佐久間と山田のけだるい日常 第七十話 ~喪失~(その7)

「誰が倒れるかよ! この誇り高き闇の帝王がよォ!!」
佐久間は床を蹴って後ろへ跳び、玄関を背にした。
「おやおや、逃げる気なのかね?」
八武も見た目ほど余裕ではない。自己再生は、失った血液や肉までは戻らない。傷が治るだけだ。
しかし、山田が立ち上がった。
「逃がさん。」
山田の全身から重苦しい重圧が沸き立った。
「ひっ・・・!」
佐久間が、あの佐久間が思わず悲鳴をあげるほどだった。
いつもの佐久間でないとはいえ、弱りきっているとはいえ、それでも悲鳴をあげた。
だが、やはり佐久間である。
「ひ・・・ひひ、来いよ。」
佐久間の姿勢が変わった。この短時間で回復してるというのだろうか。
更に、身体感覚のズレも直してきているとしたら、厄介である。
それが出来るから、佐久間闇子なのだ。
「はあっ!」
山田は拳骨を放つ。
それを佐久間は両手でいなし、カウンターで山田の顔面に膝蹴りを入れる。
山田が仰け反った瞬間に、更に打撃を連発。明らかに回復している。
「がはっ!」
互いに傷ついている状況、これほど佐久間に有利なことはない。
続いて八武が向かうが、腹部への一発と引き換えに急所を幾つか殴られ、脳を揺らされて立てなくなった。
最悪の状況からでも、ここまでの戦闘が出来る。戦闘狂たる戦闘狂。
「終わりかよ。ようやく準備運動が終わったというのに、これでは本気を出せやしない。」
それが強がりであることはわかっても、佐久間を倒せない。
時間が佐久間に味方する。
「誰か・・・立てないか・・・?」
山田の呼びかけに、応える者は・・・・・・いた。
それは八武でもないし、ミガロスでもない。竜太郎でもない。呆気なく倒された4人は、まだ夢の中だ。
では、誰が?
結論から言うと、今の佐久間は人間を見くびりすぎた。
正確に言うと、山田の呼びかけに応えたわけではない。
病院の医者や看護婦たち、そして退院を間近に控えた患者たちだった。
「!」
佐久間が振り返ると、破壊された玄関のあたりにもスタッフが集まっていた。裏口から回ったのだろう。
「てめえら・・・」
佐久間は震えながら笑った。
半分は戦闘の喜びで。
もう半分は、恐怖で。

それからは、物量戦だった。
次々と迫り来る人間たちを、佐久間は格闘術だけで薙ぎ払う。ミクモウの右手が使えなくても、彼女の戦闘力は凄まじい。10人、20人、30人と、倒されていく。
「ここは病院だ! ドクター八武の病院だ! 死んでなければ治る!」
その言葉が皆を奮い立たせた。
ここで負ければ死ぬ。だが、勝てば生きるのだ。佐久間は人間に恐怖を与えすぎた。
「ならば死ね!」
しかしもう、佐久間に人を殺せるだけの力は残っていなかった。
消耗し、消耗し、消耗し続け、倒すのがやっとだった。
それでも、佐久間闇子は佐久間闇子だった。
スタッフと患者、全てを床に這い蹲らせた。
そしてそれは、彼女の敗北を意味していた。
「皆の衆、時間稼ぎご苦労。」
点滴で血液と栄養を補充した八武が、白衣を翻して立っていた。
「終わりだ、戦闘狂。」
「・・・!!」
八武の剄を込めた打撃が、佐久間の肉体を芯から打ち抜いた。
「くあああああっ!!」




つづく

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