決闘祭! Act 8 太陽
◆ ◆ ◆
大河は無言で降りてきて、椅子に座って顔を伏せた。
その様子に、誰も何も言えない。
天神は浮世離れしているが、むしろ空気は読むタイプだし、安藤も呉星も敗北の悔しさは、とくと知っている。
何も言わず、おろおろした様子も見せず、味方の負けを負けとして厳粛に受け止めていた。
ただひとり、波佐間だけが、誰に言うとでもなく呟いた。
「あのとき・・・・・朝比奈さんも、こんな気分だったのでしょうか・・・・・・。」
2年前のことを思い出しながら、波佐間は試合場へ歩き出した。
敗北すれば、チーム全体の負けが決定する戦い。
ある意味それは、最も重い。
◆ ◆ ◆
《さぁー! エキシビションマッチも4戦目! チーム北斗七星は後が無い! そんな状況で迎えるのは、ノスフェラトゥこと波佐間京介! 彼に血を吸われたーい! そんな女性を大募集!》
「・・・・してませんけどね・・・・・・フフ・・・・・・」
《一説ではロリコンとの噂もある彼、合法ロリこと稲守蛍との関係はどうなっているのか!?》
「フフ・・・・・ノーコメントです・・・・・・。」
《ミステリアース! ファンタスティック! 対するは因縁の相手、2年前の全世界能力デュエリスト大会で準優勝の経験もある、我らがタイヨウ、まぶしーぃいイケメン、サン・レイティア! この人の妹になりたーい! そんな女性を》
「僕の妹はミリィだけです!」
タイヨウがマイクを引っ手繰って叫んだ。
《流石は素敵なお兄ちゃんだ! それではデュエル開始ぃいいい!!》
「「デュエル!」」
「フフ・・・・ボクの先攻ですね・・・・・ドロー・・・・・。」
波佐間はカードを1枚ずつ、つまみあげて眺める。
その様子は、まるで初心者がカード効果を確認しながらプレイしているようで、とても強いデュエリストには見えない。
たっぷり2分ほどは時間をかけただろうか。
ようやく波佐間は手札から1枚を選び出し、フィールドにセットした。
モンスターを1体セット、リバースカード2枚。
長考したにしては平凡な手を打ってきたので、観客たちの間からは困惑や疑問の声が出ている。
だが、次の瞬間にも、それは覆る。
「続けて・・・・魔法カード、《終焉のカウントダウン》を、発動します・・・・・・。ターンエンド・・・。」
※終焉のカウントダウン:残り19
見くびられたものだ・・・と、正直、思わずにはいられなかった。
タイヨウの実力からすれば、20ターンなどは相手を葬るに十分すぎる時間である。
たとえ相手が、波佐間京介だとしても。
「僕のターン、ドロー。」
自分のターンで10ターン。それだけあれば、余裕でライフを0に出来てしまう。
もちろん波佐間も、カウントダウンを発動するからには、それなりの自信があるのだろう。
しかし、レベル5同士のデュエルにおいて、「ライフを削りきれそうにないから特殊勝利を狙う」という選択は、どうにも安易に思えた。
(となると・・・)
逆に考えれば、それが安易でないとすれば?
見くびっているわけではないとすれば?
(ある・・・! この状況を要求する戦術が・・・!)
それでも、まだ自分の方が有利だと、タイヨウは考える。
有利だろうと不利だろうと、やるべきことは変わらない。
淡々と勝利への石を積んでいくだけだ。
「魔法カード《魔の試着部屋》を発動する。」
「僕がめくったカードは、4枚とも条件を満たしている! 《Galaxy Serpent》特殊召喚!」
「《もけもけ》を特殊召喚!」
「《神聖なる球体》特殊召喚!」
「《ジェリービーンズマン》を特殊召喚!」
次々と出現するモンスターたち。
ゲーム的には同時処理だが、ソリッドビジョンは演出を読める技術だ。
1枚のカードと800ライフの消費で、フィールドに4体のモンスターを並べた。
この光景に、観客たちは驚愕し声援を送る。
だが、その本当の意味にまで気付いている者は少ない。
「フフ・・・・・リバースカード、オープンです・・・・・。」
ぎぃいいんと不快な音がして、《Galaxy Serpent》が不安な様子で身をよじる。
だが、当のタイヨウは全く動揺せずに、すぐさま手札から2枚目のカードを取り出した。
タイヨウのデッキは、至ってシンプルな構成になっている。
要となる戦術は、大きく分けて2つしかない。
そのうちの1つが、出来るだけ早くシンクロモンスターを呼び出すこと。
彼ほどのデュエリストにとって、それは速攻性だけを意味しない。
彼のデッキは、シンクロ召喚の妨害を許しはしない。
「日輪を統べる光の王よ。黄金の輝きを纏いて今、姿を現せ! シンクロ召喚! 降臨せよ、《ソルロード・ドラゴン》!」
出現してしまった。
タイヨウの切り札、《ソルロード・ドラゴン》が。
これだけでタイヨウの戦術は、50パーセントの完成を見る。
◆ ◆ ◆
「くはは・・・勝ったな、タイヨウ!」
自分の席で、少年は笑みを浮かべる。
いつかは攻略してやろうという敵愾心と、チームの勝利の喜びを、足して2で割った声色だ。
たかが攻撃力2400のモンスターを出した程度で勝利を確信するのは、早計どころの話ではない。
しかしそれは、タイヨウのレベル5能力を前提にすれば、妥当な物言いとなってくる。
少なくとも、そのセリフが恥ずかしくない程度には。
- - - - - -
対するチーム北斗七星の陣営は、重苦しい雰囲気で包まれていた。
「くひっ、こうも少ない手数でシンクロ召喚してくるたぁ・・・。また腕を磨いたか。」
「これでは20ターンなんて全然・・・! は、波佐間さんは何を考えて?」
天神は相変わらず笑顔だが、喋ろうとしない。
大河の方は、険しい顔で試合場を見つめていた。
◆ ◆ ◆
「巨大質量の恒星は、その生涯の終焉に重力で自らを極限まで押し潰し、曲率無限大の特異点を形成する・・・」
タイヨウは二つ名に相応しい講釈を垂れながら、手札から1枚の魔法カードを発動した。
―――《ブラックホール》!
※終焉のカウントダウン:残り19
互いのフィールドからモンスターが消えた。
このプレイングに、観客の殆どは疑問を感じてやまない。
せっかくシンクロ召喚したモンスターを自ら破壊するとは、自滅としか思えない。
墓地肥やしを狙っているのかと予測を立てる者もいた。
だが、タイヨウの極めて特異なレベル5は、シンクロ召喚を新たな次元へ引き上げる。
ひとたびシンクロモンスターが出現すれば、そして、それが《ソルロード・ドラゴン》であれば猶更、サン・レイティアというデュエリストは攻守両面が充実する。
「・・・戻れ、《ソルロード・ドラゴン》。」
“不死太陽”(デルタサンライズ) レベル5能力(所有者:サン・レイティア)
自分フィールド上のシンクロモンスターが自分の場を離れたとき、
そのモンスターを、場を離れる前と同じ表示形式で自分の場に戻す。
その際、元々の攻撃力・守備力は、
場を離れる前の元々の攻撃力・守備力に500ポイントを加えた値になる。
効果であろうが、コストであろうが、行き先がどこであろうが、強制的にフィールドへ舞い戻る不死効果。
その効果を発動するたびに“元々の攻守が”パワーアップする強化効果。
戦闘で打ち勝つのは至難の業であり、かつて波佐間も、成す術を見出せず敗北したのだ。
加えて、《ソルロード・ドラゴン》は、効果ダメージをシャットアウトする効果と、貫通効果を有している。
《ソルロード・ドラゴン》がフィールドを離れた隙に効果ダメージを与えようとしても、デュエリスト能力の方が早い。
単純にして凶悪。鈍足だが重厚。ゆっくりと敵を圧殺する、巨大な歯車。
そして。
「また少し、魂の変質があってね。結局この形で落ち着いたよ。」
“灼熱太陽”(プロミネンス・ウイング) レベル5+能力(所有者:サン・レイティア)
自分フィールド上のシンクロモンスターが自分の場を離れたとき、
そのモンスターを、場を離れる前と同じ表示形式で自分の場に戻す。
その際、元々の攻撃力・守備力は、
場を離れる前の元々の攻撃力・守備力に500ポイントを加えた値になる。
このとき、自分フィールドに他のモンスターがいなければ、
元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
「悪いけれど、カウントダウンは間に合わないよ。シャイニング・フォース!」
《ソルロード・ドラゴン》が、黄金のブレスを放出する。
それは真っ向から波佐間へと直撃する!
「フフ・・・・。」
ライフが残り200になったところで、波佐間京介にとっては、どうということはない。
だが、問題は、変質したレベル5能力。
デュエリスト能力によるダメージは、カード効果の干渉を受けない。《リフレクト・ネイチャー》などで跳ね返せないばかりか、《ハネワタ》で打ち消すことすら出来ない。
解説者が観客に説明する傍ら、タイヨウは更なる攻撃の準備を整えていた。
タイヨウの戦術が加われば、彼の能力は鈍足ですらない。
「バトルフェイズ中に速攻魔法発動、《神秘の中華なべ》!」
じゃぁーんと軽快な音が鳴り響き、《ソルロード・ドラゴン》が炒められる。
その攻撃力分、2900のライフをタイヨウは回復する。
そして《ソルロード・ドラゴン》は、輝かしい光と共に復活する。
赤銅色のブレスが波佐間に放たれる!
「フフ・・・・・デュエリスト能力、発動・・・・。任意のタイミングで、自分または相手のライフポイントを、8000ポイントにします・・・・・。」
2年前に能力の全ては語っている。今更、偽装することはない。
タイヨウの能力もメチャクチャだが、波佐間のインパクトも負けてはいない。
観客たちは、唖然とする者、仰天する者、様々に反応を示している。
「シャイニング・フォース!」
「カードを1枚伏せて、これで僕はターン終了だ。」
※終焉のカウントダウン:残り18
「フフ・・・・・それでは、エンドフェイズに・・・・・《ウィジャ盤》を、発動です・・・・・・・。」
波佐間のフィールドに伏せられていた、もう1枚のカードが開かれる。
エンドフェイズごとに死のメッセージを揃え、「DEATH」の5文字が揃えば問答無用で勝利する。
速さだけなら《終焉のカウントダウン》よりも倍以上だ。
(やはり、2パターン以上か・・・。)
《終焉のカウントダウン》を要求する、“別の戦術”。裏芸。
波佐間の性質を考えれば、《終焉のカウントダウン》のライフコストなど、あって無きが如し。
そして《ウィジャ盤》を守る為の《神の宣告》なども、気安く撃てる。
カウント20までに倒そうと、ビートダウンに集中すれば、《ウィジャ盤》が揃ってしまう。
《ウィジャ盤》の除去に手を回せば、終焉のカウントが近くなる。なるほど、理に適っている。
―――だが、それでも安易の範疇だ。
タイヨウのレベル5能力は、決して無敵ではない。
シンクロモンスターを必要とする稀有な能力ゆえに、フェイシンの“モリンフェン”よりも扱いにくい。
極論すれば、シンクロモンスターが存在しなかった頃の環境なら、レベル0相当である。
それでもタイヨウは、リンネに負けるまで無敗だった。
世界大会に出てきたデュエリストの中には、特殊勝利を補助するような者もいた。デッキ破壊能力者もいた。
タイヨウは、そういったデュエリストたちにも勝利してきた。
伊達に世界最強のレベル5と言われていたわけではない。
高いレベルの能力者は、プレイングのレベルも高い。その常識に当てはまるのがタイヨウだ。
能力の鈍重さをカバーし、対抗策を封殺し、危なげなく勝利する。常勝無敗の光球現象。
地下都市やダンジョンでの戦績が今ひとつなのも、そうしたプレイング面を抑え込まれていたことが大きい。
闇の力で精神力を弱められていては、たとえデッキ構築力は衰えていなくても、引き運が鈍る。
まして相手の引き運を制限するようなオーラを出すことなど出来はしない。
それらの枷を外されたタイヨウは、生の姿の恒星だ。
彼を相手にしたプレイヤーは、磁気結界を外した地球のように、灼熱の猛威を味わうことだろう。
※終焉のカウントダウン:残り18
このデュエルで、死のメッセージが揃うことはない。
つづく
大河は無言で降りてきて、椅子に座って顔を伏せた。
その様子に、誰も何も言えない。
天神は浮世離れしているが、むしろ空気は読むタイプだし、安藤も呉星も敗北の悔しさは、とくと知っている。
何も言わず、おろおろした様子も見せず、味方の負けを負けとして厳粛に受け止めていた。
ただひとり、波佐間だけが、誰に言うとでもなく呟いた。
「あのとき・・・・・朝比奈さんも、こんな気分だったのでしょうか・・・・・・。」
2年前のことを思い出しながら、波佐間は試合場へ歩き出した。
敗北すれば、チーム全体の負けが決定する戦い。
ある意味それは、最も重い。
◆ ◆ ◆
チーム・北斗七星VSチーム・インターナショナル <副将戦> “不死者”(ノスフェラトゥ) “タイヨウの騎士” 波佐間京介 VS サン・レイティア |
《さぁー! エキシビションマッチも4戦目! チーム北斗七星は後が無い! そんな状況で迎えるのは、ノスフェラトゥこと波佐間京介! 彼に血を吸われたーい! そんな女性を大募集!》
「・・・・してませんけどね・・・・・・フフ・・・・・・」
《一説ではロリコンとの噂もある彼、合法ロリこと稲守蛍との関係はどうなっているのか!?》
「フフ・・・・・ノーコメントです・・・・・・。」
《ミステリアース! ファンタスティック! 対するは因縁の相手、2年前の全世界能力デュエリスト大会で準優勝の経験もある、我らがタイヨウ、まぶしーぃいイケメン、サン・レイティア! この人の妹になりたーい! そんな女性を》
「僕の妹はミリィだけです!」
タイヨウがマイクを引っ手繰って叫んだ。
《流石は素敵なお兄ちゃんだ! それではデュエル開始ぃいいい!!》
「「デュエル!」」
| 波佐間京介:LP8000 サン・レイティア:LP8000 |
「フフ・・・・ボクの先攻ですね・・・・・ドロー・・・・・。」
波佐間はカードを1枚ずつ、つまみあげて眺める。
その様子は、まるで初心者がカード効果を確認しながらプレイしているようで、とても強いデュエリストには見えない。
たっぷり2分ほどは時間をかけただろうか。
ようやく波佐間は手札から1枚を選び出し、フィールドにセットした。
モンスターを1体セット、リバースカード2枚。
長考したにしては平凡な手を打ってきたので、観客たちの間からは困惑や疑問の声が出ている。
だが、次の瞬間にも、それは覆る。
「続けて・・・・魔法カード、《終焉のカウントダウン》を、発動します・・・・・・。ターンエンド・・・。」
| 終焉のカウントダウン (魔法カード) 2000ライフポイント払う。 発動ターンより20ターン後、自分はデュエルに勝利する。 |
| 波佐間京介:LP6000、手札2 場:伏せ×1 場:伏せ×2 サン・レイティア:LP8000、手札5 場: 場: |
※終焉のカウントダウン:残り19
見くびられたものだ・・・と、正直、思わずにはいられなかった。
タイヨウの実力からすれば、20ターンなどは相手を葬るに十分すぎる時間である。
たとえ相手が、波佐間京介だとしても。
「僕のターン、ドロー。」
自分のターンで10ターン。それだけあれば、余裕でライフを0に出来てしまう。
もちろん波佐間も、カウントダウンを発動するからには、それなりの自信があるのだろう。
しかし、レベル5同士のデュエルにおいて、「ライフを削りきれそうにないから特殊勝利を狙う」という選択は、どうにも安易に思えた。
(となると・・・)
逆に考えれば、それが安易でないとすれば?
見くびっているわけではないとすれば?
(ある・・・! この状況を要求する戦術が・・・!)
それでも、まだ自分の方が有利だと、タイヨウは考える。
有利だろうと不利だろうと、やるべきことは変わらない。
淡々と勝利への石を積んでいくだけだ。
「魔法カード《魔の試着部屋》を発動する。」
| 魔の試着部屋 (魔法カード) 800ライフポイントを払う。 自分のデッキの上からカードを4枚めくり、その中の レベル3以下の通常モンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。 それ以外のカードはデッキに戻してシャッフルする。 |
「僕がめくったカードは、4枚とも条件を満たしている! 《Galaxy Serpent》特殊召喚!」
| Galaxy Serpent レベル2 光属性・ドラゴン族・チューナー 攻撃力1000 守備力0 |
「《もけもけ》を特殊召喚!」
| もけもけ レベル1 光属性・天使族 攻撃力300 守備力100 何を考えているのかさっぱりわからない天使のはみだし者。 たまに怒ると怖い。 |
「《神聖なる球体》特殊召喚!」
| 神聖なる球体 レベル2 光属性・天使族 攻撃力500 守備力500 聖なる輝きに包まれた天使の魂。 その美しい姿を見た者は、願い事がかなうと言われている。 |
「《ジェリービーンズマン》を特殊召喚!」
| ジェリービーンズマン レベル3 地属性・植物族 攻撃力1750 守備力0 ジェリーという名の豆戦士。 自分が世界最強の戦士だと信じ込んでいるが、 その実力は定かではない。 |
次々と出現するモンスターたち。
ゲーム的には同時処理だが、ソリッドビジョンは演出を読める技術だ。
1枚のカードと800ライフの消費で、フィールドに4体のモンスターを並べた。
この光景に、観客たちは驚愕し声援を送る。
だが、その本当の意味にまで気付いている者は少ない。
「フフ・・・・・リバースカード、オープンです・・・・・。」
| 不協和音 (永続罠) このカードがフィールド上に存在する限り、お互いのプレイヤーはシンクロ召喚できない。 発動後3回目の自分のエンドフェイズ時にこのカードを墓地へ送る。 |
ぎぃいいんと不快な音がして、《Galaxy Serpent》が不安な様子で身をよじる。
だが、当のタイヨウは全く動揺せずに、すぐさま手札から2枚目のカードを取り出した。
| トラップ・イーター レベル4 闇属性・悪魔族 攻撃力1900 守備力1600 このカードは通常召喚できない。 相手フィールド上に表側表示で存在する罠カード1枚を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。 |
| 《不協和音》 (墓地) |
タイヨウのデッキは、至ってシンプルな構成になっている。
要となる戦術は、大きく分けて2つしかない。
そのうちの1つが、出来るだけ早くシンクロモンスターを呼び出すこと。
彼ほどのデュエリストにとって、それは速攻性だけを意味しない。
彼のデッキは、シンクロ召喚の妨害を許しはしない。
「日輪を統べる光の王よ。黄金の輝きを纏いて今、姿を現せ! シンクロ召喚! 降臨せよ、《ソルロード・ドラゴン》!」
| ソルロード・ドラゴン レベル8 光属性・ドラゴン族・シンクロ 攻撃力2400 守備力2100 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上 このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、 コントローラーへのカードの効果によるダメージを0にする。 このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。 |
出現してしまった。
タイヨウの切り札、《ソルロード・ドラゴン》が。
これだけでタイヨウの戦術は、50パーセントの完成を見る。
◆ ◆ ◆
「くはは・・・勝ったな、タイヨウ!」
自分の席で、少年は笑みを浮かべる。
いつかは攻略してやろうという敵愾心と、チームの勝利の喜びを、足して2で割った声色だ。
たかが攻撃力2400のモンスターを出した程度で勝利を確信するのは、早計どころの話ではない。
しかしそれは、タイヨウのレベル5能力を前提にすれば、妥当な物言いとなってくる。
少なくとも、そのセリフが恥ずかしくない程度には。
- - - - - -
対するチーム北斗七星の陣営は、重苦しい雰囲気で包まれていた。
「くひっ、こうも少ない手数でシンクロ召喚してくるたぁ・・・。また腕を磨いたか。」
「これでは20ターンなんて全然・・・! は、波佐間さんは何を考えて?」
天神は相変わらず笑顔だが、喋ろうとしない。
大河の方は、険しい顔で試合場を見つめていた。
◆ ◆ ◆
「巨大質量の恒星は、その生涯の終焉に重力で自らを極限まで押し潰し、曲率無限大の特異点を形成する・・・」
タイヨウは二つ名に相応しい講釈を垂れながら、手札から1枚の魔法カードを発動した。
―――《ブラックホール》!
| 《馬頭鬼》 (破壊) 《トラップ・イーター》 (破壊) 《ソルロード・ドラゴン》 (破壊) |
| 波佐間京介:LP6000、手札2 場: 場:伏せ×1 サン・レイティア:LP7200、手札3 場: 場: |
※終焉のカウントダウン:残り19
互いのフィールドからモンスターが消えた。
このプレイングに、観客の殆どは疑問を感じてやまない。
せっかくシンクロ召喚したモンスターを自ら破壊するとは、自滅としか思えない。
墓地肥やしを狙っているのかと予測を立てる者もいた。
だが、タイヨウの極めて特異なレベル5は、シンクロ召喚を新たな次元へ引き上げる。
ひとたびシンクロモンスターが出現すれば、そして、それが《ソルロード・ドラゴン》であれば猶更、サン・レイティアというデュエリストは攻守両面が充実する。
「・・・戻れ、《ソルロード・ドラゴン》。」
| 《ソルロード・ドラゴン》 (攻2400・守2100→攻2900・守2600) |
“不死太陽”(デルタサンライズ) レベル5能力(所有者:サン・レイティア)
自分フィールド上のシンクロモンスターが自分の場を離れたとき、
そのモンスターを、場を離れる前と同じ表示形式で自分の場に戻す。
その際、元々の攻撃力・守備力は、
場を離れる前の元々の攻撃力・守備力に500ポイントを加えた値になる。
効果であろうが、コストであろうが、行き先がどこであろうが、強制的にフィールドへ舞い戻る不死効果。
その効果を発動するたびに“元々の攻守が”パワーアップする強化効果。
戦闘で打ち勝つのは至難の業であり、かつて波佐間も、成す術を見出せず敗北したのだ。
加えて、《ソルロード・ドラゴン》は、効果ダメージをシャットアウトする効果と、貫通効果を有している。
《ソルロード・ドラゴン》がフィールドを離れた隙に効果ダメージを与えようとしても、デュエリスト能力の方が早い。
単純にして凶悪。鈍足だが重厚。ゆっくりと敵を圧殺する、巨大な歯車。
そして。
| 波佐間京介:LP6000→3100 |
「また少し、魂の変質があってね。結局この形で落ち着いたよ。」
“灼熱太陽”(プロミネンス・ウイング) レベル5+能力(所有者:サン・レイティア)
自分フィールド上のシンクロモンスターが自分の場を離れたとき、
そのモンスターを、場を離れる前と同じ表示形式で自分の場に戻す。
その際、元々の攻撃力・守備力は、
場を離れる前の元々の攻撃力・守備力に500ポイントを加えた値になる。
このとき、自分フィールドに他のモンスターがいなければ、
元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
「悪いけれど、カウントダウンは間に合わないよ。シャイニング・フォース!」
《ソルロード・ドラゴン》が、黄金のブレスを放出する。
それは真っ向から波佐間へと直撃する!
| 波佐間京介:LP3100→200 |
「フフ・・・・。」
ライフが残り200になったところで、波佐間京介にとっては、どうということはない。
だが、問題は、変質したレベル5能力。
デュエリスト能力によるダメージは、カード効果の干渉を受けない。《リフレクト・ネイチャー》などで跳ね返せないばかりか、《ハネワタ》で打ち消すことすら出来ない。
解説者が観客に説明する傍ら、タイヨウは更なる攻撃の準備を整えていた。
タイヨウの戦術が加われば、彼の能力は鈍足ですらない。
「バトルフェイズ中に速攻魔法発動、《神秘の中華なべ》!」
じゃぁーんと軽快な音が鳴り響き、《ソルロード・ドラゴン》が炒められる。
その攻撃力分、2900のライフをタイヨウは回復する。
| サン・レイティア:LP7200→10100 |
そして《ソルロード・ドラゴン》は、輝かしい光と共に復活する。
| 《ソルロード・ドラゴン》 (攻2900・守2600→攻3400・守3100) |
赤銅色のブレスが波佐間に放たれる!
| 波佐間京介:LP8000→4600 |
「フフ・・・・・デュエリスト能力、発動・・・・。任意のタイミングで、自分または相手のライフポイントを、8000ポイントにします・・・・・。」
2年前に能力の全ては語っている。今更、偽装することはない。
| 波佐間京介:LP4600→8000 |
タイヨウの能力もメチャクチャだが、波佐間のインパクトも負けてはいない。
観客たちは、唖然とする者、仰天する者、様々に反応を示している。
「シャイニング・フォース!」
| 波佐間京介:LP8000→4600→8000 |
「カードを1枚伏せて、これで僕はターン終了だ。」
| 波佐間京介:LP8000、手札2 場: 場:伏せ×1 サン・レイティア:LP10100、手札1 場:ソルロード・ドラゴン(攻3400) 場:伏せ×1 |
※終焉のカウントダウン:残り18
「フフ・・・・・それでは、エンドフェイズに・・・・・《ウィジャ盤》を、発動です・・・・・・・。」
波佐間のフィールドに伏せられていた、もう1枚のカードが開かれる。
エンドフェイズごとに死のメッセージを揃え、「DEATH」の5文字が揃えば問答無用で勝利する。
速さだけなら《終焉のカウントダウン》よりも倍以上だ。
(やはり、2パターン以上か・・・。)
《終焉のカウントダウン》を要求する、“別の戦術”。裏芸。
波佐間の性質を考えれば、《終焉のカウントダウン》のライフコストなど、あって無きが如し。
そして《ウィジャ盤》を守る為の《神の宣告》なども、気安く撃てる。
カウント20までに倒そうと、ビートダウンに集中すれば、《ウィジャ盤》が揃ってしまう。
《ウィジャ盤》の除去に手を回せば、終焉のカウントが近くなる。なるほど、理に適っている。
―――だが、それでも安易の範疇だ。
タイヨウのレベル5能力は、決して無敵ではない。
シンクロモンスターを必要とする稀有な能力ゆえに、フェイシンの“モリンフェン”よりも扱いにくい。
極論すれば、シンクロモンスターが存在しなかった頃の環境なら、レベル0相当である。
それでもタイヨウは、リンネに負けるまで無敗だった。
世界大会に出てきたデュエリストの中には、特殊勝利を補助するような者もいた。デッキ破壊能力者もいた。
タイヨウは、そういったデュエリストたちにも勝利してきた。
伊達に世界最強のレベル5と言われていたわけではない。
高いレベルの能力者は、プレイングのレベルも高い。その常識に当てはまるのがタイヨウだ。
能力の鈍重さをカバーし、対抗策を封殺し、危なげなく勝利する。常勝無敗の光球現象。
地下都市やダンジョンでの戦績が今ひとつなのも、そうしたプレイング面を抑え込まれていたことが大きい。
闇の力で精神力を弱められていては、たとえデッキ構築力は衰えていなくても、引き運が鈍る。
まして相手の引き運を制限するようなオーラを出すことなど出来はしない。
それらの枷を外されたタイヨウは、生の姿の恒星だ。
彼を相手にしたプレイヤーは、磁気結界を外した地球のように、灼熱の猛威を味わうことだろう。
| 波佐間京介:LP8000、手札2 場: 場:ウィジャ盤(永続罠)、死のメッセージ「E」(永続魔法) サン・レイティア:LP10100、手札1 場:ソルロード・ドラゴン(攻3400) 場:伏せ×1 |
※終焉のカウントダウン:残り18
このデュエルで、死のメッセージが揃うことはない。
つづく

この記事へのコメント
早速タイヨウさんのエースモンスターのご登場。遊星さんで言えばスターダストが出た感じ。これはヤバイ。
ふむ…デュエリスト能力はそういう形に落ち着いたんですね。地下でのアレは酷かったからなあ…。
これがタイヨウさんの本来の力、というか本来の戦い方。人間、自分のプレイがしやすい場所としにくい場所がありますよね。日の当たる試合会場で力を発揮出来る者もいれば、地下の特設デュエルリングでしか力を発揮出来ない者もいる。
さて、波佐間さんの狙いは一体…?カウントダウンもウィジャ盤もフェイクだとすると…。
1勝2敗で迎える4戦目。燃えるシチュエーションですよね!
かつて2年前の世界大会で敗北した相手でもあり、個人的にも負けたくない場面、相性の不利を覆せるでしょうか?
地下都市のアレは正直やりすぎた。反省はしていない。
むしろ火力的には強化されているので、波佐間さんでなければ瞬殺されています。
マサキがフィールドを一掃してくるので、地下都市ではBFを使いましたが、今回は本来のエースを出して、絶好調のサン・レイティア。タイヨウの騎士だけに、日の当たる場所の方が強いみたいです。
世界大会でも、カウントダウンやウィジャ盤を用いてきた相手を退けてきたと思われるタイヨウ相手に、搦め手は通用しないのか。ならば正攻法で打ち破るしかない?
決闘学園における正攻法といえば、相手の力を利用することですが・・・。