宵子の童話「きつねと葡萄」

「ふん、どうせあの葡萄は酸っぱいに決まってるんだ!」
そう言って狐は立ち去ろうとしました。
「あら、そうかしら?」
酸っぱいと言われた葡萄は、狐を呼び止めました。
「本当に私がすっぱいかどうか、味わってみる?」
夜露に濡れた葡萄は、自ら皮を破りました。
ぷちゅっと小さな音がして、割れ目から果汁が出てきます。
ぷるぷると雫を作り、そして狐めがけて落ちてきます。
狐は大口を開けて、果汁を舌に受け止めました。
「あ、甘い・・・!」
「そうでしょう? 酸っぱいと決めつけるなんて、酷いわ。」
「ごめんなさい! 葡萄さんは、とっても甘いです!」
狐は心を入れ替えて、上目遣いで葡萄を見つめました。
「どうしたの? そんなに物欲しそうな顔をして。」
「そ、その・・・・・・」
「もっと私の雫が欲しい?」
「欲しいです!」
狐は反射的に答えました。
「だったら、ぴょーんと跳んでみて?」
「こうですか!」
狐は、ぴょんぴょんと跳ねました。
「ええ、そうよ。とっても元気で素敵よ。」
葡萄は再び、狐に果汁を与えます。
ぺろんと皮を剥いて、露になった果肉。
さっきよりもたくさんの雫が、狐の舌へ落ちました。
「あ、甘い・・・甘いよぉ・・・」
もう狐は葡萄の甘さにメロメロです。
だらしなく舌を突き出して、次を待ちます。
「駄目よ、もっと跳んで。」
「も、もっと?」
狐の脚は、とても疲れていました。
けれど葡萄は言いました。
「ぴょーん、ぴょーん。ほら、ぴょーんって。」
「くっ・・・う・・・」
狐は疲れた身体を奮い立たせます。
ぴょんぴょん跳ねたら、甘い汁が貰えるのです。
ぜいぜいと息をしながらも、狐は跳ねました。
ぴょーん、ぴょーん、跳ねました。
「お見事。素敵よ。」
果実の一粒が絞られ、落ちてきます。
足取りが覚束なくて、受け止め損ねるところでした。
「はむう・・・甘い・・・甘いよう・・・」
蕩けるような顔で、狐は踊ります。
よたよたと、踊ります。
「まだ私が欲しい? 欲しかったら、跳んで?」
「うう・・・もう・・・」
「そうなの。じゃあ、もうあげないわ。」
「嫌だ! そんなの嫌だ!」
狐は目を血走らせて、葡萄に跳びつきました。
けれど高いところにある葡萄には、ぜんぜん届きません。
「いいわよ、その調子よ。ぴょーん、ぴょーんよ?」
夜露に濡れた葡萄は、美味しそうです。
とてもとても美味しそうです。
貪れるなら、何だって出来ると思いました。
「ぴょ・・・ん・・・・・・ぴょ・・・・・・」
口から泡を吹きながらも、狐は跳ねます。
情けなくて、自分が意地汚くて、泣いてしまいます。
それでも狐は跳ぶのをやめません。
ずっと、ずーっと、葡萄を求めて跳ね続けるのです。
ぴょーん、ぴょーん。
ぴょーん、ぴょーん。
いつまでもいつまでも狐は跳ね続けました。


やがて奇妙な駆け引きも終わりました。
狐は二度と跳びません。
その場から動くこともありません。
幸せな顔で目を閉じた狐は、葡萄の苗床になるのです。
落ちた種が芽吹いて、狐を栄養にして育ちます。
すくすくと育った葡萄は、また次の狐を待つのです。
この葡萄も、きっと甘いに違いありません。
おひとつ貴方もいかがですか?



   きつねと葡萄   了






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