亡霊たちへの鎮魂歌 エピローグⅢ

やがて20世紀も終わり、2002年。
黒月真由良は、再び高校生となる。
そのままの名前ではなく、一文字を外して。
(きっと、あたしは良い子じゃないね。)
黒月真由。
それが彼女の名前。
垂れ下がった布地のついた“兎耳帽子”を被りながら、入学式へ。
(見つけた)(あの子だ)(育生の娘)(可愛い)
栗色の髪を三つ編みに束ねている、大人しそうな女の子。右頬に十字の、左頬に丸字の痣がある。
入学式の後で、黒月真由は彼女に声をかけた。
「こんにちはっ! あたしは黒月真由!」
「ひゃっ!?」
「よろしくね!」
手を握って、ブンブン振る黒月真由。
「な、何なの!?」
「あ~なたの、お名前はっ♪」
「知らない人に名前を教えちゃいけませんって、小学校で習わなかったの!?」
手を振り払って、彼女はビシッと指を突きつけてきた。楽しそうな顔をしている。
「はーはは、ごめんごめん。仲良くなれそうだって思ったら、体が勝手に動いちゃった。許してちょんまげ。」
「キャハハハ、何言ってんの。花の女子高生がチョンマゲって。黒月? だっけ? 面白いんだ。」
「そ、面白いこと大好き!」
「はいはい、私は十島瑠璃子。」
「十島ァ、よろしくね!」
黒月真由は再び手を取って、ブンブンと振った。
彼女が再び超能力者と対決するのは、この翌年のことになる。それまで彼女の日常は、平穏だった。

「ごめんね、十島・・・。」
いつだったか、あるとき黒月真由は何となしに呟いた。
「え? どしたの急に。」
「・・・ううん、何でもない。なんでもなーい。なんーでーもない日♪」
「なーにそれ。かんぱーい何でもない日♪」
「かんぱーい何でもない日♪」
「私のっ♪」
「あたしのっ♪」
「「なんーでーもない日♪」」
「キャハハハハ!」
「はーはは、結局、なんでもない日が楽しいんだよね。」
程よく眠気を誘う、春の陽気。
「ぴんくぽんっ♪ ぴんくぽんっ♪ 魔女の婆さん洞穴で♪ ぴっくぽんっ♪ ぴっくぽんっ♪ 子供と一緒にトリ食べる♪ ぴんくぽんっ♪ ぴんくぽんっ♪ 誰かが嘘をついている♪ 一人か二人か三人か♪ 誰かが嘘をついたなら♪その首と手は足の下♪ でもわたしも嘘つきだから♪ ぴっくぽんっ♪ その手と足は首の上♪ ぴんくぽんっ♪ ぴんくぽんっ♪ さあさ驚け寝転んで♪ ぴっくぽんっ♪ ぴっくぽんっ♪ 血を吐きながら息絶える♪」
歌っているうちに、いよいよ眠気が強くなってきた。
黒月真由は横たわり、まどろみ始めた。

まどろみの中で、懐かしい人々に出会っていた。
増田クリス、マリー・デスクロス、ブルー・ビー、ロビン・トールキン、ダーク・リエゾン。闇より出でし戦闘関数、僕の前に道は無い、燃えよドラゴン、勇気と力をドッキング。蒼斗。そうと。
若葉緑里、海路宣夫、花咲瞭、白石楷、十島育生、宮白希揃、宮白渚。アイシテル、ずっと前から、レクイエム、部長の、ハンサムな、チキチキバン、葉っぱちゃん。九字。影宮。
断片的な記憶が、めまぐるしく回る。
そして心は、半世紀以上前の、あの日へ。


- - - - - -


『おいらは月だって撃てるんだぜ。』
『馬鹿なことを。非科学的だ。』
お調子者の三船に、堅物の赤坂。
『まあまあ、そう突っかからんと。』
なだめるのが上手な横井。相変わらずの、困ったような笑顔。
『おうっ、三船、やってみぃって。』
『そうだな。興味ある。』
梶は酒に酔いながら、戸叶は機械いじりをしながら、それぞれ言う。
『いいね。やってみそ♪』
珍しく白石までが軽い。
『よーし、やってやろうじゃん。ほうら、今日は満月だぞ。』
そう言って三船は、あろうことか軍用の照明弾を花火のように打ち揚げたのだった。
『お前っ!? 何てことしやがる!』
『へへーん、月や星の光が地球に届くように、この光も月に届いてるぜ。どうだ、科学的だろ?』
赤坂に胸倉を掴まれながら、三船はケラケラ笑った。
それを見て、黒月が口を開いた。
『拡散した光の一部が届いてるだけだ。とても“撃った”とは言えない。』
『何だと、じゃあオメーがやってみろよ。』
『いいとも。』
黒月はクスッと笑って、指先を月に向けた。
青白い光が放たれ、月を射抜いた。
『月を撃つというのは、こういうことだ。』
『・・・お、オメー、いったい・・・!?』
得意気な黒月を前に、三船は狼狽した。他の5人も一様に驚いている。
奇異なものを見るかのような彼らに向かって、黒月は告げた。
『これがわたしの能力だ。これから末永く、よろしくね?』
冷たい瞳がウインクをした。


そんな、まどろみの中で垣間見た過去。


「黒月・・・泣いてるの・・・?」
夕暮れ。
黒月真由は、月に向かって涙を流していた。





   亡霊たちへの鎮魂歌   了

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この記事へのコメント

2014年11月26日 17:25
火剣「試写会ならスタンディングオベーションだ」
コング「試写会?」
ゴリーレッド「最高のラストシーン。ラストカット。ラストは難しいんだ」
コング「2002年でも高校生か。素晴らしい。永遠に年を取らない美少女。女はみんな憧れるな」
火剣「許してちょんまげは昭和だ」
コング「黒月真由。兎耳帽子。十島瑠璃子。思い出しだぞ。ここに繋がるのか。ロマンだ」
ゴリーレッド「退屈というのは贅沢な悩みか。何でもない日が楽しい」
コング「♪何でもないようなことが、幸せだったと思うー」
ゴリーレッド「歌わなくていい」
火剣「波乱万丈の人生は好んで生きられるもんじゃねえ」
コング「我に七難八苦を与えよというのは嘘だ」
ゴリーレッド「順風満帆に生きたいと願うが苦悩渦巻く荒海に飲まれるから人生は大変だ」
コング「ぴんくぽんっ♪ぴんくぽんっ♪」
火剣「燃えよドラゴン?」
コング「萌えよドラゴン。ぴっくぽん♪」
ゴリーレッド「不老不死というのも楽ではない。黒月真由のような気持ちの強い女性でないと心がやられる」
火剣「なるほど、ゴリーレッドも不老不死だったか」
コング「僕も年を取らない。年齢国籍不肖。ぐひひひ」
火剣「真由のような人間には、トラブルがつきものなんだろう。普通の生き方ができないようになっている」
ゴリーレッド「宿命か」
コング「♪おれーの名はー、おれーの名はー」
ゴリーレッド「月で暮らしたいと?」
コング「言ってない。あ、まゆゆと一緒ならいいが」
火剣「勝手にニックネームをつけるな」
ゴリーレッド「黒月真由の魅力で最後まで引っ張った」
コング「パクるな。僕のセリフだ。黒月真由はただただ美しい。ここに尽きる」

2014年11月26日 23:05
>火剣さん
ありがとうございます。想定していた通りのラストへ辿り着くことが出来ました。
波乱万丈の人生を運命づけられた黒月は、これからも尋常ならざる出来事が待ち受けていることでしょう。

八武「真由の半分ほどしか生きてない私だが、長生きするには心の強さが必要だと思うねぃ。」
維澄「100歳くらいまで生きて、親兄弟も友人も死に絶えて、いつも死にたがっていた老婆がいた。心が壊れていたのかもしれない。」
山田「最近は、長生きしたくない人が増えてるそうだ。」
神邪「恐ろしい話です。僕は30歳まで精神がもつ自信がありません。」
佐久間「過ぎた苦難は、人を鍛えるのではなく、人を堕落させる。三日月に祈った山中鹿之助はドMに違いない。」
維澄「ある意味それは正解かも・・・。」
八武「三日月千里?」
山田「千里も苦難の人生だな。」
佐久間「千里は心を病んでいるが、黒月はM寄りだから心がやられずに逞しく生きている。」
神邪「やはりMの方が心が強いのでしょうか。」
維澄「そうとも限らない。」
佐久間「M革命家は語る。」
八武「それにSとMは、コインの裏表ではあっても、自らの意思だけで引っくり返せるものではないからねぃ。」
神邪「なるほど。」
山田「色々なことがあったが、ラストに明るさがあると救われる。」
八武「真由の涙が美しい。」
2014年11月27日 23:08
一気に読み切ってしまう程の困惑、驚愕、どこか高いところからとんでもないところへ墜落するような感覚。一体何が起こったというのか。理解出来ない、理解し得ない。関係者が次々と襲撃されていく中で、糸を引いているのは、と考えれば蛹田しか思い浮かばなかった。しかし、彼が語ったことを思い、あの場で共有した時間が嘘偽りだったはずがないという奇妙な確信があったからこそ、動機が分からなかった。何故、こんな悲劇を引き起こしたのか理解出来なかった。そして、今現在も理解出来ない。
ただ、確かなことは、原因はここ数年の間に積もったようなものではなく、数十年、ことによると数百年前からの何かしらの因縁のようなものが尾を引き、爪痕を残していたから、起こったような、よく分からない気がしました。ただ結局、蛹田がしたことは周りを巻き込んだ壮大な自殺だった。

この話のプロローグで、月を撃ったのは黒月さんというのは分かっていましたが、それが部隊メンバーとの顔合わせのシーンだったとは。巧妙ですね。
それから、瑠璃子さんとの繋がりも濃くなって見えてきました。育生さんとの関係や、色々な出来事の先にこの二人の関係がある。そう思うと、最初に第一部を読んだ時と今現在とではまた別の感覚を覚えます。修太を殺した時、黒月さんはきっと本気で怒っていたんだと思います。「ムーン・シューター」を騙られたこと。この名前は、自分以外が使っていいものでないんだと。ちょうど、剣心と「人斬り抜刀斎」との関係に似ているかも。

黒月さんは名前を変え、居場所を変え、流浪人のように流れてどこに行くのか…。どこまで行くのか…。
2014年11月28日 00:13
>千花白龍さん
この怒涛の結末へ向かう為に、温かな人間関係を描いていると思うと、実際かなり胸が痛かった・・・。
そんなわけで、疾走感どころか墜落感あふれる最終章となりました。黒幕が蛹田であることは思い浮かぶかと思いますが、動機の方は推理どころか、聞いても理解できないものだと思います。
そして、共有した時間は、確かに本物であった。それだけは間違いないことです。
渚と希揃に関する因縁は、ここ10年のものですが、蛹田が絡むあたりは数十年のものになりますね。黒月の出生を考えれば、もっと昔から。それらも独立したものではなく、黒月という糸で絡み合っている。
蛹田の凶行は、やはり無理心中という側面が強いですね。真由良が現れなくても、蛹田は拳銃で自殺していたのだと思います。(真由良が持っていた拳銃の所在)

部隊とのファーストコンタクトは、概ね思った感じのシーンに出来ました。伏線として張った照明弾は、「風の谷のナウシカ」のイメージがあります。作中でも「所詮は血塗られた道だ」などのセリフを流用していたり。
第一部では謎だった、真由と瑠璃子の関係も、ようやく描き出すことが出来ました。これから先、別の話でも触れる予定です。
修太は確かに偽抜刀斎のポジションです。彼を相手にしたときの、「ムーン・シューターは暗殺に銃は使わない」というセリフも、剣心のセリフをもじっています。これは“ムーン・シューター”の決めゼリフになっていますね。
第二部では暗殺者としての自分から脱却したい気持ちの強い黒月ですが、25年後の第一部では、暗殺者としての自分も(愛着・執着こそ無いが)受け入れている。そのあたりは赤空に刀を貰った頃の剣心と、それから10年後の剣心に対応しているかも。(別な言い方をすれば、奥義を得た剣心までには至ってない)

黒月「私は暗殺者。また流れるわ・・・どこまでも・・・。」

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