決闘祭!   Act 228 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅧ)

◆ ◆ ◆



闇のゲームが始まった。

地球には幾千万の隕石が降り注ぎつつある。
しかし隕石群は、天神美月、竜堂神邪、いずれか一方の死を以って消え失せる。

天神美月が死ねば、世界はデュエルモンスターズの法則から解放される。
人々は少女を犠牲にした記憶が消えないまま、理不尽と不条理の中へ放り出される。

竜堂神邪が死ねば、世界は平和になり、悪魔から永久に解放される。
人々は少年を犠牲にした記憶も消えて、超技術の恩恵に与かる幸福が待っている。

死に方は、自殺・他殺・不慮の事故・その他いずれの方法でも構わないが、あらゆる拡大解釈を無効とする。
すなわち、同姓同名の別人を殺すとか、社会的な死などの、生存する逃げ道は認められない。

殺害方法は、デュエル、リアルファイトを問わない。



◆ ◆ ◆



人々の反応は様々だった。

最初の分岐を挙げるなら、諦める者と、諦めない者。

諦めた者の末路は、あまり書きたくはない・・・。
自死する消極は、まだしも倫理的だ。
彼らは、窃盗、殺人、強姦、考えつく限り自由に振る舞った。
それは理性の抜け落ちた、獣の自由でしかなかったけれど。

諦めない者は、行動する者と、そうでない者に分かれる。
いつも通りの生活を送る者は、諦めているようで諦めていない。
その何割かは、獣の自由に蹂躙されてしまったけれど。


行動する者は、多岐に分かれる。

魔術に長けた者たちは、隕石を食い止め続けている。
今このとき、時間を稼ぐ価値は、二度と再現できない魔術道具よりも高い。

あるいは、悪魔に挑み続けている。
この、ふざけたゲームの渦中で、真なる絶望を知らしめられている。




「みゅっ・・・殺せ!」

中世の騎士のような甲冑を纏った少女は、血塗れで叫んだ。
息も絶え絶えに、悔しさを浮かべて、金の髪に鮮血が渇き始めている。

どこから鎧が出てきたのかは分からない。

『・・・十代、気を付けろ。』
「ああ、わかってる。」

今の状況だけを見れば、十代とユベルの優位は圧倒的に見える。
さっきまで存在していた、もう一組の十代とユベルは、いつの間にか元の平行世界へ戻っていったようだが、そもそも最初から圧倒していた戦いだ。現に十代とユベルは未だにダメージらしいダメージを受けていない。

だが、疲労は別だ。

「みゅ・・・私は、負けない! たとえ我が身が陵辱の限りを尽くされようと、心は絶対に屈するものか!」

ふざけたロールプレイに興じている少女を、どれほど殺してきたか覚えていない。
召喚したH・HEROで、とりわけネオスで、殴り、切り刻み、焼いたり割ったりした。
鮮血が飛び散る光景、肉が千切れる音、骨を砕く感触を、何度も何度も何度も何度も、何度だって。

だが、その度に少女は何事も無かったかのように、紅潮した顔で復活してくる。
そもそも本当に殺せているのか? 根本的なところで何かを間違えているのではないか?
疑念は疲労によって増幅され、今や無視できないほどの大渦となって心を掻き乱していた。


「・・・っ、避けろユベル!」

唐突に出てきた凶刃、ダークフェノメノンがユベルを掠めた。
十代が手を引いていなかったら、間違いなく真っ二つだった。

『ありがとう十代。・・・まだ力が残っているとはね。』

ユベルの言葉は、絶望的な推測から目を逸らす気持ちから発せられていた。
ダークネスの、しぶとさと強さが反比例する性質は、戦った自分たちは、よく知っている。
だからこそ目の前の相手が、ダークネスと同質の“闇”の存在であることは分かっている。
ならば、“不滅”という言葉も、あながちハッタリとは思えない。

「大丈夫だ、ユベル。無限なんて無い。そいつは悪魔のまやかしだ。」
『ボクの愛しい十代、それは海馬瀬人のパクリだぜ。』
「う、うるせえな!」

赤面する十代だが、すぐにカノンに向き直る。

「みゅふふ、確かに私の力は無限じゃないよ。ことリアルファイトにおいて、無限の物量なんて存在しない。それと君たちの攻撃は、ちゃんと私にダメージを与えている。むしろダメージしか与えてないと言うべきかな?」

まるで謎かけのような言葉だが、もはや答えを言ってるに等しい。
固定概念という名の希望が、鍍金のように剥がれ落ちて、絶望の地金が露わになっていく。

「みゃはは、“ラスボスに即死効果は利かない”って俗説を信じて、真っ二つにされて死んだシルクハットの話を知っているかみゅ、異邦人ども? 攻性の炎に完全耐性を得ておきながら、癒しの炎で焼き滅ぼされた、死の経典の叫びは? あらゆる外的攻撃に態勢を持ちながら、内側から魔弾に食い破られた白くて黒い卵の高笑いは? 決闘者には余計な説法だったかなァ、“完全耐性”なんてものは幻想にも及ばぬ陽炎に過ぎないって、君たちは死ぬほど知っているはずだからみゅ! みゃはははは!」

少女の顔が壊れる。
愉悦の笑みが零れる。

「それならば、いっそ“耐性”なんて捨てればいいのみゅ♪ あらゆる♪あらゆる♪あらゆる♪あらゆる、こ・う・げ・きをっ! ダメージに変換して受け切ればいい! 私は弱いからね、最弱だからね、耐性など無い、どんな攻撃も状態異常も何もかも効いてしまう! あくまで“ダメージとして”だけどねっっ!! みゃははははははっ!!」

「・・・それはもう、“耐性”なんじゃないのか?」

青ざめた顔で、十代は呟く。
状態異常も何もかも通じないのは変わりないのだ。

だが、“そうではない”からこそ。

「みゅふ、納得いかないって顔してるね。だけど考えてみて? “状態異常”って何? “耐性”って何? それは君たちが勝手に考えたことじゃないのかな? 原初のゾークたる私には、あるべき正常な状態すら無かった。リンネがいなければ、私には何ぁんにも無い。意思も自我も人格も、本当に何も無いんだみゅ♪」

『今のお前は、意思も自我も人格も、不死身の如き強さもあると思うけど?』

「みゃはは、ユベルちゃんなら分かると思うけど? “逢えない時間が愛を育てる”なんて素敵な言葉があるよね。それは愛の尊さを謳う言葉であり、逢えない寂しさを乗り越える言葉であり、そして・・・」

宇宙に飛ばされ、孤独を味わった。
死にかけた状態でユベルは、ひたすら十代のことを考えていた。
悲しみ、怨み、憎しみ・・・そんな感情は、“時間”に塗り潰されていく。
ユベルは、ひたすら十代のことを考えることで、自我を保った。



「ただ単に“長い時間を過ごしている”から育つという言葉でもある♪」



ユベルは理解できる。理解してしまえる。

目の前の女が何なのか。
どういうわけで、“最弱”にして、これほどの強さを得ているのか。


「みゅふっ、君たちは強い。本当に強い。同じだけの時間を生きていれば、私は絶対に勝てない。それどころか、君たちの1秒分の成長に、私は1兆年かけても追いつけない。」


もはや決定的だ。
ただ長く生きている。それだけ。

それだけで全てを凌駕する。

「じゃ、じゃあ、お前は、いったい何年生きてるっていうんだよ!?」

絶望に吸い寄せられるように、十代は拳を握る。

「みゅ~、喩えるなら“バベルの図書館”かな?」

「へ・・・・・・?」
『ホルヘの短編だよ、十代。』

そして人類が神の領域に挑んだ、恐怖の思考実験でもある。
“数学ホラー”というジャンルの、黎明的な存在だ。

「想像してみて? だだっ広い部屋の中に、たくさんの本が置いてあるの。それ以外には何にも無い。だったら好きとか嫌いに関わらず、本を読むしかないと思わない?」

そこには全ての本がある。
1種類につき1冊ずつ。
なんて夢のような空間。

「でも、ほとんどの本は、お猿さんがデタラメにタイプライターを叩いたみたいに、文字が羅列されているだけ。」

なんて悪夢のような空間。
面白い本を1冊見つけるのに、人の一生すらも、あまりに短い。

1冊の内容に、410×40×80、すなわち1312000のエリアに、25文字を順番に入れていく。
最初のエリアには、25通り。次のエリアには、最初の25通りに対して25通りだから、2つのエリアだけで625の場合が考えられる。10エリアまでで100兆近く、100エリアで那由多の2乗を凌駕し、最終的には、この宇宙の体積をプランク単位で切り刻んでも、全然まるで程遠い数になる。
およその値は、10の183万4097乗の、2倍ほどだ。

「量が多すぎてウンザリするって思う? そうだよね、しっちゃかめっちゃかな本ばかりで、ちっとも面白くないって思うよね。それでもね、真っ新な存在にとっては何もかもが面白いんだ。やがて前に見たような内容が増えてきて、同じような本を何度でも繰り返し読むことになるけど、だからこそ面白いんだって気付くんだ。本当の恐怖っていうのは、終わりが見えてしまうこと。全ての本を読み終えてしまうこと。寿命を持たない存在にとって、退屈に勝る恐怖は無い。あらゆる地獄に“刑期”なんてものが設定されているのは、それこそが最も恐ろしい刑罰だからだと思わない? どれほど楽しい時間も、どれほど苦しい時間も、いつか終わりが来てしまうって!」

双眸を輝かせるカノンは、打ち震えていた。
恐怖? あるいは歓喜?

「だったら新しく始めればいい。ホルヘ君の小説では、1冊410ページ、40行80文字、空白、コンマ、ピリオドを含む25文字だけど、この世界には、もっともっと文字が、いっぱいあるよね? それら全てを網羅したら、まだまだ全然いっぱいの本が読めるって思うと、すっごく楽しいんだ! 退屈な世界を壊しちゃおう! まだ知らない文字を探しに行こう! このリセットで世界が変わるって思うと、すっごくワクワクするんだみゅ!」

元気いっぱいの、少女の顔。
言うことは、悠久の時を生きた悪魔の言葉。

「・・・っ、わからねえよ! あんたが全ての本を読み尽くしたって、これから本を読む奴だって、いっぱいいるんだ! あんたは本当に全ての本を読み込んだのかよ!? 内容を知ってるだけで、本当に“読んだ”とは言えねえ!」

「みゃはあ、名作は何度読んでも感動が色褪せないって言いたいの? 世界大会の優勝報酬として、好きな本に囲まれて永遠に過ごしたいって人の願いを叶えたことがある・・・。5億年くらい放っておいたら、もう本は見るのも嫌だって怯えてたよ。100万冊も本があるのに、たったの5億年で恐怖に転じるなんて、まるで理解できないなァ・・・。」

悪魔は小首を傾け、笑う。

「ホント人間って、飽きっぽいよね。」

「―――っ!」
『・・・・・・』

「リンネと私の気持ち、本当に分からないかなァ?」

くすくすと笑う少女は、すぐに別な喩えを持ち出してくる。

「みゅふふ、三目並べってやったことある? 3×3のマスに○×を交互に1つずつ書いていって、3つ揃った方が勝ちっていうゲーム。それを延々とやり続けるの。それ以外に何にも無い空間で、宇宙が終わるまで他に何も出来ない。それがリンネと私のいた世界。みゃはっ♪ 宇宙を壊したくなる気持ちが、分からないかな?」

ひたすら三目並べしか出来ない世界。
他には何も出来ない世界。
漫画も小説も無い。

飲まず食わずで生存できる。
だから食べ物は無い。
布団も無い。
無い、無い、何にも無い。
三目並べしか出来ない。

この世界で貴方は何年過ごせますか?





ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

2019年11月
               1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

過去ログ

テーマ別記事

最近の記事

最近のコメント

QRコード