亡霊たちへの鎮魂歌 64

黒月真由良は、お茶を啜ってから、一息ついて話し始めた。
普段の快活な声ではなく、本来の彼女に近い調子の、静かな声で。
「両親が何をしていたのかは知りません。まして祖母が何者であったかは想像の外です。・・しかし確実に、人には言えない世界の住人だったと思っています。」
そこで彼女は、伏せた目を上げた。
兎耳帽子が、ぴょこんと動く。
「あたしは、お日様の当たる暮らしがしたかったんですよ。誰の血を引いてようが、光を浴びて生きたいと思っていました。でも、光を浴びる権利は、闇を知る義務と一体のものです。話してくれませんか、“黒月繭里”のことを。」
「・・ああ、いいじゃろう。」
蛹田蛭巳は目を閉じて、再び開きながら頷いた。
エス研一同は息を呑んだ。
「マユリの出自については、わしも断片的にしか知らん。とある超能力者の同盟が、実験的に生み出した“成功例”らしいが、どこまで正確な話なのかはわからん、眉唾ものじゃな。生まれた年も、はっきりせんのだ。出会ったとき20歳そこそこじゃったから、大正の半ばというところだとは思うが、超能力者の年齢はわからんからのう。40年前、昭和13年にマユリと出会ったとき、とても成人してるようには見えんかった。掛け値なしに君は、マユリに生き写しじゃ。」
黒月真由良を見る蛹田蛭巳の表情には、様々な感情が見て取れた。懐古、哀愁、情欲、嫉妬、驚愕、恐怖、親愛・・・。それらは瞬く間に移り変わり、話が続けられると同時に彼の皺の中へ深く沈んだ。
「マユリを紹介したのは、わしの上司であった飛鳥井祝詞(あすかい・のりと)という男じゃ。女どもにモテてな。男からも人気があったな。おそらく彼も超能力者だったのじゃろう、特殊部隊を作り上げたのは他ならぬ彼じゃ。マユリを隊長に、白石、赤坂、三船、横井、梶、戸叶。・・・白石は細身ながら肝の太い男で、どんなときでも落ち着いておった。赤坂は真面目で、よく三船とケンカしてたのう。だいたい横井が仲裁に入ってカタがついてた。梶は学は無いが気立ての良い男で、ちょっとした小話が上手かった。戸叶は大学出のインテリで、機械に強かったな。梶とは妙に気が合ったようで、よく話してたのう。」
蛹田蛭巳の語りは続いた。
当時の情景が目の前に浮かんでくるようで、一同はエス研の取材であることも忘れて聞き入った。
思い出を共有する黒月真由良は、あの頃の空気の匂いさえ感じていた。30年以上も前の日常を、これほどまでハッキリと記憶していることに、我ながら驚きを隠せなかった。


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この記事へのコメント

2014年11月04日 11:59
火剣「人には言えない世界の住人か」
コング「全員が裏の世界に住む界隈では、宇宙人のゴリーレッドさえ普通に見える」
ゴリーレッド「神邪も完全に仲間か。まだ逆戻りは可能だ」
火剣「本人はノリノリだ」
コング「居場所を見つけた」
ゴリーレッド「待て。青年を悪の道に引き込んで良いのか」
火剣「一歩世間に出れば変態扱いが、界隈では肯定される」
コング「神邪は地獄で暮らしていたんだぞ。界隈はパラダーイス」
火剣「真由良はマユリと生き写し。当然だ」
コング「中佐、目の前の少女は本人でーす。超能力者ならテーガンのように年を取らないとか想像せんの?」
火剣「テーガンを知らないかも」
ゴリーレッド「そういう問題ではない」
火剣「懐古。哀愁。情欲。嫉妬。驚愕。恐怖。親愛。これだけの感情が一気に湧き上がるということは、忘れられない女ってことだ」
コング「だったらなおさらだ。真由良を生まれたままの姿にして蛹田中佐に『どうぞ、お好きなように』と」
ゴリーレッド「意味がわからない」
コング「あ、もっといい方法がある。真由良に軍服を着せて中佐と密室で二人きり。40年前にタイムスリップした気分になるぞう」
ゴリーレッド「アフリカゾウに踏まれたいと?」
コング「言ってません」

2014年11月04日 23:08
>火剣さん
ここで真由良は、嘘を言わないように言葉を選んでいます。ムーン・シューター本人にとっても、それこそ両親や祖母は謎に包まれた存在。そして光が当たる暮らしがしないというのも、紛れもない本心です。

佐久間「血塗られた道を歩いてきた女が、やっと見つけた居場所か、はたまた破滅の罠か・・・。」
山田「クロトワかっ!」
八武「界隈は変人と変態の巣窟なのだよ。」
神邪「そして僕の居場所です。」
山田「居場所と言われると奪いにくい・・・。」
神邪「僕の話に耳を傾けてくれる人は貴重です。」
山田「ますます奪いにくい。」
八武「というわけで今日も、軍服コスプレについて語り合おうではないか!」
維澄「確かに軍服には、懐古的な哀愁が漂う。」
八武「中佐の話を聞いた礼に、イメクラサービスで応えよう!」
山田「本人かと疑われたらどうするんだ?」
佐久間「どうかな。20代30代では超能力で納得するとしても、生きていたら60過ぎという認識だからな。」
神邪「しかし考えないことはないでしょう。実は既に疑っていたり・・・?」
維澄「まだ疑いという段階ではないにしても、想像を巡らしてはいるかも。」
八武「私が中佐の立場なら、制服を脱がして軍服を着せる。いや、これは実験なのだよ。決して疚しい気持ちなど。」
山田「ラリアットの出番か?」
佐久間「厳しいぞ。」
2014年11月16日 23:09
いよいよこの物語の核心に近付いてきました。最早、超能力が存在することが前提となっての蛹田の語り。というか、アルカディアの影が見え隠れ…。デビルズ飛鳥井祝詞もこの頃には健在。何があって歪んだのかさっぱり分かりませんし、隠していたのか、本人も気が付かない闇だったのか…。
ただ、こういう超能力者を中心とした部隊を作る、その前段階として超能力者を生み出すある意味巨大な人体実験場に関わっている辺り、心に色々と闇が溜まっていったのかも。
さて、黒月さんはこの時のためにわざわざ昔の自分と似たような名前にしておいた訳ですね。(一瞬、寄生獣の田宮涼子を想像しました。)
自分自身の話を他の誰かから聞く。それは客観的に自分を見つめ直せる機会。それにより、過去の自分と対峙し、新たな自分へと巣立つための別れの儀式なのか。そして、過去の出来事、そこに白石の苗字も。散りばめられた因縁がついに全て集結される。まさに運命の日。

しかし、蛹田はこれを語ってよかったのか。軍事秘密とかそういうやつじゃないんですかね。まあ、黒月さんがあまりにもそっくりだったらか、語るしかないと思ったのはその通りだとして、もちろん普段は口は固いに決まってる。ただ、超能力なんて言っても、世間的にはオカルトで済む話だし、ごまかしの方は色々出来るのか。それに、ここだけの話というやつなんでしょうね。後は、皆が秘密を墓場まで持っていくと。一日限りの過去の記録と記憶の上映会。さて、どんな真実が飛び出すのか。
2014年11月16日 23:40
>千花白龍さん
ようやくアルカディアとの繋がりが明確になってきました。これまでにもチラホラありましたが、ここで確定。アルカディアの下部組織であるミレニアム・Aは、鉄鬼計画や光兎計画などを進めてきましたが、ムーン・シューターは光兎計画の“成功作”。それの意味するところは、数多くの“失敗作”が存在するということで、“処分”こそされなくても、そこに込められた意味合いは到底ヒューマニズムとは相容れないものですね。ノットーは真由良の生誕にこそ関わっていませんが、その後の“教育”で関わることになりました。
真由良が“まゆ”部分を残している理由はその通りですが、寄生獣と同じく名前に無頓着な性質もあったりします。繭であることに意味を込めているあたりは、寄生獣とは異なりますが、それ以外でも色々とパラサイトと似ています。あるいは、母を失った後の新一と。
新一が胸の穴を埋める為には、胸の穴を開けた相手と会わねばならないと言われたように、真由良も過去に一定の決着をつけるには、蛹田との対面は避けて通れません。運命の日。

蛹田の方の事情については、まさにその疑問を読者に抱かせることが、後の展開の伏線になっているんです。
蛹田にとって、“語るしかない”選択は、非常に重いものです。普段は口が堅いことが想像できることから、この語りの重さも想像できると思います。それは真由良が、5年来の育生や10年来の宮白親子にも語らなかったように。
さて、これから衝撃の事実も語られていきます。この日限りの、墓まで持っていく話。

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