決闘祭!   Act 236 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅩⅥ) ~赤く漲るEYES~

◆ ◆ ◆



私とリンネの関係は、どのように言うべきかなァ?

“始まりの1枚”の裏表。
神と悪魔。
一と全。
姉と妹。
母と娘。
あるいは恋人。
あるいはデュエルの相手。

私はリンネの分身であり妹であり姉であり娘であり母であり父であり兄であり弟であり友人であり恋人であり奴隷であり主人であり味方であり敵であり相談相手であり好敵手であり真理を探究する仲間。

とても言い表しきれないよ。
だけど今の状況に則して言うなら、原作者と二次作家ってところかな。
リンネが紡いだ世界を、私が記憶し、記録し、写し取り、続きを想像する。
具体的な想像は現実になる。私の“敵対の力”は、具体的な想像を現実化する。
なんて素敵な力。ずっと遊べる力。リンネに楽しんでもらう為の力。

私が紡いだ世界を、リンネは記憶し、考察し、類推し、参考にする。
そうやって新しい世界が次々と生まれていく。
この頃はリンネも私も、きっと誰にも無害な存在だった。
宇宙が自然に滅びるまで、のんびりと待って、それが楽しくて。

気付かなかった。それが永遠でないことを。
知らない振りをした。有限の海を。
目を逸らした。リンネの孤独から。

リンネの孤独なんて、君たち如きに分かりっこないけど、この喩えなら少しは分かるかなァ?
たくさんの物語に触れるほどに、過去最高の感動を更新することは、難しくなっていく。
誰も退屈からは逃れられない。たとえ神様であってもね。

いや、いや、いや、神様“だけ”は、だよ?

だって人間は死ねるから、いつでも退屈から逃げられる。
最高の感動を更新し続ける、いっとう冴えた方法を知ってる?
それは記憶を消去し続けることだって、知ってるよね?

天神美月は、そうしてきた。
みずからの記憶を消すことを望んで、神様を置き去りにして、新しい人生を何度でも何度でも何度でも!
その度に運命の出会いを、世界の命運が懸かったデュエルで、最高の昂揚を、悲劇的な別れを!
リンネや私にとっては見飽きた光景を、何度だって最高の鮮度で味わってきたんだ!

このゲームは、喜びも悲しみも贅沢に味わい続けた美月への、ちょっとした嫌がらせも兼ねていたり?
みゃはは、私だって美月のことを悪く言う資格なんて全然ないっていうのにね!
決して記憶を消すことが出来ないリンネと違って、私は何度だって記憶をリセット出来るし、消したくない部分は都合よく残して、嫌な記憶だけを質量として食べてしまえるんだから!

だから私は、ずっと楽しい。
だから私はリンネの孤独に、ずっと気付かなかった。



この物語は、リンネが死んだ後の祭り。リンネの葬儀。
見城薫が発案し、私が喪主を務めている。

この物語に、黒幕と呼べる者がいるとすれば、それは見城薫に他ならない。
吉井康助の予備にして、使われなかった保険。
彼女自身も気付いていない、心の奥底の闇に、私は呼応した。
平穏を厭い、新たなる戦いを求め続ける見城薫に、リンネの片鱗を見たのさ!

そう、リンネは生きている。
私の中にも!
君の中にも!

だから私は、ちっとも寂しくないんだ。
だから私は、ずっと楽しくて仕方ないんだ。


なんにもない闇の中で、魂が震え、漲るんだ。



◆ ◆ ◆



「僕が掌握するのは、絶対能力“十一壱”です!」



“十一壱”(シフトワン) 絶対能力(所有者:竜堂神邪)
数字を元の値から±1出来る。




「みゅう!? “デュエル維持”の力が膨れ―――」



月島禍音:LPkhwq



「そして、“神炎”を掌握します!」


“神炎”(ゴッドフェニックス)シフトワン適用 絶対能力(所有者:竜堂眸)
0000ライフポイント支払うことで、相手のライフを0にする。




不死鳥が、悪魔を包み込んで、闇夜に羽ばたいた。



月島禍音:LP0




「「・・・何が、起こったの?」」

天神が、娘と言葉を重ねて言った。

ライフが0になっているのは分かる。
どのようなライフであろうと、数値としての体を成してなかろうと、ライフポイントという概念さえあれば、“神炎”で0に出来る。
“十一壱”を使えば、ライフコスト1000を、ゼロに出来る。
そして“始まりの1枚”が、勝利を告げる。


リンネ-永劫回帰の支配者 レベル1 神属性・無族
攻撃力0 守備力0
デュエル開始時に、デッキに存在するこのカードは自分の墓地に送られる。
このカードは他のカードの効果を受けず、自分の墓地を離れない。
このカードが墓地に存在するとき、以下の効果が全て適用される。
●ルールまたはカード効果による既存のデュエル終了条件は、このカードの効果を除いて全て無効になる。
相手のライフポイントが0になったとき、相手はデュエルに敗北する。
●自分は、1ターンに1度、ターン終了時に「デュエル終了判定」を必ず行わなければならない。
この判定時に自分のライフポイントが0であった場合、自分はデュエルに敗北する。



だが、途方もない有限を持つカノンを抑えて、デュエルをゲームとして維持できた方法が分からない。
操作さえ間に合えば、“光の霧”による加護が、捕食も回帰も防ぎ切るが、そもそも何を操作すればいい?

咄嗟に思い至ったのは、“始まりの1枚”の枚数をシフトすることだ。
しかし1枚を2枚や3枚にしたところで、足しにはならない。
だとすれば「元の値」という制限の抜け道を見つけたのか?
いや、そうだとしても十数秒ではグラハム数の数字を並べることも不可能。










「壱進法です。」


“神殺し”の少年は、静かに答えを告げた。



壱進法。それの意味する概念は、ひとつは棒を並べる“表記”としての意味。
もうひとつは、十進法や二進法と同じ括りで、1ごとに桁を足す方式。
しかし後者は、基本的に用いられることはない。使いどころが無いからだ。


だが・・・だが!

今このとき、このデュエルにおいてのみ、それは悪魔を攻略する!

無限の桁を自動で生成し、無限の0を帰納法的に1にすれば!



《リンネ-永劫回帰の支配者》×∞



書き換えではなく、数学的な処理としての無限大。
いかなる力を以ってしても、“数学的事実”を捻じ曲げることは出来ない。

“規則”は、人の力で如何とも出来る。
“法則”は、人ならざる力で捻じ曲げることが出来る。

だが、“真理”から逃れることは、誰にも出来ない。


No one can be escape from the Game of Darkness!

誰も闇のゲームからは逃れられない!



「あーあ、負けちゃったみゅ♪ 呆気ないもんだよね、祭りの後なんて。」

付き物が落ちたような笑みを浮かべて、最悪の少女は、崩れ、消えていく。

「ねえ、吉井康助。どうして君は、私と戦おうと思ったみゅ? この世界は私がリンネを真似て作った世界で、君たちが神邪くんを犠牲に理想郷を選択しても、オリジナルに害が及ぶこともない。数ある自由な選択肢の中から、どうして4つ目の選択を、狂気に満ちた混沌の未来を選んだの?」

そう―――世界は、何も変わらない。

たとえ悪魔が消えたところで、共通の「敵」を失った人類は、再び相争い、理不尽と不条理の溢れた日常が訪れる。
この世界が辿る未来が、順風満帆である保証など、どこにもない。
神も悪魔も滅び去っても、人類には人類という敵が、いつまでも残り続ける。カノンの示した未来は、社会の矛盾を解決し続ける、文字通りの理想郷であった。

カノンを倒すのは愚かしい。
後で笑えもしない、破滅の未来を選択するに等しい。

「・・・正直、少しだけ迷いました。」

吉井は、無悟の笑みを浮かべて言った。
悪魔に挑んだ理由を、言語化するのは難しいが、あのときの感じは残っている。

「僕は多分、自分で言ったことを守れないのが、癪だったんです。うぬぼれかもしれませんが、僕がいない世界は、オリジナルの僕が、吉井康助が守りたかった世界じゃない。」

レベルマイナス集団は、翔武生徒会の面々に対応している。
ならば何故、吉井だけには対応する者がいないのか?

いや・・・いる、いる、いるのだ。


「僕の裏側が竜堂さんなんですよね?」


カノンが、竜堂神邪を生きたまま虚空に振り撒いた、その理由。
吉井康助と戦う為。あるいは、吉井康助に究極の選択を委ねる為。

自分が死んで、ユートピア。
自分が生きて、ディストピア。

ひとりの少年には、あまりにも重い選択。
天神が自分を犠牲にしようとした気持ちが、身に染みて分かった。


「カノンは、この世界がリンネの真似事、作り物だって言いました。僕には、それでも自分たちを“本物”だって、言い切るだけの自信はありません。でも、この世界がリンネの模倣なら、僕にとって―――“吉井康助”にとって、この戦いは、ほんの“外伝”というところです。」


・・・そう、本来この世界は、他愛無い少女の夢であり、ひと夏の思い出に収まる外伝のはずだった。

けれど、少女が夢から覚めれば、悪魔は何にも無い。

何にも無いのは恐い。
何にも無いのは嫌だ。

少女が目を覚ました後も、悪魔は夢を見続けた。


見果てぬ夢を。




「悔しいなァ・・・だけど、ううん、だから楽しい。バイバイ、またいつか会おうね♪」


あれほど圧倒的だった存在感が、薄れて消えていく。

金の糸が風に流れ、少女の輪郭が曖昧になる。

虚ろな透明は、影も残さずに。



風の中で、あの甘ったるい声が、唄になって響いていた。



・・・・・・かく・・・せ・・・な・・・・・・い・・・・・・ほど・・・まばゆ・・・い・・・ひかり・・・・・・



・・・せい・・・じゃく・・・・・・やぶり・・・・・・この・・・よに・・・・・・よみ・・・が・・・える・・・・・・




最悪の少女の歌声は、蘇った世界中に響き渡った。

けれど、それが何なのか、誰が歌っているのか、知る者は少ない。



は・・・げ・・・しく・・・・・・ゆら・・・ぐ・・・・・・かわいた・・・・・・だい・・・ち・・・・・・



・・・・・・いのち・・・・・・を・・・かけ・・・・・・て・・・・・・ひばな・・・・・・ぶつけ・・・あう・・・・・・




ざくっと足音が響いて、“決闘王”が、その器に、悪魔の歌声を映し出していた。

「カノン、きみは・・・」

聞こえているのか定かではないが、言わずにはおれない。

「・・・きみは、負ける為に戦っていたの?


“敵対の力”が無ければ、デュエルも出来ない。呼吸も思考も自我も人格も無い。
誰とデュエルするにも、たった1回で宇宙何個分もの質量を消耗する。
だからこそ“最弱”。能力値として、効率としての最弱。

“敵対の力”を以ってしても、リンネに負けて負けて負け続けた。
1回でも勝ったことがあれば、その人生においてカノンの戦績を下回れない。
だからこそ“最弱”。敵対者として、戦績としての最弱。

そして、最後には負ける為にしか戦えない。
魔王が勇者に敗北する運命を設定した邪神が、魔王の役回りも兼ねているようなもの。
だからこそ“最弱”。価値観として、役割としての最弱。


「ごめん、ゾーク。君を倒せなくて。」

「みゃはっ♪ 覚えててくれたんだ?」

「ううん、覚えてるわけじゃない。だけど、この物語に“始まり”があるとすれば、それは多分ボクだから。」


全ての始まりは、いつだったか?

遥か以前の、もはや記憶も定かでないほど前の世界。
リンネもカノンも無害で不干渉な存在だった頃の世界。

ひとりの少年が、千年錐を組み立てた、そのときから。


祭りの始まりは、いつだったか?

それは多分、平穏が続くオリジナル世界で、見城薫が考えた、他愛無い夢。
世界を救う舞台に立てなかった、端役の溜め込んだ悪夢。

ひとりの少女が、妄想を組み立てた、そのときから。


「邪魔者の悪足掻きは、これにて閉幕。お幸せにねっ♪」


カノンの姿が消えていく。

再び歌声が風に乗って、掠れ消えていく。



もう・・・・・・いち・・・ど・・・だけ・・・・・・で・・・いい・・・・・・きせき・・・・・・おき・・・・・・て・・・よ・・・・・・





もう一度だけでいい 奇跡起きてよ
過去に無くした 心の扉を また開く 詞(ことば)を

闇を束ねる不滅の願い 魂踊る場所探して
瞬き出来ない 鋭い眼光を萌やす

光と闇の 終わらぬDuel 輪廻の輪に映る未来へ
今動き出す 赤く漲るEYES


























◆ ◆ ◆



悪魔のゲームは消滅した。

吉井康助がリンネとのデュエルで得た“賞品”は、またしても世界を救った。
決闘者たちは、悪魔が現れなかった歴史で、泣いたり笑ったり殺し合ったり、人の営みを繰り返す。
オリジナルの世界と違うのは、悪魔が遺した人物や能力が残ったこと。

吉井康助の活躍は、またしても遡及の処理に埋もれた。
リンネに続いて、レベルマイナス、渦宮夏生、カノンと戦ってきたことを、知る者は少ない。

「何度も世界を救っておきながら、その活躍を誰にも知られることのない、歴史の闇に埋もれし決闘者、吉井康助! くーっ! カッコよすぎるぜ!」
「いや、“歴史の闇に埋もれる”って何ですか!?」
「だが! 吉井の戦いっぷりは! アタシだけが知っている! 黒幕の特権ってやつだな!」
「いえ、天神さんも知ってますけど・・・?」

他にも“ブック・オブ・ザ・ワールド”の所有者など、知っている者は何人か存在する。
泣笠などは、これを小説として発表するとかアニメ化だとかを考えているらしい。
どうやら神様や悪魔と違って、まだまだ人類は退屈しないで済みそうだ。

「好きだぜ、吉井。」

そして、新たなる波乱が幕を開ける。

「・・・・・・えっ?」

今度は多分、正々堂々とした形で。

「告白するけど、アタシはアンタに惚れてるんだわ。」
「え・・・? ええ?」

当惑する吉井に向かって、見城は笑って言った。

「・・・ま、そんな感じで今後よろしく頼むわ。」
「ちょ、ちょっと待ってください! 急にそんな―――」

言いたいことだけ言って走り去っていく見城を、吉井は慌てて追いかける。
その様子を、監視カメラが見ていた。

生徒会室で、朝比奈がニヤニヤしながら録画していた。

「ねえ春彦、この映像、どう使ったら面白いと思う?」
「翔子・・・お前ってやつは・・・・・・」

翔武生徒会の波乱に塗れた日常は、まだまだ続きそうだ。





   決闘祭!   完




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