クラメーションあるいは蔵目翔 8

「セレス、何も説明してないのか?」
カタストロは朋萌のことを“セレス”と呼んだ。非難めいた口調ではない。
「そうです。さっき起きたばかりでしてね。あ、名前と年齢は教えました。」
「そうか。まあ、あらためて名乗っておこう。私はフィー・カタストロ。アルカディアのNO.10だ。」
澄んだ声だった。
年寄りの声と言えば、男でも女でも、濁ったしゃがれ声しか知らなかった。だから彼にとって、カタストロの声も、年齢を知ったときと同じく衝撃的だった。
弱々しくない程度に、スラリとした体つき。思わず抱き締めたくなった。
「好きだ!」
「んっ?」
カタストロは口をすぼめて目を見開いた。
すぐに元の無表情に戻るが、少し沈黙が流れた。
笑顔の少年。
唖然とした天道朋萌。
無表情のフィー・カタストロ。
「・・・えーと、アルカディアの説明してもいい?」
「うん。」
天道朋萌が沈黙を破り、彼が短く答えた。
「アルカディアというのは、エスパーや社会的弱者を集めた秘密結社よ。」
「かっこいい! 俺も入りたい! 入りたいったら入りたい!」
「そのつもりで連れてきた。」
「やった、やった! やったかたんたんたーん!」
カタストロの言葉に彼は、狂喜乱舞した。空間の足場を作って、そこら中を縦横無尽に駆け回った。
「それで早速、超能力の訓練をしようと思うわけだが・・・」
「やる!やる!やる!」
彼は目を輝かせて、カタストロの前で足踏みした。
この様子なら、訓練の意義を説明しなくても良さそうだ。
「その前に名前を聞こうか。」
「名前?」
彼は首をかしげた。
カタストロは口をすぼめて天道朋萌を見る。
「えーと・・・ああ、どうやら決まった名前は無いみたいです。」
「そうか。それなら“クラメーション”というのはどうだ? 声が大きいから、エクスクラメーションマークから取ってみたんだが。」
この名前でいいか、などと尋ねられることは、彼にとって初めての経験だった。今まで好き勝手に呼ばれてきて、許可を求められたことなんてなかった。こんな洒落た呼び方をされるのも初めてだった。
「うん。いいよ。」
上手く喜びを表現できずに、素っ気なく答えてしまったが、内心は爆発しそうなエクスタシーがあった。
満ち溢れた感情で、全身が震えていた。

こうして彼は名前を得た。


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