決闘祭!   Act 234 リンネの左手、ゾークの右手(ⅩⅩⅣ)

◆ ◆ ◆



私とリンネの関係は、どのように言うべきかなァ?

“始まりの1枚”の裏表。
神と悪魔。
一と全。
姉と妹。
母と娘。
あるいは恋人。
あるいはデュエルの相手。

私はリンネの分身であり妹であり姉であり娘であり母であり父であり兄であり弟であり友人であり恋人であり奴隷であり主人であり味方であり敵であり相談相手であり好敵手であり真理を探究する仲間。

とても言い表しきれないよ。
だけど今の状況に則して言うなら、原作者と二次作家ってところかな。
リンネが紡いだ世界を、私が記憶し、記録し、写し取り、続きを想像する。
具体的な想像は現実になる。私の“敵対の力”は、具体的な想像を現実化する。
なんて素敵な力。ずっと遊べる力。リンネに楽しんでもらう為の力。

私が紡いだ世界を、リンネは記憶し、考察し、類推し、参考にする。
そうやって新しい世界が次々と生まれていく。
この頃はリンネも私も、きっと誰にも無害な存在だった。
宇宙が自然に滅びるまで、のんびりと待って、それが楽しくて。

気付かなかった。それが永遠でないことを。
知らない振りをした。有限の海を。
目を逸らした。リンネの孤独から。

リンネの孤独なんて、君たち如きに分かりっこないけど、この喩えなら少しは分かるかなァ?
たくさんの物語に触れるほどに、過去最高の感動を更新することは、難しくなっていく。
誰も退屈からは逃れられない。たとえ神様であってもね。

いや、いや、いや、神様“だけ”は、だよ?

だって人間は死ねるから、いつでも退屈から逃げられる。
最高の感動を更新し続ける、いっとう冴えた方法を知ってる?
それは記憶を消去し続けることだって、知ってるよね?

天神美月は、そうしてきた。
みずからの記憶を消すことを望んで、神様を置き去りにして、新しい人生を何度でも何度でも何度でも!
その度に運命の出会いを、世界の命運が懸かったデュエルで、最高の昂揚を、悲劇的な別れを!
リンネや私にとっては見飽きた光景を、何度だって最高の鮮度で味わってきたんだ!

このゲームは、喜びも悲しみも贅沢に味わい続けた美月への、ちょっとした嫌がらせも兼ねていたり?
みゃはは、私だって美月のことを悪く言う資格なんて全然ないっていうのにね!
決して記憶を消すことが出来ないリンネと違って、私は何度だって記憶をリセット出来るし、消したくない部分は都合よく残して、嫌な記憶だけを質量として食べてしまえるんだから!

だから私は、ずっと楽しい。
だから私はリンネの孤独に、ずっと気付かなかった。



◆ ◆ ◆



「1890億とんで1万8608時間40分と少しか・・・。予想よりは多少ねばったけど、所詮は付け焼刃だみゅ。」

“敵対者”は、最初から変わらぬ顔で、あっけらかんと言う。
全く疲労を感じない。底知れない質量。

「みゃはは、発想は良かったよ? 生物として不可避の疲労を、物量で補うのは、いっとう冴えた手段だ。“能力付与”に対しても、元の魂でない部分を捕捉できる能力者がいれば事足りる。それぞれが互いに足りない部分を補い合う、美しい光景だ。シンヤ君には決して出来ない、団結の力。1枚あたり攻守数兆規模ってところかな。」

“決闘者”は、言葉も発せないほど披露した状態で、身動きする気力も無い。
いや、最初から発せる言葉など無かった。

「だけど数十億の意思統一なんて、簡単に出来ると思う? 強い意思や多数の意思が、時間と共に支配的になり、他の意思は君を駆動させる為の“電池”になり下がる。土台、無理な話なのみゅ。・・・意思統一が、じゃないよ? たとえ完全な意思統一が出来たとしても、私にとっては過ぎ去った過去で、私にとっては小指の先にも遠く及ばず、私にとっては見飽きた光景なんだよなァ。“裂く死ぬ世界”と“月下決葬”の合わせ技、あらゆるものを漠然と消滅させるフィールを纏って戦うことも、かつてシンヤ君とヒトミちゃんがやってた“瞬滅神炎”(デビルズフェニックス)の劣化版でしかない。残念だったね、マサキ、アルド。君たちの新しい発想は、古かった。」

最悪の少女は、もはや笑いもしない。

凍える闇を双眸に湛えるのみ。


「“敵対の力”で捕食できる対象に、デュエリスト能力発射ぶくろも含まれているとは思わなかった?」


たとえデュエリスト能力そのものが、完全無欠だとか、コスト0だとしても。
あらゆる攻撃を振れる前に自動迎撃できる、無敵にして最強の矛盾を兼ねた装備だったとしても。

デュエリスト能力発射嚢は、単なる魂の器だ。
注がれた液体が文字通りに万物を溶かし崩すとしても、器を割るのは容易い。あまりにも。


「“敵対の力”による変換が、一方通行だったら良かったのにね。だけど残念ながら、私は“暴食”だから。」


むしろ質量を溜め込む方が本質とさえ言える。

溜め込んだ質量を、どう利用するかというだけの話だ。


「・・・さてと、そろそろ届く頃合いかな。」


次元を超えて、“神の左手”が悪魔に宿る。


「うん、もうひとりの私は、康美ちゃんを誑かすことが出来たみたいだね。」


この為に娘たちや秋野を、闇のデュエルで言いなりにした。
ただし自我も何もかも残っている。
本人たちも、意思を誘導されている自覚は無い。
それこそ、千年アイテムによる洗脳よろしく!


「ごめんねマサキ。“ブック・オブ・ザ・ワールド”の裏をかいたつもりだろうけど、それで欺けるのは“読者”くらいのものだよ。葉継ちゃんや行方ちゃんは騙せても、きっとシンヤ君すら騙せない。まして私は過去の世界で、散々それに騙されてきてるんだから、もう見飽きた展開だったんだ。」


右手に“敵対の力”を。

左手に“回帰の力”を。


神の左手、悪魔の右手を、最悪の少女は手に入れた。


「君たちは自分で超融合を選択したつもりで、実は私に誘導されていたんだみゅ。厄介きわまりない連中も纏めて“決闘者”という肉塊にしてしまう作戦、無事に成功。いただきまーす♪


ぺろり

ごくん

ごくごく


「デュエリストって、美味しい・・・・・・♪」


咀嚼する悦楽。

嚥下する恍惚。


「うん、うん♪」


最悪の少女は、最高の笑顔で、誰もいない世界に告げる。



「やっぱり私は、デュエルが好きだよっ!! みゃははははははっ♪」



◆ ◆ ◆



Zork must be hated Zork must be.
Zork must be hated Zork must be.

Zork eyes see dark Zork eyes see.
Zork eyes see dark Zork eyes see.

Zork take me house Zork take me.
Zork take me house Zork take me.

Zork make me evil Zork make me.
Zork make me evil Zork make me.

Zork is enemy Zork is vice.
Zork is enemy Zork is vice.

Zork is afraid of naught world.
Zork is afraid of naught world.

Zork tell you word Zork tell you.
Zork tell you word Zork tell you.

Zork shall come back Zork shall come.
Zork shall come back Zork shall come.



◆ ◆ ◆



「待ってたよ、吉井康美ちゃん♪ 最後の人類、“掌握の力”の持ち主にして、“始まりの1枚”の継承者、そう♪ 君は永劫回帰の継承者っ♪ ようこそ我が闇へ♪ 退屈な闇の魔王城へ♪」

そこにいるのは、何だ。
ここにいるのは、何だ。

月島カノン、あるいはゾーク。はじまりのゾーク。
たったひとりの敵対者。

「みゅふふ、やっぱりデュエルは1対1が基本だよね? だけど君に興味は無いんだ。たとえ君が特記戦力だとしても、今となっては単なる“素体”に過ぎないんだ。神降ろしのための・・・・・・」

もはや何者かも分からぬ悪魔は、らしく笑みを浮かべる。

「素材は全て出揃った。君を憑代に、リンネは復活する。」

「―――っ」

あまりにも不明な敵に対して、2千万年を生きた少女は、考えるよりも早く右手を突き出す。
神の右手、“掌握の力”は、神の本体、《リンネ-永劫回帰の支配者》を顕現する。

「みゃはは、それじゃあ足りない。“足りない”んだ、康美ちゃん。たかだか20年足らずの研鑽で、神に比肩する人はいても、たかだか2千万年の研鑽で、人は神を知り尽くせない。」

眼を閉じて、しなる指が虚空のカードを掴む。
心臓で切る鎮魂のドロー。

「例えばLP8000に対して、8000以上の直接攻撃力は全て同じ。ジャストキルを除くなら8001以上。折り返しなら8000を引くだけで合流するし、反射も有限の水増しでしかない。名前も、カテゴリも、テキストも、そうやって考えていくと、どうしても有限なんだみゅ。・・・なんだけど、ルールの違い、カードプールの違い、デッキの並び、プレイング、コイン、サイコロ、ルーレット、それら全てを場合分けし尽くして、デュエルモンスターズの真理に至るには、20億年だって短すぎて話にならない。君には、君たちには、リンネの孤独なんて絶対に分かりっこない。」

「今更、恨み言を―――・・・」

気圧されまいと紡ぐ言葉には、しかし精彩が宿らない。
悪魔の突きつけた死刑宣告を、全く躱せていないのだから。

「みゃはは、これは恨み言じゃないよ? 単純な物量差の話。・・・確かに君が思う通り、リンネは、“始まりの1枚”は、ゲームをゲームとして成立させる、“デュエル維持”の性質を持っている。だけど“小指の先”理論だ。君が掌握できる量の“デュエル維持”では、私の“5手目”すら引き出せない。」

首に縄が絡む音がする。
それは錯覚だと分かっているが、迫りくる死は現実だ。

「参考までに、過去の世界で“最大値”の竜堂神邪は、私相手に“9986手”、リンネ相手に265万9855ターンを戦えたほどの強さを持っていた。それだって最強の挑戦者じゃない。あの世界では、武藤遊戯も、黎川零奈も、みんなみんな、ずっと強かった。もちろん君だって、今みたいな震えるだけの女の子じゃなかったよ?」

助けて、お父さん。
助けて、お母さん。

脳裏に浮かぶのは、2千万年を過ごした空、大地。
二度と還らぬ、同胞、師、友。


「問答はオシマイ。そろそろ吸収させてもらうみゅ♪」


そう言ったカノンの腹部は、不自然に膨れていた。


「みゅ・・・?」


まるで妊娠を早回しでもしたように、急速に子宮が膨れる。
ばつんと音がして、羊水ではなく鮮血と細胞の汁が飛ぶ。

光が溢れ出す。

光の粒子に包まれて、少年と少女が出てきて、ふたりは、康美の手を取る。
右手を父親が、左手を母親が。
まだ見ぬ未来の我が子を、導くようにして。


「もう大丈夫よ。」

元いた世界では、とっくに亡くなった母親と、寸分違わぬ慈愛の笑み。
さっきまでの不安や恐怖が、嘘のように消えていく。

天神美月の笑みは、慈愛に程良い悪意を味付けした、少女の微笑みだ。
それは吉井康助に対する、信頼に他ならない。


「あとは僕に任せてください。このデュエルに勝って、みんなを取り戻します。」


“掌握の力”と、“始まりの1枚”が、ようやく吉井康助の元へ戻る。
この物語に主人公というものがあるとすれば、それは彼を置いて他ならないのだ。






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