佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 決闘航海   Game Time 〜十字拘束! ワン・デュエル!〜

<<   作成日時 : 2015/03/03 00:00   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 2

◆ ◆ ◆



リボンで括られた麦色の髪が、不安と緊張で左右に揺れる。
あどけない顔の少女は、デュエルフィールドの横に立てかけられた大きな十字架を一瞥し、身を竦ませた。

「わたしの先攻!」

14歳にして、裏カジノへ身を投じている彼女は、凜堂涼香(りんどう・すずか)。
発育の良さが、男たちのみならず女の視線まで集める中、涼香はデッキからカードを引いた。



◆ ◆ ◆



かのイシズ・イシュタールが千年アイテムのレプリカを巡り、死闘を繰り広げたことは、あまり知られていない。
イシズが多くを語らなかったのは、眠れる魂の安息を妨げない為―――あの悪夢のような戦いがあったことを伝えるのは、イギリスにある小さな石碑だけだ。

今は存在しない遺跡で行われたデュエルは、原始的な特殊ルールを用いて行っていた。
イシズは、その部分だけは情報を開示し、いちデュエリストとしてデュエルの普及に携わる。
それは海馬瀬人を通じて、広くデュエルの教育機関へ流布されることになった。


<ワン・デュエルのルール>

・初期ライフポイントは2000
・初期手札枚数は、1ターン目のドローカードを含めて3枚
・1ターンに使える手札は、モンスター・魔法・罠を問わず、合計で1枚だけ
・相手プレイヤーへの直接攻撃有り
・守備表示での召喚は、表側守備表示



初心者にデュエルを学ばせる為に作成された手法だったが、実は上級者にも愛好家は多い。
環境の高速化が進む中、こうした原始的なルールの方が駆け引きの味があり、玄人向けであるとも言えるのだ。

デュエルモンスターズは、ルールを変えるだけでカードや戦術の価値がガラリと変わる。
スペシャルルールやキングダムルールのもとでは活躍していた上級・最上級モンスターたちが、スーパーエキスパートルールやマスタールール2のもとで影を潜めていったことは、有名な話である。
また、《うずまき》が大袈裟でなく革命的であることも、ルールの重要さを示していると言えるだろう。


豪華客船エドワード二十六世号は、麻薬や武器の密輸船であり、裏カジノを営んでいる非合法の塊だ。
その中に存在する、番人の守る7つのデュエル・ゲーム―――船長室へ通じるカード・キーが設定されているゲーム―――その1つに、涼香は挑んでいる。

ワン・デュエルで、ディーラーである“剣呑な胡蝶”に勝利すること。
それがカード・キーを獲得する条件だった。

無論、このデュエルは賭けデュエルであり、所持デュエル・マネーを賭けて勝てば同じだけの金額が手に入る。
1ターンキルまたはジャストキルを達成すれば、倍返し。それらを同時に達成すれば、倍の倍で4倍返しとなる。

そして、カード・キーを賭けてデュエルする場合は、更に追加の事情が加わる。
敗北したとき、バイサー・デスとバイサー・ショックを組み合わせた十字架―――デュエリストの間では極めて有名な処刑台に磔にされ、電流が流される。

その電撃は、“もうひとりのバクラ”あるいは“不死身の数学者”が浴びるような代物であり、普通の人間にとっては電気椅子による処刑と変わらない。

涼香の目的は、100億円を超える借金を返済することであり、カード・キーなど無用の長物だ。
しかし、恩人である青年の為に、彼女は命を懸けてデュエルすることを決意した。

(手札は悪くない。だけど・・・)

前述の通り、このルールのもとではカードや戦術の価値が、マスタールールとまるで違う。
禁止・制限は存在しないが、それは禁止カードや制限カードの威力が、それだけ損なわれているということ。
例えば《強欲な壺》などは、考えなしに発動すれば、手札を1枚増やすだけで無防備を晒す。スーパーエキスパートルール以上に、使いどころの難しいカードと化すのである。

それだけではない。
涼香が躊躇ったのは、前の挑戦者が敗れている光景を見ているからだ。
それはカード・キーを賭けたデュエルではないので、死人は出なかったが、最も注目すべき点は他にあった。

「どーうー、しました? 制限時間が過ぎちゃいますよ?」

1ターンの制限時間は3分だ。
少年ディーラー“剣呑な胡蝶”は、眠そうな目つきと声で問いかけた。

「は、はい!」

一見すると親切なように見えるが、フェアなだけである。
カード・キーを賭けた勝負で勝てば、容赦なく相手を電流処刑してしまう。
この船のディーラーは、デュエリストであって、ヒューマニストではない。

「わたしは、カードを1枚伏せてターン終了です!」



凜堂涼香:LP2000、手札2
場:
場:伏せ×1

剣呑な胡蝶:LP2000、手札2
場:
場:




「なるほどー、んじゃ、僕のターン。ドロー。」

まだ幼さの抜け切れていない少年は、見た目通りの13歳。
少年と少女が命を懸けたデュエルをする、それが裏の世界だ。

観客たちは、ぎらぎらした目つきでデュエルを観戦していた。

「この世は所詮ー、夢か幻ーなのー。ワイルドマンを召喚して、攻撃ーなのー。」

「―――っ!!」


E・HEROワイルドマン レベル4 地属性・戦士族
攻撃力1500 守備力1600
このカードはモンスターゾーンに存在する限り、罠カードの効果を受けない。



「きゃああああ!!」

凜堂涼香:LP2000→500


これこそ、ワン・デュエルの恐ろしさであり、醍醐味であもる。
ワイルドマンは、マスタールールのもとでは決して強いカードとは言えない中堅的存在だ。
しかし、このルールのもとでは凶悪なアタッカーとして機能する。

無論、攻撃力または守備力が1500以上のモンスターを出しておけば防げるのだが・・・。
しかし先述の通り、“剣呑な胡蝶”は13歳である。それが持つ意味は言わずもがなだ。


夢幻の僕(ブロッケン) レベル2能力(所有者:双夢現)
デュエル中に1度だけ、フィールド上のモンスター1体と同じ攻守・レベル・属性・種族の「ブロッケントークン」1体を特殊召喚することが出来る。



双夢現・・・そうむ・うつつ。
“剣呑な胡蝶”の本名であるが、10代ということは当然ながらデュエリスト能力が宿っていて不思議ではない。
むしろ、このような船でディーラーを務める少年が、能力者でない方が不思議だ。

マスタールール下でも使い方次第で威力を発揮するが、ワン・デュエルにおいては更に強力である。
相手がモンスターを出してくれば、そのモンスターをコピーして相討ち、もう1体モンスターを出して直接攻撃。
・・・などという具合だ。

これを回避する方法は、守備力の高いモンスターを守備表示で出す、あるいは涼香のやったように罠を張っておくなどがセオリーであるが、当然ながら返し技も存在する。
前者の場合、デメリットアタッカーの存在から、安全圏は《D−HEROディフェンドガイ》ほぼ一択。D−HEROは殆ど出回っておらず、涼香も所持していない。
ゆえに後者を選択したわけだが、そこへ《E・HEROワイルドマン》が地雷として機能した。
ちなみに《魔導戦士ブレイカー》なら、除去は出来るが《奈落の落とし穴》に引っかかるなど、相互互換である。
むしろブレイカーは、《光の護封剣》に対するメタとして機能するだろう。

そして当然ながら、相手の手札にメタカードが来ているかどうかは不明である。
メタを考えれば、必勝戦術など存在しない。上記の返し技に対する返し技も存在し、更なる返し技もある。
先手で《神の宣告》を伏せ、相手のプレイを封じて、返しのターンで仕留める・・・などの荒技に対しても、《クリボー》などの存在から、必勝とは言えない。



凜堂涼香:LP500、手札2
場:
場:伏せ×1

剣呑な胡蝶:LP2000、手札2
場:E・HEROワイルドマン(攻1500)
場:




何よりも、スペシャルルールやキングダムルールと同じ初期ライフ2000でありながら、直接攻撃が許されている点が、このデュエルを危険度の高いゲームにしている。
決して攻撃力が高いとはいえないワイルドマンが、一撃でライフの4分の3を持っていく。そういうゲームなのだ。

「わたしのターン、ドロー!」

涼香の伏せている《聖なるバリア−ミラーフォース−》は、相手が攻撃してきたとき、攻撃表示のモンスターを殲滅する罠カードである。
ブロッケントークンは耐性を持ってない為、この伏せカードが彼女の命を繋いでいた。

(“剣呑な胡蝶”のデュエリスト能力は、デュエル中1度しか発動できない。だったら、勝利が不確定な状況では、使用するのを躊躇うはず。)

それを逆手に取って、通常魔法を伏せておく戦術も存在するのだが、そこまでの度胸は無かった。
手札に防御モンスターが存在しない状況では無防備。戦場で裸になるようなものだからだ。

「わたしは《電動刃虫》を召喚して、攻撃します!」


電動刃虫 レベル4 地属性・昆虫族
攻撃力2400 守備力0
このカードが戦闘を行った場合、ダメージステップ終了時に相手プレイヤーはカード1枚をドローする。



「ほー、なるへそー。」


《E・HEROワイルドマン》 (破壊)


これまたマスタールールでは使いにくいが、ワン・デュエルでは強力なカードだ。
1ターンに1枚までしか手札を使えないワン・デュエルでは、ドローさせるデメリットは小さい。
そして《心変わり》などで奪われたとしても、ミラーフォースで殲滅できる。

「んじゃー、《クリボー》でダメージを0にしとくねー。」



凜堂涼香:LP500、手札2
場:電動刃虫(攻2400)
場:伏せ×1

剣呑な胡蝶:LP2000、手札2
場:
場:




「僕のターン、ドロー。食らえ《昼夜の大火事》、800ダメージだ。」

「は、はね、《ハネワタ》!」

当然ながら、初期ライフ2000のもとではバーンカードも強力だ。
ゆえに《ハネワタ》または《デス・ウォンバット》の投入は、ほぼ必須となる。

「わたしのターン、ドロー! 《不意打ち又佐》を召喚して、《電動刃虫》でダイレクトアタック!」

この攻撃が通れば、一気に“剣呑な胡蝶”のライフは0になる。
だが、そう簡単に勝たせてくれるわけもない。

「ここで《バトルフェーダー》特殊召喚。」

バトルフェイズが止められた。

「くっ・・・」

1ターンに使える手札は1枚。
《クリボー》であれば、又佐の2回攻撃で勝っていた。



凜堂涼香:LP500、手札1
場:電動刃虫(攻2400)、不意打ち又佐(攻1300)
場:伏せ×1

剣呑な胡蝶:LP2000、手札1
場:バトルフェーダー(守0)
場:




(まずい・・・!)

相手フィールドにモンスターを残してしまった。
ここで《邪帝ガイウス》を出されたら、打つ手が無い。

「んー、安心していいよー。僕のデッキに帝は入れてないからねー。ドロー。」

引いた手札を眺めて、“剣呑な胡蝶”は目つきをキョロキョロ動かした。

「さあて、お立会い。かのマリク・イシュタール使いし素敵なペットの降臨です!」



溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム レベル8 炎属性・悪魔族
攻撃力3000 守備力2500
このカードは通常召喚できない。
相手フィールド上のモンスター2体をリリースし、手札から相手フィールド上に特殊召喚できる。
自分のスタンバイフェイズ毎に、自分は1000ポイントダメージを受ける。
このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。




「―――っ!!?」

相手フィールドにモンスターが2体以上並ばなければ、死に札となってしまうカード。
しかしワン・デュエルは、モンスターが並びにくい代わりに、手札の消耗も少ない。

ハイリスク・ハイリターン。
まさに“剣呑”―――鋭い剣を呑むが如くの、危険な戦略。

そして、涼香の手札は《クリボー》1枚。
次のターンで《ハネワタ》を引けなければ、1000ダメージを受けて敗北が確定する。

いや、たとえ引いたとしても、守備表示の《バトルフェーダー》を戦闘破壊できるだけだ。
“剣呑な胡蝶”が守備モンスターを出し続ければ、敗北は確定している。

(詰んでいる――!?)

十字架が迫ってくる錯覚。
思わず涙が滲んだ。

「―――否!」

相手の手札は1枚。守備表示モンスターを引き続けられるとは限らない。
まだデュエリスト能力も残しているので、《バトルフェーダー》と合わせて最低2回は止められるが、その2回を《ハネワタ》で凌ぎ、それ以上モンスターを出せなければ勝てる。

あまりにも低い確率だが、ゼロじゃない。
ゼロでない限り、諦めることはない。


「わたしのターン!」


デッキから鼓動が響いてくる。


「ドロー!!」


目を瞑ってカードを引き、そうっと目を開く。
震える手で、カードを見る。



それは、《ハネワタ》ではなかった。



「・・・は、はは、あはははは!」



この世界は理不尽で溢れている。
どうにもならないことがある。

多額の負債を返そうとする、けなげな少女の思いも。
人を電気処刑するのを見て楽しむ、享楽主義も。

デュエルモンスターズの前では等しく公平に扱われる。




テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
決闘航海   目録
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2015/07/31 00:00

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
コング「♪あかりをつけましょぼんぼりにー。きょうは耳の日。美女の耳にキスしてもきょうだけは痴漢にならない」
ゴリーレッド「うずまきにダイブしたいと?」
コング「待て」
火剣「十字拘束?」
コング「燃えるタイトルだ。♪燃えろ! イイ女ー! 燃えろ! すーずーかー!」
ゴリーレッド「賭けデュエル。命懸けの危険なバトルだ」
コング「負けたら十字磔? ぐひひひ。頑張れ双夢現! 負けるな少年!」
火剣「100億円か。きついな」
ゴリーレッド「恩人である青年のため?」
コング「何、無防備を晒す? よし、なら強欲な壷だ!」
火剣「デュエリストであってヒューマニストではないか。勝負の世界なら全ての言葉が当てはまる」
コング「何、戦場で裸になるようなもの? よし、通常魔法を伏せておけ!」
ゴリーレッド「組み伏す!」
コング「待てえええ!」
火剣「詰んでいる? 十字架が迫ってくる。ヤバイな」
コング「涼香を磔にして不意打ち股さわり」
ゴリーレッド「よし黙れ」
コング「クリボーに電流」
ゴリーレッド「浴びせ蹴り!」
コング「があああ!」

火剣獣三郎
2015/03/03 17:11
>火剣さん
十字架による処刑と、呉星十字の能力とを掛けてあります。1ターンに1度までしか手札からカードをプレイできないというルールが、かえってエキサイティングなデュエルを生み出しました。

佐久間「良いことを聞いた。山田、私の耳にキスを。」
山田「聞こえない。」
八武「しかし刺激的なワードは、しっかり聞いている! 邪悪だ!」
山田「お前とコングがな。」
維澄「そう言えば、このルールで《うずまき》を発動すると、どうなるのかな・・・?」
佐久間「素敵なカオスの始まりだ。」
八武「単にライフが倍になるだけでは・・・あ、それだけでも戦術がだいぶ変わるのか。」
山田「ライフ2000は、プレイヤーへの直接攻撃が禁止だからこそ穏やかだった。直接攻撃が可能になってから、高速化が始まった気がするな。」
八武「サドンデスの緊張感と、敗北すれば電気処刑という、ダブルの緊張感。いいねぇ。」
佐久間「遊戯王ではよくあること。」
山田「それが当たり前に感じてきたら危険信号。」
佐久間「デュエリストなら、むしろ進んで当たり前に感じるように努力するべきだ。」
山田「救いようがないほど毒されている・・。」
アッキー
2015/03/03 22:43

コメントする help

ニックネーム
本 文
決闘航海   Game Time 〜十字拘束! ワン・デュエル!〜 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる