亡霊たちへの鎮魂歌 エピローグⅡ

それから18年あまりが過ぎた。
めまぐるしく動く世界情勢の中で、それぞれの人間関係も変化し、もはや以前の面影は無い。
新しく出来た関係が、過去を過去として、記憶の中の思い出として、堆積させていく。
1996年の、ある日―――

(馬鹿息子が。)
40代も後半、どっしりとした体格の増田半蔵(ますだ・はんぞう)は、息子の死の報せを聞いて、心の中で呟いた。
見舞金、というには少し違うが、ともかく200万円が一緒に届いていた。
引っ掴んで叩きつけてやろうという衝動に駆られたが、やめにした。
戦没者の遺族に国が金を払ったとかいう話ではないのだ。息子の不始末を片付けてくれた相手が、お金までくれたという状況。感謝をしても、恨むべき筋合いなど無い。
(恨むべきは)
息子を唆した連中か。
X計画の推進者か。
(いや・・・)
他でもない、自分自身。
そんな息子に育ててしまった父親。
だからこそ、苦しい。
胸の奥に重苦しい異物がつっかえてるような、下腹部に毒が溜まっているような、ぐつぐつした気分だ。
「・・・X計画か。いったい何なんだ。何者なんだ、シンファ・アータスティー。何を考えていた?」
自分が生まれるよりも遥か前に死んだ人物が、自分と息子の人生に大きな影響を与えている。
しかし、それは超能力など無くても同じことかもしれない。会ったこともない人間が、自分の運命に関わってくる。二度と会うことのない人間の言葉が、深く突き刺さる。あるいは、深く突き刺しているかもしれない。
たとえば。
32年前とかに。
「・・・・・・。」
そう考えていくと、思考が泥臭くなっていく気がする。
少年の頃には考えもしなかったような、ずぶずぶの泥沼。
考えたことくらいはあったかもしれないが、記憶に無い。

「こんにちは。初めまして。」
見知らぬ少女が訪ねてきたのは、悲報が届いた翌日だった。
増田半蔵は目をしばたかせて、彼女を見つめた。追い返してしまうには、彼女は美しすぎた。
「あたしは黒月真由良と申します。」
「黒月・・・?」
聞いたことがない。
「クリスの恋人だった・・・と言えば、いいですか?」
「・・・息子の!?」
それが事実だとしたら、立ち話で済ますようなことではない。
増田半蔵は彼女を家の中に入れた。

「ここに来たのは・・・何から言うべきか・・・まずは、お悔やみ申し上げます。」
「ああ。」
増田半蔵は生返事をした。
そんなことが聞きたいのではない。
その様子を察して、黒月真由良は表情を変えた。
「あたしを、匿ってもらえますか?」
「・・・? どういう・・・」
言いかけて気付いた。
息子の恋人というならば、心当たりが多すぎる。
しかし黒月真由良は首をかしげて言い直した。
「いや、匿ってくれというのは違うわね。しばらく落ち着ける場所が無かったから、そろそろ休みたいの。」
口調まで変わった。
考えてみれば、息子の恋人ということは、見かけ通りの年齢ではないに違いない。そういう世界なのだ。
(憧れるのも無理はない。)
大人目線ではなく、共感に近い形で、そう思う。
「・・・わかった。いいよ。話したいことも、一気でなくていい。これから徐々に話していけば・・・」

それから数日ほど経って、黒月真由良は何気なく雑誌に目を通していた。
ある記事を見て、彼女は目を見開いた。懐かしい記憶。
「・・・へえ、育生のヤツ、いっぱしの音楽家になったの。」
「知り合いか?」
「昔の男・・・弟みたいなものだったけど。」
十島育生と言えば、確か自分と同じくらいの世代だったはずだ。見かけ通りの年齢でないとは思っていたが、まさか40を過ぎているのか。
しかし事実は、その予想すら超えていた。
「まあ、年齢的には孫みたいなものだけど・・・。・・・ああ、何を驚いた顔してるの? これでもあなたの倍近く生きてきた老体よ。労わってね。」
「・・・それは、本当か?」
むしろ自分の半分も生きてない年齢に見える。こっちが労わってもらう側だろう。
「嘘をついて何になるの。あ、それとも怒った? 息子が、父親である自分よりも歳のいった女に引っかかって。」
「そういうことにしておこう。」
なるほどと頷きながら、増田半蔵は黒月真由良の肩を抱いた。
「え?」
そのまま彼女の体を引き寄せ、唇を奪う。
「んんっ・・」
娘ほどにも年下の女に手を出すのは、社会通念が邪魔したが、同世代どころか年上なら話は別だ。
初めて会ったときから、抱きたくてたまらなかった。息子の恋人だとか、そんな禁忌は吹っ飛んだ。
久しぶりの感触。
妻と別れて以来の熱。
若く瑞々しい、水密桃のような肉体。
どこかでそんな小説を読んだ記憶があった。
あのときは男を哀れんだと思うが、今は男に共感していた。同化していた。
(桃を食ってみようか)(桃を)
あの男は、どうなったのだったか。
確か、あの男は―――
(まあ)(とろける)(いいさ)(瑞々しい弾力)
たとえ破滅が待ち受けていようとも、この悦びを捨てる理由など何ひとつ無いのだから。
(くろつき)
(まゆら)
イマジネーションの中で、黒月真由良の姿は、瑞々しい桃から、神々しい月へ変わっていった。
月へ向かって彼は、光を撃った。



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この記事へのコメント

2014年11月25日 15:18
火剣「1996年か」
コング「記憶に新しい」
ゴリーレッド「X計画?」
コング「真由良をX字磔にする計画か?」
火剣「違う」
コング「あれから18年経っても真由良は美少女のままか」
ゴリーレッド「年を取らない超能力か」
コング「中田喜子もエスパーか?」
ゴリーレッド「固有名詞を出すのはやめなさい」
火剣「育生は夢を叶えたか」
ゴリーレッド「弟みたいなもの。緑里のセリフを思い出す」
火剣「カイロはあれから・・・」
コング「育生は弟みたいなものか。じゃあ『姉弟』の組み合わせ。コング基準で唯一OKな近親相姦」
ゴリーレッド「誰も聞いてない」
火剣「たとえ破滅が待ち受けていようとも、この悦びを捨てる理由など何ひとつ無い・・・男にそこまで思わせてしまうほどの魅惑か。凄いな」
コング「水臭さはそう出せるもんじゃない」
火剣「瑞々しさだ。全然意味が違う」
ゴリーレッド「男の理性を一瞬で吹っ飛ばしてしまうほどの魅力光線。これも超能力のようなものか」
コング「そんなにレスリングが好きなら僕とも一度お手合わせを」
ゴリーレッド「アホか」
コング「真由良に聞いている」
火剣「お手合わせというからあのことと思って、無防備に仰向けになったら、いきなりボディーブローじゃびっくり仰天だな」
コング「ボカボカボカー」
ゴリーレッド「100%あの世行きにされる」
コング「いんや、悦びを与えるさ」
2014年11月25日 22:54
>火剣さん
時間は飛んで1996年。人間関係も大きく変化しています。ようやく出てきました、増田半蔵。
育生は音楽で名を馳せていますが、その隣にカイロはいるのでしょうか・・・。雑誌の記事だけではわかりません。

佐久間「真由良は永遠の16歳だからな。」
山田「老いることはないのか?」
佐久間「基本的には老いない。不死身ではないけど。」
維澄「それでも殆ど不死身に近い。」
佐久間「不老不死は、超能力の可能性の1つだからな。」
神邪「X計画は、確か蘆屋牧無さん・・・。」
八武「彼女も若いままだ。実によろしい。」
維澄「育生は25歳だから、見た目は姉弟より兄妹に見える。」
佐久間「しかし育生は永遠の12歳だからな。」
八武「16歳の姉か。食べごろだ。」
山田「そう言う死根也は、殴るのに丁度いい頃か。」
八武「待ちたまえ。」
佐久間「山田はリョナ好きだから仕方ない。」
山田「それはコングだ。」
神邪「緑里さんは目覚めたのでしょうか?」
佐久間「さて、どうかな。今は想像に任せておこう。」
八武「真由良を思うがままに貪り尽くし、孕ませる。」
山田「それは妄想だ。」
八武「水蜜桃のような瑞々しさは得がたいものだよ!」
山田「駄目だ、既にトリップしてる。」

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