佐久間と山田のけだるい日常 第七十話 ~喪失~(その2)

「ここが私の家だというなら、何故お前がここにいる?」
佐久間は警戒心を剥き出しにして山田を睨んだ。
「記憶喪失ごっこがしたいなら、あらためて教えておこう。俺は山田太郎。前世はアストロン。現世で再会したお前と一緒に暮らしている。」
「何だと・・・?」
佐久間は顔を赤くして唇を噛んだ。
顎が震える。
「知らなかったのなら教えてやるぜ、山田太郎。そういう嘘が、私は反吐が出るほど嫌いなんだよ!!」
佐久間の右手、いや、ミクモウの右手が部屋中を抉り取るように振るわれる。
そのときになって、ようやく山田の表情が変わる。
轟音と共に家は半壊し、寸前に上空に跳び上がった山田に佐久間が突撃する。
「死ねええええええっ!!」
「くっ!」
山田は佐久間の右手を蹴って地上に降り、そのまま逃走する。
「逃がすかよ、逃がすものかよ! 地の果てまで追いかけて八つ裂きにしてやるっ!!」
佐久間は裸足でアスファルトを蹴って、跳躍するように走った。
ごつごつしたアスファルトで足の裏が傷つくが、お構いなしだ。

しばらく追いかけると、山田が病院へ入っていくのが見えた。
「ふーん、病人を盾にすれば私の手が鈍るとでも思ったか? 生憎この私は慈悲も慈愛も持ち合わせてない。病院ごと消してやろうか?」
しかしすぐには実行に移さず、佐久間は玄関に向かって歩いていった。
すると、白衣を着た怪しげな男が出てきた。山田をワイルドとすれば、この男はスマートだった。左目が髪の毛で隠れているのが、不気味さを強調していた。
「八武死根也です、よろしく。」
「やぶしねや? ははーん、組織の関係者か何かだな?」
すると八武は首をかしげて頭を掻いた。
「ふむ、どうやら本当に記憶を失ってるようだねぃ。となると厄介だ。いつものように冗談では済まされない。冗談で済ましたことはないが、それでも冗談で済んでいたのだが・・・。」
「誰が記憶を失ってるって? そんな寒い芝居に騙されるとでも思ってるのかよ。」
「いや、すまない。素直に君を脅威と認めると言ってるのだ。今の君は、敵に回したくない。」
「いい心がけだ。」
佐久間は腕を組んだ。
「何があったのか、素直に教えろ。時間を引き延ばしたりすれば、この病院を吹き飛ばすぞ。」
「その前に、君の状況から教えてくれ。私として全てを知ってるわけではない。」
「なるほど、山田とやらが知ってるわけか。いや、奴も知ってるかどうか怪しいものだな。」
佐久間は片目を瞑ったりしながら少し考え、腕を解いて話し始めた。
「しかし、まず、ここがどこだか教えろ。この星の名前を言ってみろ。」
「地球に決まっている。」
「・・・・・・?」
佐久間は再び腕組みをして険しい顔をした。
(嘘を言ってるようには見えないが。)
(ここが地球だと?)
(物理法則を幾つも捻じ曲げたと考えるより、この男が嘘をついていると考えた方が自然だが。)
(だが、自然だというのが気に食わない。)
(もしかすると、事態は最初に考えていたより大きいのか?)
「私は“血吸い蟻の女”を追っていた。そして殺した。それから・・・それからの記憶が無い。気が付いたら服を脱がされて寝ていた。」
「ふむ・・・・・・。」
今度は八武が腕を組んで考え込んだ。
「・・・君は、何歳かね?」
「わからん。だが、10歳で肉体の時間が止まっているから10歳なんだろう。」
そこで佐久間は、やけに自分の手足が伸びているのを思い出した。
(時間。)
(時間に関する何かか。)
(しかし。)
(それに対する手は打ってある。)
(何故、何も覚えていない?)
対する八武の方も、険しい顔をして考え込んでいる。
彼は顔を上げると、佐久間に質問した。
「君は、これからどうするつもりだ?」
「・・・・・・。」
(そうだ。)
(それが問題だ。)



つづく

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この記事へのコメント

2014年07月23日 17:16
火剣「ミクモウの記憶?」
コング「アストロン。カッコイイ名前だ」
ゴリーレッド「まさか死んだ時の記憶がないとか?」
火剣「前世を覚えている時点ですでに人間じゃねえ」
コング「佐久間んと山田太郎が普通の人間でないことは論を待たない」
火剣「人間が少ない」
コング「実質、正真正銘の人間。すなわち、バラバラにされたら死ぬまともな人は、火剣と僕としおりんくらいだろう」
ゴリーレッド「ドクター八武まで登場したか。コントの匂いもするが」
火剣「でもこれは実話ではないのか?」
コング「山田太郎の夢とか」
ゴリーレッド「夢オチはないと思う」
火剣「10歳? 待てよ。ミクモウではなく、佐久間闇子10歳も前に見たな」
コング「この半裸の佐久間んは何歳なんだ? 年齢は重要だ」
火剣「10歳ではないことは確かだ」
ゴリーレッド「半裸なのか?」
コング「全裸のままシーツを羽織っただけで街を走るという演出もアリだが」
火剣「襲われたら襲った人間があの世行きだ」
コング「全裸の美少女ターミネーターみたいなもんか。ぐふふふ。全裸で街を歩いている美少女を襲うのは仕方ないのに、泣かされて服を奪われて気の毒な男たち」
ゴリーレッド「タイトルは喪失。記憶のことか」
火剣「まさかあのこと?」
コング「山田太郎は責任を取れ」
ゴリーレッド「早まるな。その3を見てからだ」

2014年07月23日 20:11
記憶を失った佐久間さんの脅威なこと脅威なこと…。家も病院も關係なく吹き飛ばせるとは…。取り敢えず八武さんにバトンが繋がった。

>「いや、すまない。素直に君を脅威と認めると言ってるのだ。今の君は、敵に回したくない。」
シリアスな八武さん、カッコイイ。漂う緊張感。いつもの関係があるので、それが緊張感を浮き彫りにする落差の役割を果たしているのか。とにかく、神経を使い互いに探り合いながらの会話。血吸い蟻の女、十歳、地球ではないどこかから来た。いくつかのキーワードから推測するに、血吸い蟻の女によって過去の佐久間さんの意識だけ現在に飛ばされたということでしょうか。
さて、これから佐久間さんはどうするのか。いつもの八武さんなら、どさくさ紛れに佐久間さんにコスプレさせようとしそうな気がしますが、今回は自重する?
2014年07月23日 22:41
>火剣さん
このシリーズに基本まともな人は出ない。それがポリシー。(←?)
流石にバラバラにされたら死ぬのは少数派・・・と言いたいところですが、それも段々と説得力が無くなりつつある気がしますね。
ちなみにこのときの佐久間さんは19歳。自己認識では10歳ですが、それでも並みの10歳ではないので、大人でいいと思います。

八武「そうか、山田の夢・・・! どうりで佐久間が山田好みの女になっているわけだ・・・!」
神邪「ということは、死根也さんの記憶に無いと?」
八武「うーん・・・19歳ということは12年も前のことだからねぃ。どうも記憶が曖昧で。」
維澄「忘れようとしても忘れられない事件な気がする・・。」
八武「この手の事件は日常茶飯事なんだよ。」
神邪「人間やめてるレベルの事件が、日常茶飯事・・・! なんて恐ろしい世界。」
維澄「神邪もバラバラになっても生きてるじゃない。」
神邪「あれは体が複数あるだけで、死なないわけじゃないんですよ? 平然と生きている佐久間さんレベルには遠く及びません。」
八武「インフレかつ麻痺した感覚。」
神邪「そう言うドクターだって、バラバラになっても生存できますよね?」
八武「君は私を何だと思っているのかね。私は人間だぞ。」
維澄「まあ、佐久間に比べれば人間の範疇だけど・・・。」
八武「しかし同時に私好みになっているということは、もしや私の夢?」
アッキー「いいえ、現実です。」
八武「我が脳細胞よ、過去の記憶を蘇らせろ!」
2014年07月23日 22:54
>千花白龍さん
残念ながら山田さんが信じる前に戦闘へ突入しました。全てを吹き飛ばしながら荒れ狂う佐久間旋風。果たしてドクターは彼女を止めることが出来るのか・・・?
今のシリアスなドクターなら、結構いけそうな気もします。それでも自分の趣味に走るのは間違いないですが。

八武「段々と思い出してきたぞ。この後は確か、背後から佐久間にネコミミを装備させるんだったかな。」
神邪「本当ですか・・・?」
八武「んー、放水してスケスケになったところを電流攻撃だったかもしれない。」
維澄「至極テキトーに喋ってないかなドクター?」
神邪「でもカッコイイのは同感です。」
八武「君は、これからコスプレエッチをするべきだよ佐久間!」
維澄「・・・。単に40代のドクターが中身も別人なんじゃ・・・。」
八武「でも、しおりんも佐久間のコスプレは見たいよね?」
維澄「見たいです。」

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