「サトリン」 第十四話 白羽の矢 5
警察署。
大西警部はタバコを吸いながら、メールチェックをしていた。
「ふん、未だに慣れんな、このパソコンってやつは。」
叩き上げで警部になった、大西大(おおにし・まさる)41歳。立派な体格をしていて、顔には皺と共に薄い傷跡がある。
白い煙が画面にかかる。
「世の中は、凄い勢いで変わっていく。技術も、価値観も、認識も・・・。未だに信じられんな、エスパーなんて。」
タバコの先が落ちそうになり、大西警部は慣れた手つきで灰皿へ運ぶ。
「公にこそされてないが、ふん、時間の問題だ。まあ悪いことばかりでもないが。」
渋い顔が、やや晴れやかになる。
彼の言葉を聞いて、部下の女性が相槌を打つ。
「そうですね。」
江口白羽(えぐち・しらは)23歳。アイドルとしても通用しそうな容姿とプロポーションだが、アイドルではなく刑事だ。
どちらかというとスレンダーで、髪型はショート、柔らかくも芯の通った声をしている。
「あたしも自分の能力を、仲間に隠さずに済みますから。」
「江口くんがアイドルでなく刑事になったのも、その能力ゆえだったな。しかし・・」
「それ、聞きようによってはセクハラですよ?」
怒ってはいないが、軽口でもない口調で、彼女は大西警部を窘(たしな)めた。
「セクハラ? ああ、くん付けは良くないか。わたしも年だな。」
「そうでなくて、アイドルは余計です。アイドルにも失礼ですよ。」
「ふん、そっちか。いや、江口くんのような美人の刑事というのは、ドラマの中の住人だと思っていたものだからね。年甲斐もなく浮かれてるんだ。」
「褒めても何も出ませんよ。」
「いや実際、珍しいんだ。皆無ではないが、そう言えるほど少ない。」
「・・・それも問題発言じゃないですか?」
「おっと。」
ジロッと睨まれて、大西警部は苦笑いしながら灰皿のタバコを完全に揉み消した。
「それよりも、しかし・・・」
大西警部は中断された話を再開した。
「いくらエスパーといっても江口くん、君の能力はショットガンか散弾銃か、拳銃に毛が生えた程度だ。だからこそ人間としては安心できるが、上司としては心配だ。」
「あたしが女だからですか。」
「・・・そうだ。」
言いにくそうに、大西警部は小声になった。
「男女平等といっても、ふん、荒事に女性は不利だ。戦闘能力の話ではない、女性ならではの、特に、美しい女性ならではの不利な要素がある。それが事実だ。」
直裁的な表現は避けたが、言わんとすることは江口刑事にも伝わった。
「わかってます。でも、だからこそです。あたしが刑事になったのは、それに抗う為・・・正義の為に能力を使おうと思ったからなのですから。」
「正義、か。」
大西警部は複雑な顔で呟いた。
「それも形骸化して久しくなり、今では口にするのも憚られるようになってしまった。だからこそ、わたしは・・・その言葉を待っていたのかもしれないな。今こそ、正義をと。」
勇ましい結論とは裏腹に、大西警部の表情は複雑なままだった。
いろいろ思うところがあるのだろうと、白羽は思った。
「では、行って参ります。」
きりっと敬礼をして、江口白羽は任務へ出かけた。
彼女が部屋を出たのを確認してから、大西警部は別人のような手つきでパソコンを操作し、ブラインドタッチで何かの文章を打ち込み始めた。
「まったく・・・未だに信じられんな、エスパーなんて。」
大西警部はタバコを吸いながら、メールチェックをしていた。
「ふん、未だに慣れんな、このパソコンってやつは。」
叩き上げで警部になった、大西大(おおにし・まさる)41歳。立派な体格をしていて、顔には皺と共に薄い傷跡がある。
白い煙が画面にかかる。
「世の中は、凄い勢いで変わっていく。技術も、価値観も、認識も・・・。未だに信じられんな、エスパーなんて。」
タバコの先が落ちそうになり、大西警部は慣れた手つきで灰皿へ運ぶ。
「公にこそされてないが、ふん、時間の問題だ。まあ悪いことばかりでもないが。」
渋い顔が、やや晴れやかになる。
彼の言葉を聞いて、部下の女性が相槌を打つ。
「そうですね。」
江口白羽(えぐち・しらは)23歳。アイドルとしても通用しそうな容姿とプロポーションだが、アイドルではなく刑事だ。
どちらかというとスレンダーで、髪型はショート、柔らかくも芯の通った声をしている。
「あたしも自分の能力を、仲間に隠さずに済みますから。」
「江口くんがアイドルでなく刑事になったのも、その能力ゆえだったな。しかし・・」
「それ、聞きようによってはセクハラですよ?」
怒ってはいないが、軽口でもない口調で、彼女は大西警部を窘(たしな)めた。
「セクハラ? ああ、くん付けは良くないか。わたしも年だな。」
「そうでなくて、アイドルは余計です。アイドルにも失礼ですよ。」
「ふん、そっちか。いや、江口くんのような美人の刑事というのは、ドラマの中の住人だと思っていたものだからね。年甲斐もなく浮かれてるんだ。」
「褒めても何も出ませんよ。」
「いや実際、珍しいんだ。皆無ではないが、そう言えるほど少ない。」
「・・・それも問題発言じゃないですか?」
「おっと。」
ジロッと睨まれて、大西警部は苦笑いしながら灰皿のタバコを完全に揉み消した。
「それよりも、しかし・・・」
大西警部は中断された話を再開した。
「いくらエスパーといっても江口くん、君の能力はショットガンか散弾銃か、拳銃に毛が生えた程度だ。だからこそ人間としては安心できるが、上司としては心配だ。」
「あたしが女だからですか。」
「・・・そうだ。」
言いにくそうに、大西警部は小声になった。
「男女平等といっても、ふん、荒事に女性は不利だ。戦闘能力の話ではない、女性ならではの、特に、美しい女性ならではの不利な要素がある。それが事実だ。」
直裁的な表現は避けたが、言わんとすることは江口刑事にも伝わった。
「わかってます。でも、だからこそです。あたしが刑事になったのは、それに抗う為・・・正義の為に能力を使おうと思ったからなのですから。」
「正義、か。」
大西警部は複雑な顔で呟いた。
「それも形骸化して久しくなり、今では口にするのも憚られるようになってしまった。だからこそ、わたしは・・・その言葉を待っていたのかもしれないな。今こそ、正義をと。」
勇ましい結論とは裏腹に、大西警部の表情は複雑なままだった。
いろいろ思うところがあるのだろうと、白羽は思った。
「では、行って参ります。」
きりっと敬礼をして、江口白羽は任務へ出かけた。
彼女が部屋を出たのを確認してから、大西警部は別人のような手つきでパソコンを操作し、ブラインドタッチで何かの文章を打ち込み始めた。
「まったく・・・未だに信じられんな、エスパーなんて。」

この記事へのコメント
ゴリーレッド「ある」
火剣「大西大警部、41歳。久々の登場」
コング「え、前に出てたか?」
ゴリーレッド「鶏か」
コング「木鶏だ」
ゴリーレッド「双葉山に失礼だ」
火剣「パソコンが苦手な現場叩き上げデカか」
ゴリーレッド「江口白羽はエスパー?」
コング「23歳! スレンダー! スカートもショートとくればヒロピン候補最有力」
ゴリーレッド「ショートヘアだ」
コング「見たんか彼女の全裸を」
ゴリーレッド「エルボー」
コング「がっ・・・」
火剣「荒事には不利な女刑事。これは事実だ。白羽のような美人刑事が悪党に監禁されたら、素っ裸にされて手足を拘束され、エッチな意地悪をされるのは火を見るよりも明らかだ」
コング「拷問で降参と口にしてしまう屈辱。犯人の男に犯されるという、女刑事にとって最大の恥辱!」
ゴリーレッド「その笑顔はおかしい」
コング「何だ、パソコン得意なのか。苦手なふりをする理由は何だ?」
火剣「正義という言葉が死語になりつつある社会か。確かにそうだ。餓死する国民は年間約1000人と雨宮処凜に聞いて驚いた。オスプレイには3600億円ポンと出すが」
ゴリーレッド「そういう風刺をする作家がいるうちは、まだ正義は死なない」
火剣「世の中は変わっているようで、実は鎌倉時代からあまり変わっていない」
コング「何いきなり真面目モードになってる。白羽が任務に体を張ってるのに失礼であーるの女」
火剣「とにかく物語は面白そうな予感がしてならない」
第十話で登場した大西警部、今回も超能力事件と関わります。しかも新しい部下は美人刑事。早くも漂うヒロピンの予感?
正義を口にすると煙たがられる世の中ですが、雨宮さんは新しい正義の指針として注目している1人ですね。
八武「出た、美人刑事! これで勝つる!」
山田「エスパー刑事か。」
八武「拳銃に毛の生えたような・・・どれ、アンダーヘアの具合を確かめてみよう。」
山田「撃たれて死ぬがいい。」
佐久間「丁度いい具合に、三角高校には悪党が潜んでいる。」
維澄「ということは行き先は三角高校?」
神邪「この流れからして、そうなりますね。」
山田「何だこの悪い流れは。」
佐久間「話せば長くなるんだが。」
山田「問答無用!」
佐久間「それ違う! 痛あ!」
神邪「とりあえず、ヒロピンは期待していいんですか?」
山田「感覚が麻痺してるぞ。」
八武「何を言うか、ヒロピンは基本。どのようなヒロピンが展開されるかが問題なのではないか。」
山田「その感覚が麻痺してるというんだ。」
八武「むしろビンビンだよ!」
佐久間「餓死者を出しておきながら、カネは他へ出す国家こそ、麻痺していると思わないか?」
山田「うーむ。」
維澄「軍事が守るのは、国家であって国民でないことを、餓死者が示している。栄養失調は、その千倍万倍いるだろう。」
八武「せめてヒロピンで心の栄養を補給しなくては、とても生きていけない。」