「サトリン」 第二十話 電脳邪姫(11)
均衡が崩れ去るときは突如として訪れる。後から考えれば兆候は幾らでも浮かんでくるので、知らず緩んでいたのかと後悔めいた念を抱くが、所詮は後付けの嘆きに過ぎないのだ。渦中にある者を嘲笑うのは、保身に汲々とする醜悪さに通じている。たとえ時代が同じでも、立っていた場所は、それぞれに違う。荊を分け入り、自らの血に塗れた者こそが、かつての出来事を評価するに相応しい。
十島瑠璃子から後の電脳戦士にとっては、とっくに過ぎ去った過去だが、この時代、この頃の電脳戦士たちにとっては、紛れもない現在。年が移って1996年に、惨劇は幕を開ける。これまでのイヴィルクリーチャーが、まるで羽虫のように思える程の、恐るべきモンスターが地獄を齎す。
2001年に電脳戦士になった四方髪凛、2003年の九古鈍郎、2004年の六道櫃、三角龍馬、八谷和真は勿論、1992年に電脳戦士となった十島瑠璃子も、この戦いのことは知らない。・・・いや、1996年の戦いの、全貌を知る電脳戦士は、サトリンただ1人だけだ。なぜなら―――――・・・
「永須、しっかりしろ、おい!」
建設途中のビルは殺風景で、どこか現実味が薄かった。これは映画の撮影か何かと思いそうになるが、生憎とカメラは1台も無い。
「だ、だいじょうぶだべ・・・」
「何で、何で治らねえんだよ!?」
永須を抱きかかえて、零一は半泣きでヒーリングを発動している。だが、永須の傷は塞がる傍から再び、じわじわと開いていく。腕からの出血で、致命傷ではないとはいえ、放置すれば命にかかわる。
「オラのことより、あいつらを・・・」
「・・・くそっ!」
そもそも怪我をするというのが想定外だった。掠り傷ならまだしも、これほどの深手は、蒼志の“電子防御”(プロテクト)に守られている以上、ありえないことだ。たとえ相手が、中生代の殺戮兵器であったとしても。
「「ぎゃおおおうう!!」」
唸り声を発して、現れたのは2匹の肉食恐竜。建物の中にまで入って来れる、小型の、しかし人間よりは大きく、鋭い爪と頑丈な顎を持つハンター。
「ジュラシック・パークじゃねえんだぞ・・・イヴィルのやつ、とんでもねえ!」
子供の頃は勿論、今でも恐竜好きで、図鑑を読んだりもする零一だが、実際に目の前に現れて、しかも襲ってくるとなれば、憧れも郷愁も消し飛んでしまう。見た目おそらくデイノニクスか、そうでなくてもラプトルと呼ばれる類なのは間違いない。(学術的には「ドロマエオサウルス科」と分類されている)
より正確には、それらしいものを遺伝子改造で再現した、キメラ・モンスターなのだろう。タイムマシンで中生代から連れてきたと考えるよりは、現実的だ。
「「ぎゃあう!」」
2体のラプトルは、ほとんど同時に鉤爪を振るった。途端に空気の歪みが直進して、柱の1つをチーズのようにバラバラにした。
「あっぶねえ!」
零一は永須を連れて、テレポートで屋上へ出るが、そこにも伏兵、2体のラプトルが待ち構えていた。
「くっ・・・!」
休む間もなく空気の刃が来る。
零一はサイコキネシスで応戦するが、空気の刃を打ち砕くのが精々。ラプトル本体は、それこそ電子バリアでも張っているらしく、この距離では傷ひとつ付けられなかった。
(冗談じゃねえぞ! ただでさえ高性能の殺戮マシーンが、群れを成して、超能力まで使ってくるだと!? まさにこいつらは・・・イヴィルラプトル!!)
給水塔に立って、街を見回すと、あちこちに蜥蜴のようなものが動いている。ただし、遠近感が狂っているのでなければ、そのサイズは人間よりも一回り逞しい。
(何匹いやがるんだ、こいつら・・・・・・)
十島瑠璃子から後の電脳戦士にとっては、とっくに過ぎ去った過去だが、この時代、この頃の電脳戦士たちにとっては、紛れもない現在。年が移って1996年に、惨劇は幕を開ける。これまでのイヴィルクリーチャーが、まるで羽虫のように思える程の、恐るべきモンスターが地獄を齎す。
2001年に電脳戦士になった四方髪凛、2003年の九古鈍郎、2004年の六道櫃、三角龍馬、八谷和真は勿論、1992年に電脳戦士となった十島瑠璃子も、この戦いのことは知らない。・・・いや、1996年の戦いの、全貌を知る電脳戦士は、サトリンただ1人だけだ。なぜなら―――――・・・
「永須、しっかりしろ、おい!」
建設途中のビルは殺風景で、どこか現実味が薄かった。これは映画の撮影か何かと思いそうになるが、生憎とカメラは1台も無い。
「だ、だいじょうぶだべ・・・」
「何で、何で治らねえんだよ!?」
永須を抱きかかえて、零一は半泣きでヒーリングを発動している。だが、永須の傷は塞がる傍から再び、じわじわと開いていく。腕からの出血で、致命傷ではないとはいえ、放置すれば命にかかわる。
「オラのことより、あいつらを・・・」
「・・・くそっ!」
そもそも怪我をするというのが想定外だった。掠り傷ならまだしも、これほどの深手は、蒼志の“電子防御”(プロテクト)に守られている以上、ありえないことだ。たとえ相手が、中生代の殺戮兵器であったとしても。
「「ぎゃおおおうう!!」」
唸り声を発して、現れたのは2匹の肉食恐竜。建物の中にまで入って来れる、小型の、しかし人間よりは大きく、鋭い爪と頑丈な顎を持つハンター。
「ジュラシック・パークじゃねえんだぞ・・・イヴィルのやつ、とんでもねえ!」
子供の頃は勿論、今でも恐竜好きで、図鑑を読んだりもする零一だが、実際に目の前に現れて、しかも襲ってくるとなれば、憧れも郷愁も消し飛んでしまう。見た目おそらくデイノニクスか、そうでなくてもラプトルと呼ばれる類なのは間違いない。(学術的には「ドロマエオサウルス科」と分類されている)
より正確には、それらしいものを遺伝子改造で再現した、キメラ・モンスターなのだろう。タイムマシンで中生代から連れてきたと考えるよりは、現実的だ。
「「ぎゃあう!」」
2体のラプトルは、ほとんど同時に鉤爪を振るった。途端に空気の歪みが直進して、柱の1つをチーズのようにバラバラにした。
「あっぶねえ!」
零一は永須を連れて、テレポートで屋上へ出るが、そこにも伏兵、2体のラプトルが待ち構えていた。
「くっ・・・!」
休む間もなく空気の刃が来る。
零一はサイコキネシスで応戦するが、空気の刃を打ち砕くのが精々。ラプトル本体は、それこそ電子バリアでも張っているらしく、この距離では傷ひとつ付けられなかった。
(冗談じゃねえぞ! ただでさえ高性能の殺戮マシーンが、群れを成して、超能力まで使ってくるだと!? まさにこいつらは・・・イヴィルラプトル!!)
給水塔に立って、街を見回すと、あちこちに蜥蜴のようなものが動いている。ただし、遠近感が狂っているのでなければ、そのサイズは人間よりも一回り逞しい。
(何匹いやがるんだ、こいつら・・・・・・)

この記事へのコメント