佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス 5

<<   作成日時 : 2015/11/21 00:00   >>

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1992年というのは、ソビエト崩壊の直後である。
「まさか」、「そんな」、「やっぱり」、「どうすれば」。
様々な声が聞こえていたが、いずれにしても世界は混乱していた。
もっとも、世界が安定していたことがあったかは疑わしいので、とりわけ左翼の活動家たちの間での混乱だと言えるかもしれない。崩壊の予兆は80年代後半に顕れていたと言う人もいるし、レーニンが死んだ時点でソビエトは終わっていたと言う人もいる。いずれも正しいのだろう。
いわゆる共産主義なるものにとって、ソビエトの存在は大きかった。いや、赤色の範囲に留まるものではないだろう。今ある労働や福祉、反戦平和における常識の多くは、わずか数十年の間にソビエトが確立させてきたものである。
ところが、それが張子の虎であったことを、ソビエト崩壊と、その後の世界史が証明してしまった。

確立させたかもしれないが。
根付かせてはいなかった。

およそ贔屓目に見ても、根付いたと言えるのは当時ではキューバくらいのもので、多くの国が共産主義を離れた。
どれほど高い理想を掲げようとも、どれほど正しい主張をしようとも、それを無理に押し付けるのでは精度が低いし、正しくもないのだ。
ソビエトの功績と害悪を論じるのは難しいが、ひとつ確かなことは、ソビエトの人気に対抗するべく行ってきた福祉などが、ソビエト崩壊直後から切り崩されていったということだ。労働現場では非正規雇用が増え、“ブラック企業”という言葉も珍しくなくなった。反戦平和の形骸化も平行して進んだ。
そうした流れがハッキリと見られるのは、21世紀になってからだが、流れ自体は早くからある。ソビエトが健在な頃だって、皆無では決してない。
俗に言う、ロスト・ジェネレーション。
九古鈍郎の青春は、その真っ只中にあった。

「ああ・・・?」
荒んだ目つきの20歳。大学の三回生で、細い縞の入ったセーターに、黒めのズボン。
バイト先の塾では、スーツにネクタイで決めているが、普段はラフな格好だ。
彼の目に留まったのは、ビラを配っている男性だった。短く髪を切りそろえた、どこか愛嬌のある顔立ちで、後に小林と名乗る。
「そこの君。」
鈍郎が足を止めたのを、小林も見ていたのだ。
気さくな調子で呼びかけてきた。
「・・・はい。」
そのとき、そそくさと立ち去ることも出来たはずだった。
振り返ってみても、そのときの心理を思い出すのは難しい。ただ、ここでの行動と選択に、時代の流れが深く関係していたのは確かだった。




つづく

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内 容 ニックネーム/日時
火剣「1990年はゴルビー旋風が吹き荒れていたか」
ゴリーレッド「この時代はソビエト崩壊やベルリンの壁崩壊など、時代が動いている感はあった」
火剣「ゴルビーは権力を手放し、民衆に自由を与えたら、その自由が激流となって押し寄せ、自分たちをも押し流すかもしれないことを知っていた」
コング「新思考外交か。僕も常に新思考」
ゴリーレッド「小林?」
火剣「二十歳か。若い」
ゴリーレッド「時代の流れと行動は常に深く関係するか」
火剣「90年代といえば、もう一人の巨人がいた。ネルソン・マンデラだ」
コング「キューバは日本に正しく伝わっていないらしい」
ゴリーレッド「アメリカ目線ではいけない。キューバは英雄ホセ・マルティという精神的支柱を持っている強さがある」
コング「歴史の勉強か。きょうはブロックが固いな。ここからエロスに持っていくのは困難だ」
ゴリーレッド「持って行かなくていい」
火剣「とりあえず二人の出会いだ」
コング「あ、せ、ろ」

火剣獣三郎
2015/11/21 21:34
>火剣さん
レーニン亡き後のトップは、多かれ少なかれ権力欲に溺れていたのだと思います。それでも70年以上にわたって存続してきたわけですが、崩壊後が“現在”である世代からすると、感謝に値するものではないですね。
そんな90年代に青春を送った九古鈍郎。彼にも若い頃がありました。

維澄「ホ〜リシャシャ♪マンデラ♪」
佐久間「懐かしい唄だな。」
維澄「マンデラ♪マンデラ〜♪」
山田「あの頃は子供だったが、社会が動いている雰囲気は感じていた。大人たちの様子が違った。」
八武「小林。ルナの苗字も小林だが、もしや?」
維澄「よくある苗字ではあるけど、親戚の可能性はあるね。」
神邪「権力欲から逃れるには、どうすればいいのでしょうか?」
佐久間「支えて配る支配者になるべきだな。欲望は消せないが、制御することは出来る。」
神邪「なるほど。」
維澄「キューバ危機の印象で、キューバはソビエトの属国みたいな印象を持ってる人も多いだろうけれど、ソビエト崩壊後に備えを打ってあった唯一の国なんだ。」
佐久間「反ソに回るとアメリカが喜ぶだけだから、建前は親ソで、理念はホセ・マルティ。この厚みが生存のコツだなァ。」
維澄「カストロは建前を、ゲバラは反ソを、それぞれ引き受けた。お互い、相手の方が損な役回りを引き受けたと思っているだろうね。」
佐久間「鈍郎と茶倉の出会いは、もう少し先になる。」
アッキー
2015/11/21 22:46

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