佐久間と山田のけだるい日常 番外編 ~熱湯~

圧倒的だった。勝負にすらなっちゃいなかった。
その少女は、からっからに乾いたサウナみたいな目つきで、俺を切り刻んだ。
すんでのところで急所を回避したが、反撃する力は残っていない。残っていたとしても出来ない。
彼女を攻撃する者、彼女に逆らう者、それら一切が沈められる。理不尽なほどに強い暴力。
視線に触れるだけで神経が凍りついたように動かなくなり、体が痛くなる。
もう駄目だ、もう終わりだと思ったとき、俺は、呑気にも、風呂に入りたいと思った。
俺の名前は怪人ねっとう男。BBBの風呂焚き係だ。


- - - - - -


あのとき、どうして助かったのか・・・もとい、どうして見逃してくれたのか、よくわからない。
気紛れか、殺すまでもなかったのか。
もっとも、俺が秘めたるもうひとつの力を使っていれば、手傷くらいは負わせられた自信はあるが・・・。
しかし俺は生きることを選んだ。
任務に失敗して、おめおめと組織に戻る気にもなれなかったし、再び出撃命令を受けて、今度は見逃してくれる保証など無い。
臆病でいい。俺は臆病に生きるのでいい。勇敢な精鋭ほど早く死ぬ。
とはいえ、それからの人生、死んだ方が楽だというような思いの連続だった。
華々しく散るのは、楽な道だと思った。好き勝手して早死にする無責任さを理解した。
この仕事に就くまで、人間扱いされたことは数えるほどしかない。
パン屋になれたのは、俺の持っている、もうひとつの能力・・・納豆パワーの応用だ。
言うに及ばず、納豆もパンも“発酵”という過程を要する。
俺は労働の傍ら、納豆パワーを磨き、パン生地の発酵に応用できるまでになったのだ。
発酵を自在に操り、素晴らしい味と食感を追及する。それは仕事に有利であり、有意義な追求だった。
そうだ、学問とは数式を解いたり光を分析したりするだけじゃない。これも学問だ。どちらも有意義な人生だ。
美味しいパンを作ろう。生きてるパンを作ろう。
人間、食べてこその命。食べることへの探求は、きっと一生終わらない。

轟音があった。
俺の店が。
あいつらは何だ。なんなんだ。
BBBの怪人!?
因縁が追いついてきたのか。
そんなことはいい。
俺は俺の店を守る。
あいつら、生かしちゃおけねえ。
逃げるが最善? 違うな。
俺は臆病でいい。だが、臆病だから逃げるとも限らない。
これまでの生活を守りたいから逃げない。
築いたものを失って、再び漂流生活を送るなんて耐えられない。
煮え滾る熱湯のような心が、俺を突き動かす。
俺は跳んだ。

「俺のパン屋を壊させるものかぁ!」

戦う。熱湯と納豆の力で。
臆病でいい。勇敢に逃げるより、臆病に戦う。
さあ小僧ども、仕置きの時間だ!




   ~熱湯~ 了

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この記事へのコメント

2014年08月05日 15:19
火剣「教訓に満ちている」
コング「どこに教訓があった。さすがは流離いの制作者」
火剣「パンづくりの追求は、文学の追求にも似ている」
ゴリーレッド「そう。天井も答えもないのがこの仕事だ」
コング「怪人ねっとう男VS怪人なっとう男」
ゴリーレッド「唐突に喋るのはやめい」
火剣「勇敢に死ぬのが武士の道とは限らない。すぐに『城を枕に討ち死にするのみ』と言うのは一見武士らしく見えるが、命を軽く見るのは重罪だ」
コング「ヒロインもそう。全裸で磔にされたら、麻衣のように泣き顔でかわいく『やめて!』と哀願するのが正しい」
ゴリーレッド「何の話をしている?」
コング「亜衣のように触手で無抵抗にされて全身同時愛撫で昇天寸前に追い込まれたら『嬲るなら殺せ!』と叫ぶ。ヒロインの鑑のようだが、一旦軍門に降り、機を伺うのが正しい。死んだら終わりだからな」
ゴリーレッド「ほかに比喩はないのか?」
火剣「人間食べないと生きていけない。だから食は命だ。パン屋は崇高な職業なんだ」
コング「熱湯が得意なら、パン屋以外にもアイデアがあるぞ。銭湯か温泉はどうだ? タイプの女子が入浴中に熱くして、アチチチチチ」
ゴリーレッド「ブレーンバスター!」
コング「だあああ!」 
2014年08月05日 20:21
火剣「理想の死に方かあ」
コング「リングの上、土俵の上で死にたい」
ゴリーレッド「ドクター八武にとってはそれが腹上死か?」
火剣「相手がワイフならいいが、愛人だったら洒落にならない」
コング「ドラマではたいがい大物政治家と愛人だろう」
火剣「だから隠蔽工作する」
ゴリーレッド「クイズ番組出ている暇があったら路地裏を駆けずり回れ」
火剣「政治家を批判するコーナーではない。理想の死に方だ」
コング「死ぬ間際に後悔しないことだ。『ちょっと早い気もするが、十分生きた。楽しいこともあった。またこの続きは来世でやろう』と笑って死ねたら素晴らしい」
ゴリーレッド「実に哲学的だ。金はあの世に1円も持っていけないからな」
火剣「手塚治虫先生のように、死ぬ間際まで描いていたというのも壮絶な人生を物語っている」
コング「本当にリング上で死んだプロレスラーもいる」
火剣「その時は悲劇であり大事件だが、土俵の上、リングの上で死ぬなんて、望んでできることじゃねえ」
コング「ゴリーレッドは2009年は山田と呼び捨てにしていたのか」
ゴリーレッド「ジャーマンスープレックス!」
コング「NO!」
火剣「過去の映像が恥ずかしいのはしおりんだけじゃなさそうだ」
2014年08月05日 22:23
>火剣さん
たとえ結果として命を落とすことになろうとも、最初から討ち死にを決めるのと、可能な限りまで粘るのとでは、意味が違いますね。
命より誇りを重んじるべきだと思う一方で、ギリギリまで生き残ることを考えたいものです。

佐久間「命を懸けることと、命を粗末にすることは、似てるようで違うのだ。」
山田「動物の肉を、きちんと食べるか、ゴミ箱に捨てるか、くらいの違いがあるな。」
八武「女湯と男湯くらい違うか。」
維澄「その喩えは違う。」
八武「混浴と男湯?」
山田「そろそろ黙ろうか。」
八武「タイプの女子が温泉で茹だって息を荒げるのを見ていると、私も息を荒げてダイブする。」
山田「ラリアット!」
八武「ごほっ・・」
佐久間「死根也は女を陵辱しないと生きていけないからな。」
山田「迷惑な生き物だな・・・。」
佐久間「お前は人を殴らないと生きていけないだろ?」
山田「それは佐久間の方だ。」
佐久間「ちょっと違う。私は虐殺。」
山田「物騒な生き物だ・・・。殺すしかない・・・!」
八武「やっぱり山田の方が物騒なんじゃないのかね?」
2014年08月05日 22:48
>コングさん
死ぬ間際に後悔しないかどうか。それは死ぬ間際になるまでわからないので、生きてる間に精一杯やるべきこと・やりたいことをやっておきたいですね。安楽に死ぬにしろ、劇的に死ぬにしろ・・・。

八武「生涯現役腹上死!」
山田「相手がミガロスなら何も文句は無いが。」
佐久間「ミガロスだけならな。」
維澄「誰にも知られずに死んでいくのは素晴らしいという言葉もある。」
佐久間「やだ、そんなの。」
山田「歴史に名を残すだけが偉いわけじゃないってことだ。」
維澄「それに、自分の中に仕舞っておきたい思いもある。」
佐久間「あのときのハイテンションで喋らないの?」
維澄「忘れて。」
山田「佐久間こそ恥ずかしがる部分が満載だろ。」
佐久間「己に恥じるところなど何ひとつ無い!」
八武「私も腹上死に恥じるとこなど何ひとつ無い!」
山田「恥知らずな奴らだ・・・。」
佐久間「成長が無ければ恥も無いのだよ。」
山田「自分で言うか。」
維澄「成長してるよ。だから恥ずかしがれ。」
佐久間「何だその理屈は・・。」
八武「そうだな・・・もじもじしながら『お願い、恥ずかしがって』と言えば、私も赤面しよう。」
山田「それ明らかに別の意味で赤面してるよな!」
2014年08月05日 23:09
パン屋さん…いや、ねっとう男、カッコイイぜ。
生きること、命あっての物種とも言うように、まず何にせよ生きなければ。しかし、生きている内に思う。だた生きるだけでいいのか。そう、よりよく生きる。よりよく生きるために人は時に戦う。どんなに臆病であっても、どんな状況であっても。それは信念と呼ばれるものになるのかもしれません。
2014年08月05日 23:24
>千花白龍さん
本編では唐突に登場していますが、怪人ねっとう男にも様々な葛藤がありました。
戦闘に関しては臆病でも、より良く生きることの大切さは知っている。その結果としてのパン屋ですね。
勇敢さは立派なことですが、その代償に何があるかを考えたとき、ただ好戦的なことと勇敢であることは違うのだと感じます。
臆病に生きてきた者が、やむにやまれぬ状況で戦いを選択するシチュエーションに、感動と興奮を禁じえない私です。

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