佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS ターミナルから来た男 (前編)

<<   作成日時 : 2015/09/09 00:00   >>

驚いた ブログ気持玉 2 / トラックバック 1 / コメント 0

◆ ◆ ◆



天空の翼は羽をもがれ

地を這う鵺は足を失い

黒き瞳が笑うのみ




◆ ◆ ◆



麦庭桜(むぎにわ・さくら)は、すっかりマリッジブルーだった。
セミロングの茶髪を揺らし、童顔に憂いを滲ませる。切なげな溜息が漏れる。
起伏に富んだ肉体は、清楚な白いワンピースに包まれていた。

「はぁ・・・。このままで、いいのかなあ。良くないなあ。」

婚約者、雨堂砂降(うどう・すなふる)は、年下だが、決して条件の悪い男ではない。
それどころか、普通なら誰もが羨むほどの相手だろう。

優しくて、優柔不断な自分を引っ張ってくれる。
夜を共にするのも、結婚するまで待っていてくれる。

何も不満は無いどころか、ありがたい話だと思っている。
けれど、申し訳ないことだが、心に響いてこない。

「何でだろうな。いい人なのに・・・。」

ベッドで枕を抱きながら、桜は両脚を折り曲げた。
唇を布に埋めて、雨堂の端整な顔を思い浮かべる。
ハンサムで、清潔で、彼に抱かれると考えてもイヤじゃない。物足りないとも思わない。

「・・・だからなの?」

釣り合わないと、感じるのだろうか。
こんな自分と、よく出来た・・・出来すぎたような人が。

「んん、わたしは異常だからなあ。」

ごろんと寝返りを打って、桜は仰向けになった。
ぬいぐるみや小物で溢れ返った部屋にいると、以前の自分が遠く感じる。
平穏だと思うと同時に、これでいいのかと思うのだ。

「あああ、いけない。平穏が一番、いっとうだ。他に何を望むっていうの?」


その望みが届いたわけでもないだろうが、そのとき何の前触れもなく、空間に亀裂が入り、涼しい風が吹いた。


「・・・っ?」

たなびく髪を押さえながら、桜は片目で空間を見た。
そこにバリバリと、まるでターミネーターか何かのように、空間を裂いて青年が現れた。

「きゃあっ!?」

まだ若い男で、しかも服を着ていない。
どうやら気を失っているようだ。

桜は顔を真っ赤にしながら、ドキドキしていた。

「あ、え、どうしよう・・・? とりあえず連絡・・・って、こんな状況、どうやって説明するのさあっ!?」

婚約中の身でありながら、部屋の中で裸の男と2人っきり。
たとえ間違いが無くても、言い訳しようのない事態だ。

「あー、えー、うー、いー、あー、どうしよ、どうしよ、どうしよ?」

桜は半ばパニックになっていた。
愛用の枕を抱えたまま、首を左右に振るばかり。

そして無為に経った時間は、青年を目覚めさせるに十分だった。

「ううっ・・・・・あ・・・・・ここは・・・・・・」

「きゃああ!?」

何度も言うようだが、青年は裸である。
体を起こした彼は、裸身を桜に見せつける格好になった。

「ふ、服を着て!」

「あ、ああ。」

混乱した桜は、とにかく服を着せることにした。
婚約者・雨堂の服が置いてあり、それを渡して後ろを向いた。

(雨堂さん、ごめんなさい・・・。)

それは、婚約者の服を他の男に着せたからだけではない。

顔が熱い。
ドキドキが止まらない。

(これって、浮気? いやいやいや、混乱してるだけよ!)

着替え終わったのを確認してから、桜は振り向いた。
野性味のある顔立ちだが、どこか子供らしさも残しており、胸が高鳴る。

(ああ、いけない。)

桜は首をブンブン振って、コホンと咳払いした。

「あなたは、何者?」

これを真っ先に訊くべきだったのだろうが、全裸の男と真面目に会話できる自信は無い。
服を着た青年は、困惑した様子で答えた。いや、答えにはなっていなかった。

「ぅう・・・オレは、誰ですか?」

まさか記憶を失っているのか。
見たところ、嘘をついている様子ではない。
伊達に歳を食ってるわけではない・・・目の前の人間が嘘をついてるかどうかは、だいたいわかる。

「あの、えと、名前も思い出せない?」

「名前・・・リュウヤ・・・ぅう・・・・。」

「リュウヤ君ね。他に思い出せることはある?」

「ぅう・・・・」

「あ、無理しないで。ゆっくりでいいから。」

頭痛が激しくなっている様子だったので、桜は質問を打ち切った。

「あ、ええと、わたしは麦庭桜。」

「むぎにわ、さくら・・・。」

低い声で名前を呼ばれて、いよいよ桜はドキドキした。

(やばいなあ。わたしって、やっぱり年下趣味なのかなあ。)

とはいえ傍目から見れば、むしろ桜の方が年下に見えた。
童顔なだけでなく肌も綺麗で、少女のような瑞々しさがある。
それは決して努力の賜物ではないのだけれど。


「・・・それで、あなたもデュエリストなの?」


全裸、と書いたが、何も身につけていないわけではなかった。
リュウヤと名乗った青年は、デュエルディスクを身につけており、しかも墓地にカードがある。
他の状況は不明だが、明らかにデュエル中と思われた。

「デュ、エル・・・・・・・? ・・・・ぅう・・・・・ああ・・・・・」

まずます頭痛が酷くなったようだ。
桜は慌てて手を振った。

「ご、ごめん! ゆっくりでいいって言ったばかりなのにね!」

そもそも空間を裂いて現れるなど、尋常ではない事態なのだ。
デュエルに何かトラウマがあると見た桜は、リュウヤの腕からデュエルディスクを外した。

(・・・・・・39枚しかない?)

慣れた手つきでカードを確認すると、最低40枚あるはずのデッキが、39枚しかなかった。
アンティで奪われたのか。それとも。

(デュエル中だとしたら、コントロール奪取でフィニッシュを決められて、そのまま・・・。っていう可能性もある。)

いずれにしても、異常な事態だ。
デュエリストにとってデッキは魂そのもの。比喩だけでなく、実際そうなのだ。

(記憶を無くしてるのって、カードを奪われたから?)

デッキを詳しく見てみると、ぽっかりと大きな空洞が開いたような違和感があった。

(ミスト・バレー。・・・でも、この構築と、墓地のカード・・・・・・何か大型モンスターが無いと・・・・・・。)

おそらく、それが奪われたカードなのだろうと推測した。
だとすれば、そのカードを取り戻さない限りは記憶は戻らないだろう。

(よほど大事なカードだったに違いないわ。)

とはいえ、空間を裂いてやって来たのだ。
異世界から来たのだとすれば、そこへ行くことからして困難である。

(どうしよ・・・?)

何ひとつ問題は解決してないことに気付いて、桜は途方に暮れた。
全裸でなければいいというものではない。部屋の中に、若い男と2人っきり。

(どう考えてもヤバいって。)

不安になりながら、しかし一方で、この状況を楽しんでいる自分がいた。それが更に危ないと思った。


「さくら。」

「は、はい!」

いきなり呼ばれて、桜は畏まった。

「迷惑はかけたくない。すぐに出て行く。」

「ま、待って!」

言ってしまってから、どうして呼び止めたのだろうと後悔した。
しかし今更だ。自分はリュウヤを呼び止めたかったのだ。

「住む所なんて無いんでしょ? ここにいていいよ。」

(ああもう、わたし何言ってんの!? これって完全に浮気じゃないの?)

頭の中が散らかり放題になりながら、桜は表面上は落ち着いたお姉さんを演じることに成功していた。

「ね、そうしなよ。わたしは構わないから。」

「でも、彼氏とかいるんじゃ?」

その通りだ。
彼氏どころか婚約者がいる。

「うん、そうなんだけど・・・。何でだろうね、不満も無いのに、ありがたい話なのに、どうしてか心に響かないんだ。」

素性も知らない、会ったばかりの男に、自分は何を語っているのか。
そう思いながらも桜は、話し続けた。

「わたしね、尊敬してる人がいるの。その人に勧められて、雨堂って人と結婚することになったんだけど、おかしいんだよね、マリッジブルーみたいで。何か、憂鬱になるばかりで。」

「・・・・・・。」

「やっぱり、わたしなんかじゃ釣り合わないって、心のどこかでセーブがかかってるのかなあって。雨堂さんは、ホントいい人で、わたしみたいな異常者は・・」

「異常者なんかじゃない。さくらは可愛いよ。」

「そ、そんな・・・」

真っ直ぐに褒められて、顔が赤くなる。
可愛いなんて、雨堂に言われ慣れた言葉なのに。
同じ言葉でも、違う言葉のようだ。




「はいはい、イチャラブタイムは、そこまで〜。」




いつの間にか、部屋の隅に、目隠しをした少女が立っていた。

桜、そしてリュウヤに、戦慄が走る。
その少女の持っている雰囲気は、尋常ならざる危険な匂いを発していたのだ。


「名乗っておくよ、イクミちゃんだよ〜。“シュライン”がひとり、デビルズフォースの尖兵にしてアーチャー、とっても可愛くて強い、三十三間堂郁美(さんじゅうさんげんどう・いくみ)だよ。」


長い黒髪を三つ編みに縛り、仮面のようなもので目隠しをした彼女は、「FUCK YOU!」と書かれたシャツを着ていて、ミニスカートとブーツを履いていた。
全体的にスレンダーで、悪く言えば貧相な体つき。

「い〜けないんだ、いけないんだ〜。言いつけちゃおうかな〜。」

「や、やめて! ・・・やめてください。」

いったんは強く叫んだが、“あの人”を思い出すと声が小さくなる。
尊敬の対象であると共に、恐怖の対象でもあるのだ。

「何だかよくわからないが、もしもオレがデュエルで勝てば、告げ口はナシになるのか?」

いつの間にかリュウヤが、デュエルディスクを嵌め直していた。

「リュウヤ君!?」

「事情はよく呑み込めないんだが、さくらが困ってるのはわかる。そして、あんたがヤバいってこともな。」

「違うよ、イクミちゃんは可愛いんだよ〜。みんな可愛いって言ってくれるもん。」

双眸の見えない表情で、郁美は笑う。

「だったら眼を見せてみな。ヤバい奴かどうかは目をみりゃ大体わかるもんだ。」

「やぁだ。エッチ。・・・でもまあ、デュエルの方はOKだよ。リュウヤ君だっけ? 君がイクミちゃんに勝てるようなら、このことは黙っておいてあげる。だけど、イクミちゃんのデュエルは闇のゲームだからね?」

歯を剥き出しにして郁美が笑うと、部屋を闇の瘴気が包み込んだ。


「「デュエル!」」


リュウヤ:LP8000
郁美:LP8000



「ライフ8000!?」

そう言ったのはリュウヤだった。

「え、もしかしてリュウヤ君、ホントに異世界から来たの!?」

「ど・・・どういう意味だ、さくら。」

「えっと、多分、リュウヤ君の世界では初期ライフは4000なんだよね?」

「ああ、そうだ。・・・何で、こんなことだけは覚えてんだ、オレ。」

「デュエリストなら当然だよ。それより聞いて。重要なことだから。」

「お、おう。」

「この世界のデュエルは、基本的に“マスタールール”に則って行われる。初期ライフは8000で、手札から場に出せる魔法や罠の回数制限は無いわ。」

「マジで!?」

「その代わり、魔法カードは、相手ターンに発動できるのは“速攻魔法”だけ。罠カードも、たとえ発動条件を満たしても、伏せたターンには基本、発動できないわ。あ、あと、カードによっては効果が変わってるかも・・・。」

「そうなのか・・・。厳しいな。だが、助言サンキュウ、さくら。」

リュウヤは笑顔で礼を述べた。
またしても桜は、胸をキュンとさせるのだった。


「相談フェイズは終わった〜? まあ、それくらい認めてあげてもいいよ。イクミちゃんは優しいからね。」

そして彼女は、デッキに手をかけた。

「イクミちゃんの先攻、ドロー! デッキから《アマゾネスの射手》を特殊召喚するん。」


アマゾネスの射手 レベル4 地属性・戦士族
攻撃力1400 守備力1000
自分フィールド上に存在するモンスター2体をリリースして発動する。
相手ライフに1200ポイントダメージを与える。



「・・・っ、どういうことだ? これもマスタールールってやつなのか?」

困惑するリュウヤ。
しかし当然ながら、マスタールールには無条件でデッキからモンスターを特殊召喚できるルールなど無い。

「デュエリスト能力・・・! 通常のカードとは別に、デュエリストが持っているカード効果よ!」

「何だって!? いや・・・そういうもんだと捉えるしかねえか。」

「そうだよ。イクミちゃんの能力“地下鉄丸之内”(メトロアーチャー)は、『1ターンに1度、自分のメインフェイズに、デッキから「アーチャー」と名の付くモンスター1体を特殊召喚できる』ってなもんだい! よろ〜。」

へらへらと笑いながら、郁美は手札からモンスターを召喚する。


幻銃士 レベル4 闇属性・悪魔族
攻撃力1100 守備力800
このカードが召喚・反転召喚に成功した時、自分フィールド上に存在するモンスターの数まで自分フィールド上に「銃士トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守500)を特殊召喚する事ができる。
また、自分のスタンバイフェイズ毎に自分フィールド上に表側表示で存在する「銃士」と名のついたモンスター1体につき相手ライフに300ポイントダメージを与える事ができる。
この効果を発動するターン、自分フィールド上に存在する「銃士」と名のついたモンスターは攻撃宣言をする事ができない。



「げんじゅうし〜。この効果で、銃士トークン2体を特殊召喚し、アマゾネスアーチャーの効果で射出!」

「くっ・・・!」


リュウヤ:LP8000→6800


「あ〜、このデュエルは闇のデュエルだからね。ライフが減れば、それに応じて現実化したダメージに襲われるってなもんだい! そして負ければ死んじゃうよ〜。カードを1枚伏せてエンド。ゆっくりカードを引いていってね!」


「オレのターン、ドロー!」



リュウヤ:LP6800、手札6
場:
場:

郁美:LP8000、手札4
場:アマゾネスの射手(攻1400)、幻銃士(攻1100)
場:伏せ×1




「可愛い可愛いイクミちゃんを相手に、果たして何ターンもつかな? メトロラインのトンネルに♪」





つづく

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
驚いた
面白い

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
デュエル小説 (短編集目録)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2016/12/25 00:00

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
ターミナルから来た男 (前編) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる