決闘祭!   Act 227 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅦ)

◆ ◆ ◆



闇のゲームが始まった。

地球には幾千万の隕石が降り注ぎつつある。
しかし隕石群は、天神美月、竜堂神邪、いずれか一方の死を以って消え失せる。

天神美月が死ねば、世界はデュエルモンスターズの法則から解放される。
人々は少女を犠牲にした記憶が消えないまま、理不尽と不条理の中へ放り出される。

竜堂神邪が死ねば、世界は平和になり、悪魔から永久に解放される。
人々は少年を犠牲にした記憶も消えて、超技術の恩恵に与かる幸福が待っている。

死に方は、自殺・他殺・不慮の事故・その他いずれの方法でも構わないが、あらゆる拡大解釈を無効とする。
すなわち、同姓同名の別人を殺すとか、社会的な死などの、生存する逃げ道は認められない。

殺害方法は、デュエル、リアルファイトを問わない。



◆ ◆ ◆



人々の反応は様々だった。

最初の分岐を挙げるなら、諦める者と、諦めない者。

諦めた者の末路は、あまり書きたくはない・・・。
自死する消極は、まだしも倫理的だ。
彼らは、窃盗、殺人、強姦、考えつく限り自由に振る舞った。
それは理性の抜け落ちた、獣の自由でしかなかったけれど。

諦めない者は、行動する者と、そうでない者に分かれる。
いつも通りの生活を送る者は、諦めているようで諦めていない。
その何割かは、獣の自由に蹂躙されてしまったけれど。


行動する者は、多岐に分かれる。

魔術に長けた者たちは、隕石を食い止め続けている。
あるいは、悪魔に挑んでいる。

地の利を得ている者たちは、カードとディスクを手に、翔武学園へ。
天神美月を殺す為に。天神美月の仲間を足止めする為に。

あるいは。
彼女たちを逃がす為に。




「わたしの負けです。残念です。あなたを、お人形さんにしたかったです。浜百合氷澄さん。

タニアが泣き崩れる前で、朝比奈の顔をした少女は人工皮膚を剥がしていく。
とはいえ本体も負けず劣らずの美少女顔だ。


知識装弾(トレーステック) レベル5能力(所有者:浜百合氷澄)
デュエル開始時に、レベル4以下の能力5つを選択し、自分の能力として使用する。
(選択する能力の名前と所有者を知っていなくてはならない)



「くうっ、わたしとしたことが迂闊でした。なるほど確かに聞いたことがあります、自分のエンドフェイズに、お互いのフィールドの状況を入れ替えるレベル4能力者の存在を。

遠い外国の話だ。タニアは面識も無いし、名前も能力名も知らない。
レベル4という高位能力だからこそ、うっすらと聞いた覚えがあるだけだ。

「しかし分からないですね、ヒスミ。」

ハンカチに顔から出る汁を吸い取らせて、タニアは言った。

分からないのは、自分が負けた理由ではない。
逆算すれば、必要な能力とカードを算出できる。

魔法カードは《時の飛躍》で、罠カードは《ディメンション・ウォール》だ。

「ヒスミの戦術は、お見事と言うほかないです。凄いです。まんまと騙されました。お友達になりたいです。《時の飛躍》で3ターンを吹っ飛ばしたことで、エンドフェイズが3回経過し、フィールドは3回流転する。」

月島火月の“火傷した顔”(スコルド・フェイス)と同じ理屈だ。
フェイズに関する強制効果能力は、カード効果の途中でも適用される。

すると何が起きるか?

フィールドの状況を奇数回入れ替えたのだから、《ミスティック・ゴーレム》のコントロールはタニアに移る。
すなわち《ミスティック・ゴーレム》は、「相手フィールド上のモンスター」ではなくる。

そして《ミスティック・ゴーレム》の攻撃力は、後からでも上昇する事実が示す通り、永続効果だ。
攻撃力を決定するファクターは、「召喚ターンにおける相手プレイヤー」であることは言うまでもない。


“少女の箱庭”(ミニチュアライズ) レベル5能力(所有者:タニア・パープルウォール)
相手フィールド上のモンスターの元々の攻守、相手の元々のライフポイント、
相手のカード効果によるモンスターの攻守の変動、相手のカード効果によるライフポイント変動を、
任意選択して10分の1にすることが出来る。
(この能力は好きなタイミングで発動・解除できる)


ミスティック・ゴーレム レベル1 地属性・岩石族
攻撃力? 守備力0
このカードの元々の攻撃力は、
このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚されたターンに
相手がダメージを受けた回数×500ポイントになる。



攻撃力10000ポイントのモンスターで、能力を解除しても攻撃力2000のモンスターを攻撃すれば!

彼我の攻撃力差は8000ポイント。
それが《ディメンション・ウォール》で跳ね返されるのだから、まさに一撃必殺!

タニアの能力は決して万全ではない。
《魔法の筒》によって直接ライフを削られる場合は、ライフロスや回復すらも干渉範囲だが、《ディメンション・ウォール》による反射ダメージは、カード効果による変動ではなく、もたらされた効果に対して、戦闘を行った結果だ。

(勝ち筋は・・・あったのにな。)

モンスターの数が変化したわけでもないので、バトルフェイズの巻き戻しが行えない。
それこそがタニアの敗因であった。

何らかの方法で複数のモンスターを展開していれば、攻撃を放棄するか、あるいは別のモンスターに攻撃することだって出来たというのに。

「負けたことは納得しましょう。お友達になりたいです。様子見の段階で、必殺の罠が潜んでいたことを看破できなかった、わたしの不覚。ですから敗者の戯言と思って聞き流してもらってもいいです。お友達になりたいです。ヒスミ、この作戦を引き受けた理由は何ですか?」



◆ ◆ ◆



「裏目に出たんじゃないっすか。」

少年はディスクを畳みながら呟いた。

かつて天神の目の前で、見城を人質に取った、レベルE能力者。
“平等思想”の題座千天は、付き物が落ちた顔で息を吐いていた。


“平等の枷”(イコライザー) レベルE能力(所有者:題座千天)
相手のデュエリスト能力によって自分が受ける制限は、相手も受ける。



拘束系の能力者に対して、無類の強さを発揮する、平等にして不平等。

アリアン・ロッドの能力は本来、自分の場に《宇宙の収縮》をかけるのと引き換えに、解除は自在だった。


“永劫月夜”(シルバームーン) レベル5能力
この効果は任意のタイミングで適用・解除できる。
適用している間、相手フィールドのカードは全て裏側表示(モンスターなら裏側守備表示)になり、
自分フィールドに出せるカードの枚数は5枚までになる。
表側表示のカードがこの効果を受けて裏側表示になった場合、そのターン中は発動・反転召喚できない。



だが、地下都市で“クリムゾン・ドラグーン”と戦ったとき、能力は進化した。してしまった。
フィールドのみならず、墓地や除外ゾーンに至るまで裏側にする、凶悪にも程があるシャットアウト効果。
自分フィールドに出せるカード枚数に、制限も無い。

だが、外れた枷は、新たに見えない枷を嵌め込んでいた。
強制進化の代償として、アリアンは自分で能力を解除できない。


“月夜の支配”(リバースマスター) レベル5能力 (アリアン・ロッド)
相手フィールド・墓地・除外ゾーンのカードは裏側になり、表側にすることは出来ない。



竜堂眸の強制進化は、オレイカルコスなどによる、能力封印の類も効かない。
すなわち、この制限はアリアン自身も逃れられない。
《終焉のカウントダウン》を先んじて発動された時点で、勝ち筋は消滅したのだ。

無論、デッキを組み直して再戦すれば、幾らでも勝ちようはある。
少し練習すれば、デッキ破壊やエクゾディアも扱える自信がある。
魂魄治療を受けて、強制進化を元に戻すことだって出来る。
それをしなかったのは、苦痛に耐えてでも強さを求める覚悟のつもりだったが、強さに縋っていただけだった。
タイヨウが魂魄治療を受けたのを、ほんの少しでも侮った自分を、猛烈に恥じた。

「・・・・・・そうね、裏目に出た。私は“強さ”に目を晦まされ、自分の“弱さ”から目を逸らしていたわ。ごめんなさい。」

「い、いや、謝ることじゃ・・・。おれだって・・・。」

人工皮膚を剥がしながら、題座は頭を掻いていた。
“強さ”に目を晦まされ、“強さ”を憎み、僻み、吉井のことも本当には理解していなかった自分。
あのときの自分を思い出せば、目の前の少女を蔑むことなど出来はしない。

これは、彼の贖罪でもある。
全てがリンネの手の平だった、あのデュエル。
目の前で見城は、人質となっていた。
その状態で、天神と戦い、負けた。

リンネが残した、恐るべき遺産の前に、完膚なきまでに敗北した。

「・・・神様は、お見通しなんすよね。おれの醜さなんて。」



◆ ◆ ◆



「よくも騙してくれましたわね。こんな下賤でっ! 陳腐でっ! くだらない方猿芝居でっ! このリーファ・アイディールをっ!」

細い脚の、どこにそんな力が込められているのかと思うほどの蹴りが、校舎の壁に罅を入れていく。
窓ガラスは割れ、教室のネームプレートは廊下に落ち、トイレの水道管が破裂して水を噴きあげた。

「その下賤で陳腐な猿芝居に引っかかった、くだらない令嬢の姿を、そこの鏡でご覧あそばせ。」

ドーランを落としながら、体操着姿のリュドミラは、へらへらと笑った。

「~~~っ、性格が悪いですわね!」
「性格の良い高位能力者なんていませんよ。」
「お黙りあそばせ!」

そのときになって、アイディール家の私兵たちが駆けつけてきた。
彼らはリュドミラを拘束しにかかる。

「遅いですわよ!」
「申し訳ありません、お嬢様。」
「して、これから天神美月らを追跡するので?」

「いいえ、下手に動いては後手に回るだけですわ。混乱した最中で目的の人物を見つけるのは困難です。もどかしいですが、まずは戦力を翔武学園に結集させ、本人確認の後、治安回復をしながら圧殺していきますわ。」

「リーファ、それでいいの?」
「いいも悪いも、わたくしは自分の身が可愛いですから。」
「あの悪魔の言いなりになって、悔しくないの?」
「くだらない感傷ですわ。」
「そうじゃない。決闘者としての誇りよ。」

「・・・・・・わたくしだって、出来ることなら悪魔と戦いたいですわ! このわたくしが、誰かの言いなりになって、世界の為などという世迷言を掲げてっ! 天神美月を殺そうとするなどっ! 悔しくないわけがっ! ないっ!」

嘘をつくときは、本心を交えて喋ると効果的だ。
敵対は偽りでも、零れ落ちる泪は真実。

「ですがっ! わたくしは悪魔の恐ろしさを誰よりも知っていますわ! この身で直接、闇のデュエルで辱めを受けましたから! 貴方には分かりませんわ、お気楽な絶望ごっこに興じる、太平楽の似非平和主義者などにはっ!」

ひとつ間違えれば、本当にリーファは敵に回っていたと思う。
魂の底まで刻み込まれた恐怖は、未だにリーファを苛み続けている。

「あなたなんかには・・・・・・死んでも分かりませんわ・・・・・・」



◆ ◆ ◆



「気を落とさないでください、タイヨウさん。このゲームの攻略法は、天神さんを殺すことだけではないです。」

「・・・まさか、君は。」

「はい、竜堂神邪の捕捉に成功しました。彼を葬りに行きましょう。」

モリン・モリンは、顔色ひとつ変えずに言った。
事も無げに言ったのではない。
自分に顔を歪める権利など無いと言わんばかりに、表情を動かさない。

「罪悪感があるなら、記憶を残したままにすればいいんです。」

「・・・! 出来るのか?」

「出来るも何も、記憶消去はゲームクリアの景品ですから、普通に辞退すればいいんですよ。僕はそうするつもりです。タイヨウさんは、それでも忘れるべきだと思いますが・・・。」

サン・レイティアは、正義の味方だ。
子供を守る、正義の味方だ。
窃盗を繰り返した妹を守る、正義の味方だ。

彼にとっての正義とは、妹を守ること。
人助けは、偽善かどうかはともかくとしても、付随したサブの要素。
根幹である、妹を守ることが崩れたら、彼の正義は消滅する。

だからこそ少年の狂気を理解できる・・・・・・共感と、共に。

「勝算はあります。いえ、タイヨウさんは、とっくに竜堂神邪の攻略法に気付いているんですよね?」

その問いに、タイヨウは暗い顔で、しかしハッキリと―――頷いた。

「ああ。」


全ては悪魔の手の平だ。
リンネの手駒にされて、吉井康助と戦ったときから、何も変わっていない。

所詮、人間は変わらない。
それは絶望でも希望でもない、ただの事実だ。


「いきましょう、タイヨウさん。括屋さんと浜百合さんが待っています。」

その言葉にもタイヨウは、力強く答えた。

「ああ。」

どうせ悪魔の手を取るならば、少しでも人に近い方がいい。





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