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zoom RSS 「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス 42

<<   作成日時 : 2015/12/30 00:00   >>

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ノストラダムスの“大予言”は、100パーセント間違っていたわけではない。
彼が生きていた頃、社会は酷い状態だった。そのことを直裁的に言ったのでは、権力者に疎まれ殺されかねないので、曖昧な表現を使ったのだ・・・という説がある。
そういう意味では、ノストラダムスは予言者だった。予知ではなく、警鐘を鳴らしていた。
1999年7月に、人類は滅びなかったが、極度の不幸に見舞われた人にとっては同じことだった。あるいは、滅亡を迎えた方が良かったとさえ思う人もいた。予言を信じる人は、滅亡を望む人数に比例していた。
茶倉と鈍郎は、そこまでのことは思わなかったが、これが自分たちにとってのアンゴルモア(恐怖の大王)かと思う出来事があった。
「・・・!」
茶倉の母が死んだ。
「・・・・・・。」
享年46歳。それが早すぎる死なのかどうかは、20代の茶倉と鈍郎にはわからない。
同じ46歳まで生きても、わからないかもしれない。
悲しみは無く、ただ喪失感が大きかった。
鈍郎にとっては、一度だけ会ったきり。会っても楽しいことはないから、義理だけで会うのは無駄だからと、茶倉に止められていた。茶倉としては、やつれた母親の姿を見られたくない気持ちもあったかもしれない。
(私は薄情だ。)
いつからか、病気の親は重荷になっていた。それを自覚したのが、母親が死んでからというのは、良かったのか悪かったのか。自分は薄情だと思うことで、逆に人間らしさに縋ろうとしているのか。
形ばかりの“人間らしさ”など、煩わしい。葬式はせずに、遺骨も捨てた。興味本位で、骨の欠片を口にしてみたが、無味乾燥な印象しかなかった。
(こんなものが、お母さんの人生か。)
母親の人生を全て知っているわけではないが、幸せではなかったのだと思う。
自分を育てて、幸せだったのか。
きっと、そうではなかったのだろう。
子供を作れば親になるわけではなく、子供を育てることで親になる。だが、母親は常に母親でなければならないのだろうか?
咲村志織は、茶倉の母親として死んだ。それ以外の何者かであれたとは思えない。
母性を神格化する連中は、母の愛というものは無尽蔵の資源だとでも思っているのだろうか。
子供を育てる為に、苦労して、疲れて、やつれて、くたびれた女を、美しいと思えるのだろうか。
ふざけるな。
生命力を絞り尽くされた人間を美しいと称えるのは、生命力を搾り取ることを美しいと言ってるのと同じだ。
安易なヒューマニズムは、既にヒューマニズムではない。
(おやすみなさい、志織さん。)
母としてではなく、ひとりの人間として、茶倉は自分を育ててくれた人の名を呼んだ。
どこか、しっくりきた。
ようやく彼女の死を受け入れることが出来た気がした。
脳裏に浮かぶのは骨の欠片ではなく、アルバムに残る少女の笑顔だった。




つづく

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内 容 ニックネーム/日時
小説を読んで涙することは滅多にない私ですが、この場面には思わずほろりと来てしまいました。「アルバムに残る少女の笑顔」という言葉で、『千里』での咲村志織の姿が思い出され、その後の人生との対比がいっそう際だっています。


すずな
2015/12/30 11:17
火剣「ノストラダムスの大予言に関してはいろいろな意見がある」
ゴリーレッド「予知ではなく警鐘。簡単に言うと、このままこんなデタラメなことをしていたら人類は滅びるということ」
火剣「あとは『愛が地球を救う』というメッセージが隠されていたという説も聞いたことがある」
コング「『ヒゲの独裁者』という亜衣麻衣な表現は無意味な迫害を避けるためか」
ゴリーレッド「漢字」
火剣「今の世界を見ても警鐘を鳴らしている人間は大勢いるんだ」
コング「今こそ『エロが世界を救う』という見地に立つべきだ」
ゴリーレッド「それは独り言か遺言か?」
コング「待て」
火剣「自分を薄情と責めることにより人間らしさを保つということを考えると、何でもかんでも良いこと探しの前向きも考えもんか」
ゴリーレッド「忘れられない失敗や暗い過去。忘れたいけど忘れないのは意味があるのかもしれない」
火剣「母親に海よりも深く大空よりも広い愛を求めるのも重圧か。それができてない母親は落ち込むかもよ」
ゴリーレッド「ドラマでよく『子のことを心配しない親なんているわけない』と言うが子を殺す親もいる」
コング「母親として大事なことは、女を捨てないことだ。子どももそのほうが嬉しいはず」
ゴリーレッド「ほう」
火剣「れんそう」
コング「あとは母親よりも若い主婦として玄関先で冒険をすること。たとえばバスt」
ゴリーレッド「終了!」
火剣獣三郎
2015/12/30 15:44
>すずなさん
私としても思い入れの強い場面です。読者を泣かせようという“演出”で飾らず、自分の死生観に沿って淡々とした描写にしたことが、かえって良かったかもしれません。
登場してからずっと悲惨な目に遭ってきましたが、ようやくお疲れ様を言うことが出来ました。
アッキー
2015/12/30 21:41
>火剣さん
今となってはノストラダムスのブームも懐かしいですが、遡ればヨハネの黙示録も同じ匂いがします。近代ではチャップリンも、警鐘を鳴らした1人ですね。
もうひとつのテーマは、母の愛。偉大だと称えることと、偉大でなければならないと迫るのとは、真逆と言っていいです。

佐久間「読み物として面白いことも重要だ。ブームになったのは理由がある。」
山田「チャップリンも、まずは面白いから観る。後になって深いメッセージが隠されていることに気付く。」
八武「愛欲が地球を救う。」
佐久間「一文字付け加えるだけで、こんなに取り返しのつかないことに。貴方も明日からやってみませんか?」
維澄「伝統だね。戦時中も、“贅沢は敵だ”という欺瞞の標語を、“贅沢は素敵だ”に変えた落書きがあった。」
神邪「母の愛も、そこに欺瞞があるかどうかを見抜いて、判断しなければならないですね。」
佐久間「『子供を愛さない親はいない』というフレーズは、子供を愛せない親を追い詰める。その結果として子殺しが起きている場合もある。最後の一押しとしてな。」
八武「子供を虐待している親は、ほぼ例外なくやつれている。子供を手術した後は、親をエステに通わせる。」
維澄「素晴らしい医者だ。」
神邪「母親が美しいと子供は嬉しい。激しく同意します。」
アッキー
2015/12/30 22:01

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