着け。)
(状況を確認しろ。)
自分に言い聞かせることで頭は冷えるが、指の方は不安でシーツを握り締めた。
はみ出した脚が示す通り、シーツの中も同じようになっている。
彼女は視界に映った細い脚を、何となくシーツの中に戻した。
(何故、服を着てない?)
ハッとして両手で自分を抱く。そして肉体の感覚を研ぎ澄ませる。
(大丈夫、何もされてない。)
(傍目には、だが。)
しかし、それで問題が解決したわけでもない。
彼女はシーツから出る前に、思考を巡らせた。
(おかしいのは、身体感覚もだ。)
(状況が異常すぎて気付きにくいが、この体・・・やけに手足が伸びてないか?)
「ふん、まあいい。」
彼女は意を決して、ベッドから立ち上がった。
シーツを肌に巻いて服の代わりにし、部屋の中を歩いた。
(タンスか。)
中を見ると、下着や服がある。
(何だ、このド派手で悪趣味な下着は・・・。拝借する気にもなれん。)
とはいえ、背に腹は代えられない。薄いピンク色の下着を拝借することにした。
(馬鹿な、ピッタリだ。)
(なるほど、これは私の為に用意してやったということか。腹立たしいな。)
そう思うと、シャツやジーンズを着る気にはなれなかった。ましてスカートなど穿きたくもなかった。黒い色は好みだが、誰かの用意したものだと思うと癪に障った。
(しかし。)
(シーツを服代わりにしては動きにくいな。)
どうしたものかと考えて、結局スカートだけ穿くことにした。
(ああ、みっともない。)
(スカートを穿いてみたかったなどという心が、この私にあるとは・・・。)
髪を邪魔にならないようにポニーテールに結い上げて、彼女はシーツを脱いだ。
上半身は下着だけで、下半身はスリットの入ったミニスカート。やけに危ない格好だ。
(さて。)
(扉に鍵はかかってないようだが。)
(向こうに誰かの気配がある。)
(1人か。)
(男だな。)
(それも、大男だ。)
(身長は180ってところか。)
(体重は見た目だと100キロ前後か?)
(何かを食ってる。)
(女を攫ったとすれば、もっと緊張していてもよさそうだが。)
(くつろいでいる。)
(それとも、私の観察が不十分なのか?)
すると、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「おい佐久間、扉の前で何やってるんだ?」
「!?」
(私を佐久間と呼んだ・・・。)
(いや、それ自体はおかしいことではない。)
(私の名前くらい知ってる奴は多い。)
(だが。)
(何だ、この違和感は。)
(そうだ、ニュアンスがおかしい。)
佐久間は、佐久間闇子は、空気が焼けるほどに殺気立ったのも一瞬、すぐさま頭を冷やして扉を開けた。
そこにいたのは、がっしりした体型の青年。シャツと短パンという出で立ちが、惜しげもなく逞しい筋肉を晒している。
「またそんな格好して・・・。今度は何だ。」
「あ? 何を言ってる? 私を油断させようというなら無駄なことだぞ?」
佐久間の右手は既に変化が始まっていた。白く滑らかな肌は漆黒の闇の色になり、何倍にも、そのまた何倍にも膨れ上がった。
「何ごっこだ?」
相手の男は呆れた様子でパンを齧る。
(何だ、こいつは?)
(まるで警戒していない。)
(私の攻撃など取るに足りないとでも言うのか?)
(馬鹿にしやがって。)
「だが、死ぬ前に名前くらいは聞いておいてやろう。とはいえ、礼儀としては私が先に名乗るべきだな。知ってるとは思うが、佐久間闇子だ。」
「ああ、知ってる知ってる。俺は山田太郎。」
「ここはどこだ?」
「記憶喪失にでもなったのか? お前の家だ。」
「何だと?」



つづく

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

2014年07月22日 18:13
火剣「先入観を捨てて語ろうではないか」
コング「そうだ。時には先入観を捨てることは大事だ」
火剣「固定観念が邪魔になる場合があるからな」
コング「固定観念を捨てて語り合おう」
ゴリーレッド「先入観、固定観念をそんなに連呼するのはヒロインに失礼だ」
火剣「そうだ、ヒロインに失礼だ」
コング「朝、目が覚めた時に、一糸まとわぬ姿。しかも女子本人が全裸で寝た記憶がない。このシチュエーションは好き」
火剣「昨夜自分は何をしていたかを必死に思い出す時のヒロインの顔というのは、結構良いものだ」
コング「まず乙女が考えることは、まさか過ちを犯してしまったかということ」
火剣「テレビドラマでもよくある。隣に同僚の男が寝ていて、自分は生まれたままの姿。『嘘でしょ?』」
コング「恋人ではない関係だからこそスリリング!」
ゴリーレッド「これは続きを読まないと、なぜこうなったのか読めない」
火剣「山田太郎は180センチ、100キロか」
コング「最終的に佐久間んのほうが背が高くなるのか」
火剣「コングより背が高いというのはどうなんだろう」
コング「激村や火剣なら釣り合うか」
火剣「黙れ」
ゴリーレッド「なぜ怒る? 先入観を捨てなさい。物語のヒロインだ」
コング「ルックスだけを見るのは困難。性格があってのルックス。内面と外見は切り離せないのだよ」
火剣「やはり山田太郎にしか務まらない佐久間んのパートナー」
ゴリーレッド「コングラッチュレーション」
火剣「まだ早い」
コング「呼んだ?」
火剣「この続きが凄く気になる。ロマン溢れる展開を強く望む」
コング「天邪鬼にそんなこと言ったら・・・」
火剣「ヤバイ。あ、でも、ドキッとさせるラブソングを奏でてくれることを信じている」
2014年07月22日 18:31
うわあああああああ!!!佐久間さんが記憶喪失になっておられる!しかし、山田さんから見ればいつもの延長線上でしかない佐久間さんの奇っ怪な行動!これでは記憶喪失と言っても、何かの遊びの延長と思われても仕方のないレベル!まあ山田さんなら信じてくれるとは思いますが、問題はどうして記憶喪失になったか。どうせ途轍もなくくだらない理由なんでしょうね。(←ひどい言い草)
例えば、昨日酒をたらふく飲んだ挙句走り回って川に飛び込んで頭を打って平気だろうと思って川の上流までバタフライで泳ぎ切った後、空を飛んで家まで帰った時に山田さんに怒られて殴られた拍子に記憶を失ったとかそんな感じでしょう。(←適当)
でも、ひょっとしたら何か深刻な理由が…?何にせよ、いつもの組み合わせなのに新鮮なコンビの結成。佐久間さんが暴走しないことを祈る。(←切実)
2014年07月22日 22:44
>火剣さん
これまでの言動の数々があるので、私も不思議な感じがします。
手負いの獣のように、人間不信の警戒心MAX。凶暴で好戦的。
山田さんにとっては、こちらが本来の“佐久間闇子”であり、普段のアレが違和感バリバリに感じられています。

八武「こっちの方がダンゼンいいよ! どうして普段から敵意や警戒心を剥き出しにしないかなぁ!?」
維澄「それだけ我々と慣れ親しんだということだね。」
八武「うーむ、親しさも良し悪しか。恋人ですらない関係だからこそ興奮するものがあるからねぃ。」
維澄「夫婦関係は、ときめきよりも安心感だと言われるけど、それと似てるかもしれない。」
八武「やはり山田は、常に佐久間との関係をフレッシュなものに保ちたいからこそ、恋人や夫婦になることを拒んでいるのだ。」
維澄「私もそう思う。傍から見れば、これ以上ないパートナーシップ。」
神邪「わかる・・! なまじ恋愛関係になったら失うものは絶対ある。山田さんは、これまでの関係性を大事にしているんだ。」
維澄「そう考えると、それまでの関係性が無い一目惚れやお見合いは、けっこう理に適ったことかもしれない。」
八武「なるほど、私も妻とは契るまで短かった。」
神邪「友情を育んだ関係の場合、そこから踏み出すのは凄い勇気でしょうね。」
維澄「友達だと思っていた男性を、一夜の過ちで意識してしまうシチュエーションが好きだ・・・。」
八武「うむ、関係性を進めるのはハプニング。災害のときにはカップル成立が多くなるという話も聞く。」
維澄「今の佐久間も好きだけど、この佐久間にはロマンスを期待できそう。」
2014年07月22日 22:59
>千花白龍さん
どうしてこうなったんだと、私も思いました。(←おい)
ベタすぎる展開ですが、多分この2人だとベタがベタンになる勢い。変人ばかりの世界なので、ベタな展開の方が楽しいかも。
どうせ超くだらない理由なんだろうと私も思いながら筆で追っていきましたが、これが意外と・・・?

八武「佐久間闇子の生態をよく把握している予想だ。」
維澄「これはこれで深刻な理由だなぁwww」
八武「うむ、頭を打つ前から頭が深刻。」
維澄「果たして山田は信じてくれるのかどうか。」
神邪「僕は山田さんを信じています。人が人を信じるって、とても素晴らしいことじゃないですか。」
八武「うむ、山田は信用できる男なんだが・・・。」
維澄「問題は常に佐久間か。」

この記事へのトラックバック

2020年08月
                  1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31               

過去ログ

テーマ別記事

最近の記事

最近のコメント

QRコード