佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 「千里」 番外掌編

<<   作成日時 : 2016/02/11 00:00   >>

驚いた ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 2

1968年の夏。
「三日月がいなくなってから15年・・・。は〜、オレももうじき30か。何だかなあ。」
沢木銀一は物憂げな気分でアスファルトの道を歩いていた。
高度経済成長の影響で、子供の頃は砂利道だったこのあたりもアスファルト一色に染め上げられている。それと共に街並みも随分と変わってしまった。
彼自身も、子供時代のような丸刈りの野球少年のような風貌から、ごく一般的な長さの髪形になっていた。
「吉岡も10年前に引っ越して、残るはこれだけ。」
ポンと叩いた懐の中には、彼の友人が自費出版した小説が入っていた。
「それにしても『走れエロス』だなんて、ハハッ、馬鹿なタイトルだよな。でも中身は真面目で、あいつらしいや。」
何度も読み返して、暗唱できるまで覚えている。お守りがてら、こうして懐に入れているのだ。
「七村も6年前に結婚して東京行って・・・。今頃、幸せにやってんだろな。」
かつての女友達の姿を思い浮かべると、それがやけにリアルに見えた。風にそよぐ髪の香りも漂ってくるようだ。
「・・・・・・え?」
現実の、10メートルほど先に、確かに女の後姿が存在していた。
銀一はポカンと口を開けたまま、小走りに女の前へ回り込んだ。途中で足が縺れて転びそうになった。
「七村?」
「あら、沢木くん? 久しぶりじゃないの。」
互いに驚きと懐かしさを顔に浮かべて、しばし見つめ合った。
再会を懐かしむときは、道行く人に聞こえるくらいの声で話すものだと思っていたが、いざ自分の番になると意外と声が出ない。
「ダンナとはよろしくやってるか?」
「そうね。仲良くやってるわ。」
「そうか。」
自分の言葉に僅かに刺々しさや落胆が混じっているのに気付いて、銀一は少し驚いた。
そう言えば七村にも少し気があったことを思い出して、苦笑いするしかなかった。
「そこでちょっと話さねえ?」
「そうね。沢木くんの話も聞きたいわ。わたしのいない6年間のこととか。」
2人は喫茶店に入ってコーヒーを注文した。
「・・・三日月もコーヒー好きだったな。」
「そうだったわね。三日月さん、元気にしてるかしら。」
「元気、か。・・・元気ね。」
不意に、悲しみにも似た違和感が銀一を襲った。それが何なのかはわからなかった。
それから2人は何時間も昔のことを語り合い、気が付けば夜も近くなっていた。
「・・・そういやさ、何で6年も音信不通だったわけ? ・・・そりゃまあ、親父さんが亡くなって、帰る家も無いだろうけどさ。」
「うん、まあ・・・いろいろあってね。」
そう言う彼女の笑顔は、少し悲しみを含んでいた。少女時代と寸分違わぬ特長的な笑顔。
そう、寸分違わぬ―――
「・・・・・・。」
ふと、先程の違和感が頭をもたげてきた。
「沢木くん?」
「・・・・・・。」
彼女の呼びかけに応えず、銀一は目をしばたかせてコーヒーを飲み干した。
彼は呆然としていた。
それは数秒のことであっただろう、一呼吸入れて口を開いた。
「・・・なあ、今更だけど基本的な質問いいか?」
「え、どうしたの? あらたまって。」

「・・・・・・お前、誰?」

空気が凍りついたように感じた。
電信柱に留まっていたカラスが、不穏な気配を感じたのか、羽音を立てて飛んでいく。
それと共に目の前の女の表情が変化する。
「どうして気付いたの? 君の記憶通りに寸分違わぬ七村光子を再現したつもりだったんだけど。」
正直、4割は冗談が混じっていたのが、今の言葉で全て確信に変わる。
「そうだよ、寸分違わぬ七村だ。だがな、変わらなさすぎだよ。6年も東京で男と暮らしてて、変わらないなんてことがありえるか?」
「・・・なるほど。」
「決め手は三日月を苗字で呼んだことだ。七村は三日月のことを下の名前で呼ぶんだよ。オレもたった今思い出したんだがな。」
「そいつは迂闊だったな。私としたことが間の抜けたミスをしたものだ。」
いよいよ口調が七村のものではなくなってきた。
「質問に答えろよ。」
銀一は苛立って言った。
「私はファーブ。マスター・ファーブ。世の理に仇なし、かつ理に仇なす者を掃討する、リビングデッド・カンパニーが社長。」
鋭い目を剥きながら、ファーブはコーヒーの代金を置いて席を立った。
「三日月千里に会うことがあれば伝えておいて。我々“アポトーシス”は必ず貴様らを殲滅する。たとえ何年かかってもだ。」
「お前・・・お前は一体?」
銀一は立ち上がって後を追おうとしたが、既にファーブの姿は跡形も無く消え失せていた。
脳裏に彼女の言葉が響く。

『我々“アポトーシス”は必ず貴様らを殲滅する。たとえ何年かかってもだ。』

「アポトーシス・・・。」
残された銀一は、それだけ呟くと、代金を払って店を出た。
相変わらずの暑さが、いっそう鬱陶しく感じた。





   了

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
驚いた 驚いた

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
コング「1968年。僕は生まれていない」
ゴリーレッド「それにしては私の城下町を熱唱する」
火剣「沢木銀一」
コング「砂利道で拳立て伏せ。みんなできないんだ」
ゴリーレッド「そういう拳で女子を殴るな」
火剣「走れエロスはパクリにならないのか?」
ゴリーレッド「本家が大物過ぎるとパスされる可能性のほうが高い」
コング「走れエロスというタイトルを思い浮かべるのは一人や二人ではないし」
火剣「内容がまじめか。読んでみたいが」
コング「七村・・・光子か」
火剣「少女時代と寸分違わぬ」
ゴリーレッド「緊迫の一瞬。『お前、誰?』」
コング「いいね、いいね」
火剣「カラスが飛び立つシーンを挿入。ヤンジャンの編集部が喜びそう」
コング「挿入?」
ゴリーレッド「そのひとコマが凄い演出になることも」
コング「芸が細かいってヤツか。愛撫でも芸の細かさは大事だ」
火剣「掃討。掃除屋、始末屋か?」
コング「千里はヤバイ連中に狙われているな。何か悪いことしたのか?」
ゴリーレッド「軽いことを言うな。前も敵。後ろも敵。厳しい人生だ」
コング「前後左右から責められる日が来るかもしれない」
ゴリーレッド「砂利道でパイルドライバーを食らいたいと?」
コング「誤解だ」
火剣「アポトーシス。これは千里の番外掌遍?」
コング「千里は強過ぎてヒロピンはあまり望めないが、手ごわそうな敵」
ゴリーレッド「どうなる?」
火剣「沢木銀一はいわゆる気が多い男」
コング「世の中これだけ魅力的な女子が満載しているんだ。気が多いのは仕方ないことであーるの女」
火剣獣三郎
2016/02/11 11:49
>火剣さん
久々に出てきました沢木銀一。「千里」第一部のエピローグ的な掌編かと思いきや、急転直下の戦慄が待っている!
この掌編は、アポトーシス大戦編のプロローグ的な位置づけになっていますが、サトリン第十六話の前に持ってきました。

八武「うーむ、戦慄のシーンだ。」
山田「1968年は俺も生まれてない。死根也でも13歳か。」
佐久間「走れエロス。このタイトルは中学生男子の約半分が思い浮かべるという。」
神邪「そうなんですか!?」
維澄「男子限定でもないかもしれないね。」
八武「千里は敵だらけ。修羅の星を背負っているのか。」
神邪「敵だらけ、ですか・・。」
佐久間「目下アポトーシスにとって、千里は最大の敵ということになるかな。」
山田「どういうことだ?」
佐久間「アポトーシスの和訳は、自殺因子。その言葉に込められた理念は、エスパーを殺すエスパーであるということ。」
維澄「海月を襲った2人も、ファーブの差し金?」
佐久間「その通り。」
山田「あの2人とは実力が違う。大物感がある。」
神邪「正々堂々とした感じがありますね。」
八武「本物の光子は今頃どうしているのか。千里の予知は?」
佐久間「それも含めて、サトリン16話で語られる予定だ。」
山田「ほう。」
アッキー
2016/02/11 23:24

コメントする help

ニックネーム
本 文
「千里」 番外掌編 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる