佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十五話 約束のクリスマス 47

<<   作成日時 : 2016/01/04 00:00   >>

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劇的な飛躍は、地道な下地なくしては起こらないのだと、茶倉は痛感した。
あちこち動き回って集めた材料を繋ぎ合わせ、足りない部分を推測し、ようやく全貌が見えてきた。
(“サトリン”。)
このキーワードに辿り着くまで、どれだけ費やしただろう。半年という時間は、人生において馬鹿には出来ない。
そして社会も、半年あれば激変しうる。
2003年というのは、イラク戦争の始まった年だった。反戦デモを目にするのは初めてではないが、このときばかりは驚かざるを得なかった。
道いっぱいに広がる人の波。それに時代のうねりを感じたことは、記憶に古くない。
もっとも、それに加わるつもりはなかった。“反戦”なるものが気に食わないのもあるし、夫と、そして“サトリン”の方に興味関心が強いというのもある。
それだけなら、あるいは夫が誘えば参加したかもしれないが、鈍郎は茶倉を誘うどころか、自分も行かなかった。
「20世紀のうちは反戦平和を笑いものにしていた奴が、あの中に1人でもいるかと思うとな。」
珍しく苛立った声を出した鈍郎は、冷ややかな目つきで人の群れを眺めていた。
運動が大きくなるほど、鈍郎は肩身の狭い思いをするのだろうか。
だとしたら―――
(弾圧されてしまえ。)
もしも自分がWACに籍を置いたままだったらと考える。
命令されれば、今なら喜んで国民に銃を向けられる気がする。
今の自分が、あまり良くない精神状態なのは認識しているが、どうにも抑えきれない。嫌な気分を抑え込んで、いっそう気分が悪くなるよりは、開放して発散したい。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。さぞかし気持ちいいだろう。
妄想の中で、何度デモ隊に向かって銃をぶっ放したかわからない。
叫びながら、怒りながら。
(ああ)(駄目だ)
心のスイッチが負の方向に入ったまま、変なところに引っかかって動かない。
こんなとき、別のことを考えるか、気晴らしになることをすればいいのだろうが。だが、デモ隊のシュプレヒコールは、耳を塞いでも手をすり抜けて響いてくるし、両手を使えば作業は出来ない。そのうち耳が痛くなる。

気が付けば武器を買っていた。
黒光りする銃に、手榴弾。
夫には内緒だ。そもそも違法だ。
これがあるだけで、いくらか気持ちが楽になる。いつでも殺せると思うからこそ。
(本当に?)
それ以外の感情があることを、茶倉は誤魔化さなかった。
吉岡一曹も、わかっていたのだろう。茶倉が武器を買うとき、何も訊かずに世話をしてくれたのだ。



つづく

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内 容 ニックネーム/日時
火剣「茶倉はかなり良くない状態に見えるな」
コング「僕と八武院長みたいにスルーできない性格の人間はいる」
火剣「激村だな」
ゴリーレッド「劇的な飛躍は地道な下地なくしては起こらない・・・これは名言だ。特に夢を追いかける人に贈りたい言葉になっている」
コング「茶倉はそんなつもりではなさそう。第一に夫の鈍郎だ。幸せな男よ」
火剣「人に愛されたことがない人間も多いからな」
コング「自分なんか異性から愛されたことなんか一度もないと独白したら落ち込むだけだから無駄な時間だ」
ゴリーレッド「人を愛することはできる」
コング「僕も愛することは得意だ。全身くまなく愛してあげるん」
ゴリーレッド「日本語は難しい」
火剣「拳銃を手にすると人間は一種異様な感情が湧くと言うな」
ゴリーレッド「腕力がなくてもそれで勝てるからな。銃を向けられて『撃ってみろ!』と言えるのは極道映画だけだ」
コング「どんな強気なヒロインでも股に銃口を突きつけられたら『待って!』となる」
ゴリーレッド「何で話を違う方向へ持って行こうとする」
火剣「戦争の20世紀から平和の21世紀へかと思ったら、2001年でいきなりだからな。見えない魔の勢力を感じたぜ」
ゴリーレッド「デモだけは流れに乗ってはいけないか。やるなら自分一人でも歩く覚悟が必要ということか」
火剣「ユゴーのように『もしも最後に一人だけ残るとしたら、それは私だ』」
コング「ユゴーを見習おう」
ゴリーレッド「コングが言うと不安だ」


火剣獣三郎
2016/01/04 17:25
>火剣さん
21世紀になってから、アフガン・イラクと立て続けに爆撃を受け、社会不安の真っ只中。茶倉と鈍郎も結婚生活の中で、この頃が最も危険な状態でした。

佐久間「デモ行進で世の中が変わったことってあったっけ?」
維澄「無い。イラク戦争も止められなかった。」
神邪「では、デモ行進の意義とは・・」
維澄「そんなものは無い。」
八武「無いの?」
維澄「やむにやまれぬ思いから出る行動なのであって、意味が先んじるわけじゃない。」
神邪「意味は後から生じるわけですか。」
維澄「まさしく1人でも歩く覚悟が必要だ。みんな一緒でないと歩けない奴が何人いても、糞の役にも立たない。」
八武「ふーむ。」
山田「ここに参加していた中にも本物がいたんだろうが、偽物が幅を利かしていれば、離れていってしまう。」
佐久間「華々しいときだけ運動に参加するというのは、いかにも気に食わない。地道に下地を積むのとは真逆だ。」
八武「地味な下着を着るのとは真逆? どんなに派手な下着を。」
山田「殴るぞ。」
八武「殴ってみろ・・・いや待て待て待ちたまえ。」
佐久間「茶倉の下着は地味だ。」
山田「答えなくていい。」
アッキー
2016/01/04 22:50

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