傀儡師は夜に眠らない 1

その日、わたくしは酒場で1人の男と出会いました。全くの偶然です。
30代に差し掛かったくらいの痩せ気味の青年で、男としては少し長めの髪と、窪みに黒水晶をはめ込んだような瞳が印象的でした。身なりからして、普通の仕事をしている人ではないな、と思いました。
それというのも、着ている服が場に不釣合いなほど上等なものだったからです。

下層の労働者が集まるような酒場で、彼は明らかに異質でした。
黒い外套の中は、やはり黒い服で、長靴も黒なら、机に置かれた帽子も真っ黒。席の横の大きな箱の色も黒。
全て汚れひとつ無い、綺麗なものでした。

彼は独りで静かに酒を飲んでいましたが、やはり目立つのでしょう。すぐに近くの男たちに絡まれました。
「おい、そこのヒョロいの。」
「どこのオボッチャンだ?」
「こっち向けよ。」
その3人は、わたくしの知っている人物でした。そう親しくはありませんが、近くの石切り場で一緒に働いている仲間です。
彼は振り向きもせずに黙って酒を飲み続けていました。
すると3人のうち1人が、いきなり彼を殴りつけました。彼は左へ吹っ飛んで、黒い箱ごと床に転がりました。
「スカしてんじゃねーよクソが。」
「ハハハざまーねえぜ。」
「ぎゃっはははは。」
騒ぎに気が付いた他の客たちも、3人を応援していました。彼が蹴られ、唾を吐きかけられるのを、馬鹿みたいに笑いながら見ていました。店の人も止めようとしません。
流石に見ていられなくなって、わたくしは席から立ち上がりました。
「おい、やめろ。それ以上やると俺が相手になるぞ。」
その頃わたくしは自分のことを“俺”と呼んでいました。言葉遣いも今より荒っぽく、相応に兇暴でした。
「うあ、アモン・・・!」
「お、お前のツレだった、の、か?」
「す、すまねえ。へ、へへへ・・・」
3人は慌てて席を立ち去り、他の客たちも一緒に知らんぷりを決め込みました。それだけ当時のわたくしは皆から恐れられていたのです。



つづく

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