佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス 37

<<   作成日時 : 2015/12/25 00:00   >>

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結婚式は挙げない。花もドレスも唄も無い。役所に届けを出すだけの、事務的な作業。
茶倉の花嫁姿が見られないことを、吉岡一曹は残念がっていたが、三角は「九古くんらしい」と言っていた。
(新生活。)
それぞれ一人暮らしだったのを引き払って、茶倉の貯金で小さな家を買った。三角が伝手を辿って探してくれた物件は格安で、感謝するしかなかった。自殺者の出た物件だから安いのだったが、2人は恐れなかった。むしろ、ここで死んだ人の犠牲の上に自分たちの生活があるのだと、厳かな気持ちになるくらいだ。
前にも述べたことだが、生活面での合理性は大きかった。バラバラに暮らしていたときの合計値よりも、水光熱費が安く済むし、家事も手分けして行えばスムーズだ。片方が忙しいときや調子の悪いときに、もう一方がフォローできるのも地味に大きい。それぞれ特に拘りは無く、本棚を置かなくてはならないという部分は完全一致した。
「結婚してよかったわ。」
「まったくだ。」
色気が無いと言えば、そうなのかもしれない。
生活面での快適さが最大の喜びだというのは、打算的だと言われるかもしれない。
その意見は間違ってはいないのだろうが、余計なお世話だ―――ただ、互いに相手をクールな人間だと誤解しているあたりには、筆者としても一言物申したくなるところではある。
冷徹な合理性も人格の一部分ではあるが、互いに自分の言動の素っ気なさには無自覚で、相手の方がクールだと思い込んでいた。
そのことは後に、大きな問題となっていくことになる。

「ところで茶倉、沖縄に行かないか。」
「行きましょう。」
2人の会話は専ら、生活のことと、そして社会のことだった。
1997年から1999年あたりまでの間に、茶倉と鈍郎は、最初はポツポツと、そして次第に深い内容まで話すようになっていった。
戦争、貧困、差別、迫害、民族主義、領土問題、思想、主義、信条、宗教、論理学、自然科学・・・・・・2人が“思想的同志”となっていくのは、このあたりのことである。
夫婦というよりは。
同胞というべきか。
あまり話をしていないというのは、鈍郎の主観であり、実際には多くを語り合っていた。いわゆる“夫婦らしい”会話の少なさが、鈍郎の主観を歪めていただけだ。
そしてそれは、茶倉も同じだった。
互いに、自分の方が喋りすぎているのではないかと、落ち着かない気分だった。悪い意味で“自分語り”になってしまっていないか、不安だった。
1998年8月の沖縄旅行は、遅すぎた新婚旅行と言えなくもない。しかし鈍郎に、そうした意識は特に無かった。
(再び来たぞ沖縄。)
(これって、新婚旅行?)
茶倉にとっては未だに新婚の気分である。ホットである。
しかし名前の通り鈍い夫は、かつての未練を埋められる喜びでいっぱいだった。乙女心のわからん野郎である。
しかしそれは茶倉にも責任の一端はあるのだろう・・・そして鈍郎も、朴念仁ではない。美人妻との旅行に浮かれているのも、れっきとした事実であった。
(いかんいかん、こんな浮ついた気持ちでは、戦没者に失礼だ。)
よこしまな気持ちを抑え、鈍郎は各地を訪れていった。



つづく

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内 容 ニックネーム/日時
火剣「俺様も人の披露宴に出るたびに自分は絶対に籍入れるだけでいいと思うな」
ゴリーレッド「花嫁姿を見たいという新婦の親とウエディングドレスを着たいという女性の気持ちもわかる」
コング「結婚してよかったわ。これは嬉しい一言」
火剣「会話がなくても新婚生活に色気はあるだろう」
コング「全裸で寝る二人」
ゴリーレッド「書いてない」
火剣「大きな問題?」
コング「茶倉のヒロピンか」
ゴリーレッド「それしかないのか」
コング「メリークリt」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「NO!」
ゴリーレッド「言わせない」
火剣「実際、思想的夫婦こそ理想だと思う。価値観が近くて、戦争や貧困や差別、迫害などの社会問題を語り合う知的な夫婦なんて最高じゃねえか」
ゴリーレッド「民族主義、領土問題、宗教、論理学、自然科学。話は尽きなかっただろう」
火剣「人間だから100%同じってことはないにしろ、方向性は同じじゃないと夫婦としてきついな」
コング「私トランプのファンと言われたら逆立ちするしかない」
火剣「鈍郎は乙女心に鈍いから鈍郎なのか」
コング「沖縄に浮かれ気分で行くのはダメか。沖縄のビーチで茶倉の水着姿を満喫」
火剣「それは自由だ。鈍郎の姿勢は素晴らしいが」
ゴリーレッド「本棚に本の背表紙が見えるのは子どもに良いと聞いた」
コング「『ナース陵辱』『夫の前で若妻失神』でもか?」
ゴリーレッド「脳天チョップ!」
コング「があああ!」
火剣獣三郎
2015/12/25 17:36
>火剣さん
性の不一致で別れる夫婦も少なくないと聞きますが、突き詰めていけば、それも思想の一端かもしれません。結婚式に関しても、見解が食い違って別れることがあるようで、やはり思想の方向が同じであることは重要ですね。

佐久間「思想とは何も政治的なものだけではない。バランスの取れた食生活を心がけようというのも、広く言えば思想だ。」
山田「佐久間は普段から、そういう知的な会話をしていれば最高だと思う。」
佐久間「私は常に最高だ。寝るときも全裸。」
山田「冬もか?」
八武「違うよ山田くん。そこで言うことは、『俺が温めてやろう』だ。」
山田「死根也の頭がおかしくなった。」
佐久間「おかしいのは貴様だ。乙女心のわからん朴念仁が。」
維澄「思想的には私と佐久間は近い。」
佐久間「遠いだろ。」
維澄「吉岡一曹も言ってるじゃないか。思想に左右あれど、真剣に突き詰めれば、近い場所にいるって。」
神邪「僕とマサキも真逆の性格ですが、人妻マニアという点で近い場所にいます。」
山田「だからそこがメインじゃないと。」
佐久間「そうだな、多数派に媚びないところだな。」
維澄「それは重要。」
八武「つまり本棚にも、世間に媚びた本を置くのではなく、自分の趣味を全開にしていいのだ。」
神邪「鈍郎さんと茶倉さんは、どんな本棚なんでしょう?」
佐久間「そのエピソードも近々。」
アッキー
2015/12/25 18:24

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