決闘祭! Act 46 煉獄
◆ ◆ ◆
リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフの話をしよう。
死体愛好者に冷凍庫へ放り込まれた彼女は、精霊と契約して命を取り留めた。
警察の手が回ったときに助け出され、紆余曲折を経てロシア政府に引き取られた。
ウラジーミル・イリイチのペンネームと、統一戦線の提唱者ゲオルギの苗字を借りて。
ただのリュドミラは、ヴェイ・ディミトロフの名を得た。
ソビエト崩壊後も、ロシアは原則として社会主義国を標榜している。
それに如何程の真実味があるかは置いておくが、資本主義国家と対立しているのは間違いない。
思想的な方面で、どれほどの差異があるかはともかく、少なくとも経済的な面で対立がある。
それは感情的な、陳腐な“男らしさ”への拘りが、互いに大きな割合を占めているのかもしれないが。
アルベルト・アインシュタインが質量エネルギー変換公式を発見して以来。
それまでの兵器と一線を画す、核兵器が登場し、やがて社会は軍拡と冷戦へ突入した。
しかし今や、核実験は地球を汚し過ぎて、核兵器は世界を百度焼き尽くせるまでに増えた。
平和主義者でなくとも危機を覚える状況に、軍事論者たちは新たな兵器を模索した。
強いデュエリストは国家にとって、アイドルであり、経済効果であり、戦略兵器である。
ペガサス・J・クロフォードの出身国であるアメリカでは、アイドル的な意味合いが強く。
海馬コーポレーションの席巻する日本では、大きな経済効果を挙げている。
そしてEUとロシアでは、最後の1つ。戦略兵器としての意味合いが大きい。
リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフは、帝国主義ファシズムへの対抗という名分で、ロシアの傀儡となった。
とはいえ彼女にとっては、貧困からの脱却であり、冷たい場所から救ってくれた恩人への献身だった。
望めば多くのものが、例えば日本のマンガやアニメ、ドラマ遊戯王などが好きなだけ手に入った。
傀儡として、指示に従って揉め事を解決するのは、それなりに充実した日々だった。
自分の意思を他人に委ねるというのは、彼女にとっては不愉快ではなかった。
子供の頃と違って、叱られることもない。みんなが褒めてくれる。寒くもない。足が棒になるまで歩かなくていい。
下手に自分の意志を尊重しようとしている人々は、逆に不自由に思えた。
「個性を尊重しよう」という名目で、個性を出すことを強いられ、苦しんでいるように思えてなかなかった。
少なくとも自分よりは、不自由で可哀想な人々だと思った・・・しかし同時に、どうでもいいことだった。
ただ、自分が“自由”だとは思っていなかった。
◆ ◆ ◆
アルファベットの並ぶボードを、細い指が弾いている。
冥界の恐怖“ネクロフィア”は、次なる獲物を待っている。
会場は赤い闇に包まれ、目玉や口が浮かんでいる。
ソリッドビジョンの演出とはいえ、身の毛もよだつ光景だ。
(さぁて、正念場だ・・・!)
胃液が逆流しそうな緊張感で、大河はDホイールに乗った。
排気音が耳に響き、景色が後ろへ流れ始めた。
ゆらりと死神が、赤子を抱いて飛んでくる。
《ウィジャ盤》の特殊勝利条件は、ライフに関係なくプレイヤーを抹殺する!
大河は手札から、5枚を掲げた。
「パーフェクトバリアを失った今、次の手は―――こいつだっ!!」
出現する五芒星、そこから右腕、左腕、右足、左足。
そして―――王宮の魔神は頭部を現し、ネクロフィアを抑えつけた。
特殊勝利に対して特殊勝利。
開始時点で特殊勝利条件が満たされているなら、それに対抗する手段は同じく、初手による特殊勝利だ。
「流石だぜリュドミラ、自分の出番が回って来る前に死のメッセージを完成させ、パーフェクトバリアまで打ち破ってくるとはな・・・想定以上だぜ。俺も役所で名前を変えていたが、不発だった。」
「大河さん―――」
このときリュドミラは、少しだけ大河に失望した。
「また、ワタシの勝ちですね。」
「・・・っ」
大河の目には、ネクロフィアが“2体”映っていた。
墓地に存在する死のメッセージは、二組。
通常のデュエルでは決して実現しない、リュドミラの能力あってこその、倍の特殊勝利。
がっぷり四つに組み合ったエクゾディアの横を通り、ネクロフィアは大河へ狙いを定めた。
◆ ◆ ◆
迫害された者が、自らの権利を主張し続けるのは難しい。
たとえ非が無くても、周囲との軋轢の中で、自分は悪くないと言い続けるのは、果てしなく困難な道のりだ。
加害者を悪し様に罵る姿勢に対して、周囲は、やんわりと、しかし決して寄り添おうとせずに異を唱え続ける。
そうした地獄の中にあって、被害者の落ち度を主張する側に転落する被害者も、少なくない。
認知的不協和というものは、その概念を意識していたとしても、耐え難い苦痛を幾許も和らげることはない。
ただのリュドミラは、ヴェイ・ディミトロフの名を得た。彼女は社会主義者であり、ファシズムを敵視する者だった。
ファシズムとは帝国主義国家の専売特許ではない。リュドミラは、その本質は認知的不協和にあると考えた。
人類が元から持っている、生物としての悪しき性質、祖先から受け継げがれた負の因子。摂理に属するもの。
すなわち民主主義は言うに及ばず、社会主義、共産主義も、極論すればファシズムの変形でしかない。
そのことを意識しなければ、容易にファシズムに呑みこまれるし、意識していたとしても染まらないのは難しい。
いかなる主義にも属しないという態度も、やはり独り善がりなファシズムでしかなく、ナルシストの怠惰である。
ヴェ・イ・レーニンは、抑圧された少数民族の訴えは、多少過剰であっても認めるべきだと主張した。
リュドミラ・ヴェイもまた、ロシアにおける民族問題に携わり、デュエルを用いて民族の権利を認めさせてきた。
しかしながら彼女は、抑圧された人々の表情が苦痛に満ちたままなことを憂いでいた。
きっと迫害を受けるということは、自分の想像を絶する苦痛なのだろうと、“呑気な”感想を抱いていた。
そう、呑気でしかいられない。被抑圧者と同じ気持ちになることは、自分には一生できないだろう。
反ファッショ統一戦線は、しかし統一戦線の内部において、毛色の違う意見を封殺しかねない。
事実として、統一戦線そのものさえ、ほぼ瓦解した状況が何十年も続いていたのだから。
少数民族の中で、更なる少数者が存在するように。被差別者の中で意見の対立があるように。
ファシズムが認知的不協和という“摂理”である以上、いかなる集まりであろうと逃れられない。
ただひとつの、例外を除いて―――それこそリュドミラが憧れた、“ゆるい日常”だった。
リュドミラはアイドルとして人気を博す一方で、偶像を崇拝するファンたちに失望を禁じ得なかった。
影響力の大きな立場として、やんわりと少数者の“正しさ”を広めてきたが、“正しく”伝わったとは言い難い。
“空気を操作する能力”は多かれ少なかれ誰でも持っており、1000の力は1の力を持つ1万人に劣る。
どれほど力を尽くしても、ひとりは無力で、多数者は無神経で、合わせる力も無し。
所詮、自分は国家の傀儡でしかない。それは政府の操り人形ではなく、民衆に媚びる者として。
軍隊で中佐相当の地位を持ち、政治の中枢に口出し出来るようになっても、“多数派”という無形の有象無象の前では無力な“独り”の人間でしかなく、それは他の多くの政治家も抱いている感想らしい。
ひとりひとりの人間は、しっかりと自分の意思を持っていると思い込んでいるようだが、集団の中では必ず幾つかのタイプに分類される。個性などというものは存在しない。それは自分も例外ではなく。
来る日も来る日も類型的な肉の塊が蠢いているのを相手にしながら、リュドミラは疲れ果てていた。
外国なら違うかもしれないと期待したが、結局どこの国も同じようなものだった。肉の塊、肉、肉、国。
ヨーロッパで“魔王”と呼ばれるエニグマと、“神女”と呼ばれるエウレカも、ただ鏡を見ているようだった。
ただのリュドミラに戻りたいと、ふと思った。
◆ ◆ ◆
「リュドミラ、お前は大した奴だ。」
俯いた大河のバリトンが、震えながら響き渡る。
「こっちが用意してきた戦術を、ことごとく凌駕してきた。もしかしたら波佐間が勝って、俺のリベンジの機会は無くなっちまうかと、ちょびっとだけ考えたが、まったく失礼な話だったぜ。」
敗北の悔しさを紛らわせる為の、負け惜しみにも似た称賛。
それはリュドミラが今まで、何度も何度も聞いてきた光景だった。
(ああ、そうか。結局この男も、有象無象の肉塊、ワタシと同じ肉―――)
「お前ホント凄えよ。ここまでやらなきゃ、勝てなかった。」
2体のネクロフィアが、炎に焼き尽くされて消滅した。
「―――っ」
気付いたリュドミラは、青白い顔を真っ赤に染めた。
大河柾のデュエリスト能力は、フィールド上の全てのカードを破壊する。
リュドミラのデュエリスト能力は、自分の墓地と除外ゾーンをフィールドと共有する。
だからこそ、フィールドに存在する扱いになる《蛇神ゲー》を破壊されたら敗北する。
ここまではリュドミラが、エキシビションのときから気を付けていたことだ。
大河のデュエリスト能力が発動すれば、能力をOFFにして《蛇神ゲー》の破壊を免れることが出来る。
「だが、あのときと今では決定的に違うことがある! リュドミラ、お前のライフが0だってことだ!」
能力をOFFにすれば、《蛇神ゲー》(3)の効果が切り離される。
それは「フィールドから離れた」わけではないので、(4)は適用されないが、ライフが0でも敗北を免れる(3)の効果が適用されてない以上、リュドミラの敗北だ。
何故こんなことに気付けなかったのだろう。こんな簡単なことに気付かないなんて、どうかしている。
しかも気付かないまま、自分の勝利を疑いもせずに、どれだけ上から目線で相手を評価していたのか。
リュドミラは羞恥心で内臓が破裂しそうだった。
「・・・この侮りは、枕を濡らしながら反省することにします。」
羞恥に塗れた顔が、再び蒼白になった。
異次元から頭だけを覗かせていた蛇神は、ずるりと這い出し、その全体像を衆目に晒した。
とてつもない大きさの、禍々しいドラゴンが、黒く美しい体躯を翻した。
リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフではない、ただのリュドミラの、真のエース。
秘密結社ドーマの最終兵器、《オレイカルコスの神リヴァイアサン》が、17年の時を経て再び姿を現した。
◆ ◆ ◆
人間ひとりひとりが、それぞれの意志を達成しようとすることは、一般的には尊いことだとされている。
欲するものを手に入れることは、それが愛情などであれば、高尚だと認められる。
地位や名誉、金銭や物品、食事や性であっても、決して卑下されるようなものではない。
しかし、それぞれの欲するものが、かち合った場合。
そしてそれが分割できない場合、敵対関係が生じ、欲するものが手に入らない者が出てくることになる。
敗北者は挫折し、挫折を繰り返すことで、それは欲するものを得られない恐怖へと変質していく。
勝利者も、他者と敵対関係に陥ったことで、奪われる恐怖、次は敗北する恐怖に苛まれることになる。
他者と手を結ぶことのない、個人としてしか存在しえない人間は、恐怖と欠乏に苛まれることは免れない。
孤独は個人を残忍な人格に変貌させ、残忍な個人同士の争いは、やがて世界を焼き尽くす。
レムリアが、アトランティスが、そして後に登場した数々の国家が、そうやって滅びていったように。
それでは他者と手を結べば問題は解決するのかというと、そう単純ではない。
他者を手を結べば、そこには集団としての善悪が発生する。
少数を多数が迫害することが、あろうことか正義として罷り通ることになる。
個人と集団、いずれの生き方を選んでも、人類は残忍な本性からは逃れられない。
オレイカルコスに潜む“闇”とは、そうした行き詰まりから発生している。
マイナス感情を集めた創造神が、オレイカルコスを娘・天神美月に託したのは自然な成り行きと言えるだろう。
そしてここにも、オレイカルコスの闇に染まった少女が独り。
リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフは、闇を束ね、マイナスの闇に抱かれ、青空を消し去った。
◆ ◆ ◆
《こっこっこ、これがどういうことでしょうかーーー!!? リュドミラさんが呼び出したのは、パラディウス社の陰謀で悪名高きリヴァイアサンだーーー!! ロシア政府に問い合わせてみましたが、回答ありません!》
「モンスターと一体化しやがった・・・! そうまでして勝ちてえか!」
『当たり前のことを言わないでください。ワタシは決闘者ですよ?』
極寒の声は、巨大なドラゴンの全身から響いてきていた。
同時に彼女は、闇を集約し、破壊光線を放たんとする。
それを聞いて大河は、嬉しそうに笑う。
「あァそうだよなァ! それがデュエリストってもんだよなァ、リュドミラっっ!」
大河のDホイールに、漆黒と真紅を織り交ぜた翼が生えた。
《大河マサキ19歳も飛んだ!! ライディングデュエルではなく、フライングデュエルになってしまったぞ!!》
「正直それこそが最も懸念していたことだった・・・! 《蛇神ゲー》が“黒薔薇煉獄”で倒せるのは見えていたが、そんとき考えたのは、まだ先があるんじゃねえかってことだ。」
ドーマ事件は後にドラマ化され、現在ではデュエリストなら誰もが視聴できるようになっている。
武藤遊戯らの証言を元に構築された映像は、《蛇神ゲー》がラスボスと見せかけて、まだ続きがあった。
「だからこそ俺は現実世界でも使用できるように、デュエリスト能力を虚数化してもらったんだよ!!」
煉獄の炎が唸りをあげる。七つの罪を束ねて、闇を束ねた破壊光線に拮抗する。
「無駄だぜリュドミラぁ!! デュエリスト能力はカード効果に優先する!! そいつが完全耐性を備えていたところで、神様の造った炎に焼かれねえなんて―――無えよ。」
暗黒の闇に包まれた空に、一筋の青白い光が差し込む。
それは大河の、新たなる光。
煉獄さえも焼き払う、月下の葬送曲。
「俺の能力は、フィールドのカード全てを破壊する! パワーアップした煉獄の花だっ!!」
この大会は、チーム3人の元々の合計レベルが8以下で、今のレベル合計も8以下であることが条件だ。
・・・そう、あくまで合計にしか触れられてない。竜堂の絶対能力で、大河の能力レベルを5+2 i に、波佐間の能力レベルを5-2 i にすれば、這原の-4と合わせて、合計6となる。
『あ・・・・・ワタシの・・・・・・・闇が・・・・・・・崩れて・・・・』
焼け崩れるドラゴンの中から、少女が形を成して空へ投げ出される。
大河は彼女を抱きかかえて、Dホイールはゆっくりと下降していった。
「・・・俺は、闇を否定して偉そうに説教垂れたくはねえ。」
フィールで服を形成しながら、大河は言う。
「だけどよ、こういう“息抜き”ならいつでも付き合ってやっから、あんまりヤンチャしないでくれよな。」
「・・・っ」
その笑顔が眩しくて。
救われる。
- - - - - -
《け・・・決着ーーー!! チーム・ゾンビタイガーの勝利だーーー!!》
解説の声が響き渡り、会場からは歓声が轟く。
どれほど闇を抱えていようとも、これは、お祭りだ。
リュドミラの暴走も、ひとつのスパイスとして捉えられる。
そんな大衆は相変わらず愚かしいけれど―――
―――リュドミラは、それでもいいかと今は思えた。
リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフの話をしよう。
死体愛好者に冷凍庫へ放り込まれた彼女は、精霊と契約して命を取り留めた。
警察の手が回ったときに助け出され、紆余曲折を経てロシア政府に引き取られた。
ウラジーミル・イリイチのペンネームと、統一戦線の提唱者ゲオルギの苗字を借りて。
ただのリュドミラは、ヴェイ・ディミトロフの名を得た。
ソビエト崩壊後も、ロシアは原則として社会主義国を標榜している。
それに如何程の真実味があるかは置いておくが、資本主義国家と対立しているのは間違いない。
思想的な方面で、どれほどの差異があるかはともかく、少なくとも経済的な面で対立がある。
それは感情的な、陳腐な“男らしさ”への拘りが、互いに大きな割合を占めているのかもしれないが。
アルベルト・アインシュタインが質量エネルギー変換公式を発見して以来。
それまでの兵器と一線を画す、核兵器が登場し、やがて社会は軍拡と冷戦へ突入した。
しかし今や、核実験は地球を汚し過ぎて、核兵器は世界を百度焼き尽くせるまでに増えた。
平和主義者でなくとも危機を覚える状況に、軍事論者たちは新たな兵器を模索した。
強いデュエリストは国家にとって、アイドルであり、経済効果であり、戦略兵器である。
ペガサス・J・クロフォードの出身国であるアメリカでは、アイドル的な意味合いが強く。
海馬コーポレーションの席巻する日本では、大きな経済効果を挙げている。
そしてEUとロシアでは、最後の1つ。戦略兵器としての意味合いが大きい。
リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフは、帝国主義ファシズムへの対抗という名分で、ロシアの傀儡となった。
とはいえ彼女にとっては、貧困からの脱却であり、冷たい場所から救ってくれた恩人への献身だった。
望めば多くのものが、例えば日本のマンガやアニメ、ドラマ遊戯王などが好きなだけ手に入った。
傀儡として、指示に従って揉め事を解決するのは、それなりに充実した日々だった。
自分の意思を他人に委ねるというのは、彼女にとっては不愉快ではなかった。
子供の頃と違って、叱られることもない。みんなが褒めてくれる。寒くもない。足が棒になるまで歩かなくていい。
下手に自分の意志を尊重しようとしている人々は、逆に不自由に思えた。
「個性を尊重しよう」という名目で、個性を出すことを強いられ、苦しんでいるように思えてなかなかった。
少なくとも自分よりは、不自由で可哀想な人々だと思った・・・しかし同時に、どうでもいいことだった。
ただ、自分が“自由”だとは思っていなかった。
◆ ◆ ◆
| ウィジャ盤 (永続罠) 相手のエンドフェイズ毎に、手札・デッキから 「死のメッセージ」カード1枚を「E」「A」「T」「H」の順番で魔法&罠カードゾーンに出す。 自分フィールド上の「ウィジャ盤」または「死のメッセージ」カードが フィールド上から離れた時、自分フィールド上のこれらのカードを全て墓地へ送る。 全ての「死のメッセージ」カードが自分フィールド上に揃った時、自分はデュエルに勝利する。 |
| 死のメッセージ「E」 (永続魔法) このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。 |
| 死のメッセージ「A」 (永続魔法) このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。 |
| 死のメッセージ「T」 (永続魔法) このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。 |
| 死のメッセージ「H」 (永続魔法) このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。 |
アルファベットの並ぶボードを、細い指が弾いている。
冥界の恐怖“ネクロフィア”は、次なる獲物を待っている。
会場は赤い闇に包まれ、目玉や口が浮かんでいる。
ソリッドビジョンの演出とはいえ、身の毛もよだつ光景だ。
(さぁて、正念場だ・・・!)
胃液が逆流しそうな緊張感で、大河はDホイールに乗った。
排気音が耳に響き、景色が後ろへ流れ始めた。
ゆらりと死神が、赤子を抱いて飛んでくる。
《ウィジャ盤》の特殊勝利条件は、ライフに関係なくプレイヤーを抹殺する!
大河は手札から、5枚を掲げた。
「パーフェクトバリアを失った今、次の手は―――こいつだっ!!」
出現する五芒星、そこから右腕、左腕、右足、左足。
そして―――王宮の魔神は頭部を現し、ネクロフィアを抑えつけた。
| 封印されしエクゾディア レベル3 闇属性・魔法使い族 攻撃力1000 守備力1000 このカードに加え、「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」「封印されし者の右腕」「封印されし者の左腕」が 手札に全て揃った時、デュエルに勝利する。 |
| 封印されし者の右足 レベル1 闇属性・魔法使い族 攻撃力200 守備力300 |
| 封印されし者の左足 レベル1 闇属性・魔法使い族 攻撃力200 守備力300 |
| 封印されし者の右腕 レベル1 闇属性・魔法使い族 攻撃力200 守備力300 |
| 封印されし者の左腕 レベル1 闇属性・魔法使い族 攻撃力200 守備力300 |
特殊勝利に対して特殊勝利。
開始時点で特殊勝利条件が満たされているなら、それに対抗する手段は同じく、初手による特殊勝利だ。
「流石だぜリュドミラ、自分の出番が回って来る前に死のメッセージを完成させ、パーフェクトバリアまで打ち破ってくるとはな・・・想定以上だぜ。俺も役所で名前を変えていたが、不発だった。」
「大河さん―――」
| 大河柾:LP4000、手札5、SC6 場:馬頭鬼(攻1700) 場:痛み移し(永続魔法) リュドミラ:LP0、手札1(超融合)、SC0 場: 場:うずまき(永続魔法) |
このときリュドミラは、少しだけ大河に失望した。
「また、ワタシの勝ちですね。」
「・・・っ」
大河の目には、ネクロフィアが“2体”映っていた。
墓地に存在する死のメッセージは、二組。
通常のデュエルでは決して実現しない、リュドミラの能力あってこその、倍の特殊勝利。
がっぷり四つに組み合ったエクゾディアの横を通り、ネクロフィアは大河へ狙いを定めた。
◆ ◆ ◆
迫害された者が、自らの権利を主張し続けるのは難しい。
たとえ非が無くても、周囲との軋轢の中で、自分は悪くないと言い続けるのは、果てしなく困難な道のりだ。
加害者を悪し様に罵る姿勢に対して、周囲は、やんわりと、しかし決して寄り添おうとせずに異を唱え続ける。
そうした地獄の中にあって、被害者の落ち度を主張する側に転落する被害者も、少なくない。
認知的不協和というものは、その概念を意識していたとしても、耐え難い苦痛を幾許も和らげることはない。
ただのリュドミラは、ヴェイ・ディミトロフの名を得た。彼女は社会主義者であり、ファシズムを敵視する者だった。
ファシズムとは帝国主義国家の専売特許ではない。リュドミラは、その本質は認知的不協和にあると考えた。
人類が元から持っている、生物としての悪しき性質、祖先から受け継げがれた負の因子。摂理に属するもの。
すなわち民主主義は言うに及ばず、社会主義、共産主義も、極論すればファシズムの変形でしかない。
そのことを意識しなければ、容易にファシズムに呑みこまれるし、意識していたとしても染まらないのは難しい。
いかなる主義にも属しないという態度も、やはり独り善がりなファシズムでしかなく、ナルシストの怠惰である。
ヴェ・イ・レーニンは、抑圧された少数民族の訴えは、多少過剰であっても認めるべきだと主張した。
リュドミラ・ヴェイもまた、ロシアにおける民族問題に携わり、デュエルを用いて民族の権利を認めさせてきた。
しかしながら彼女は、抑圧された人々の表情が苦痛に満ちたままなことを憂いでいた。
きっと迫害を受けるということは、自分の想像を絶する苦痛なのだろうと、“呑気な”感想を抱いていた。
そう、呑気でしかいられない。被抑圧者と同じ気持ちになることは、自分には一生できないだろう。
反ファッショ統一戦線は、しかし統一戦線の内部において、毛色の違う意見を封殺しかねない。
事実として、統一戦線そのものさえ、ほぼ瓦解した状況が何十年も続いていたのだから。
少数民族の中で、更なる少数者が存在するように。被差別者の中で意見の対立があるように。
ファシズムが認知的不協和という“摂理”である以上、いかなる集まりであろうと逃れられない。
ただひとつの、例外を除いて―――それこそリュドミラが憧れた、“ゆるい日常”だった。
リュドミラはアイドルとして人気を博す一方で、偶像を崇拝するファンたちに失望を禁じ得なかった。
影響力の大きな立場として、やんわりと少数者の“正しさ”を広めてきたが、“正しく”伝わったとは言い難い。
“空気を操作する能力”は多かれ少なかれ誰でも持っており、1000の力は1の力を持つ1万人に劣る。
どれほど力を尽くしても、ひとりは無力で、多数者は無神経で、合わせる力も無し。
所詮、自分は国家の傀儡でしかない。それは政府の操り人形ではなく、民衆に媚びる者として。
軍隊で中佐相当の地位を持ち、政治の中枢に口出し出来るようになっても、“多数派”という無形の有象無象の前では無力な“独り”の人間でしかなく、それは他の多くの政治家も抱いている感想らしい。
ひとりひとりの人間は、しっかりと自分の意思を持っていると思い込んでいるようだが、集団の中では必ず幾つかのタイプに分類される。個性などというものは存在しない。それは自分も例外ではなく。
来る日も来る日も類型的な肉の塊が蠢いているのを相手にしながら、リュドミラは疲れ果てていた。
外国なら違うかもしれないと期待したが、結局どこの国も同じようなものだった。肉の塊、肉、肉、国。
ヨーロッパで“魔王”と呼ばれるエニグマと、“神女”と呼ばれるエウレカも、ただ鏡を見ているようだった。
ただのリュドミラに戻りたいと、ふと思った。
◆ ◆ ◆
「リュドミラ、お前は大した奴だ。」
俯いた大河のバリトンが、震えながら響き渡る。
「こっちが用意してきた戦術を、ことごとく凌駕してきた。もしかしたら波佐間が勝って、俺のリベンジの機会は無くなっちまうかと、ちょびっとだけ考えたが、まったく失礼な話だったぜ。」
敗北の悔しさを紛らわせる為の、負け惜しみにも似た称賛。
それはリュドミラが今まで、何度も何度も聞いてきた光景だった。
(ああ、そうか。結局この男も、有象無象の肉塊、ワタシと同じ肉―――)
「お前ホント凄えよ。ここまでやらなきゃ、勝てなかった。」
2体のネクロフィアが、炎に焼き尽くされて消滅した。
「―――っ」
気付いたリュドミラは、青白い顔を真っ赤に染めた。
| 蛇神ゲー レベル12 神属性・幻神獣 攻撃力∞ 守備力∞ (1):このカードは通常召喚できない。 このカードは「オレイカルコス・シュノロス」の効果でのみ特殊召喚する事ができる。 (2):このカードは「オレイカルコス」と名のついたカード以外の 魔法・罠・モンスターカードの効果を受けない。 (3):このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、 自分はライフポイントが0になってもデュエルに敗北しない。 (4):このカードがフィールド上から離れた時、相手はデュエルに勝利する。 (5):このカードは、自分のデッキの上からカードを10枚墓地に送らなければ、 攻撃宣言を行う事ができない。 |
大河柾のデュエリスト能力は、フィールド上の全てのカードを破壊する。
リュドミラのデュエリスト能力は、自分の墓地と除外ゾーンをフィールドと共有する。
だからこそ、フィールドに存在する扱いになる《蛇神ゲー》を破壊されたら敗北する。
ここまではリュドミラが、エキシビションのときから気を付けていたことだ。
大河のデュエリスト能力が発動すれば、能力をOFFにして《蛇神ゲー》の破壊を免れることが出来る。
「だが、あのときと今では決定的に違うことがある! リュドミラ、お前のライフが0だってことだ!」
能力をOFFにすれば、《蛇神ゲー》(3)の効果が切り離される。
それは「フィールドから離れた」わけではないので、(4)は適用されないが、ライフが0でも敗北を免れる(3)の効果が適用されてない以上、リュドミラの敗北だ。
何故こんなことに気付けなかったのだろう。こんな簡単なことに気付かないなんて、どうかしている。
しかも気付かないまま、自分の勝利を疑いもせずに、どれだけ上から目線で相手を評価していたのか。
リュドミラは羞恥心で内臓が破裂しそうだった。
「・・・この侮りは、枕を濡らしながら反省することにします。」
羞恥に塗れた顔が、再び蒼白になった。
異次元から頭だけを覗かせていた蛇神は、ずるりと這い出し、その全体像を衆目に晒した。
とてつもない大きさの、禍々しいドラゴンが、黒く美しい体躯を翻した。
リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフではない、ただのリュドミラの、真のエース。
| Orichalcos-bellum omnium contra omnes レベル× 神属性・神族 攻撃力∞ 守備力∞ このカードは「蛇神ゲー」のコントローラーがデュエルまたはマッチに敗北したとき、 自分の魂とカード全てを生贄に特殊召喚される。(デッキに存在する必要はない) このカードは現実の世界に召喚され、戦闘破壊以外の完全耐性を備える。 このカードが召喚されている限り、プレイヤーは敗北しない。 |
秘密結社ドーマの最終兵器、《オレイカルコスの神リヴァイアサン》が、17年の時を経て再び姿を現した。
◆ ◆ ◆
人間ひとりひとりが、それぞれの意志を達成しようとすることは、一般的には尊いことだとされている。
欲するものを手に入れることは、それが愛情などであれば、高尚だと認められる。
地位や名誉、金銭や物品、食事や性であっても、決して卑下されるようなものではない。
しかし、それぞれの欲するものが、かち合った場合。
そしてそれが分割できない場合、敵対関係が生じ、欲するものが手に入らない者が出てくることになる。
敗北者は挫折し、挫折を繰り返すことで、それは欲するものを得られない恐怖へと変質していく。
勝利者も、他者と敵対関係に陥ったことで、奪われる恐怖、次は敗北する恐怖に苛まれることになる。
他者と手を結ぶことのない、個人としてしか存在しえない人間は、恐怖と欠乏に苛まれることは免れない。
孤独は個人を残忍な人格に変貌させ、残忍な個人同士の争いは、やがて世界を焼き尽くす。
レムリアが、アトランティスが、そして後に登場した数々の国家が、そうやって滅びていったように。
それでは他者と手を結べば問題は解決するのかというと、そう単純ではない。
他者を手を結べば、そこには集団としての善悪が発生する。
少数を多数が迫害することが、あろうことか正義として罷り通ることになる。
個人と集団、いずれの生き方を選んでも、人類は残忍な本性からは逃れられない。
オレイカルコスに潜む“闇”とは、そうした行き詰まりから発生している。
マイナス感情を集めた創造神が、オレイカルコスを娘・天神美月に託したのは自然な成り行きと言えるだろう。
そしてここにも、オレイカルコスの闇に染まった少女が独り。
リュドミラ・ヴェイ・ディミトロフは、闇を束ね、マイナスの闇に抱かれ、青空を消し去った。
◆ ◆ ◆
《こっこっこ、これがどういうことでしょうかーーー!!? リュドミラさんが呼び出したのは、パラディウス社の陰謀で悪名高きリヴァイアサンだーーー!! ロシア政府に問い合わせてみましたが、回答ありません!》
「モンスターと一体化しやがった・・・! そうまでして勝ちてえか!」
『当たり前のことを言わないでください。ワタシは決闘者ですよ?』
極寒の声は、巨大なドラゴンの全身から響いてきていた。
同時に彼女は、闇を集約し、破壊光線を放たんとする。
それを聞いて大河は、嬉しそうに笑う。
「あァそうだよなァ! それがデュエリストってもんだよなァ、リュドミラっっ!」
大河のDホイールに、漆黒と真紅を織り交ぜた翼が生えた。
《大河マサキ19歳も飛んだ!! ライディングデュエルではなく、フライングデュエルになってしまったぞ!!》
「正直それこそが最も懸念していたことだった・・・! 《蛇神ゲー》が“黒薔薇煉獄”で倒せるのは見えていたが、そんとき考えたのは、まだ先があるんじゃねえかってことだ。」
ドーマ事件は後にドラマ化され、現在ではデュエリストなら誰もが視聴できるようになっている。
武藤遊戯らの証言を元に構築された映像は、《蛇神ゲー》がラスボスと見せかけて、まだ続きがあった。
「だからこそ俺は現実世界でも使用できるように、デュエリスト能力を虚数化してもらったんだよ!!」
煉獄の炎が唸りをあげる。七つの罪を束ねて、闇を束ねた破壊光線に拮抗する。
「無駄だぜリュドミラぁ!! デュエリスト能力はカード効果に優先する!! そいつが完全耐性を備えていたところで、神様の造った炎に焼かれねえなんて―――無えよ。」
暗黒の闇に包まれた空に、一筋の青白い光が差し込む。
それは大河の、新たなる光。
煉獄さえも焼き払う、月下の葬送曲。
「俺の能力は、フィールドのカード全てを破壊する! パワーアップした煉獄の花だっ!!」
この大会は、チーム3人の元々の合計レベルが8以下で、今のレベル合計も8以下であることが条件だ。
・・・そう、あくまで合計にしか触れられてない。竜堂の絶対能力で、大河の能力レベルを5+2 i に、波佐間の能力レベルを5-2 i にすれば、這原の-4と合わせて、合計6となる。
『あ・・・・・ワタシの・・・・・・・闇が・・・・・・・崩れて・・・・』
焼け崩れるドラゴンの中から、少女が形を成して空へ投げ出される。
大河は彼女を抱きかかえて、Dホイールはゆっくりと下降していった。
「・・・俺は、闇を否定して偉そうに説教垂れたくはねえ。」
フィールで服を形成しながら、大河は言う。
「だけどよ、こういう“息抜き”ならいつでも付き合ってやっから、あんまりヤンチャしないでくれよな。」
「・・・っ」
その笑顔が眩しくて。
救われる。
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《け・・・決着ーーー!! チーム・ゾンビタイガーの勝利だーーー!!》
解説の声が響き渡り、会場からは歓声が轟く。
どれほど闇を抱えていようとも、これは、お祭りだ。
リュドミラの暴走も、ひとつのスパイスとして捉えられる。
そんな大衆は相変わらず愚かしいけれど―――
―――リュドミラは、それでもいいかと今は思えた。

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