魔王『人間は素晴らしい』

側近♂ 『寝言は寝て言ってもらえますか?』

魔王♀ 『そうだな、正確に言い直そう。人間は素晴らしい生き物なのではないか・・・そう思えて仕方ない。』

側近 『世迷言を・・・。魔王様は、醜悪な人間どもを打ち滅ぼして、魔物の楽園を作るべき存在なのですよ。』

魔王 『ああ、その通りだ。そのように考え、育ってきた。』

魔王 『だが、こうして人間と逢い見えて、私の心に迷いが生じている・・・。』

側近 『何故に。』

魔王 『これまで私は・・・人間とは、猜疑心が強く、たとえ同族であっても余所者を迫害するものだと思ってた。』

魔王 『だが、この光景を見ろ。』

勇者 「魔王、許さないぞ!」

民衆 「「「殺せ!」」」 「「「殺せ!」」」 「「「殺せ!」」」

民衆 「「「勇者様、魔王を八つ裂きにして肥溜めにブチ込んでやってくれえ!!」」」

勇者♀ 「ああ、必ず魔王の首を取って、みんなの便所にしてやるからなあ!!」

民衆 「「「うおおおおお!! 勇者様!!」」」

民衆 「「「魔王死ねー! 死ねー!」」」

魔王 『事前の予告なしに訪れた我らを、歓声で出迎えてくれている。』

側近 『どう聞いても罵声だと思いますが・・・?』

魔王 『しかも、土産ひとつ持たずに来た我らを、盛大な花火で迎えてくれている。』

魔法使い♂ 「喰らえ、煉獄の焔!」

魔法使い♀ 「出でよ、地獄の焔!」

勇者 「魔炎弾魔炎弾魔炎弾魔炎弾魔炎弾魔炎弾魔炎弾魔炎弾・・・・・・!!!」

側近 『火焔魔法の波状攻撃にしか見えないのですが、それは・・・』

魔王 『ハハハ、側近も冗談を言うんだな。そんなものを喰らえば、我らは瞬く間に消し炭になるであろう。』

側近 『魔王様が強すぎてダメージが通らないんですよ。』

魔王 『そんな馬鹿な。』

剣士♂ 「うおおおおお喰らえ魔王っ!!」

ザシュッ! 剣士の会心の攻撃が
魔王の脳天にクリーンヒットした!
しかし魔王はダメージを受けない!

剣士 「くっ・・・俺の渾身の一撃を喰らっても無傷、だと・・・!?」

勇者 「そんな馬鹿な・・・!」

魔王 『側近よ、お前は人間に故郷を滅ぼされたのだったな。』

側近 『ええ、まあ。』

魔王 『そのせいで人間を憎むことになったのは仕方ない。』

側近 『そのせいだけでもないんですが。』

魔王 『憎しみを捨てろとは言わない。お前の故郷を滅ぼした人間は、必ず八つ裂きにして肥溜め行きだ。』

側近 『いやもう寿命で死んでると思いますけどね。』

魔王 『だが、それは人間の中でも、一部の悪逆非道な者どもではないだろうか。』

魔王 『それを人間の基準に据えることが、そもそも間違っているのではないだろうか。』

魔王 『人間の多くは、むしろ魔族に対して好意を抱いているのではないだろうか。』

勇者 「死ねえええ魔王おおおおおお!!」

剣士 「くたばれ魔族うううううう!!」

魔法使い 「「全ての人間の敵!」」

民衆 「「「死ねー! 死ねー! 魔族は死ねー!」」」

勇者 「この世から全ての魔族を消し去ることが、人類共通の願い!」

勇者 「その日が来るまで、わたしは女を捨てて戦い続ける!!」

側近 『・・・・・・とても、そうは思えませんが。』

魔王 『わかっている。私は何も、側近の心を蔑ろにしたいわけではない。』

魔王 『憎んでいい。怨んでいい。自分の心に素直に生きる。それが魔族なのだから。』

魔王 『むしろ、人間を憎んでいる側近だからこそ、うわっつらではない、真の共存共栄の橋渡しになれる。』

魔王 『人間の言葉が分かるのも、側近だけであろう。』

側近 『・・・今は人間よりも、言語障壁が憎いです。』

魔王 『その通りだ。言語の違いで意思疎通に齟齬を来し、どれほど不毛な争いが繰り広げられたのだろう。』

側近 『この場においては言葉が通じないことで争いが回避されてますけどね。』

賢者♀ 「聞いたことがあるわ勇者、魔王は纏った瘴気で攻撃を受け付けないって!」

勇者 「そうか、それを剥がすことが出来れば・・・!」

剣士 「クソ魔王をクソ壺にブチこめるってわけだな!」

民衆 「「「うおおおおお!! 死ねー! 魔王死ねー! ※※※※※※!! ※※※※!!」」」

側近 『聞くに堪えない。』

魔王 『だが聞いてほしい。』

側近 『魔王様の話がではなくて。』

魔王 『私は、人間について書かれた本を読んだことがある。』

魔王 『人間は、衝動のままに他者を殺し、強姦して子孫を増やし、土地や資源を奪う、素直な生き物だと。』

側近 『所業は合ってるのに評価がおかしい。』

魔王 『それは、人間の娘を攫って犯し、子を孕ませ、金銀財宝を奪う、魔族の有り方と通じるものだ。』

側近 『・・・それこそ一部の魔族だと思いますが。』

魔王 『端正な顔を必死な形相で歪める有様を見よ。』

魔王 『群れを成して、主人たちを応援する様相を見よ。』

勇者たち 「「「正義の死ね死ね音頭で奴らの瘴気を吹き飛ばすぞおおお!!!」」」

民衆 「「「おおおーーーっ!! 勇者様の正義が輝いているーーーっ!!」」」

側近 『あまり見たくありません。』

魔王 『ひたむきさ、忠義の心。それらは、人間にもある!』

魔王 『魔族・・・人間・・・いったいどこに違いがあるというのか!?』

側近 『結論は綺麗なのに理由が汚い。』

魔王 『見た目で分け隔てするのであれば、私も人間に近かろう。』

側近 『ええ、まあ、外見的には・・・』

勇者 「コスプレ美女かと思ったら魔王だったとは! 許せない! よくも騙した!」

剣士 「それが奴ら魔族のやり方だ。」

賢者 「卑劣な・・・」

魔王 『側近も魔族と人間の間に生まれたのだったな。』

魔王 『澄み渡る海のような肌を除けば、人間そっくりだ。』

側近 『そもそも人間を攫って子供を産ませてきた種族なんで・・・。』

側近 『故郷が滅ぼされたのも半分くらい自業自得なんですよね。』

勇者 「父さんを返せ! 母さんを返せ!」

剣士 「ここにいるのは、お前ら魔族に大切な人を奪われた復讐者ばかりだ!」

魔法使い♂ 「不退転の決意を以って」

魔法使い♀ 「ここに有る」

賢者 「たとえ我が身が朽ちようと、魔王・・・貴様だけは、ここで・・・」

民衆 「「「うおおおおおお!! 殺せー! 殺せー!」」」

魔王 『そういえば人間の領域では、魔族と人間の禁断の恋が人気だと聞く。』

側近 『何を読まれましたか魔王様。』

魔王 『特に魔王と勇者の不埒な恋愛が人気ジャンルらしい。』

魔王 『私には百合の趣味は無いので、側近、お前どうよ。』

側近 『嫌ですよ、あんな脳筋小娘。』

魔王 『しかし、なかなかの美少女だ。』

側近 『魔王様が言っても嫌味ですからね、それ。』

魔王 『それはつまり、あれは人間の美的基準からすると醜いのか?』

側近 『そーゆーこっちゃなくてですね・・・。』

魔王 『いや、この際それは置いておこう。側近から見て美少女かという話だ。』

側近 『人間から見ても美少女の部類じゃないですか?』

側近 『魔族が鳥や獣と異なる部分って、そうした感覚にもあるわけですから。』

魔王 『遠回しで分かりにくかったが、側近から見ても勇者は美少女。つまり、妻にしたい。』

側近 『なぜ微妙に韻を踏んだし。』

魔王 『よし、話は纏まった。』

側近 『はい?』



- - - - - -



魔王城。

勇者 「くっ・・・殺せ!」

側近 『なんですか、これは。』

魔王 『花嫁衣装を着た、高貴な令嬢だが?』

側近 『俺の眼には、奴隷の衣装で鎖に繋がれた勇者しか見えないんですが・・・』

魔王 『側近の眼には真実が見えているようだな。これが愛の成せる業か!』

側近 『魔王様の耳は腐っておられますよね。いえ、むしろ頭が。』

魔王 『私のかけた幻覚魔法を一瞥で見破る。それが愛でなくて何だというのだ?』

側近 『魔法耐性です。』

魔王 『そう、真実の愛は、いかなる魔法をも凌駕する。』

側近 『聞けや。』

勇者 「わたしは、死んだって貴様ら魔族には屈しないぞ! この※※※※野郎!」

魔王 『彼女も側近を愛している。』

側近 『愛する者へ放つ言葉ではないですよね。』

魔王 『そうか、側近は人間の言葉が分かるのだったな。』

魔王 『だが、人間の文化まで知り尽くしているわけでもあるまい。』

魔王 『断片的な知識だが、クッコロセというのは、敵地へ赴く花嫁の、花婿に身を委ねる宣言だという。』

側近 『本当に断片的な知識ですね。しかも偏った。』

魔王 『何か間違っているのか?』

側近 『いろいろと。』

魔王 『ツンドラという文化もある。』

側近 『それ多分ツンデレのことでは。』

魔王 『普段は永久凍土のように冷たい態度を取り、わずかな間、貴重な夏のように穏やかになるとか。』

側近 『何気に合ってるのが腹立たしい。』

魔王 『ところで側近、具体的には』

勇者 「くっ・・・何を喋っている・・・?」

魔王 『この勇者、なんて言ってるんだ?」

側近 『魔王様と同じことを。』

魔王 『そうか、やはり勇者も魔族と人類の共存共栄を目指しているのだな!』

側近 『そこじゃねえよ。』

魔王 『やはりな・・・。私には最初から分かっていた。この勇者は、志を同じくする者であると!』

側近 『いや、あんたは何も分かってない。』

魔王 『そうだ。私には分からないことが多すぎる。世界の100分の1も知らない。』

側近 『知らないのは世界よりも世間なのでは。』

魔王 『世界を知る為に、ここに側近と勇者の婚礼を開始する。』

側近 『やめてください。冗談でも死にたくなります。』

勇者 「魔族の孕み袋になるくらいなら、いっそ殺して!』

魔王 『む? 人間の言葉は分からないが、なんとなく今、側近と勇者の想いが通じ合ったような気がする。』

側近 『通じ合ったのは想いではなく意見です。』

魔王 『フフフ、お似合いの夫婦だ。』

側近 『根本的な話をすると、俺は魔王様ひとすじなんで。側近なんで。』

魔王 『その忠義は素晴らしいが、忠誠心と夫婦愛が相容れぬと誰が決めた?』

魔王 『人間との共存共栄を目指す為には、しがらみに縛られてはならぬ。』

側近 『じゃあ俺が男を娶りたいとか言っても魔王様は受け入れるんですね?』

魔王 『・・・・・・』

魔王 『・・・・・・』

魔王 『・・・アリだな。』

側近 『まあ俺には薔薇の趣味は無いんですが。』

魔王 『そうなのか・・・。』

側近 『なんでちょっとガッカリした感じなんですか。』

勇者 「殺せ・・・!」

魔王 『となると私が勇者を娶るのもアリなのか?』

側近 『・・・・・・』

側近 『・・・もう、それで行きましょう。』

魔王 『むむ、百合の趣味は無いんだが・・・。うーん。』

側近 『女は度胸。何でも試してみるものですよ。』

魔王 『そうか。側近が言うのなら間違いなかろう。』

側近 『魔王様が新しい世界を開拓することを信じております。』

魔王 『新しい世界か。素晴らしい響きだ。』



- - - - - -



魔王 『こうして、私は女勇者と結婚した。』

魔王 『魔族と人類の共存共栄も近い。』

勇者 『意味わかんないんだけど!』

魔王 『まだ魔族の言葉には不慣れか。難しい言い回しを好むのは魔王の性だ、許せ。』

勇者 『そこじゃない!』

側近 『諦めましょう、勇者どの。魔王様は、これゆえに魔王様なのです。』

勇者 『くぅ・・・魔法が通じない理由も、ただ単に馬鹿みたいに強いからとか、反則よ!』

側近 『ですよね。流石は魔王様です。』

勇者 『お前も大概よ! むしろお前から倒そうとしてたのに何で無傷なのよ!』

側近 『俺から? 勇者どのも冗談を言うのですね。』

勇者 『こいつら同類だ・・・。』

魔王 『ハハハ、私の嫁が部下と浮気に励んでおるわ。』

勇者 『それ笑うところじゃなくない!? というか浮気じゃないし! あと誰が嫁よ!』

側近 『これでツッコミを分担できますね。俺だけでは疲れるんで。』

勇者 『今の発言にツッコミ入れたいわー。』



これは、平和には程遠い時代の話だ。

やがて戦禍は火の如く盛り、幼き勇者は数多の戦場を経験することになる。

その傍らには常に、狐耳の妖艶な女と、青き衣を纏いし男が、付き従っていたという。

素性は不明であり、数少ない記録の中に、このような発言が残っている。

“我らは勇者の盾であり、我ら有る限り勇者には、傷ひとつ無し”

これは虚言などではなく、勇者は信頼の証として、簡素な服のみを身に付けていたが、

ついぞ戦場で傷ひとつ負うこともなく、ある年の疫病で倒れるまで無敗であり続けた。

その後の行方は、とうと知れない。






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