佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 決闘教師 (前編)

<<   作成日時 : 2014/12/21 00:00   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 2

◆ ◆ ◆



ある人は言う。教師は聖職者であると。

ある人は言う。教師は永遠の子供であると。

ある人は言う。教師は人間であってはならないと。

ある人は言う。教師は命に代えても生徒を守るべきだと。



ある人は言う。それらは全て、同じことを別の言葉で言い換えたのだと。



◆ ◆ ◆



どうしてこんなことになってしまったのだろう―――・・・と、秋野連珠(あきの・れんじゅ)は、思わなかった。
人の振り見て我がフリ直せとは、よく言ったものであるし、それを踏まえて考えれば予想できた事態であった。
ただ、思っていたより早くそれが訪れたことに、面食らったのは正直なところである。
・・・もとい、吐き気がするほど緊張した。大袈裟に言えば、心臓が飛び出るかと思ったくらいだ。

まるで走馬灯でも見るように、関連する記憶が彼女の脳内を駆け巡った。
最初に浮かんできたのは、去年の夏休み付近。
夏休みの前だったか後だったが、とにかく暑い夏のこと。



- - - - - -



「よっ、辛気臭い顔してんなよ、少年!」

同僚の体育教師が、1人の生徒の背中を叩いていた。
その快活な女性の声は、遠くからでもよく聞こえてくる。

干支川火元(えとがわ・ひもと)。それが彼女の名前だ。
江戸川ではなく、干支川。濁点が1つ少ない。
どこぞの旧家に縁のある出身だというが、むしろ下町風の気さくな雰囲気で、多くの生徒から親しまれている。
しかし声をかけられた男子生徒は、どことなく暗い顔で会釈し、無言で歩いていった。

「・・・あーあ、嫌われてんのかね。」

そう言いつつも、大して気に病んでいる様子は無い。さばさばした口調だ。
そこで彼女は、ようやく私に気付いて表情を変えた。
私は職員室へ向かって歩いていて、干支川と向かい合う形になる。

そう言えば、私が高校生のときの体育教師もジャージ姿だったが、ジャージというのは体育教師の制服みたいなものなのだろうか。干支川は、この糞暑い日にも関わらず、上下長袖のジャージを着ていた。職員室は冷房が効いているが、私の服装で丁度いいくらいだ。
ふと、知り合いにジャージ萌えを主張して憚らない男がいたことを思い出したが、どうでもよかった。

「よっ、秋野先生。相変わらず綺麗やね。」
「ありがとうございます、干支川先生。」

清楚な美人というのが、私に対する一般的な評価らしい。おしとやかとか、控え目だとかも、よく言われる。
何を以って清楚というのか、何を以って美人というのか、その定義が不明瞭なので、特に嬉しいとも息苦しいとも思わない。私は普通に、自分の社会的な感覚に従って、真面目に振舞っているに過ぎないのだ。真面目に。

「秋野先生のクラスは、面白い生徒が多くて羨ましいわー。わたしのクラスは、いかにも真面目ぇーな優等生ばっかりで、つまんないしなー。」
「そうですか? 大人しくていいじゃないですか。」

私に歩幅を合わせて、干支川が付いてくる。
職員室に戻ろうとしていたのでないなら、何か用事があったのではないかと思ったが、違うようだ。

・・・それにしても、“つまんない”か。

よく言ってくれる。
ホント、よく言ってくれるよな。

それは子供時代の私に対する評価そのものだ。
真面目で、堅苦しく、根暗で、面白味の無い、成績だけは良い、つまらない奴。優等生という名の嫌われ者。
私も「そうですか?」とか言ってんじゃねえよ。

「大人しいって、行動力が無いってことを、良く言い換えただけやん。三島とか、その典型だし。根暗ぁーで、引っ込み思案で、イカニモいじめて君? 一言で言うと、つまんねえ奴。」

三島黒逸(みしま・くろいつ)。先程の少年の名前だ。
反応の薄さに腹を立てているのか。彼を憎悪しているのか。

いや、きっと彼女は、他愛無い世間話のつもりなのだろう。
親しい同僚に、ちょっとした愚痴をこぼしているだけなのだろう。

ああ、だから、それに私が過剰反応して、ハラワタが煮えくり返るほどの怒りを覚えるなんて、
程よく涼しい職員室なのに怒りの熱で全身から汗が噴き出すなんて吐き気で胃が逆流しそうになるなんて
てめぇの臭ぇ口から汚物垂れ流してんじゃねえぞ豚が死ねゴミ教師くたばれ体育会系熱血無神経のクズ雌肉

・・・・・・などと思うことは、お門違いなのだ。

清楚な美人というのが、私に対する一般的な評価らしい。それが正しいのか間違っているのかはわからない。
ただ、おしとやかで綺麗だとか、行儀良くて控え目だとか、そうした評価は言外に、真面目で、堅苦しくて、根暗で、面白味の無い、職務だけは無難に遂行する、冒険心の無い、つまらない女・・・そういう意味を含んでいる。
だから嬉しいとは全く思わないし、勝手に言ってろと心の中で溜息をつけば、息苦しくも何ともない。

そんな私は、生徒を生徒としか見れない。学校という店にやって来る、お客さんとしか見れない。
干支川にように、真正面から生徒にぶつかっていくことはない。
教師として評価が高いのは、私を羨ましいと口では言う、彼女の方だ。

私は、良い教師ではないな。



- - - - - -



その翌年、というか殆ど現在に近い、4月しょっぱなの日。入学式の日。
体育館には、1年生、2年生、3年生、それらが混成した生徒たちが詰め寄せていた。

言うまでもないことだが、この翔武学園は、毎年デュエルによって生徒会メンバーを決定する。
それを聞いて大概の人は、とんでもない制度だと目を丸くするようだが、そうでもないのだ実際。

逆に考えてみてほしい。いわゆる“普通”の、生徒による投票が、どれほど公正なのかどうか。
そこには前評判や容姿、噂、コネ、組織票・・・不透明な要素が幾らでも入り込む余地がある。
学校の選挙などはマシな方で、大人社会の選挙などは、カネの多寡で勝負が決まるではないか。

デュエルモンスターズとて、強力なカードを持っている方が強く、カネの多寡は勝負に影響する。
だが、影響するだけだ。それが勝負を決する絶対的なファクターでないのなら、容認するべきである。
公正であれば、平等でなくていい。過ぎた不平等は是正すべきでも、出る杭を叩き潰してはならない。

こんなことを言うのは、そもそもデュエリスト能力者の存在から、厳密な平等性などというものは人間には実現不可能だという前提があるからだ。

デュエリスト能力者は、全世界で2億5千万人ほど。
その殆どがレベル1能力者であり、レベル2なら学校に1人程度、レベル3ともなれば相当レアだ。
ざっくり言うと、レベル2は1000万、レベル3は20万、レベル4は4000人ほど。
そして公式のレベル5能力者は、現役で12名しか存在しない。

ここまで言えば、この翔武学園が、いかに能力者過密の高校か、わかろうというものだろう。
全校生徒の4分の3がデュエリスト能力者であり、クラスに1人はレベル2以上が在籍している。
それは生徒たちのデュエルの実力と大いに関係しており、能力者でなくとも実力は確かだ。


ガリガリガリガリ!

マイクを通して響いてきた雑音で、私の思考は中断された。


壇上で女生徒がマイクを片手に爪を立てている。
高校生らしからぬ風格と色気を持った彼女は、2年生の鷹野麗子。
1次審査の司会は、彼女が務めることになっている。

「オ〜ホッホッホ! 皆さんよくご存じの通り、私は鷹野麗子。強さと美しさを兼ね備えた、完全無欠のパーフェクト・ビューティーよ! 決して自惚れなんかじゃないわ、ただ事実を述べたまでよ。」

そう、彼女が言ってることは、極めて当たり前の事実に過ぎない。1+1が2になるくらい、当然のことだ。
ともすれば傲慢きわまりないセリフも、彼女が言うと思わず頷いてしまう。これも人徳というものだろう。

「1次審査は私が、2次審査は天神さんが、最終審査は生徒会メンバー全員で行うわ。それら全てをクリアした者のみが、第14期翔武学園生徒会に入ることが出来る。ここまでで質問のある人はいるかしら?」

誰も手を挙げない。ここに来る者からすれば、わかりきっていることだ。

「それでは1次審査の内容を発表するわ。」



- - - - - -



そこで走馬灯は場面を切り替えた。
審査に関する波乱万丈のエピソードは別の機会に語るとして、現在の状況に関係あることを抜き出そう。

1次審査は“リアルタイムルール”で人数を絞るものだったが、そこで際立った活躍を見せた少年がいた。
惜しくも敗れはしたものの、最終段階に近いところまで残っていた唯一の新1年生。
元気いっぱいでデュエルしていた彼は、悔しさに頭を掻き、涙ぐんで鼻をこすっていた。

「今年の1年にも、活きのいい奴がいるやん。」
「・・・そうですね。」

隣にいた干支川に、適当に相槌を打つ。
そのときはまだ、現在の事態など、私は想像だにしていなかった。

少年の名は飛堂空路(ひどう・くうろ)。
今年度になって、干支川火元のクラスの一員となる、レベル1能力者の名前である。





テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
決闘学園・壊   目録
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2015/08/31 00:11

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
コング「では問題です。次の4つのうち正しいものは。教師は生殖者。教師はアルドの子ども」
ゴリーレッド「真面目にやりなさい」
火剣「真面目もテーマだ」
コング「教師は人間であってはならない? じゃあ次の西尾雅架の職業は教師か」
ゴリーレッド「関係ない話はよそう」
コング「教師は命に代えても女子生徒を守るべき」
火剣「女子限定か?」
ゴリーレッド「定義なんか本来ない。皆その人の表面だけを見たり、一面だけ見て全てをわかったような評価を下す」
火剣「そして清楚とか真面目とか既存の言葉でテキトーなこと抜かす。全く浅いぜ」
コング「清楚な美人はとりあえず褒め言葉」
火剣「真面目な優等生ばかりでつまらない。生徒が聞いたら深く傷つき、教師に不信を抱くな。根暗という言葉で被害を受けた生徒は多数。マスコミは考えろ。死語になって良かったが」
ゴリーレッド「不良のほうがカッコイイと憧れたら一気に乱れるのが思春期だ」
コング「みんな何を怒っているんだ?」
火剣「生徒の投票ではなくデュエルで決めるか」
コング「デュエリスト能力者は2億5千万もいるのか。我々ヒロピンファンも負けてはいられない」
ゴリーレッド「負けていい」
火剣「人間界で厳密な平等は無理か」
コング「特に女子はルックスで人生が左右される」
ゴリーレッド「コングみたいな男が多いから」
コング「おしとやかな女が乱れるとギャップ萌え」
ゴリーレッド「そういう物語ではない」
火剣「鷹野麗子、天野さん? 豪華キャストが登場か」
ゴリーレッド「飛堂空路。この少年に注目か」
コング「秋野連珠がヒロインだ。お忘れなく」



火剣獣三郎
2014/12/21 00:38
>火剣さん
クラスを活性化させるのは不良だというのが、教育現場の常識だそうですが、それを聞いたときには悔しくてたまりませんでした。
真面目さが嘲られ、優等生が謗られ、破天荒な不良が称えられる。そのことが、どれだけ人の心を磨耗させるのか。
何度かエッセイで扱っていたテーマに、今度は小説で挑戦します。

佐久間「アルドの子供、その発想があったか!」
山田「ふざけない。」
佐久間「いや、ふざけてるわけではなく。・・問題児に手をかけて、それ以外の生徒を置き去りにするのは、普通の教師だ。普通のね・・・。ごく普通の人間、ごく普通の大人だよ。」
維澄「つまり、普通では務まらないというわけだ。教育者は高い意識を持たないとね。」
神邪「なるほど、だから教師は人間であってはならないと。」
八武「そういう意味でも西尾は教師に向いている。真面目に思う。」
山田「うーむ。」
維澄「体を張るだけが生徒を守ることじゃない。きちんとルールを守っている生徒を、ちょっと褒める。これがどれだけ心を活性化させるか。」
佐久間「ちなみに生殖に関する話は、教師の間でも頭を悩ませているそうだが、それについて語ると長くなるので別の機会に。」
神邪「相変わらずコングさんは、とぼけているようで核心を突いてきますね。」
佐久間「まあ、女子に限定してはならないわけだが、生徒によって対応を変えるのは正解。会話を好む生徒もいれば、話しかけられるのが苦手な生徒もいる。」
神邪「平等よりも公正というわけですね。」
八武「さて、物語はどうなるかな?」
アッキー
2014/12/21 23:24

コメントする help

ニックネーム
本 文
決闘教師 (前編) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる