決闘祭!   Act 224 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅣ)

◆ ◆ ◆



闇のゲームが始まった。

地球には幾千万の隕石が降り注ぎつつある。
しかし隕石群は、天神美月、竜堂神邪、いずれか一方の死を以って消え失せる。

天神美月が死ねば、世界はデュエルモンスターズの法則から解放される。
人々は少女を犠牲にした記憶が消えないまま、理不尽と不条理の中へ放り出される。

竜堂神邪が死ねば、世界は平和になり、悪魔から永久に解放される。
人々は少年を犠牲にした記憶も消えて、超技術の恩恵に与かる幸福が待っている。

死に方は、自殺・他殺・不慮の事故・その他いずれの方法でも構わないが、あらゆる拡大解釈を無効とする。
すなわち、同姓同名の別人を殺すとか、社会的な死などの、生存する逃げ道は認められない。

殺害方法は、デュエル、リアルファイトを問わない。



◆ ◆ ◆



人々の反応は様々だった。

最初の分岐を挙げるなら、諦める者と、諦めない者。

諦めた者の末路は、あまり書きたくはない・・・。
自死する消極は、まだしも倫理的だ。
彼らは、窃盗、殺人、強姦、考えつく限り自由に振る舞った。
それは理性の抜け落ちた、獣の自由でしかなかったけれど。

諦めない者は、行動する者と、そうでない者に分かれる。
いつも通りの生活を送る者は、諦めているようで諦めていない。
その何割かは、獣の自由に蹂躙されてしまったけれど。


行動する者は、多岐に分かれる。

魔術に長けた者たちは、隕石を食い止め続けている。
あるいは、悪魔に挑んでいる。

地の利を得ている者たちは、カードとディスクを手に、翔武学園へ。
天神美月を殺す為に。天神美月の仲間を足止めする為に。



「わたくしのレベル4能力の前では、どんな初期手札も等しく無意味なのですけどね?」

スカートの裾を摘んで、優雅に礼をする少女は、王国の姫君さながらの気品を纏っていた。
“無間地獄”―――“インフェルニティ”の使い手、アイディールの令嬢。

「・・・っ、アタシの手札が・・・!」

健康的な肌の、体操着姿の少女は、墓地へ送られた“おジャマ”たちを見て歯噛みする。
イエロー、ブラック、グリーン、ブルー。残る1枚は罠カード。

「聞いた話ではデュエリスト能力を失っているとのことですが、つくづくわたくしは能力者の祭典で無能力者を相手にする運命にあるようですわね。」

それを聞いた瞬間、手札0枚の少女は、顔色を変える。

「・・・・・・吉井と戦ったときも、そんなことを言ったのか?」

「ヨシイ? ああ、あの無能力者のくせに能力者の大会に参加していた身の程知らずが、そんな名前でしたわね。」

「てめぇ・・・」

リーファは手札に残ったモンスターをフィールドに出す。
それを基軸として、あれよあれよという間にインフェルニティモンスターが展開されていく。

「彼を瞬殺した布陣を、ご堪能くださいませ? 召喚した《インフェルニティ・ミラージュ》をリリース。墓地の《インフェルニティ・デストロイヤー》と《インフェルニティ・デーモン》を特殊召喚ですわ。ここで《インフェルニティ・デーモン》の効果発動。デッキから《インフェルニティガン》を手札に加えますわ。《インフェルニティガン》発動。このカードを墓地に送ることで、墓地の《インフェルニティ・デストロイヤー》と《インフェルニティ・ネクロマンサー》を特殊召喚します。さらに《インフェルニティ・ネクロマンサー》の効果で、《インフェルニティ・ビースト》を特殊召喚ですわ。」


インフェルニティ・デストロイヤー レベル6 闇属性・悪魔族
攻撃力2300 守備力1000
自分の手札が0枚の場合、
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、
相手ライフに1600ポイントダメージを与える。

インフェルニティ・デーモン レベル4 闇属性・悪魔族
攻撃力1800 守備力1200
自分の手札が0枚の場合にこのカードをドローした時、
このカードを相手に見せる事で自分フィールド上に特殊召喚する。
このカードが特殊召喚に成功した時、自分の手札が0枚の場合、
自分のデッキから「インフェルニティ」カード1枚を手札に加える事ができる。

インフェルニティ・ネクロマンサー レベル3 闇属性・悪魔族
攻撃力0 守備力2000
このカードは召喚に成功した時、守備表示になる。
自分の手札が0枚の場合、以下の効果を得る。
1ターンに1度、自分の墓地から「インフェルニティ・ネクロマンサー」以外の
「インフェルニティ」モンスター1体を特殊召喚する事ができる。

インフェルニティ・ビースト レベル3 闇属性・悪魔族
攻撃力1600 守備力1200
自分の手札が0枚の場合、以下の効果を得る。
このカードが攻撃する場合、
相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動する事ができない。


「見城さん、相手が高レベル能力者だからといって、100%勝てないわけではないなどという、くだらない寝言を信じていらっしゃるわけではないですよね?」

せせら笑うように、リーファは口角を歪める。
だが、その言葉は相手を揺らがせることはない。

「ああ、信じてなんかいねぇ。確たる事実をイチイチ信じる奴がいると思うか? 今のアンタは、アタシのドローで変わる世界に、怯えて虚勢を張ってるようにしか見えねえぜ?」

だが、揺るがないのはリーファも同じだ。

「その通りですわ。」

「なに・・・?」

怪訝な顔をよそに、リーファはKC製のスマートフォンを取り出した。

「この勝負、わたくしの99%勝ちは揺るぎないですが、残りの1パーセントがあります。ですが、お忘れですか? わたくし“たち”の勝利条件は、天神美月を殺すこと。アイディール家の力を以ってすれば、世界各地から高レベル能力者を招聘することも容易いのですわ。」

「な・・・!」

「そもそも、この短時間で翔武学園に高レベル能力者が集結したのは、偶然だとでも思っているのですか? 高レベル能力者だけではなく、アイディール家の私兵を含め、軍隊が翔武学園を包囲しつつあります。貴方たちは絶対に逃げられない。わたくしの1ターン目は終了とさせていただきますわ。」

突きつけられる絶望的な宣告。
体操着が汗で湿り、無機質な日光で透けて見える。
スポーツブラの感触が、妙に不愉快だった。

「アタシのターン、ドロー!」(手札0→1)

引いたカードは、この状況を逆転し得る1枚。
汗ではっついた髪を指で払って、思わず笑みが零れる。

「魔法カード《おジャマ・デルタハリケーン!!》を発動するぜっ!!」

「・・・っ!? そのカードは、フィールドに特定のモンスターを揃えている必要があるはず!」


おジャマ・デルタハリケーン!! (魔法カード)
自分フィールド上に「おジャマ・グリーン」「おジャマ・イエロー」「おジャマ・ブラック」が
表側表示で存在する場合に発動する事ができる。
相手フィールド上に存在するカードを全て破壊する。



だが、カードの効果は適用されていた。
三兄弟が尻をドッキングさせて高速回転し、リーファのフィールドからインフェルニティは消え去った。

「まさか・・・“回帰の力”で!?」

「させねぇ・・・吉井の守った、この世界を、絶対に壊させはしねぇ!」

「ふ・・・その世界を守る為に、天神美月を殺すのですわ。結局は能力頼みの決闘者が、わたくしの覇道に立ち塞がることなど笑止千万。おどきなさいっ!」

2人の少女は睨み合う。
互いに一歩も引かない。

「だったらよ、“世界”って何だ? アンタにとっちゃ、天神は赤の他人に過ぎないのかもしれねえ。天神がこの世からいなくなったって、“アンタの世界”は守られるだろうさ。だけど天神の世界は終わるんだ! 吉井の・・・アタシたちの世界は、壊れちまうんだよ! 吉井の守った世界は、宇宙なんてちっぽけなもんじゃねえ! 天神のいる日常っていう、かけがえのない世界なんだ! この戦いは絶対に負けられねぇ!」

「この世界が、“偽物”だとしてでもですか?」

リーファの顔は、揺るぎないが、どこか優しげに変わっていた。

「偽物? 本物と偽物を分けるのは、オリジナルかコピーかじゃねぇ。アンタは誰だ? アタシは何だ? 生きて、ここにいる。真贋なんて知らねぇ、区別なんて意味ねぇ、墓地から《■■■・■■■■■》を除外し―――」



◆ ◆ ◆



「逃・が・さ・ないわよ、朝比奈翔子さぁん? 人形は好きですか? 好きですか? 好きですか? 好きですか?」

包丁を持った西洋人形の群れが、小柄な少女を囲んだ。

「あはぁ、あなたの“十発の百の弾丸”は、あたしの“十分の一の世界”でぇ、どれほど通用するのか知りたくってぇえええええええええええええ!! お人形さんは好きですか?」


“少女の箱庭”(ミニチュアライズ) レベル5能力(所有者:タニア・パープルウォール)
相手フィールド上のモンスターの元々の攻守、相手の元々のライフポイント、
相手のカード効果によるモンスターの攻守の変動、相手のカード効果によるライフポイント変動を、
任意選択して10分の1にすることが出来る。
(この能力は好きなタイミングで発動・解除できる)



「・・・っ、あたしは《ミスティック・ゴーレム》を召喚するわ。」


ミスティック・ゴーレム レベル1 地属性・岩石族
攻撃力? 守備力0
このカードの元々の攻撃力は、
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚されたターンに
相手がダメージを受けた回数×500ポイントになる。



あらかじめフィールドに貼られている《悪夢の拷問部屋》がダメージ回数を倍にする。
だが、それでも攻撃力は、わずか1000ポイント。
タニアに与えたダメージも、デュエリスト能力と合わせて400ポイント。
本来なら4000ダメージを叩き出し、攻撃力10000ポイントを携える戦術も、10分の1の世界では微力!

「カードを2枚伏せて、ターン終了よ!」

「小賢しいわぁ、朝比奈翔子さぁん? ワルイコ出でよ《トビペンギン》!?」

たかが攻撃力1200ポイントの通常モンスター。
それも紫壁に囲まれた小さな庭では、アーミタイルと同等の攻撃力を誇るゴーレムすらも、あっさりと凌駕する。


「装備魔法《ペンギンソード》っっっ!! 憐れな憐れな人形さんに慈悲深き氷の一撃を!?」


《トビペンギン》 (攻1200→2000)



タニアの能力は初期ライフをも10分の1にする。
攻撃力の差は、800を凌駕する1000ポイント・・・。

「・・・っ、速攻魔法発動! チェーンして罠カードを―――」



◆ ◆ ◆



「赤の他人の命を幾ら詰まれたところで、自分たちの命には釣り合わない。そうは思いませんか?」


純白の絹の服に身を包んだ少女が歩いてきた。
両手と首には銀の輪っかを装着していて、流れるような銀の髪には真紅の髪留めをつけている。


月夜の支配 (リバースマスター) レベル5能力 (アリアン・ロッド)
相手フィールド・墓地・除外ゾーンのカードは裏側になり、表側にすることは出来ない。



「佐野さん、あなたの“融合工房”は全方面に隙の無い、恐るべきデュエリスト能力です。それ自体がレベル3とはいえ、あなたのデッキ構築力とタクティクスによって、レベル5の領域に至っていると言っても過言ではない。」

神秘的な少女は、どこか愛嬌ある顔立ちの少年に、淡々と言う。

「ですが、能力には相性というものがあります。月夜が支配する暗闇で、満足に稼働する工房など無い。」

「・・・ああ、確かに能力には“相性”があるな。」

少年は手札から、1枚の魔法カードを発動した。
それは何の変哲もない特殊勝利カードだった。


終焉のカウントダウン (魔法カード)
2000ライフポイント払う。
発動ターンより20ターン後、自分はデュエルに勝利する。






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