佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス 16

<<   作成日時 : 2015/12/02 00:00   >>

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1996年の、2月半ばから7月の終わり頃まで。
半年ほどの間、鈍郎は舜平と共に暮らした。
24歳の鈍郎と、9歳10歳の舜平。
子育ての経験も無い青年と、虐待を受けてきた少年が、上手く行くはずもなかった。
鈍郎が参ったのは、舜平の暴力や暴言だった。
9歳といってもそれなりに力はある。食器を運んでいる最中に蹴られて、皿を割ったことが何度もあった。
暴言も酷く、下品な単語を連発されると気が滅入った。ふてくされたり、癇癪を起こしたり、とにかく気の休まる時間が無かった。
それでも、虐待を受けてきた子供だからと、辛抱強く接した。諦めず、対話を試みた。
誰でも最初は子育ての経験が無いものだし、最初は上手く行かなくても、やっていくうちに上手くなると思っていた。
振り返ってみれば、何と浅はかな考えだったのだろう。鈍郎は、自分の精神が想像以上に疲弊していることに気付いていなかったのだ。
舜平の誕生日、彼は何か腹の立つことでもあったのか、ふてくされた顔で座り、顔面をケーキにグシャッと埋めて、ふんっと鼻を鳴らして部屋に引っ込んでしまった。
「・・・・・・。」
唖然とした鈍郎は、涙が出そうになった。笑顔で値段を割り引いてくれた、店のおじさんの顔が浮かんだ。
彼が「しゅんぺいくん おたんじょうび おめでとう」とデコペンで書いたチョコプレートは、汚らしく潰れたケーキの中で割れていた。字が滲んでいた。
「・・・・・・。」
ケーキをゴミ箱へ捨てるとき、命を無駄にしたのだという悲しみが湧いてきて、また泣きそうになった。
それは怒りに変わっていった。
「・・・・・・死ねよ、恥知らず。」
口走った瞬間に、鈍郎はハッとした。
自分の中で、決定的な何かが終わったと思った。
(あ)(もう駄目だ)(これ)
このまま生活を続けたら、今の嫌悪感が永遠に固定されると思った。その瀬戸際。

急いで三角先輩に連絡した。
他に頼れる人はいなかった。役所の連中も、左翼の人々も、頼りにならない。
苦境を訴えると、三角先輩は血相を変えて飛んできた。そのときの安堵感を忘れない。
(本当に兄さんのようだ。)
“三角”と“鈍郎”で、鈍角兄弟かと、そんなことを考えて笑った。そんなことを考える余裕がある自分は、大丈夫だと思えた。
しかし、このエピソードは決して後味の良いものではない。別れ際に舜平は、「おまえなんかに子供を育てる資格は無いからな! おぼえとけよ!」と、憎まれ口を叩き、それは鈍郎の心に深く突き刺さって抜けなくなった。
疲弊して気力の萎えた状態で、鈍郎は8月15日を迎えた。反戦平和へ懸ける情熱は冷めていた。
蝉の声が聞こえる中で、鈍郎は畳に体を預けた。




つづく

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内 容 ニックネーム/日時
コング「♪もーいーくつねーるーとー、お正月! お正月には脚広げー、女を回して遊びましょう」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「があああ!」
火剣「独身なのに人の子を育てるなんて考えられねえな。俺なら逃げる」
コング「19歳の女子なら育てる」
ゴリーレッド「コングに育ててもらう必要のない年齢だ」
火剣「鈍郎はきつい青春というか、人生を送って来たんだな」
ゴリーレッド「三角は頼れる兄か」
コング「こういう構図で子育てが殺意に変わるのか」
ゴリーレッド「出生率の前に虐待とDVの問題を解決しなくては。出生率2.0でも子を簡単に殺す親がいれば無意味だ」
火剣「舜平に限らず、虐待された小さな胸の中にはマグマのような憤怒があるかもしれねえ」
コング「小さな胸を強調するか」
ゴリーレッド「誰も強調していない」
火剣「最悪の24歳の時は最高の25歳になるとは思わなかっただろう」
コング「未来を信じる者は足もとをすくわれる」
ゴリーレッド「ドラゴンスクリュー!」
コング「待てえええ!」
火剣「燃える心に冷水を浴びせると魔王は言っていたが、まさに」

火剣獣三郎
2015/12/02 17:20
>火剣さん
私も長子として、両親の子育てを手伝わされてきましたが、誠実な対応が仇で返ってくるので、つくづく嫌になりました。それと平行して反戦平和への情熱も冷め、父親からは冷遇されている毎日です。
もはや親もなく、孤独の身となった鈍郎ですが、そう、25歳の誕生日に待っているのは素敵なサプライズ!

佐久間「やって来るのは18歳の美少女。」
八武「ブラボー! 頑張れ鈍郎、あと少しだ!」
神邪「むしろ19歳なら、レ・・結婚の対象ですね。」
山田「おい、今何を言いかけた?」
佐久間「秘め始めまで1ヶ月を切ったか。」
維澄「私と?」
佐久間「お前は何を言ってるんだ。」
維澄「・・・正直、子育てなんかヘドが出るわ。」
八武「しおりんも弟妹の世話を頼まれてたんだっけ?」
維澄「今でも殺意は消えてないし、減ってもいない。今度会ったら殺すと思う。だから二度と会わない。」
佐久間「鈍郎は早めに放棄して正解だったな。我慢を強いられ続けると、アッキーや栞のようになる。」
維澄「革命への情熱を失わなかったのは、佐久間に会えたおかげ。鈍郎が茶倉に出会えたように。」
佐久間「私は磨か?」
アッキー
2015/12/02 22:35

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