決闘祭!   Act 229 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅨ)

◆ ◆ ◆



闇のゲームが始まった。

地球には幾千万の隕石が降り注ぎつつある。
しかし隕石群は、天神美月、竜堂神邪、いずれか一方の死を以って消え失せる。

天神美月が死ねば、世界はデュエルモンスターズの法則から解放される。
人々は少女を犠牲にした記憶が消えないまま、理不尽と不条理の中へ放り出される。

竜堂神邪が死ねば、世界は平和になり、悪魔から永久に解放される。
人々は少年を犠牲にした記憶も消えて、超技術の恩恵に与かる幸福が待っている。

死に方は、自殺・他殺・不慮の事故・その他いずれの方法でも構わないが、あらゆる拡大解釈を無効とする。
すなわち、同姓同名の別人を殺すとか、社会的な死などの、生存する逃げ道は認められない。

殺害方法は、デュエル、リアルファイトを問わない。



◆ ◆ ◆



人々の反応は様々だった。

最初の分岐を挙げるなら、諦める者と、諦めない者。

諦めた者の末路は、あまり書きたくはない・・・。
自死する消極は、まだしも倫理的だ。
彼らは、窃盗、殺人、強姦、考えつく限り自由に振る舞った。
それは理性の抜け落ちた、獣の自由でしかなかったけれど。

諦めない者は、行動する者と、そうでない者に分かれる。
いつも通りの生活を送る者は、諦めているようで諦めていない。
その何割かは、獣の自由に蹂躙されてしまったけれど。


行動する者は、多岐に分かれる。

魔術に長けた者たちは、隕石を食い止め続けている。
今このとき、時間を稼ぐ価値は、二度と再現できない魔術道具よりも高い。

あるいは、悪魔に挑み続けている。
この、ふざけたゲームの渦中で、真なる絶望を知らしめられている。



「ゾーク♪ 暗黒~~~♪魔法の六~~~♪ ダークネスカノン!!

フリルのついた衣装で、ステッキを振りまわりながら、カノンは技の名前を唱えた。
射程無限大、目標に命中するまで減衰しないエネルギー弾!

だが、そこへ地獄の焔が高速接近する。

「ソークインフェルノ!」

「ぴきゅっ」

ステッキを持ったままの腕が鮮血の空に散り、点滅して砕けた。

「流石はレナちゃんだよ! この威力! この熱量! どれを取っても敵わないみゅ!」

何事も無かったかのように、嘲笑うように、原初のゾークは復活する。
紅潮した雌の顔で、次を求め続ける。


「リバースワールド♪」


鷹野麗子の蹴りが、カノンの顔面に炸裂する。
その勢いで膝が、剥き出しの腹にクリーンヒット。
カノンの口から胃液が溢れ出し、顔面に彩りを添えた。

「ぼふえっ」

だが、苦痛の中に快楽が見て取れる。
びくびくと悶えるそれは、死に際の痙攣などではない。
1秒間に100発ほどの拳骨を放つ鷹野だが、カノンは顔面が砕けながら笑う。

「・・・っ、待ちなさい!」


「リバースワールド♪」


『ふふ♪ エッチなおつゆが止まらないんだね、カノンちゃん?』

白銀の大翼が迫っていた。
少女の肉体は、柘榴のように弾け飛んだ。

「みゅう~、言っちゃダメぇ!」

真っ赤になって叫ぶ少女に、すかさず《闇の呪縛》が締めあげる。

「みゃああああん! みゅう・・・・・・痛い、よおお・・・・・・!!」

痛いけど気持ちいい。
ううん、痛い“から”気持ちいい。


「リバースワールド♪」


ゾーク暗黒魔法の七、リバースワールド。
あらゆる平行世界に同時に存在し、意識を切り替える。
平行世界を、分かち、束ねる。

それら全ての世界で、カノンは無様な姿を晒していた。
肉便器になったり、肉詰めの材料になったりもしている。


だが、誰もカノンを殺し切れない。

そのうち、別の問題が発生してくる。


ひとつは言うまでもなく、排泄の問題だ。
何十時間も戦い続けている間、トイレに行けていない。

だが、それは幾らでも対処しようがある。
ゾークインフェルノで蒸発させる。
ダークカタストロフィーで腸内洗浄する。
羞恥心を考えなければ、漏らしたところで死にはしない。

食事に関しても、“白夜の力”で《非常食》や《ブルー・ポーション》などを具現化させれば事足りる。
カードの束を以っていくだけで、あらゆるサバイバルが可能となるのだ。


しかしそれでも、疲労だけは別だ。

無論だが魔術には、疲労を回復し、生命を維持し、不老すら実現する技術がある。
しかし相応の魔力、エネルギーを要する。

疲労を補った状態で、更に疲労すると、元々の補助分に加えて、新たな補助分のエネルギーを必要とする。
すなわち必要なエネルギーは、時間と共に加速度的に増大する。


「交代します、薫さん! レッドアイズ・クリムゾンオーバーフロー!

バブーン・バーデュアオーバーフロー!

ダイダロス・インディゴオーバーフロー!

魔法少女たちが変身し、悪魔に挑む。
それを見ながら薫は、誰かを思い出しかけていた。

『みゃはっ♪』

頭の中で少女の笑みが木霊する。

『薫ちゃんは、この世界が偽物だって、とっくに気付いてるんだよね? だって、オリジナルの君は今、真奈美ちゃんと対峙しているはずだよね? みゅふふ、なかなかデュエルが始まらないから、待ちくたびれて呼んじゃった♪』


みんな、私を嬲って?

私を楽しませて?

私の為に踊って?




「死ぬまでずっと、私と戦い続けてね♪」



◆ ◆ ◆



マサキ、僕の聞いた中で、最も恐ろしい話をしようか。

眠っているとき、支離滅裂な悪夢を見たことはあるかい。
いやいや、夢占いや異世界の話じゃないさ。
もっと現実的で、嫌になるほど生々しく、悍ましい話・・・。

脳髄は、記憶を・・・特に、眠っている間に処理するんだけど、その処理は機械的なんだ。
機械的という言い方は変かな。生物は有機物で構成された機械だし、有機物の定義も曖昧だし。
ああ、ごめんごめん、話が逸れた。生物学の話も面白いけど、それはまた別の機会にでも。

悍ましすぎて、話すのに躊躇しているのかなァ。
自由意思なんて存在しないっていうような、当たり前の話じゃないぜ。
実存としては無くても、知覚として有るなら、むしろ僕らは“自由”だ。

不自由なのは、選択権を奪われることなのさ。
この脳髄ってやつは、記憶を総当りで照合する性質がある。
高速で、自動で、強制的な、無意識の領分だ。

これの何が悍ましいんだって?
アハハ、そりゃあ便利なことは勿論いっぱいあるさ。
睡眠学習って言葉は嘘じゃない。眠ることで学習の成果が組み合わさり、がっちりと定着する。
この性質そのものは、決して悪ではない。むしろ良いものだ。素敵なものだ。

だけどねマサキ、この“総当り”ってのが曲者なんだ。
良いも悪いも綯い交ぜにして、ひたすら無情に、無情に、組み合わせ作業だけを続ける。
思い出したくもないような、嫌な記憶も、逐一ね。

どれほど楽しい経験を積んでも、つらく苦しい記憶と組み合わされている。
どれほど美しい物語に触れても、汚く醜い記憶と組み合わされている。
時間を重ねる程に、経験を積むほどに、嗜好も価値観も澱み、濁る。

悍ましいと思わないか、マサキ?
いや、君には分かるまい。分かって欲しくない。
こんな悍ましい苦痛を、君までが味わうのは嫌だ。嫌なんだ。


人間の記憶は、バウムクーヘンのようだと、誰かが言った。
幼少期に負った傷は、中心近くの綻びだから、それを治そうと思えば廃棄するしかないんだって。

笑うしかないと思わないか? いや、笑えもしないか。
経験を積み、成長するほど、負った傷が歪みを齎し、外面を取り繕っても断面は汚く醜い。

どうせケーキを食べるなら、見た目が綺麗な方がいい。
見た目が綺麗な方が、味も良いからね。


残念なことに、脳髄を闇の瘴気で置換しても、性能はそのままだ。
生きる為に必要な性能でもあるから、外すわけにはいかないのさ。

まったく、月島カノンが羨ましいよ。
奴は自分の記憶を、好きなだけ咀嚼して、質量の残骸に変えてしまうんだから。


そして、それこそが“最弱”を、“最悪”に至らせた経緯でもある。


奴は今、何千何万、あるいは何億何兆かの平行世界で、ほとんど一方的に嬲られているはずだ。
わずかな時間で、おびただしい質量を失っている。

奴は何をするにも質量が必要だ。

肉体を作るにも。
魔術を行使するのも。
手を動かすのも。
足を曲げるのも。
笑うのも。
喋るのも。

無論、デュエルをすることにも。

僕は“シフトワン”が無ければデュエルに勝てない、“脆弱”な決闘者だ。
奴は“敵対の力”が無ければデュエルが出来ない、“最弱”の決闘者だ。


最弱だった、原初の悪魔は、途方もない歳月をかけて、神に匹敵するまでに至った。
決して神には勝てないが、神の敵対者として恥じない実力を、常に備えていた。
ゆえに奴は、“永劫回帰の敵対者”なのさ。

リンネの創造した宇宙が、自然に滅びたときも。何らかの要因で滅びたときも。何者かに滅ぼされたときも。
質量の残骸をカノンが喰い尽くし、次の宇宙で、より強い決闘者を生み出す為のエネルギーとなった。


今現在、多くの魔術師がカノンと戦っている。
名だたる人たちは勿論、平行世界の僕らとかも、猛攻を加えていると思う。

薫さんの《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》は、本来のエース《シューティング・クェーサー・ドラゴン》に匹敵する。
おそらく1秒かそこらで銀河ひとつ分くらいの質量は、軽く削っているはずだ。

バカップ・・・もとい、十代さんとユベルさんは、12の次元世界から連携攻撃を放つことで、どれほどの質量を削っているのかも、おそらく本人たちにも分かっていない。

黎川師匠と麗子さんは、目の前の肉人形のみならず、ゾーク本体を直接、数式的にダメージを与えている。
《うずまき》の力を引き出した果て、回転矢印表記は、対ゾークに限れば、現存する全ての異能を軽く凌駕する。

それでも、マサキ、それでもな?
カノンが、ゾークが喰ってきた質量を、小指の先ほどにも削れていないんだ。
今のペースで、この宇宙が滅びるまで奴に攻撃を加え続けても、ダメなんだ。
僕らの尺度で考えれば、体細胞ひとつ失うほどにも及ばない。
千兆ドルを持つ者が1セントを失うにも遠く足りない。

奴は“質量”の怪物なんだよ、マサキ。
溜め込んだ質量は、有限だが、途方もない。
あらゆる演算可能な有限数を凌駕する質量を、その身に宿している。
それを以って、あらゆる工程を強引に押し切っているだけなんだ。

技術も信念も無い。無の状態でも存在する真空エネルギーの寄せ集め。
コストパフォーマンスの観点から見れば、正真正銘の最悪。
どれほど不器用で愚かな生物よりも、遥かに遥かに遥かに悪い効率。
ゆえに奴は“最弱”であり、溜め込んだ質量だけで、あらゆる生物を凌駕する“最悪”だ。

ひとりだけど、ひとりじゃない。
たったひとりで残りの“カンサー”全軍よりも強大な敵。
真の意味で“カンサー”と呼べるのは、奴ひとりだけ。
僕らの戦いは、スタート地点から一歩の万分の一も進んでいない。


僕は羨ましいんだよ、マサキ。
カノンが妬ましい。カノンになりたい。

子供の頃、オセロの全局面を調べ尽くそうとして挫折した。
けれどカノンは、それが出来る。
囲碁や将棋を、場合を数え尽くして棋理に到達することだって。
あらゆる数学の未解決問題を解き尽くすことだって。
何だって出来るし、何にでもなれる。
僕は強烈に、“敵”に憧れたのさ!

だけど、ダメなんだ。

時間が経てば経つほど、理想と現実の乖離は酷く、より酷くなっていく。

僕の絶対能力“シフトワン”は、完全無欠にして攻略不可能。
けれど僕自身は、欠落だらけで、攻略は容易い。
化けの皮が剥がれた邪神に出来ることは、もはや―――・・・

・・・いいや、いや、いや、いや!

この期に及んで後ろ向きな言い方は性に合わないなァ。
ずっと考えていたんだ、月島カノンの攻略法を。
原初のゾークの倒し方を。


だって僕は、決闘者なんだから!


対リアルファイトでカノンに勝つのは至難、実質不可能!

奴を倒すのは、圧倒的な、“デュエル”!!




「親友に宛てた遺言は済んだぜ? デュエルを始めようか、ゲームマスター!?」

“脆弱”な少年は絶望の中で、鈍く光る指先を、“最悪”の少女に向けた。


竜堂神邪:LP8000
月島禍音:



「みゃはっ♪ おかしいなあ・・・・・・シンヤ君は、どうしちゃったのかなァ・・・・・・」

“敵対の力”を使わなければ、ライフポイントという概念すらも具現化できない“最弱”の少女は、楽しげに。

「どんなに頑張ったって、君ごときが私に勝てるわけがないじゃない・・・・・・」

最悪の少女は、悪魔の右手を掲げて笑う。


「みゅふふ、永遠に闇で休んでろ、何人目かの失敗作!」





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