決闘祭!   Act 223 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅢ)

◆ ◆ ◆



闇のゲームが始まった。

地球には幾千万の隕石が降り注ぎつつある。
しかし隕石群は、天神美月、竜堂神邪、いずれか一方の死を以って消え失せる。

天神美月が死ねば、世界はデュエルモンスターズの法則から解放される。
人々は少女を犠牲にした記憶が消えないまま、理不尽と不条理の中へ放り出される。

竜堂神邪が死ねば、世界は平和になり、悪魔から永久に解放される。
人々は少年を犠牲にした記憶も消えて、超技術の恩恵に与かる幸福が待っている。

死に方は、自殺・他殺・不慮の事故・その他いずれの方法でも構わないが、あらゆる拡大解釈を無効とする。
すなわち、同姓同名の別人を殺すとか、社会的な死などの、生存する逃げ道は認められない。

殺害方法は、デュエル、リアルファイトを問わない。



◆ ◆ ◆



人々の反応は様々だった。

最初の分岐を挙げるなら、諦める者と、諦めない者。

諦めた者の末路は、あまり書きたくはない・・・。
自死する消極は、まだしも倫理的だ。
彼らは、窃盗、殺人、強姦、考えつく限り自由に振る舞った。
それは理性の抜け落ちた、獣の自由でしかなかったけれど。

諦めない者は、行動する者と、そうでない者に分かれる。
いつも通りの生活を送る者は、諦めているようで諦めていない。
その何割かは、獣の自由に蹂躙されてしまったけれど。


行動する者は、多岐に分かれる。

魔術に長けた者たちは、隕石を食い止め続けている。
あるいは、悪魔に挑んでいる。

地の利を得ている者たちは、カードとディスクを手に、翔武学園へ。


「ヨシイ・・・コウスケくん、だね・・・。」

制服の群れが入り乱れる中、“彼”は目的の顔を見つけた。

体型は、細身で長身。やや乱れた黒髪に、なぜか茶色のマントを羽織っている。
懐かしい服装の青年は、苦みに満ちた顔で、言葉を続けた。

「申し訳ないが、死んでもらう。」

青年のデュエルディスクから、細い鎖が飛び出した。
これは“初見”のはずだ。

「・・・っ、タイヨウさん・・・どうして・・・!」

狼狽える少年の体躯を、細くも頑丈な鎖が、ぎちぎちと締めあげる。
まだ成熟しきらぬ柔肌に、冷たい鎖が痛みを刻み続ける。

「こういうのは好きじゃないんだけどね。」

吉井康助の恐ろしさは身に染みて知っている。
2年前に、1対1で渡り合った身だ。

だからこそタイヨウは、サン・レイティアは、卑劣で下衆な手段を取った。
悪魔のゲームだからこそ可能な、暴力で思考や判断を鈍らせる、あるまじき戦い方を。

(これでは、リンネを“悪”だなんて言えないな・・・。)

肉体への苦痛を極限まで減らしたリンネは、今から思えば、真に純粋な決闘者だった。
タイヨウは今でも、決してリンネを肯定しないが、それでもカノンに比べれば、真っ当だったと思う。
悪魔のゲームは、神のゲームと根本的に違う。
その暴力性に乗っかっている自分に反吐が出そうだ。

「・・・どうして、ですか、タイヨウさん。あなたは希望を見出したのではなかったんですか・・・?」

苦痛で紅潮した顔で、少年は言葉を絞り出す。
あのときタイヨウは、吉井康助ならリンネを倒せると、希望を託して闇に呑まれた。
そして吉井は、託された希望が真実であったことを証明する。

だが、それでも。

「・・・理解、したからだよ。」

苦渋に満ちた土気色の顔で、青年は絶望と諦念を吐き出した。

「カノンは、リンネよりも強いとは言えない。だが、人類にとっては、リンネよりも最悪の敵だ。君は、“敵対の力”の本質を、とっくに分かっているんだろう?」

タイヨウの問いかけに、少年は肯定で返した。

「はい。」

「だから、僕は悪魔のゲームに乗る!」

このとき少年は理解した。
タイヨウは、自分に勝つつもりなど無い。

ただデュエルを長引かせる為に、鎖で拘束したのだ。

「・・・天神さんのところには、誰が向かってるんですか?」

「アマガミミツキだけではない。君の仲間たち全員に、刺客が向かっている。」

答えているようで、答えていない。
情報を与えることなく、タイヨウは少年を足止めする。
2年前とは真逆の、ひたすら時間を稼ぐだけのデュエルを。
勝つことを考えない、守りのデュエルを。

「未来から来たという、君の娘が今、ここにいないことは調べがついている。特記戦力の大半が、カノンを相手に出払っている今が、アマガミミツキを殺す好機だ。・・・本当は、ノヴァ・クリアの方を狙うべきだけどね。」

ノヴァ・クリア・・・竜堂神邪は、所在が不明。
たとえ所在が割れていても、特記戦力の1人でもある彼を、殺すのは至難。
それに、自分たちの罪を忘れるからと、竜堂神邪を殺すのは、どうにも嫌だった。

(・・・我ながら偽善の極みだな。)

ゼロサムの「くははっ」という笑いが聞こえてきそうだ。
自分は正義の味方などではないし、悪党ですらない。
ただミリィを守りたいだけの、ひとりの人間だ。

守る対象が、物財や意地ではないだけで、欲望に塗れている俗物には変わりない。
そう思いながらタイヨウは、どっぷりと自らを闇に染める。

(カオルさんは、僕を許してくれないでしょうね―――)

見城ではなく、“スター”のリーダー。
闇に染まった今でも、闇を切り裂き続ける漆黒の星に、タイヨウは己を恥じる。


「発動せよ、《欲望に染まる闇の世界》!」


欲望に染まる闇の世界 (フィールド魔法)
このカードはデュエル開始時に、デッキまたは手札から発動する。
このカードはフィールドから離れない。
このカードがフィールド上に存在する限り、
自分が受ける効果ダメージは無効になり、その数値分ライフポイントを回復する。


「《レッド・リゾネーター》を召喚! その効果で手札から《輪廻天狗》を特殊召喚する!」

吉井の使う、闇のリゾネーターと似たモンスターが、音叉を鳴らした。
タイヨウ得意の展開力は、おのれの心を裏切っても、微塵も衰えていない。


レッド・リゾネーター レベル2 炎属性・悪魔族・チューナー
攻撃力600 守備力200
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。
手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。
(2):このカードが特殊召喚に成功した時、
フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターの攻撃力分だけ自分はLPを回復する。


輪廻天狗 レベル4 風属性・獣戦士族
攻撃力1700 守備力600
(1):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。
デッキから「輪廻天狗」1体を特殊召喚する。



「レベル4《輪廻天狗》に、レベル2《レッド・リゾネーター》をチューニング! シンクロ召喚! 降臨せよ、《瑚之龍》!」

この2年間で、デュエルモンスターズは飛躍的に発展を遂げた。
それでもシンクロモンスターを所持している者は、そう多くはない。

まして、シンクロモンスターのチューナーなどは?


瑚之龍 レベル6 水属性・ドラゴン族・シンクロ・チューナー
攻撃力2400 守備力500 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):1ターンに1度、手札を1枚捨て、
相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。
そのカードを破壊する。
(2):S召喚したこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
自分はデッキから1枚ドローする。



赤いリゾネーターから繰り出される赤いドラゴンは、隣に天狗を伴い、咆える。
《輪廻天狗》は同名モンスターを呼び出すリクルーターだ。

ソルロードではなく、コーラル。
その意味するところは、レベル8ではなく6であること。

タイヨウのデッキには、《輪廻天狗》が2枚。
その2枚目に、《瑚之龍》をチューニングするならば!



「集いし願いが新たな時空の扉を開く! シンクロ召喚!! 現れよ! 《時械神祖ヴルガータ》!!」



神々しく光り輝く、さながら騎士の甲冑のようなモンスターが降臨した。


時械神祖ヴルガータ レベル10 闇属性・天使族・シンクロ
攻撃力0 守備力0 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1):このカードは戦闘・効果では破壊されず、
このカードの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

(2):EXデッキから特殊召喚したこのカードが戦闘を行ったダメージステップ終了時に発動できる。
相手フィールドのモンスターを全て除外する。
この効果の発動後、ターン終了時まで相手が受ける戦闘ダメージは半分になる。
(3):このカードの(2)の効果を発動したターンのエンドフェイズに発動する。
その効果で自分が除外したモンスターを可能な限り相手フィールドに特殊召喚する。




完全ではない。デュエルモンスターズに攻略不可能な耐性など無い。

だが、いつかは燃え尽きる恒星も、人の身には悠久。
嫌になるほどの不死身に違いない。


“不死太陽”(デルタサンライズ) レベル5能力(所有者:サン・レイティア)
自分フィールド上のシンクロモンスターが自分の場を離れたとき、
そのモンスターを、場を離れる前と同じ表示形式で自分の場に戻す。
その際、元々の攻撃力・守備力は、場を離れる前の
元々の攻撃力・守備力に500ポイントを加えた値になる。



タイヨウのデュエリスト能力は、決して攻性一辺倒ではない。
むしろ防御に徹する方が得意とさえ言える。

今の自分でも吉井に勝てる自信は無いが、しかし・・・。

ひたすらに守備だけを考え、延命に特化した戦い方をするならば!
たとえ“始まりの1枚”や“掌握の力”が相手だろうと、引けを取らないと確信する。

“掌握の力”は、掌握したカードを即座に手札に加える力ではないし、吉井の知識の範疇に限られる。
そして“始まりの1枚”が持つ「ゲーム維持」の性質は、初手エクゾディアなどの極端な1ターンキルを封殺する。

時間を稼いでいる間に、天神美月を殺せば、このゲームは終わる。



◆ ◆ ◆



「なっははは、しばらくぶりだね天神くん。いや、“全てを統べ須らく死すべき者・オメガ”よ。

中年の男・・・無堂幻大は、ターゲットを視認して独特の笑いを発していた。

「わたしは大義の為に少数の犠牲は致し方ないと考えている! だから天神くん、ここで君には死んでもらう!」

「いいえ、私は死なないわ。もう二度と、死んでなんかあげない。」

少女は黒い髪をなびかせて、デュエルディスクを構えた。
たとえ自分が紛い物の神だろうと、何者である前に決闘者だ。

「つくづく身勝手な少女だな・・・。いったい君は、どれほどの世界を、“忘れて”きたのかな? 吉井康助は君にとって何人目の男なのやら。清楚で清純な顔をして、とんだ淫売もいたものだな!」

だが、少女は挑発に乗らない。
澄ました顔で、周囲を注意深く窺う。

「なっははは! やはり駄目か、こんなのは? だが逃げられはせぬよ、このフラクタルの力からはな! この前は弟子が世話になったなあ。今度は、今度はなあ、わたしの親友が、相手なんだよ~~~っ!!」

かつん、かつんと、死の足音が近づいてくる。
容姿端麗も甚だしい、公式レベル5能力者。
失われた能力を、ある少年の力で巻き戻し得た、その男が。


“崩落する山札”(カラプショット) レベル5能力(所有者:括屋束)
自分のデッキを上から10枚墓地に送ることで、相手は1000ライフを失う。



「多くは語りません。愛しい人の為に・・・死んでもらいます。」





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