決闘倶楽部PX 第一話 闇のカード (後編)
◆ ◆ ◆
「お父さん・・・必ず、連れ戻してみせるからね・・・」
いつもの気高く尊く麗しい表情ではなく、歳相応の少女のような表情で、鷹野麗子は呟いた。
しかし気品を損なうどころか、王女のような雰囲気まで漂わせている。
そこへ、ならず者たちが登場したが、鷹野麗子は即座に双眸を灼熱し、デュエルディスクを展開した。
王女と女王は、文字の前後が入れ替わっただけに過ぎない。
鷹野麗子を、か弱い少女だと舐めてかかった者たちの末路は、言うまでもないことだ。
◆ ◆ ◆
パラコン:LP2400、手札4
場:
場:伏せ×1
遠山力也:LP4000、手札2
場:ゴブリン突撃部隊(守0)、ゴブリンエリート部隊(守1500)
場:伏せ×1
柊聖人:LP3800、手札5
場:
場:伏せ×2
殺霧敷衍:LP4000、手札5
場:
場:
一寸日獲斗:LP4000、手札5
場:モリンフェン(攻1750)、モリンフェン(攻1750)、モリンフェン(攻1750)
場:
南城暦:LP14450、手札?
場:地雷蜘蛛トークン(攻2100)、地雷蜘蛛トークン(攻2100)、地雷蜘蛛トークン(攻2100)
場:うずまき(フィールド魔法)、地雷蜘蛛(永続罠)、?
かつて迷宮兄弟は、迷宮フィールドにて、武藤遊戯と城之内克也を苦しめた。
そのうちの1枚が、《地雷蜘蛛》!
進入してきたモンスターに反応し、攻撃力2100の地雷蜘蛛が出現する罠だ。
当然ながら、これはキングダムルールの効果である。
だが、パラコン自身も言っていたではないか。《うずまき》には100を超える効果がある。
南城はスーパーエキスパートルールを採用しながら、そのルール特有の曖昧さ汎用性を用いて、キングダムルールの効果を持ち込むことに成功したのだ!
パラコン、遠山、柊は、既にターンを終えている。
伏せたカードの発動タイミングを窺いながら、次の殺霧を注視した。
「此方のターン、ドロー!」
実のところ、柊は殺霧と一寸日を疑っていた。いや、完全に信用してはいないと言うべきだろう。
南城も都蘭布高校のメンバーであった以上は、その疑いは尤もなことだった。
「一寸日、モンスターをいただきますことよ!」
「ああ、《モリンフェン》ちゃんをフィールドから剥がしてくれ!」
「3体のモンスターを生贄に、デビルズアバターの召喚ですことよ!」
痩せぎすの体を目一杯に揺らし、殺霧は指を前に向けた。
3体の悪魔がフィールドを去り、代わりに出てきたのは暗黒太陽。
それがメタモルフォーゼし、《ゴブリン突撃部隊》の姿になる。
「デビルズアバターの攻撃力と守備力は、フィールドに存在する最も攻撃力の高いモンスターのステータスに、1ポイントを加えた数値となるのですことよ! すなわち、攻撃力2301ポイント!」
「はっはあ! やっぱり《モリンフェン》様の第六形態は強いぜ!」
「更に此方は、手札から魔法カード《神の進化》を発動するですことよ! これによりアバターは進化し、オリジナルに攻守1001ポイントを加えたステータスになるですことね!」
《邪神アバター》 (攻2301→3301)
メタモルフォーゼの途中、アバターは2つの黒い玉になった。
それを見て一寸日は赤面し、遠山も苦い顔をした。
「どうかしましたか、遠山くん。」
「いや、何でもねえ。」
柊にいじられる危険を感じ、遠山は気を確かにした。
なお、いじられるといっても、いやらしい意味ではない。敢えてBL風に表現する必要はないだろう。
「どうかしましたか、一寸日。」
「てめーはマジだよな、フェン・・・。」
溜息をつく一寸日は、ふとパラコンを見た。
彼も意味がわからない様子で首をかしげている。
このままプレイが進行すると思いきや、南城が爆弾を落とした。
「うふ、うふふ、まるで男性の睾丸のようですね。あら、皆さん紅顔になられて、どうしたのですか?」
「やかましいですことよ! 進化したデビルズアバターは、2ターンの間、相手の魔法と罠を封じる!」
「さーらーにー、オレのデュエリスト能力で3体の《モリンフェン》ちゃんが復活!」
「此方のデュエリスト能力で5250ダメージですことよ!」
南城暦:LP14450→9200
「デビルズアバターで攻撃!」
「あららら。」
地雷蜘蛛トークン (破壊)
南城暦:LP9200→7999
「ターンエンドですことよ!」
「そしてオレのターン、ドロー! 3体の《モリンフェン》ちゃんを生贄に、《幻魔皇ラビエル》のお出ましだあ! 更にオレのデュエリスト能力で、《モリンフェン》ちゃんたちはフィールドへ舞い戻りぃ!」
「此方のデュエリスト能力で5250ダメージですことよ!」
南城暦:LP7999→2749
「そしてラビエルは、《モリンフェン》ちゃんを共食いして、攻撃力5750だ! あっけなかったな南城!」
ラビエルの太くて逞しい拳が、地雷蜘蛛めがけて振り下ろされる。
憐れな蜘蛛は、たちまちのうちに体液を噴出し、果てた。
「うふ、ふふふ、手札から毛の生えたクリちゃんを捨てて、ダメージは0ですよ。」
「てめーは、やらしい言い方しか出来ねえのか!」
一寸日が顔を赤くして叫ぶが、南城には暖簾に腕押しだ。
いつものように、上品だが得体の知れない笑みを浮かべている。
「ターンエンドだよ、くそったれ!」
「一寸日、言葉遣いを上品にしないと想い人に嫌われますことよ。」
「・・・っ!」
一寸日は顔を引きつらせた。
何故かパラコンがニヤニヤしながら首を振っていた。
パラコン:LP2400、手札4
場:
場:伏せ×1
遠山力也:LP4000、手札2
場:ゴブリン突撃部隊(守0)、ゴブリンエリート部隊(守1500)
場:伏せ×1
柊聖人:LP3800、手札5
場:
場:伏せ×2
殺霧敷衍:LP4000、手札4
場:邪神アバター(攻5001)
場:
一寸日獲斗:LP4000、手札5
場:幻魔皇ラビエル(攻4000)、モリンフェン(攻1750)、モリンフェン(攻1750)
場:
南城暦:LP2749、手札?
場:地雷蜘蛛トークン(攻2100)、地雷蜘蛛トークン(攻2100)
場:うずまき(フィールド魔法)、地雷蜘蛛(永続罠)、?
「うふふ、わたしのターンですね。ドロー。《オレイカルコス・ギガース》を召喚しますね。」
その意味するところを、柊とパラコン、そして遠山自身は、一瞬で察知した。
オレイカルコス・ギガース レベル4 闇属性・戦士族
攻撃力400 守備力1500
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分のドローフェイズはスキップされる。
このカードが破壊され墓地に送られた時、このカードをフィールド上に特殊召喚する。
この効果によって特殊召喚に成功した時、このカードの元々の攻撃力は、破壊される前のフィールド上での元々の攻撃力に800を加えた値になる。
遠山力也のレベル4能力“刃の鎧”は、攻防一体のデュエリスト能力だ。
800ライフを引き換えに、戦闘ダメージを無効にして、相手の攻撃モンスターを破壊する。
効果すら発動させない天神ほどではないが、神のカードだろうが何だろうが、問答無用で葬り去る。
かの《邪神ゲー》であろうとも、遠山の前には800ライフを削るだけの弱小モンスターに過ぎない。
だが、そんな遠山にも弱点は存在する・・・。
かつてリンネは、リクルーターの連続攻撃によって遠山を1ターンキルした。
そして、それすらも全力には程遠いものであったことが、後で明らかになる。
天神に使わせた【オレイカルコス】には、遠山の天敵とも言うべきモンスターが入っていた。
何度破壊されようとも、復活して攻撃力をアップする。ミニサイズのタイヨウと言えば、その威力がわかるだろうか。
「な~んて、な。」
攻撃してきたギガースに反応して、遠山のフィールドで1枚の永続罠が発動していた。
それはタイヨウも使った、《強制終了》のカード!
これでバトルフェイズを終了させられてしまえば、ギガースの連続攻撃も防ぐことが出来る。
「うふふ、それは手札の、《紫光の宣告者》で打ち消しましょうか。」
得意満面に発動した、《強制終了》が、紫の光によって燃やされていく。
これで遠山には、もはやギガースを止めることは出来ない。
「・・・・・・・・・へっ、だとよ柊。」
遠山は不敵に笑っていた。
「はい、マジックカードです。」
スーパーエキスパートルールでは、相手ターンでも伏せた魔法カードを発動できる。
柊が発動したのは・・・
漆黒の指名者 (魔法カード)
カード名を1つ宣言する。
宣言したカードが相手のデッキにある場合、そのカード1枚を相手の手札に加える。
「このカードを、殺霧さんに対して発動します。」
「此方ですこと?」
「はい、《邪神イレイザー》を手札に加えてください。」
柊のレベル2能力“山札幻視”(ビジョンズアイ)は、互いのデッキトップのカードが見えるという能力だ。
一見すれば何てことない能力であり、しかも南城のデッキトップは彼女の能力で見えなくなっている。
ゆえに《ラプラスの宣告》によるデッキ破壊は封じられたも同然なのだが・・・。
だが、その程度で膝を折る柊ではない。
念を入れて自分のデッキの“裏芸”の準備を整えつつ、味方プレイヤー4名のデッキトップも、しっかり見ていた。
殺霧敷衍のデッキトップは《邪神イレイザー》であり、それを手札に加えさせたのだ。
その意味を、殺霧はわからない。
スーパーエキスパートルールに不慣れな彼女には、わからない。
しかし、パラコンにはわかっていた。
自分が伏せカードを発動するべきだということを。
(そうか、柊さんの能力は、デッキトップを見る・・・。僕が引いたカードを伏せていることを知っていた!)
ここでパラコンは、もう一段階、頭をはたらかせる。
すなわち、殺霧と一寸日について。
そして発動する。
「リバースマジック、《手札抹殺》! みんな、全ての手札を捨ててもらうよ!」
イレイザーは、弱い。
だが、それは極端な調整が行われたオフィシャル・カードにおいての話。
スーパーエキスパートルールにおけるイレイザーは、途方も無く、強い。
どこから墓地に送られても、フィールドのカード全てを道連れにする、極めて高い除去能力を有しているのだ。
パラコン:LP6400、手札4
場:
場:
遠山力也:LP8000、手札2
場:
場:
柊聖人:LP7800、手札5
場:
場:
殺霧敷衍:LP8000、手札5
場:邪神アバター(攻1001)
場:
一寸日獲斗:LP8000、手札5
場:
場:
南城暦:LP22749、手札?
進化したアバターが、2つの大きな黒い玉となって、空中に浮かんでいる。
この卑猥な光景に、しばし一同は沈黙を余儀なくされた。
しかし更なる進化で3つの黒球となり、夢の国のネズミのようになるよりは、まだ安全というものだ。
「・・・っ、呆けてる場合じゃねえ! オレの能力で《モリンフェン》ちゃん3体を特殊召喚!」
「此方の能力で5250ダメージを食らってもらいますことよ!」
南城暦:LP22749→17499
「うふ、ふふ、仕方ないわね。わたしはターン終了よ。」
「おっと、そうはさせませんよ。」
制止したのは柊だった。
そう言えば、彼のフィールドには伏せカードが2枚あったわけだが・・・。
ゆっくりとした手つきで、彼は墓地から、1枚の罠カードを提示する。
《クロス・カウンター・トラップ》
このカードは、自身だけでは意味を成さない。
相手の効果によって墓地に送られることで、そのターン、手札から罠カード1枚を発動できる。
先程と同じく、殺霧を相手と見ることで、発動条件を満たしたのだ。
そして、柊が発動するカードは決まっている。
強制詠唱 (罠カード)
対象となるプレイヤーを1人選択し、魔法カード名を1つ宣言して発動。選択したプレイヤーが、手札に宣言した魔法カードを持っていた場合、そのカード1枚を強制発動させる。発動タイミングが正しくない魔法カードだった場合、その効果を無効にしてそのカードを破壊する。(このカードの効果によって、相手ターンに魔法カードを発動することはできる)
「パラコン君、手札に《二重魔法》を持っていますね。発動してください。」
二重魔法 (魔法カード)
手札から魔法カード1枚を捨て、相手の墓地の魔法カード1枚を選択して発動できる。
選択した魔法カードを自分フィールド上の正しいカードゾーンに置き、使用する。
当然ながら柊は、あらかじめパラコンのデッキトップを確認して、《二重魔法》の存在を知っていた。
そして、パラコンが選択するカードは、彼が何度も苦渋を味わった、闇のカード。
彼の脳裏に、鷹野麗子の姿が浮かんでくる。
クラス1、いや、学校一の美少女。
遠い記憶には、彼女にドキドキしながらデュエルしたこともあった。
消火器をはじめとする暴力の数々によって、彼女に対する認識は次々と(悪い方へ)変わっていった。
だけど、そんな日常の中で、悪い印象とは別の感覚も、知らないうちに知っていた。
それが何なのかは、わからない。
パラコン:LP2400、手札2
場:
場:うずまき(フィールド魔法)
南城の墓地から《うずまき》を、自分フィールドに発動した。
これにより、4000ずつ増えていたライフは、再び4000減少する。
5人分、20000増えていた南城のライフも、20000減少し・・・
南城暦:LP0
そして。デュエルは終了した。
◆ ◆ ◆
「うふ、うふ、うふふふ、流石にA級戦力と見受けられるデュエリスト5人を相手するのは、無茶だったわ。」
南城は、負けたが余裕の笑みだ。
1対1で負けたわけではないのだから、それも当然なのかもしれない。
「うふふ、約束は果たすわね。童実野高校のメンバーに、会わせてあげるわ。」
そう言って南城は歩き出したので、5人も用心しながら後に続く。
約束を反故にするような無粋な真似はしないだろうが、敵地で気を抜くわけにもいかない。
「南城、会わせてあげるということは、全員が揃っているのですこと?」
「うふ、ふふふ、そんなわけないじゃない。」
どろお・・・と濁ったものを垂れ流すように、南城は頭を縦向きに後ろを見た。
髪の毛が下向きに流れるが、それも不気味だ。
「風森無々とリスティー・N・ダークは、強大なる竜堂様に吸収されてしまいましたとさ。現実を思い出せよ、ひひひ。」
「・・・っ!」
他の4人も神妙な表情だが、風森に特に思い入れの強い殺霧は、涙目になりかけている。
「うふふふ。」
バサッと髪の毛を振って、南城は再び前を向いて歩き出す。
その表情は見えないし、見えても心は見えないだろう。
「わたしに勝ったゴホウビに教えてあげるけど、まだ吸収されきってはいないわ。」
「ぬか喜びさせるつもりではないですこと?」
「あら、うふふ・・・結果的には、そうなっちゃうのかしら? だって・・・」
南城はクスクスと笑っているように見えた。
「どうせ竜堂様にはあ、勝てっこないんだからなあ!!」
「・・・・・・。1人では、確かに勝てないですことね。」
「うふふ、ふふ、わかっちゃいないなあ。あのバケモノは、多人数だからどうにかなるってえレベルじゃねんだ。」
すっかり言葉遣いが乱れている南城は、どこか楽しげにも見えた。
「うふふ、“カンサー”は例外なく狂ってる。A級には人間の苦悩が詰まっている。だったらS級は何だろうな? 常識が手に負えないものを、ひっくるめてS級って括りに入れてるだけだ。“カンサー”の残る全軍をぶつけたところで、びくともしない怪物どもだ。その7体の中の2体―――竜堂様と月島カノンは、底すら計れない。」
「南城・・・そう言えば南城は、故郷が焼失したと、いつか語ってくれたことがありましたが・・・まさか―――」
「うふふふふ、ろくでもない故郷だったので、恨みどころか感謝でいっぱいですが。しかし、それ以上に、わたしは恐怖し、そして強烈に憧れた。あの、剥き出しのまま存在する、圧倒的な力に。」
南城の瞳は、赤々と燃えていた。
◆ ◆ ◆
同時刻、地上。
竜堂神邪:LP24002、手札17
場:
場:
竜堂眸:LP0、手札0
場:コード13 Detah Attribute (攻∞)
場:
「さァ、神邪くん、かかってきたまえ。お母さんが久々にデュエルを教えてやろう。」
冷汗を流す少年の眼前に、御しきれぬ闇のカードが立ちはだかっていた。
第一話 闇のカード 了
「お父さん・・・必ず、連れ戻してみせるからね・・・」
いつもの気高く尊く麗しい表情ではなく、歳相応の少女のような表情で、鷹野麗子は呟いた。
しかし気品を損なうどころか、王女のような雰囲気まで漂わせている。
そこへ、ならず者たちが登場したが、鷹野麗子は即座に双眸を灼熱し、デュエルディスクを展開した。
王女と女王は、文字の前後が入れ替わっただけに過ぎない。
鷹野麗子を、か弱い少女だと舐めてかかった者たちの末路は、言うまでもないことだ。
◆ ◆ ◆
パラコン:LP2400、手札4
場:
場:伏せ×1
遠山力也:LP4000、手札2
場:ゴブリン突撃部隊(守0)、ゴブリンエリート部隊(守1500)
場:伏せ×1
柊聖人:LP3800、手札5
場:
場:伏せ×2
殺霧敷衍:LP4000、手札5
場:
場:
一寸日獲斗:LP4000、手札5
場:モリンフェン(攻1750)、モリンフェン(攻1750)、モリンフェン(攻1750)
場:
南城暦:LP14450、手札?
場:地雷蜘蛛トークン(攻2100)、地雷蜘蛛トークン(攻2100)、地雷蜘蛛トークン(攻2100)
場:うずまき(フィールド魔法)、地雷蜘蛛(永続罠)、?
かつて迷宮兄弟は、迷宮フィールドにて、武藤遊戯と城之内克也を苦しめた。
そのうちの1枚が、《地雷蜘蛛》!
進入してきたモンスターに反応し、攻撃力2100の地雷蜘蛛が出現する罠だ。
当然ながら、これはキングダムルールの効果である。
だが、パラコン自身も言っていたではないか。《うずまき》には100を超える効果がある。
南城はスーパーエキスパートルールを採用しながら、そのルール特有の
パラコン、遠山、柊は、既にターンを終えている。
伏せたカードの発動タイミングを窺いながら、次の殺霧を注視した。
「此方のターン、ドロー!」
実のところ、柊は殺霧と一寸日を疑っていた。いや、完全に信用してはいないと言うべきだろう。
南城も都蘭布高校のメンバーであった以上は、その疑いは尤もなことだった。
「一寸日、モンスターをいただきますことよ!」
「ああ、《モリンフェン》ちゃんをフィールドから剥がしてくれ!」
「3体のモンスターを生贄に、デビルズアバターの召喚ですことよ!」
痩せぎすの体を目一杯に揺らし、殺霧は指を前に向けた。
3体の悪魔がフィールドを去り、代わりに出てきたのは暗黒太陽。
それがメタモルフォーゼし、《ゴブリン突撃部隊》の姿になる。
「デビルズアバターの攻撃力と守備力は、フィールドに存在する最も攻撃力の高いモンスターのステータスに、1ポイントを加えた数値となるのですことよ! すなわち、攻撃力2301ポイント!」
「はっはあ! やっぱり《モリンフェン》様の第六形態は強いぜ!」
「更に此方は、手札から魔法カード《神の進化》を発動するですことよ! これによりアバターは進化し、オリジナルに攻守1001ポイントを加えたステータスになるですことね!」
《邪神アバター》 (攻2301→3301)
メタモルフォーゼの途中、アバターは2つの黒い玉になった。
それを見て一寸日は赤面し、遠山も苦い顔をした。
「どうかしましたか、遠山くん。」
「いや、何でもねえ。」
柊にいじられる危険を感じ、遠山は気を確かにした。
なお、いじられるといっても、いやらしい意味ではない。敢えてBL風に表現する必要はないだろう。
「どうかしましたか、一寸日。」
「てめーはマジだよな、フェン・・・。」
溜息をつく一寸日は、ふとパラコンを見た。
彼も意味がわからない様子で首をかしげている。
このままプレイが進行すると思いきや、南城が爆弾を落とした。
「うふ、うふふ、まるで男性の睾丸のようですね。あら、皆さん紅顔になられて、どうしたのですか?」
「やかましいですことよ! 進化したデビルズアバターは、2ターンの間、相手の魔法と罠を封じる!」
「さーらーにー、オレのデュエリスト能力で3体の《モリンフェン》ちゃんが復活!」
「此方のデュエリスト能力で5250ダメージですことよ!」
南城暦:LP14450→9200
「デビルズアバターで攻撃!」
「あららら。」
地雷蜘蛛トークン (破壊)
南城暦:LP9200→7999
「ターンエンドですことよ!」
「そしてオレのターン、ドロー! 3体の《モリンフェン》ちゃんを生贄に、《幻魔皇ラビエル》のお出ましだあ! 更にオレのデュエリスト能力で、《モリンフェン》ちゃんたちはフィールドへ舞い戻りぃ!」
「此方のデュエリスト能力で5250ダメージですことよ!」
南城暦:LP7999→2749
「そしてラビエルは、《モリンフェン》ちゃんを共食いして、攻撃力5750だ! あっけなかったな南城!」
ラビエルの太くて逞しい拳が、地雷蜘蛛めがけて振り下ろされる。
憐れな蜘蛛は、たちまちのうちに体液を噴出し、果てた。
「うふ、ふふふ、手札から毛の生えたクリちゃんを捨てて、ダメージは0ですよ。」
「てめーは、やらしい言い方しか出来ねえのか!」
一寸日が顔を赤くして叫ぶが、南城には暖簾に腕押しだ。
いつものように、上品だが得体の知れない笑みを浮かべている。
「ターンエンドだよ、くそったれ!」
「一寸日、言葉遣いを上品にしないと想い人に嫌われますことよ。」
「・・・っ!」
一寸日は顔を引きつらせた。
何故かパラコンがニヤニヤしながら首を振っていた。
パラコン:LP2400、手札4
場:
場:伏せ×1
遠山力也:LP4000、手札2
場:ゴブリン突撃部隊(守0)、ゴブリンエリート部隊(守1500)
場:伏せ×1
柊聖人:LP3800、手札5
場:
場:伏せ×2
殺霧敷衍:LP4000、手札4
場:邪神アバター(攻5001)
場:
一寸日獲斗:LP4000、手札5
場:幻魔皇ラビエル(攻4000)、モリンフェン(攻1750)、モリンフェン(攻1750)
場:
南城暦:LP2749、手札?
場:地雷蜘蛛トークン(攻2100)、地雷蜘蛛トークン(攻2100)
場:うずまき(フィールド魔法)、地雷蜘蛛(永続罠)、?
「うふふ、わたしのターンですね。ドロー。《オレイカルコス・ギガース》を召喚しますね。」
その意味するところを、柊とパラコン、そして遠山自身は、一瞬で察知した。
オレイカルコス・ギガース レベル4 闇属性・戦士族
攻撃力400 守備力1500
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分のドローフェイズはスキップされる。
このカードが破壊され墓地に送られた時、このカードをフィールド上に特殊召喚する。
この効果によって特殊召喚に成功した時、このカードの元々の攻撃力は、破壊される前のフィールド上での元々の攻撃力に800を加えた値になる。
遠山力也のレベル4能力“刃の鎧”は、攻防一体のデュエリスト能力だ。
800ライフを引き換えに、戦闘ダメージを無効にして、相手の攻撃モンスターを破壊する。
効果すら発動させない天神ほどではないが、神のカードだろうが何だろうが、問答無用で葬り去る。
かの《邪神ゲー》であろうとも、遠山の前には800ライフを削るだけの弱小モンスターに過ぎない。
だが、そんな遠山にも弱点は存在する・・・。
かつてリンネは、リクルーターの連続攻撃によって遠山を1ターンキルした。
そして、それすらも全力には程遠いものであったことが、後で明らかになる。
天神に使わせた【オレイカルコス】には、遠山の天敵とも言うべきモンスターが入っていた。
何度破壊されようとも、復活して攻撃力をアップする。ミニサイズのタイヨウと言えば、その威力がわかるだろうか。
「な~んて、な。」
攻撃してきたギガースに反応して、遠山のフィールドで1枚の永続罠が発動していた。
それはタイヨウも使った、《強制終了》のカード!
これでバトルフェイズを終了させられてしまえば、ギガースの連続攻撃も防ぐことが出来る。
「うふふ、それは手札の、《紫光の宣告者》で打ち消しましょうか。」
得意満面に発動した、《強制終了》が、紫の光によって燃やされていく。
これで遠山には、もはやギガースを止めることは出来ない。
「・・・・・・・・・へっ、だとよ柊。」
遠山は不敵に笑っていた。
「はい、マジックカードです。」
スーパーエキスパートルールでは、相手ターンでも伏せた魔法カードを発動できる。
柊が発動したのは・・・
漆黒の指名者 (魔法カード)
カード名を1つ宣言する。
宣言したカードが相手のデッキにある場合、そのカード1枚を相手の手札に加える。
「このカードを、殺霧さんに対して発動します。」
「此方ですこと?」
「はい、《邪神イレイザー》を手札に加えてください。」
柊のレベル2能力“山札幻視”(ビジョンズアイ)は、互いのデッキトップのカードが見えるという能力だ。
一見すれば何てことない能力であり、しかも南城のデッキトップは彼女の能力で見えなくなっている。
ゆえに《ラプラスの宣告》によるデッキ破壊は封じられたも同然なのだが・・・。
だが、その程度で膝を折る柊ではない。
念を入れて自分のデッキの“裏芸”の準備を整えつつ、味方プレイヤー4名のデッキトップも、しっかり見ていた。
殺霧敷衍のデッキトップは《邪神イレイザー》であり、それを手札に加えさせたのだ。
その意味を、殺霧はわからない。
スーパーエキスパートルールに不慣れな彼女には、わからない。
しかし、パラコンにはわかっていた。
自分が伏せカードを発動するべきだということを。
(そうか、柊さんの能力は、デッキトップを見る・・・。僕が引いたカードを伏せていることを知っていた!)
ここでパラコンは、もう一段階、頭をはたらかせる。
すなわち、殺霧と一寸日について。
そして発動する。
「リバースマジック、《手札抹殺》! みんな、全ての手札を捨ててもらうよ!」
イレイザーは、弱い。
だが、それは極端な調整が行われたオフィシャル・カードにおいての話。
スーパーエキスパートルールにおけるイレイザーは、途方も無く、強い。
どこから墓地に送られても、フィールドのカード全てを道連れにする、極めて高い除去能力を有しているのだ。
パラコン:LP6400、手札4
場:
場:
遠山力也:LP8000、手札2
場:
場:
柊聖人:LP7800、手札5
場:
場:
殺霧敷衍:LP8000、手札5
場:邪神アバター(攻1001)
場:
一寸日獲斗:LP8000、手札5
場:
場:
南城暦:LP22749、手札?
進化したアバターが、2つの大きな黒い玉となって、空中に浮かんでいる。
この卑猥な光景に、しばし一同は沈黙を余儀なくされた。
しかし更なる進化で3つの黒球となり、夢の国のネズミのようになるよりは、まだ安全というものだ。
「・・・っ、呆けてる場合じゃねえ! オレの能力で《モリンフェン》ちゃん3体を特殊召喚!」
「此方の能力で5250ダメージを食らってもらいますことよ!」
南城暦:LP22749→17499
「うふ、ふふ、仕方ないわね。わたしはターン終了よ。」
「おっと、そうはさせませんよ。」
制止したのは柊だった。
そう言えば、彼のフィールドには伏せカードが2枚あったわけだが・・・。
ゆっくりとした手つきで、彼は墓地から、1枚の罠カードを提示する。
《クロス・カウンター・トラップ》
このカードは、自身だけでは意味を成さない。
相手の効果によって墓地に送られることで、そのターン、手札から罠カード1枚を発動できる。
先程と同じく、殺霧を相手と見ることで、発動条件を満たしたのだ。
そして、柊が発動するカードは決まっている。
強制詠唱 (罠カード)
対象となるプレイヤーを1人選択し、魔法カード名を1つ宣言して発動。選択したプレイヤーが、手札に宣言した魔法カードを持っていた場合、そのカード1枚を強制発動させる。発動タイミングが正しくない魔法カードだった場合、その効果を無効にしてそのカードを破壊する。(このカードの効果によって、相手ターンに魔法カードを発動することはできる)
「パラコン君、手札に《二重魔法》を持っていますね。発動してください。」
二重魔法 (魔法カード)
手札から魔法カード1枚を捨て、相手の墓地の魔法カード1枚を選択して発動できる。
選択した魔法カードを自分フィールド上の正しいカードゾーンに置き、使用する。
当然ながら柊は、あらかじめパラコンのデッキトップを確認して、《二重魔法》の存在を知っていた。
そして、パラコンが選択するカードは、彼が何度も苦渋を味わった、闇のカード。
彼の脳裏に、鷹野麗子の姿が浮かんでくる。
クラス1、いや、学校一の美少女。
遠い記憶には、彼女にドキドキしながらデュエルしたこともあった。
消火器をはじめとする暴力の数々によって、彼女に対する認識は次々と(悪い方へ)変わっていった。
だけど、そんな日常の中で、悪い印象とは別の感覚も、知らないうちに知っていた。
それが何なのかは、わからない。
パラコン:LP2400、手札2
場:
場:うずまき(フィールド魔法)
南城の墓地から《うずまき》を、自分フィールドに発動した。
これにより、4000ずつ増えていたライフは、再び4000減少する。
5人分、20000増えていた南城のライフも、20000減少し・・・
南城暦:LP0
そして。デュエルは終了した。
◆ ◆ ◆
「うふ、うふ、うふふふ、流石にA級戦力と見受けられるデュエリスト5人を相手するのは、無茶だったわ。」
南城は、負けたが余裕の笑みだ。
1対1で負けたわけではないのだから、それも当然なのかもしれない。
「うふふ、約束は果たすわね。童実野高校のメンバーに、会わせてあげるわ。」
そう言って南城は歩き出したので、5人も用心しながら後に続く。
約束を反故にするような無粋な真似はしないだろうが、敵地で気を抜くわけにもいかない。
「南城、会わせてあげるということは、全員が揃っているのですこと?」
「うふ、ふふふ、そんなわけないじゃない。」
どろお・・・と濁ったものを垂れ流すように、南城は頭を縦向きに後ろを見た。
髪の毛が下向きに流れるが、それも不気味だ。
「風森無々とリスティー・N・ダークは、強大なる竜堂様に吸収されてしまいましたとさ。現実を思い出せよ、ひひひ。」
「・・・っ!」
他の4人も神妙な表情だが、風森に特に思い入れの強い殺霧は、涙目になりかけている。
「うふふふ。」
バサッと髪の毛を振って、南城は再び前を向いて歩き出す。
その表情は見えないし、見えても心は見えないだろう。
「わたしに勝ったゴホウビに教えてあげるけど、まだ吸収されきってはいないわ。」
「ぬか喜びさせるつもりではないですこと?」
「あら、うふふ・・・結果的には、そうなっちゃうのかしら? だって・・・」
南城はクスクスと笑っているように見えた。
「どうせ竜堂様にはあ、勝てっこないんだからなあ!!」
「・・・・・・。1人では、確かに勝てないですことね。」
「うふふ、ふふ、わかっちゃいないなあ。あのバケモノは、多人数だからどうにかなるってえレベルじゃねんだ。」
すっかり言葉遣いが乱れている南城は、どこか楽しげにも見えた。
「うふふ、“カンサー”は例外なく狂ってる。A級には人間の苦悩が詰まっている。だったらS級は何だろうな? 常識が手に負えないものを、ひっくるめてS級って括りに入れてるだけだ。“カンサー”の残る全軍をぶつけたところで、びくともしない怪物どもだ。その7体の中の2体―――竜堂様と月島カノンは、底すら計れない。」
「南城・・・そう言えば南城は、故郷が焼失したと、いつか語ってくれたことがありましたが・・・まさか―――」
「うふふふふ、ろくでもない故郷だったので、恨みどころか感謝でいっぱいですが。しかし、それ以上に、わたしは恐怖し、そして強烈に憧れた。あの、剥き出しのまま存在する、圧倒的な力に。」
南城の瞳は、赤々と燃えていた。
◆ ◆ ◆
同時刻、地上。
竜堂神邪:LP24002、手札17
場:
場:
竜堂眸:LP0、手札0
場:コード13 Detah Attribute (攻∞)
場:
「さァ、神邪くん、かかってきたまえ。お母さんが久々にデュエルを教えてやろう。」
冷汗を流す少年の眼前に、御しきれぬ闇のカードが立ちはだかっていた。
第一話 闇のカード 了

この記事へのコメント
コング「お父さん・・・必ず、連れ戻してみせるからね・・・これはいったい」
ゴリーレッド「鷹野麗子の実力を知らずにやられキャラがやられたのか」
火剣「王女と女王か」
コング「意味は全然違うぞ。女王はSで王女はMだ」
ゴリーレッド「それ以上喋ったらクロスカウンターしか待っていない」
コング「女王様がSは常識だが、王女というのは、誇り高き地位にいて、兵士など目を合わせたら無礼にあたり、指など差そうものなら死刑だ。そういう王女だからこそ、敵の暴兵に囲まれ、絶体絶命の大ピンチに堕ち、究極のハラh」
ゴリーレッド「クロスカウンター!」
コング「NO!」
火剣「モリンフェン=無々とは限らなかったか」
ゴリーレッド「消火器?」
火剣「消火器で殴ったのか、噴射したのか、いずれにしろきついな」
ゴリーレッド「竜堂眸と月島カノンが底知れないモンスターか。圧倒的力。勝てるわけがない相手」
コング「カバムーと同等のキリンにはわかるまい」
火剣「無敵の佐久間んにもわからないか」
ゴリーレッド「神邪」
コング「生い立ちは聞かない。界隈という居場所を得た今が幸せならそれでいい」
火剣「約二名口を挟むが」
ゴリーレッド「青年が間違った方向へ行くのは止めたい」
コング「間違ってない。正しい道だ、にひひひ」
闇のカード、それは《うずまき》! そして《モリンフェン》も出てきて、早くもクロスしています。
無々の出番はまだですね。何しろ現在、吸収されている状態なので。
佐久間「火には消火器! ゴースでごーす!」
山田「懐かしいな。」
八武「王女というと確かにMなイメージがある。何故だろう。」
山田「一部の人々による偏ったイメージだ。」
八武「そんなことはない。神邪くんも賛成して・・・あ、もう出番か。」
維澄「佐久間は女王が似合っているね。」
佐久間「そんな潤んだ目で見つめても、ボンテージは着ない。山田の頼みなら着てもいいが。」
山田「頼まない。」
佐久間「そこを何とか。」
維澄「そこを何とか。」
八武「色々混乱してるよ!?」
山田「パラコンが鷹野麗子に抱いているものは、恋心なのか、何なのか・・・。俺には何となく、わかる気がする。」
八武「麗子ちゃんはパラコンに惚れているのかね?」
佐久間「とても一言では答えられない。」
維澄「真相は、あっぷるぱいさんのみぞ知る。」
山田「で、ライフ0になっても負けてないのは、どういうことだ?」
八武「どういうことかねごん?」
佐久間「それがコード13、竜堂眸の切札だ。」