決闘祭!   永遠の記憶(中編)

◆ ◆ ◆



そこは地獄だった。


灼熱地獄。からっからに乾いた閉鎖空間。
乙女の玉肌を、つうっと伝う雫が、瞬く間に熱を吸って拡散する。
気温110℃、湿度10パーセント。
この苛酷な環境で、2人の少女は、バスタオルを羽織ったのみの格好で、顔を突き合わせていた。

「永遠、あんた顔色が良くないわよ。そろそろギブアップした方がいいんじゃない?」
「ボクの顔色は普段から悪い方だよ・・・朝比奈さん、こそ、大丈夫、か、な?」

朝比奈翔子と永遠アルド。
バスタオルの曲線が艶かしい。

「言葉が途切れ途切れになってきてるわよ。」
「ボクは普段から途切れ途切れで話してる。」

何をしているのかというと、見ての通りだ。
サウナ対決で、先攻・後攻の決定権を奪い合ってるのである。

「朝比奈さんこそ・・・息が、荒く、なってきてるんじゃ、ない、かな?」
「それは幻聴よ。熱気で脳をやられたんじゃないの?」

言うまでもないが、デュエルの先攻・後攻を決める為にデュエルするほど愚かなことはない。
先攻・後攻を決める為のデュエルの先攻・後攻を決めなければならず、無限ループが発生してしまう。
すなわち、デュエルの先攻・後攻は、デュエル以外によって決定されるのが常識なのだ。
ライディングデュエルでも、第1コーナーを先に曲がった方が先攻を取るという、運転技術によって先攻・後攻が決まるというルールがある。デュエルと関係ないバイクだからこそ、デュエルと組ませるのに相応しいのだ。

「確かにボクの脳は多少おかしい・・・けれど、ボクが、水風呂で、体を、冷やしてきた、後だと、言ったら、どうする、のかな、朝比奈さん?」
「へえ、やるじゃない。あたしと同じことを考えていたとはね。」
「なにっ・・・朝比奈さん、も?」
「当然よ。水分補給も済ませておいたわ。」
「これは長い戦いになりそうだ・・・喩えるなら、将棋で、お互いに、穴熊を、組んだくらいに。」

その様子を、第3の人物が練乳アイスの棒を噛み砕きながら眺めていた。
当然のことだが、サウナ対決には審判が存在する。そして審判は選手より先に倒れてはいけないので、アイスなどを持ち込むことを許可されているのだ。

「第1フェイズは互角というところね。」

熱気でドロドロに解けつつあるアイスを手早く舐め取って、鷹野麗子は呟いた。
組まれた脚から汗が滴り落ちる。
バスタオルの曲線は中学生とは思えない。

どうして中学生である彼女が審判を務めているのか?
その理由を詳しく語ろうと思えば、文庫で30ページ以上を必要とする。
簡潔に言えば、公平なジャッジが出来る女性として選ばれたのだ。

例えば、選手に嫉妬するような容貌やプロポーションであれば、公平なジャッジなど出来ないだろう。
今回は選手が共に、容姿・プロポーションとも上々なので、審判を探すのは苦労した。
もちろん高校生が審判になることは出来ない。スタンプラリーの参加者(挑むにしろ挑まれるにしろ)になる可能性がある以上、無意識にでも手心を加える可能性がある。

たかが先攻・後攻を決めるだけの戦いに、そこまで厳正すべきではないという意見もある。
しかし最初が厳正でなければ、後々よからぬ揉め事が起こる可能性がある。
デュエルに不純物が入ることは、許されない。
鷹野麗子が審判を勤めている理由は、概ねこんなところである。

そして当然のことながら、サウナには4人目が存在している。
闇の力で一時的に女になっている獏良了だ。

「・・・・・・。」

サウナ対決に必要な最少人数は4名。
すなわち対戦者の2名と、審判、そして医者だ。

「・・・・・・。」

競技が競技だけに、もしものことがあっては大変だ。
デュエリストはデュエルで死ぬべきであって、サウナで死んではならない。

「・・・・・・。」

闇の力で女になっている理由は、いくら医者とはいえ、女子サウナに男が入るのは倫理的に良くないという配慮から来る措置だ。
本来は鮎川恵美が来る予定だったのだが、デュエル・アカデミアでの仕事が忙しいとのことだ。

「獏良先生、ワインはいかがですか?」
「あ、ああ・・・。」

きぃんと冷えたワインを鷹野から勧められ、獏良は赤い顔で俯いたままグラスを手に取った。
彼、もとい、彼女に巻かれたバスタオルも、それなりにそれなりの曲線を描いている。

そして戦いは第2フェイズへ進もうとしていた。

「ふ・・・朝比奈さんは、デュエリストレベル、だけでなく、サウナレベルも、高いようだ。まさか、こんなにも早く、奥の手を、使うことに、なろうとは、ね。」

永遠はフーフーと息を吹きかけた。

「あ、熱っ・・!」

思わず顔を歪める朝比奈。

「あんた、それは反則じゃないの?」
「それはどうかな・・・鷹野、さん。」

「微妙なところですね。」

そう言って鷹野は、2人の距離を開けるという措置を取った。

しかし永遠は狡猾だった。
何とバスタオルの中から空気銃を取り出したのだ。

「食らえ。」

「あ、熱っ・・! あんたねえ!」

そもそも100℃を超すサウナの中で、なぜ火傷しないでいられるのか?
その理由は、乾燥した空気にある。空気は水と比べて密度も熱伝導も小さいので、たとえ110℃の熱気であろうと、熱が肉体に伝わるまでには時間を要するからだ。
更には、汗が蒸発することで気化熱を奪い、肉体の表面に薄い冷気の層が出来る。これが熱気から肉体を守っているのだ。

だが、その冷気の層さえ剥がしてしまえば。

動いたり、息を吹きかけたりすれば、脆い冷気の層は、いとも容易く壊れてしまう。
サウナ対決と知った永遠は、あらかじめサウナに関する知識を仕入れ、サウナ必勝法を編み出したのだ!



「なんて思ってるんじゃないでしょうね?」



朝比奈の顔つきが変わった。
鋭い眼光が永遠を射竦める。

そして彼女がバスタオルの中から取り出したのは、やはり空気銃。

「なっ・・・朝比奈さん、も?」
「あんたとはホント、考えることが似てるわ。」

地獄のような笑みを浮かべ、朝比奈は空気銃を発射する。

「熱っ・・・く、悔しい、感じちゃう、ビクンビクン。」

その光景を見ながら、鷹野は戦慄していた。

(何というサウナレベル・・・。次に戦うときは、これを超える戦術を編み出さなければならないというわけね!)

消火器を使う鷹野は、もちろん空気銃を持ち込む戦術も考えついていた。
しかし空気銃では、もはや必勝たりえない。

しかも、永遠には更なる戦術が用意されていたのだ。



「ピンポイント・シュート!」



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「形勢逆転だね・・・朝比奈、さん。」

冥府から吹いてくる風のような笑みを浮かべて、永遠は空気銃を連射する。

「あうっ! 嫌っ、やめて・・!」

「最初から勝ち目の無い勝負だったんだよ・・・同じ戦術は、ボクに対しては、あまり、通用しないんだ。もっと痛いことを、されてきた、から。ね。」

「・・・・・・!」

「朝比奈さんほどのデュエリストが《ピンポイント・シュート》で《エフェクト・ヴェーラー》を撃ち抜くことを考えなかったはずはないんだ・・・けれど、無意識に、最悪の、可能性から、目を逸らしてしまった。いや、逸らさざるを、得なかった。この戦術は、女子として、一種の、禁じ手、なのだから。ね。」

「や、やめて・・・もう許して・・・!」

涙ぐんで縮こまる朝比奈。
だが、永遠は猶も空気銃を撃ち続ける。

「見え透いた芝居は結構だ・・・それも、ボクには、通用しない。」

「・・・!」

言われて朝比奈は涙を止めて、ギロリと永遠を見る。

「ボクが百合嗜好を持っている可能性に賭けて隙を作ろうとする執念は尊敬に値する・・・けれど、惜しい、ね。ボクの、百合嗜好は、どっちかというと、ネコだ。ゆえに、反撃の隙を、与えは、しない。」

永遠が攻め側であれば、気を緩ませて反撃の隙を見せたかもしれない。
だが、彼女は受けの側だった。すなわち反撃を許せば即敗北に繋がる。
それを理解していながら、誰が気を緩めるだろうか?


「・・・・・・あたしの、負けよ。」


西虎高校は、先攻決定権を手に入れた。

このことが後に、重要な意味を持ってくるのだ。





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