決闘祭!   Act 235 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅩⅤ)

◆ ◆ ◆



私とリンネの関係は、どのように言うべきかなァ?

“始まりの1枚”の裏表。
神と悪魔。
一と全。
姉と妹。
母と娘。
あるいは恋人。
あるいはデュエルの相手。

私はリンネの分身であり妹であり姉であり娘であり母であり父であり兄であり弟であり友人であり恋人であり奴隷であり主人であり味方であり敵であり相談相手であり好敵手であり真理を探究する仲間。

とても言い表しきれないよ。
だけど今の状況に則して言うなら、原作者と二次作家ってところかな。
リンネが紡いだ世界を、私が記憶し、記録し、写し取り、続きを想像する。
具体的な想像は現実になる。私の“敵対の力”は、具体的な想像を現実化する。
なんて素敵な力。ずっと遊べる力。リンネに楽しんでもらう為の力。

私が紡いだ世界を、リンネは記憶し、考察し、類推し、参考にする。
そうやって新しい世界が次々と生まれていく。
この頃はリンネも私も、きっと誰にも無害な存在だった。
宇宙が自然に滅びるまで、のんびりと待って、それが楽しくて。

気付かなかった。それが永遠でないことを。
知らない振りをした。有限の海を。
目を逸らした。リンネの孤独から。

リンネの孤独なんて、君たち如きに分かりっこないけど、この喩えなら少しは分かるかなァ?
たくさんの物語に触れるほどに、過去最高の感動を更新することは、難しくなっていく。
誰も退屈からは逃れられない。たとえ神様であってもね。

いや、いや、いや、神様“だけ”は、だよ?

だって人間は死ねるから、いつでも退屈から逃げられる。
最高の感動を更新し続ける、いっとう冴えた方法を知ってる?
それは記憶を消去し続けることだって、知ってるよね?

天神美月は、そうしてきた。
みずからの記憶を消すことを望んで、神様を置き去りにして、新しい人生を何度でも何度でも何度でも!
その度に運命の出会いを、世界の命運が懸かったデュエルで、最高の昂揚を、悲劇的な別れを!
リンネや私にとっては見飽きた光景を、何度だって最高の鮮度で味わってきたんだ!

このゲームは、喜びも悲しみも贅沢に味わい続けた美月への、ちょっとした嫌がらせも兼ねていたり?
みゃはは、私だって美月のことを悪く言う資格なんて全然ないっていうのにね!
決して記憶を消すことが出来ないリンネと違って、私は何度だって記憶をリセット出来るし、消したくない部分は都合よく残して、嫌な記憶だけを質量として食べてしまえるんだから!

だから私は、ずっと楽しい。
だから私はリンネの孤独に、ずっと気付かなかった。



◆ ◆ ◆



「おかしいとは思っていたんです。」

吉井は疑問から口にする。

「“敵対の力”が本当に何でも出来るなら、こんな回りくどいことする必要なんて無い。“掌握の力”でも、“回帰の力”でも、好きなように作って、好きなように使えばいいんです。リンネを復活させたいなら、リンネを作ればいいはずです。だけど、それは出来ない。世界を創った神様は、世界の内側に存在していない。」

天神の発する“光の霧”に包まれながら、吉井は“掌握の力”を発動する。

「“敵対の力”にだって、“できない”はある!」



吉井康助:LP8000
月島禍音:



「・・・・・・・」

「みゃはは、残念だなァ。君も人類基準では恐ろしいまでの研鑽を積んでいるけれど、それでも“デュエル維持”の力に限って言えば、康美ちゃんの方が、まだマシだ。私のライフを具現化するにも至らない。だから私のライフは決して0にならない。そんなものは存在しないんだから。」

決して無力ではない。
だが、あまりにも微力。

「その“光の霧”も、“回帰の力”の前には鉛筆の文字も同然―――・・・」

じりっと音がした。
カノンの見開かれた双眸は、崩れゆく肉体に向けられている。
いや、崩れているのではなく、渦を巻いて分解されていく。

「みゅう・・・これは、《うずまき》の力・・・?」

肉体の駆動性が鈍い。

「・・・・・・まさか!?」

少しばかり驚愕を示したカノンは、黒い本を読む。
赫々と輝く左目が、混沌の愉悦に捻じ曲がる。

「みゃはは、にゃるほど! “光の霧”も本来この世界に存在し得ないものだったなァ・・・。君は、いや、君たち人類は、身を賭して私の駆動処理能力を落としたわけか♪ 凄いや、なんてリアリストだ!」

途方もない演算能力を持つコンピューターに、大量の情報を流し込んでフリーズさせるような戦術。
人類すべてを投じたバグ誘発。

惜しくはない。
どれほどの犠牲を払っても。


吉井康助がゾークにデュエルで勝利すれば、リンネの遺した約束が果たされるのだから!!


すなわち、誰も欠けることのない世界。

ゾークは時間すらも超越した存在だ。
それゆえに、レベルマイナス集団と違って、時間が遡及されることもない。

人類ほとんど全てをコストにして、作り出した状況。
ライフポイントを1残すが如く、築き上げた布陣。


“ 倒 せ ば い い ”―――ここまでゾークを追い詰めた。



「みゅふふ、確かに君は今、ハッピーエンドの片道切符を持っている。運転手は君だ。だけど車掌は、その切符を切ってやるわけにはいかない。次の停車駅は、断崖の下だみゅん。」

カノンの内部にある“光の霧”も、もって残り十数秒。
途方もない、悪魔の物量に抗する時間としては、あまりにも短い。

“最大値”の竜堂神邪が、最速で、宇宙が自動的に終焉を迎えるまで演算を続けても、それによる“デュエル維持”の量的価値は、カノンの溜めこんだ質量に遠く、遠く及ばない。
それこそカノンから見れば、人類のボトムとすら大差ない。精々タワー表記の桁違いに過ぎない。第1グラハム数どころか、ラヨ数の類でも足りない質量を持つカノンにとっては、ほとんど違いを感じられない。

「康助、吉井康助、確かに今まで、ハッピーエンドの片道切符さえ手に入れた者はいなかった。そういう意味で君は最強の挑戦者と言っていい。ジャンケンにおいて、相手の1手先を読むのではなく、及ばない読みで同じ成果を出す、生粋のメタゲーマーだ。それでも私の駆動を、少し遅くするのが関の山とはね―――・・・」



「いいえ。」



少年が発したのは、か細くも明確な―――否定。



「みゅ・・・?」


「デュエルは1対1が基本だというのは、否定しません。」

首をかしげるカノンに、吉井は告げる。

「だけど僕は、どんなときも“ひとり”で戦っていたわけじゃなかった。僕は―――」


“掌握の力”が、発動する。


「みゃはっ♪ デッキごと消えて無くなれ!!


“回帰の力”が、吉井の手札とデッキを瞬滅する。
“敵対の力”が、ライフを文字として喰らう。

たとえ∞のライフを得ていても、それは文字としては1文字だ。
悪魔には無限のライフも通用しない。
それどころか、質量を数式に変換し、無限のダメージも思いのまま。



吉井康助:LP0、手札0
場:
場:
墓地:《リンネ-永劫回帰の支配者》
除外:




「僕が掌握するのは―――」



◆ ◆ ◆



この世界は虚構だ。
誰かの描いた物語だ。

そう告げられたとして、何を思う?
僕は何も思わなかった。

嘘だと思ったわけじゃない。
本当だと思ったわけでもない。
虚実の境界線なんて無意味だと思うだけだ。

誰が見ているわけでなくても、人は当たり前のように、誰かが見ている前提で行動する。
ポーズを決めたり、ひとりごちてみたりする。
表情を作ってみたり、即興のルールで遊んだりする。
1分間息を止めるとか、3分間動かないとか。

それは特に意味は無い。他に誰も見ていない。
けれど何故か、やってしまう。
神や悪魔、高次元の読み手を、信じるかどうかは問題じゃない。
知性は自分を客観視する性質があるから知性なのだ。

この世界は、れっきとした現実だと思う。
言うまでもないことだとしても、言っておく。
説法でも解説でもない、ただの応援だからね。

君の勝利を、確信しているよ。

主人公代理から、主人公へ。



◆ ◆ ◆



「僕が掌握するのは―――」


吉井の手に、天神の手と、康美の手が、重ねられた。









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この記事へのコメント

豆戦士
2019年07月16日 03:45
つまり……どういうことだ…………(自分の処理能力を凌駕している)。

たかだか全人類程度の、ごくごく微量な数で挑んだところで、よく知られた巨大数を凌駕するレベルの質量をもつカノンにとっては誤差もいいとこなのでは?????


……とりあえず「カノンをデュエルで倒せばいい」ことは分かったけど、で、どうしろと?????????????????


> ご都合主義
> (魔法カード)
> 都合のいい展開でストーリーを進行させる。

とりあえずこのへんでも掌握してみる?(台無し)
豆戦士
2019年07月16日 03:49
とりあえず、光の霧は敵対の力で生み出せないことはわかったが、やっぱり高々全人類のリソースを突っ込んだところで、十数秒もカノンの影響を止められるものなのか……。質量とはいったい……うごごご……。
アッキー
2019年07月16日 20:58
>豆戦士さん

そのカードを掌握するのは、どっちかというとカノン先生の方かもしれないですね。(意味は次回)


とりあえず、十数秒も止められる理由ですが、「この宇宙に具現化して吉井たちと会話している部分」と、「全人類の意思情報」の比なので、それくらいは止められるかな・・・という推算です。
(この説明も入れておけば良かったと思っても後の祭り!)

ある量を超えた質量を具現化させると、地球などは一瞬で潰れてゲームにならないというのもありますが、そもそもの前提として「“敵対の力”で変換するときにも時間を要している」ので、これまでに吸収した全質量を、この宇宙に具現化するには、相応の時間が必要になります。

「全人類の質量」だと微々たるものですが、「全人類の統一されてない意思」なので、そこそこ対応に苦心するのではないでしょうか。

見城「ブゥの中、悟空とベジータ2人だけで、あれほどやれたんだ。アタシらが吉井の時間を稼げなくてどうする! 人類の力を思い知れ!」

みたいな遣り取りが、そこらかしこで繰り広げられていると思うと胸が熱いぜ!
(描写できなかったのは胸痛。本来は作家仲間それぞれに少しずつ協力を依頼して、こちらと向こうを繋げるとか考えていた・・・)


泣いても笑っても、次回、決着!!


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