佐久間闇子と奇妙な世界

アクセスカウンタ

zoom RSS 「千里」 第十四話 結束のサイコイレイズ

<<   作成日時 : 2016/05/02 00:25   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 1 / コメント 0

■■■■■■■■■■



太平洋の某所に存在する、アルカディア本部。
そこでレックスはヒーリング能力者の治療を受けていた。
「やっほー、レックス。元気?」
すっかり傷が治ったルナが、レックスの部屋にやって来た。
「ああ、もう動けるぜ。念の為もう2、3日、様子を見るらしいが・・。」
そこへリュウもやって来て、レックスに抱きついた。
「レックス!」
「あー、リュウだけずるーい。わたしもー。」
「うあっ?」
2人に抱きつかれて、レックスはベッドに倒された。
「はははは・・・もてもてじゃないか。」
その声に3人は同時に扉の方を見た。
レックスより少し年上・・・20歳くらいの青年が立っていた。レックスより少し背が高く、茶色に近い黒髪。やや細身。面長の顔に、丸っこい目。
「俺はジョナル。“X・Q”ジョナル。君がレックスだね。」
「ああ。」
2人は軽く握手をした。
「まあ、しばらくゆっくりしていってよ。組員は殆ど出払ってるから静かだし。」
「そうさせてもらうか。クレアとサムが、しばらくルーマニアにいるしな。」
「へ、何で?」
「任務の関係だ。クレアから聞いてないか?」
「いんや? だいたい月組って謎が多くて、何やってんだかわかんないからね。幹部連中でも構成員を把握してなかったりするし・・・。砕組の連中なんかは、君のことは知らないだろう。」
「ふーん、そうなのか。それより、あんたもエスパーなのか?」
「そうだよ。白組隊長X・Q・ジョナル。まー、隊長といっても、あんまり大したことはないけどね。俺、隊長になりたてほやほやだし。」
アルカディアには、大きく分けて3つの系列がある。すなわち、クレア率いる月組(つきぐみ)、他の最高幹部が率いる、獣組(けものぐみ)、砕組(くだくぐみ)である。
白組は月組の系列に属していて、若手が多い。同系列の黒組共に、クレアの指導によって超能力の使い方などを学んでいる。
「俺ら月組系列は雑用係だけどね、良く言えばオールマイティ。臨機応変。これもクレアさんが俺たちの能力を熟知して適材適所やってるおかげだ。感謝してるよ。」
「性格悪いけどな。」
「それは、それだけレックスの前では本心を見せてるってことじゃないかな。俺らに指導するときは優しく丁寧だよ。」
「そーかよ。」
レックスは笑いながら口を尖らせた。
「クレアさんに優しくしてほしいのか?」
「べ、別にオレは・・・。」
会ったばかりだというのに、レックスとジョナルは兄弟のように打ち解けていた。

「ういーっす。たいちょおー、ジョナル隊長おー、どこいったんすかー?」
廊下の方で声がする。
「あ、いっけね。サカルだ。白組で会議やるんだった。」
その声を聞きつけて、サカルが部屋に入ってきた。
東洋系の顔立ちの、10代後半の少年。帽子を被っていて、気さくな雰囲気の三枚目だ。
「隊長、こんなところに・・あ、ちわーっす。」
レックスたちに気付いて、サカルは帽子を取って挨拶した。
「新入りっすか? おれぁ、サカルといいます。」
「オレはレックス。月組の新入りだ。」
「んじゃー、ちょっと隊長借りていきますんで。ごめんなすって。」
「それじゃ、また後でなレックス。」
サカルに引っ張られながら、ジョナルは部屋を後にした。

「もー、たいちょお。しっかりしてくんだせえよ。」
「すまんね。どうもまだ隊長としての実感が湧かなくてね。」
「そげなことじゃ、困りまっすよ。おれらぁ月組系列は、ただでさえ疎んじられてんすから。」
「まあな。獣組系列はともかく、砕組系列は体育会系だしな。」
「へーんだ、サイコキノがそんなに偉いのかよー。」
サカルが口を尖らせる。
すると廊下の角から長髪の青年が出てきた。
「サイコキノが、何だって?」
「げ・・・」
サカルの顔が青くなった。
「今のセリフ・・・もう一度言ってみるのはどうかな。サカル君よ。」
長髪の男はサカルを見下ろして言った。
「え、えーっと・・」
「はっははは、冗談だよ。じょ・う・だ・ん。ま、あまり僻み根性出すなよ。そのうち指がチョッキンいっちまうかもよ?」
長髪の男は、軽く笑いながら去っていった。
「・・・・・・。」
サカルは悔しくて俯いた。
その横でジョナルは、目を細めて男の後姿を見ていた。

レックスの部屋では、まだルナとリュウがたむろしていた。
「アルカディアには頂点の神組の下にー、それぞれ最高幹部の統括する3つの組があるの。ナンバー6が隊長を務める砕組、ナンバー5が隊長の獣組、そしてわたしたち月組はナンバー4のクレアが。あ、ここではギガマイル・クレッセントだけど。」
「ふーん。それじゃ、ナンバー1から3までが神組とやらか。まあ、そんな上の連中のことはいい。それより、白組や黒組って、地位低いのか?」
先程サカルが長髪の男に馬鹿にされていたのが、レックスたちにも聞こえていた。
「そうだねー。白組と黒組は、何というか、見習いみたいなものだから。能力が特異なエスパーを集めて訓練してるんだけど。」
「あの長髪の男は砕組の隊員で、通称“大鋏”。見習いと戦闘員じゃ、高校生と社会人くらいの差はあるよなあ・・。」
そう言ってリュウは溜息をついた。
「クレアが地位改善に努めてるから、昔よりはだいぶ良くなったけど、ああいうことは今でも日常茶飯事よ。わたしとリュウは月の半分は能力を使えないでしょ。だから、よく半端者扱いされて、いじめられたわ。ジョナルたちも同じようなメに遭ってると思う。」
いつになく真剣な顔のルナを目の前にして、レックスは腕を組んで呟いた。
「・・何とかしてやりてえな。」


- - - - - -


翌日の朝、レックスが食堂に行くと、ルナとリュウが待っていた。
「やっほー、レックス。」
「おはよう、レックス。」
「おう、おはよ、2人とも。」
レックスはパンとミルクとソーセージ、それからサラダを注文した。
食堂の料理人は予知能力者で、出来たての料理が即座に出てきた。
「便利なもんだな。」
「そうでしょ。」
「食材を仕入れる量なんかも、どれだけ使うかを予知して仕入れるから、殆ど廃棄しないんだ。」
「なるほどなぁ。」
幼い頃、レストランなどの裏口で捨てられていく食べ物を見ながら、物悲しい気持ちになった。
そのことを思い出して、レックスはアルカディアのシステムに感心した。
エスパー犯罪の処理や、超能力による事件に対処するのも、凄いといえば凄いが、こういった日々の生活の工夫の方が、もっと凄いように思えた。
「こういったシステムもクレアが整備していったんだよー。」
「へぇ・・・。」
レックスはルーマニアにいるクレアの顔を思い浮かべた。

3人で話をしていると、そこへあくびをしながらジョナルがやって来た。
「ふあ〜あ、あふ・・・おはよう、3人とも。」
眠そうな理由を訊くと、昨日の会議が長引いて、ろくに寝てないとのこと。
「何か朝に用事でも?」
「いや、特には無いけどね。規則正しい生活をしてないと、馬鹿にされる隙を増やすだけだから。」
「・・・日頃から、あんな目に遭ってるのか?」
「まあね。でもクレアさんが改善に努めてくれてるし、揉め事を起こしたら立場が悪化する。ここは穏便に、ゆる〜くいくさ。」
「・・嘘だ・・・。」
「え?」
「あのときのあんたの目は、そんなことを言う人間の目じゃねえ。本心じゃねえだろ。」
そう言ってレックスは真剣にジョナルの目を見つめた。
「そんな目で見つめてくれるなよ・・。」
ジョナルは目を伏せて、左手で顔を押さえた。
「ジョナル・・。」
「・・・闘争心が押さえきれないだろうが・・・!」
「!」
ジョナルの口調と雰囲気が変わったので、レックスは思わず笑顔になった。
「ありがとうよ、レックス。今まで俺たちに同情してくれた人はいたけど、怒ってくれたのはレックスが初めてだ。」
ジョナルはレックスの手を握り締めた。
「ジョナル。」
「戦うよ。迷ってたが、来週の試験も受ける。」
「試験?」
「ああ。実は俺はまだ正式な隊長じゃない。今の白組は単なる寄せ集め集団としか見られてない。だから俺が正式な隊長になって、ちゃんとした“組”として認めさせる。」
「オレに出来ることがあったら協力するぜ。」
「わたしも。」
「僕もだ。」
「ありがとう、レックス、ルナ、リュウ。それじゃ、早速だが、訓練に付き合ってもらうか。」
「メシ食ってからな。ジョナルもまだなんだろ。」
丁度そのとき、ジョナルの腹がグゥと鳴った。
「ああ、そうだな。腹が減っては戦は出来ぬ。しっかり食べるとしよう。」

4人で仲良く食事をしていると、昨日の長髪男がやって来た。
「よっ、ジョナル君。昨日は挨拶も無くて、失敬失敬。ハッハハ。」
親しげに見えて、人を見下した態度。
レックスは怒りが込み上げてきた。
「そういや、例の試験って来週だっけ。実はさ、相手ってうちの分隊長なんだよ。知ってたか? ハハハ、まあ頑張れよ。勝てっこないだろうけど。」
レックスは我慢できなくなって、テーブルをドンッと叩いた。
「何がおかしい。」
「は?」
「オレの友人を侮辱するな!」
「・・おいおい、挨拶と励ましをしただけなのに、なに怒ってんだよ。頭おかしいのか?」
「挨拶や激励ってのは、せせら笑いながらするもんじゃねえぜ、ファック野郎。」
レックスは拳を作って、親指を下に向けた。
「はー、うっぜえ。何こいつ。指チョッキンいっとく? なあ、いっとく?」
男が顔を近づけて威嚇してきた。
「あー、2人とも、そこまで。」
ジョナルが割って入った。
「すみません、リックさん。こいつ、新入りなもんで。後でよ〜く言い聞かせますから、ここは勘弁してやってくれませんか?」
「・・・・へいへい、わかったわかった。白組隊長に免じて見逃してやるよ。今度から気ぃつけろよ。」
リックは去っていった。
「ちょっ・・もが!」
レックスはジョナルに口を押さえられた。
「レックス。」
ジョナルが耳元で囁く。
「あんな雑魚は最初から眼中に無い。本当の敵は、その向こうにいる。安い相手に熱くなるな。」
ジョナルはレックスから離れると、にっこり笑った。
「ジョナル・・・あんた、思ったよりタヌキだな。」
レックスがニヤリと笑った。

試験前日の昼。
「そういや今更だけど、試験って何すんだ? まさかペーパーテストってわけじゃねえよな。」
レックスはジョナルに質問していた。
「ああ、砕組の分隊長が相手で、戦って勝てばいい。こっちは白組全員で戦える。」
「つまり1対8か。」
数だけ聞くと楽観してしまいそうになる。
「今回は第四分隊長ハービスが相手だ。」
「ハービス・・・。強いのか?」
「そりゃ強いさ。」
ジョナルは悔しそうに笑った。
「今まで白組の総力をあげても分隊長クラスには勝てなかった。ハービスは偶数組の中でも特に強い。」
「偶数組?」
「砕組は25の分隊のうち、偶数の分隊長に強力なのを配置している。ハービスは12人の中で第3位、砕組全体でも第7位の実力者だ。」
「能力は?」
「サイコキネシス一本。B1級の上位クラスで、相当に使い慣れてる。戦闘経験も豊富だ。」
「ジョナルのは?」
「俺は五基(サイコキネシス、テレポート、テレパシー、クレヤボヤンス、プレコグニッション)持ってるけど、全部C1級。これらを駆使して攻撃を弱めたり、受け流すくらいさ。」
「それだけじゃねえだろ。」
レックスが笑みを浮かべながら、横目でジョナルを睨む。
「やれやれ、目つき以上に鋭いな。確かに隠し玉が2つあるよ。ひとつは、相手が超能力を発動したとき、その強さに応じて精神にダメージを与える能力。でも、これは相手がA級くらいでないと実用性に欠ける。ハービスはA級に近いけど、大した威力にはならないだろう。」
「もうひとつは?」
「それは実際に見せた方がいいかな。ちょっと来て。」

レックスがジョナルに付いていくと、だだっ広い平原があった。
「超能力の訓練をするにはスペースがいるからね。特にサイコキネシスやテレポートは。」
「なるほど、これだけ広けりゃA級でも暴れられるってわけか。」
レックスは平原を彼方まで見渡した。遠くの方が薄ぼんやりと霞がかっている。
「・・それよりか、能力見せてくれよ。」
「ああ。あそこにある岩を見てくれ。」
15メートルくらい先に、直径3メートル近い岩がある。
「いくよ。」
ジョナルは右手の人差し指を岩に向けて集中した。
空気が痛いほど張り詰める。
閃光と共に指から光の筋が放たれ、轟音と共に岩を粉々にした。
「・・・すっげえじゃん!」
レックスは目を丸くした。
「これなら、そのハービスとかいう奴にも勝てるって・・・・あれ?」
ジョナルは倒れていた。
「おい、どうした、しっかりしろ!」
「ああ・・・。これが今の技の・・副作用さ・・・。威力の高いサイコガンだけど、加減が出来ず、自分の全エネルギーを使い果たしてしまう・・。」
「ふーむ、当てなきゃ駄目か。」
「・・・・・・。」
ジョナルは暗い顔をしたが、レックスに見えない角度に顔を向けていたので気付かれなかった。
暗い顔をしたのは、レックスが自分を買い被ってることに、何だか騙しているような気分になったからだった。

そこへ後ろから誰かが近付いてきた。
「当てても無駄。」
「あ?」
レックスが振り向くと、そこに女が立っていた。
絞り込まれた細い体つき、長い黒髪、鋭い眼光。背丈はレックスより幾らか低いが、圧倒的な存在感を放っている。
「・・誰だよ、あんた。」
レックスは圧倒されながらも、先程の発言にムッとして言った。
「このアルカディア本部で私のことを知らないとなると、新入りか、月組のメンバーか。」
馬鹿にする風でもなく、素朴な淡々とした口調で彼女は言った。
「両方だよ。レックス・ブースターだ。」
「私は砕組第二副隊長フィー・カタストロ。」
「砕組!?」
レックスは身構えた。
するとフィーは溜息をついた。
「その様子だと、うちの連中に相当な扱いを受けてるようだな。すまない。」
そう言ってフィーは深々と頭を下げた。
「あ、いや・・。」
砕組の連中は皆、鼻持ちならないエリートだと思っていたレックスにとって、この対応は予想外だった。
「・・そうだ、それよりも、今の・・」
「当てても無駄だと言ったことか?」
「そうだ。何で当てても無駄なんだ?」
「言葉通り・・。ジョナルのサイコガンは、過去B2級にも通用しなかった。相手は超能力戦のベテランだ。軽くいなされてしまう。」
「・・・これをいなせるって? そんな奴に勝たなくちゃならねえのかよ。」
「今のを見たところでは、瞬間的な威力はB1級にも匹敵する。ただし、お前のアンプリファイア能力で増幅されての話だ。」
「!」
「すぐわかったよ。お前に近付くだけで自分の出力が上がった。」
「・・・・・・。」
レックスが洞察力に驚いて黙っていると、フィーはポケットから栄養ドリンクを取り出して、ジョナルに飲ませた。
「・・ぷはあ・・・。」
「鍛錬は積んでるようだな。威力も上がってるし、軌道のブレも少なくなった。」
フィーは自分の出力が上がったときの感覚で、レックスが乗算のアンプリファイアで、倍率は2倍であることを見抜いた。そして、それを考慮に入れた上で本来のサイコガンの威力を推し量ったのだ。
「しかし、それでは万が一にもハービスには通用しない。第二段階へ進まなくては、試験合格は無理だ。」
「・・・わかってます・・。」

夕方にはジョナルは回復していた。
フィー・カタストロは、あの後どこかへ行ってしまって、レックスがジョナルの側についていた。
「ほー、それじゃ、あの女がジョナルの技の師匠なんだ。」
「ああ、俺にサイコガンを教えてくれた。お前には素質がある、なんて言ってね。」
「砕組にも、いい奴はいるんだな・・。」
「はは、そりゃあね。あの人は砕組の中でも一番の人格者だと思うよ。3人の副隊長の中で一番強いとも言われている。」
「副隊長が3人もいるのか。」
「隊長は1人だけどね。最高幹部のナンバー6、“念縛要塞”(サイキックフォートレス)、SSOD、シュシュ・オーディナーク。物凄い存在感ある人でさ・・・近寄りがたいよ。」
「・・・・・・。」
レックスは心の中で、クレアと先程のフィー・カタストロを比較してみた。
確かにクレアは自分と比べれば多くの人生経験を積んでいるのだろう、悔しいが敵わない。しかし、カタストロの迫力には及ばない気がした。
そして、その上司は更なる迫力を持っているという。アルカディアでのクレアの地位は、更に2つ上だ。
クレアと月組が軽んじられているのも、他の幹部の性根だけが問題ではないのか・・・と思ったりもした。
しかし今はそれよりも、明日の試験の方が気にかかった。
「ジョナル・・・正直なとこ、明日の試験は、いけそうか?」
「わからないが、やるだけやってみるよ。もし合格したら、レックスのおかげだな。」
「よせやい、オレは何もしてねえよ。」
ジョナルは怒ってくれたことに対する感謝の気持ちから言ってるのだと、レックスは思っていたが、実際のところ、それだけではなかった。


- - - - - -


翌日の昼。
レックスは食堂で昼食を食べ終えたところだった。
少し離れた席で、3人のエスパーが会話していた。
リーダーと思しき、こげ茶色の髪の30代後半の男。金髪の30代前半の男。火傷でもしたのか、顔を包帯で巻いた人物。
「そろそろ白組の試験が始まるな。」
金髪が言った。
「今度こそ合格してほシイ・・。そうすれば、サカル君も我らの一員として迎えることが出来ル。」
包帯の人物は、火傷のせいか、少し言葉がおかしい。
「是非とも欲しいよなー。サカル君だって、火組でこそ実力を発揮できるんだし?」
「白組じゃ、普通人と変わらないデすからネ。」
「上の連中も何考えてんだかなー。」
「我々は砕組系列といっても亜流デスからネ。あまり声も届かないでショウ。」
「だからこそ余計にサカル君が欲しいが・・・勢力大きくするための人材確保にも勢力がいるというのが不条理なとこだ。」
「パワーバランスの問題ですネ。」
「隊長が戻っていれば相当違うんだがなー。」
すると、今まで聞くだけだった年長の男が口を開いた。
「やはりわたしでは荷が重い。」
「副隊長は、よくやってくれてますヨ。」
「隊長も、どこで何やってんだかな。5年も姿を見せないで。」
「どうせ考えナシにホッツキ歩いているんですヨ。その自由さが強さの源でもありマスが。」
「あー、くさくさする。どうせなら試験、見に行きたいな。」
金髪が後ろで腕を組みながら言った。
すると副隊長が言う。
「見に行こうか?」
「いいんデスか。」
「今回の試験官はカタストロさんだから、融通きくだろう。」
「おーし。じゃ、早く行こう。」
「大丈夫ですヨ。あと30分以上ありますカラ。」

火組の3人が行ってしまってから、レックスは溜息をついた。
「オレも応援に行ければな・・・。」
アンプリファイア能力者であるレックスは、試験の公平性を守る為に、会場へは近付けないのだ。
「いいこと無いな、この能力・・。」
クレアからは評価されているが、実感が湧かないレックスにとってはお世辞にすら聞こえてしまう。本当に自分はエスパーなのか、実は普通人じゃないのかと思うことすらある。
そこへレックスと同じくらいの歳の青年が現れた。身長はレックスよりやや低く、小太りで、全身黒ずくめの服装をしていた。
「や、浮かない顔してるな、えーと、レックスだったかな。」
「そうだ。あんたは?」
「僕は黒組隊長ノワール。君と同じ歳さ。」
「黒組ってえと、白組と対の?」
「そう。今日は白組の試験だよね。頑張って欲しいものだよ。残念ながら応援には行けないがね。君と同じで僕も干渉能力者だから。他にも色々あるし。」
「ふーん。黒組も試験とかあるのか?」
「負け続けさ。だから白組には頑張ってもらいたいものだね。白組の勝ち負けで黒組がどうこうってわけじゃないけれど、僕らみたいな半端者でも、やれば出来るってことが証明されれば、こっちも希望が持てる・・・。いや、そうじゃないな。それもあるけど、やっぱり・・・半端者が上の連中の鼻をあかすのは気分がいいから。」
「わかるぜ・・。」
レックスはノワールの手を取って握手をした。
負け犬の傷の舐め合いだと、笑わば笑え。それも友情だ。


- - - - - -


試合会場では、ジョナルをはじめ、白組のメンバーが勢揃いしていた。
試験監督のフィー・カタストロは、腕を組んだまま動かずに突っ立っている。その後ろではヒーリング能力者が3名控えている。
ギャラリーには火組の3人と、リックが来ていた。沈黙を条件にギャラリーであることを許されているので、一言でも発せば殺されかねない。
対戦相手は砕組第四分隊長ハービス・カチュラム。30代後半と聞いているが、もっと若く見える。クリーム色の天然パーマで、タンクトップとショートパンツに、古びたジャケットを羽織っている。
小柄だが、その実力は折り紙つき。砕組の正規メンバー200人以上の中で第7位。アルカディア全体でも40位以内に入るだろう。
「カタストロ副隊長。リックと少し話がしたいのですが。」
「・・5分だけ許可する。」
言いながらフィーは腕組みを解いた。

ハービスはリックに近寄って、ジロッと睨んだ。
「何しに来た。」
「もちろん分隊長が白組の半端者をコテンパンにするのを見に。」
「ふん、悪趣味だ。」
「全力でお願いしますよ。」
「・・・リック、お前は私が万が一にも負けると思ってるのか?」
「まさか。」
「話は終わりだ。」
ハービスは忌々しそうに舌打ちした。
万が一にもと言ったが、その万が一を起こすのがギガマイル・クレッセントであり、月組の実力だ。その系列ともなれば、油断など出来るはすもない。
(かといって買い被りもしない。いつも通り、薙ぎ払うのみだ。)

「開始!」
フィー・カタストロの合図と共にジョナルたちは一箇所に集まった。
ハービスは20メートルほど離れたところで、念力を身に纏って待機。彼女の実力であれば、一気に攻め立てて制圧する手段もあるが、これが試験であることを考えると適切ではないように思えた。
奇襲への対策をしてないとも限らないし、してないとしても部隊として成立してから学べばいい。そのようにハービスは考えていた。
(白組で戦力として数えられるのはジョナルのみ。彼のサイコガンは威力は高いが、一発のみ。)
以前に他の分隊長と戦ったときも、ジョナルはサイコガンを撃って動けなくなり、簡単に制圧された。
(あおのときのままであれば、容赦なく薙ぎ払うぞ。)
ハービスの目が鋭く光った。
彼女の防御力をもってすれば、ジョナルのサイコガンを薙ぎ払うのは容易いし、そのまま返す刀で2秒で制圧できる。容赦はしない。
・・ただし、それはジョナルが以前のままだったらの話だ。
「いくぞみんな!」
短期間のパワーアップなど、そうそう出来るものではない。
出来るとすれば、単純なパワーアップでは、ない。
ジョナルの掛け声と共に、残りの7人が一斉にハービスを睨み返す。そしてジョナルの指先に念力が集まる。
「ふん。」
(部下を捨石にする気か? 無駄なことだぞ。)
ハービスは、地面に踵(かかと)をつけた。それと共に、彼女を覆っているサイコキネシスの力場が、いっそう密度を増して強化される。
「非人道的オクタイレイズ!」
ジョナルの指から閃光がほとばしる。
その寸前にカタストロが叫んだ。
「よけろハービスっ!!」
「!?」
ハービスは咄嗟に身をかわした。
光線はハービスの顔すれすれを掠め、数百メートル後方の地面へ。そして大爆発が起こり、岩の破片がこちらまで飛んできた。
それらの破片をサイコキネシスで処理しながら、カタストロは終了の合図を出した。
「・・・・・・!」
ハービスは爆発のあった方向を見て、思わず冷汗を流した。
(もしも副隊長の一声が無かったら・・・。)
自分の周囲に展開していた、砕組分隊最強を誇る念力のフィールドが、いとも簡単に貫かれた。以前の威力の、ざっと7〜8倍。ゆうにハービスの力を上回っている。
「この勝負、白組の勝ちだ。」
カタストロの宣言によって、白組のメンバーはジョナルを担ぎ上げて歓声をあげた。
ジョナルはぐったりとはしているものの、以前のように全エネルギーを使い果たしている様子が無い。
ハービスは不可解に思ったが、爆発のあった方向を再び見て、あれが現実であることを確認するしかなかった。

火組の3人は、ホッとした顔をしていた。
「おめでとう、白組諸君。」
副隊長の男が小声で呟く。
「これでサカル君がウチへ来るのも時間の問題ですネ。」
「やったぜー。」
一方、リックは渋い顔で見ていたが、やがて無言のまま歩き出して去っていった。
ハービスは、しばらく爆発があったところを見ていたが、我を取り戻してカタストロのもとへ歩いていった。
「カタストロ副隊長。ありがとうございました。」
「試験で貴重な戦力を失ってはたまらんからな。流石に肝が冷えた。」
「ええ。あの技・・・これほどの威力は無かったはずでは? A級並みの威力ですよ。」
「第二段階だ。ジョナルは良い友人と仲間を持った。」


白組の宿舎でジョナルたちを出迎えたのは、レックスとノワールだった。
「どうやら合格したみてえだな。その顔見りゃわかるぜ。」
「おかげさまでな。」
「だからオレは何もしてねえって。ジョナルの実力だ。」
レックスは寂しそうな顔をしていて、どうやら自分がジョナルに及ぼした影響をわかってない様子だった。わかっていても謙遜したに違いないが。
フィー・カタストロ直伝のサイコガン。その第二段階は、エスパーの力を結束して、威力を何倍にも高めるというものなのだ。結束するエスパーの能力に関係なく、人数に比例して威力は上がるが、精神を同調させる必要があり、今までは2人でも成功したことはなかった。
白組には諦めムードが漂っていた。何度も挑戦し、何度も敗北する。それを繰り返しているうちに、卑屈な根性が染み渡っていて、とても結束どころではなかった。仲が良くても、悪い言い方をすれば、負け犬同士の傷の舐め合いに過ぎなかった。
そこへレックスが現れたことで、ジョナルが熱を取り戻し、それが白組にも波及して、相乗効果の良循環で活気づいた。それは白組の実力ではあるにしろ、きっかけを与えたのはレックスだったのだ。

一同が自分の部屋へ戻るのと入れ違いに、リックがジョナルの部屋へ現れた。
「・・・・リックさん、どうしましたか。」
ジョナルは目を細めて指先に念力を集中した。
「ジョナル、おめー・・・・。」
リックの様子は、いつもと違っていた。いつもの嫌な雰囲気ではなかった。
「何でしょう。」
あくまで丁寧な物言いを崩さないジョナルに対して、リックは言う。
「・・・おれごときは眼中に無いってのか。」
「はい?」
「あれだけの力を持ってりゃ、おれごときは敵じゃねえ。」
「滅相も無い。」
ジョナルは首を振った。
「おれの挑発に全く乗ってこなかったのは、おれごときは取るに足らない存在だってことなのかよ!」
「いえいえ、まさか・・・・。第四分隊のナンバー2に向かってケンカを売るなんて、恐ろしくて、恐ろしくて。」
「・・・ッ・・・。」
リックは悲しそうな顔で舌打ちして、早足で立ち去った。
ジョナルはそれを見つめながら、自分もどこか悲しくなってるのに気付いた。
(妙な気分だよ。確かに想像通り嬉しい気分、胸がスカッとするけれど・・・ちょっと悲しい気持ちになるなんて想像してなかったなあ・・。)
ジョナルは、ゆっくりと伸びをしてベッドに座った。
(出会い方が違えば友人になれたのかと思うと惜しい。しかし今更なぁ。)
どこか寂しげに溜息をついて、ジョナルは赤く染まる夕陽を見つめていた。
(俺としたことが、随分と感傷的になってしまったものだよ。)


- - - - - -


「リック。」
目をしばしばさせながら早足で歩くリックを呼び止めたのは、上司のハービスだった。
「分隊長。」
「虎の威を借る狐のフリした寂しがり屋が、泣きそうな顔してどこへ行くの。」
「・・泣いてない、です。」
「ふん、無理をするな。友情にも片思いはある。振られて泣くのは不自然じゃない。」
「知ったような口を・・」
「お前のことならよく知ってる。本当に進歩の無い奴だからな。訓練生の頃には5人でつるんで強姦未遂事件。入隊してからは同期の女子隊員に惚れてセクハラして、辞められて。」
「・・・・。」
リックはうなだれた。
そんな彼を見て、ハービスは口調を緩める。
「飲みに行くなら、奢るけど?」
頷きながらリックは問いかけた。
「・・・分隊長は、どうしておれなんかに目をかけてくれるんです?」
「お前はダメ人間であっても無能じゃないからな。砕組に必要なのは、性格の良さではない。お前は、砕組に必要な人間だ。」
「分隊長・・・。」
リックの目に涙が滲んでいた。


- - - - - -


レックスは早めに食堂で夕食を摂っていた。
向かいにはフィー・カタストロがいる。
「お前には礼を言わなくてはな。」
「礼?」
「諦めムードで、試験を受けることすら辞退しようとしていたジョナルに、活を入れてくれた。」
「別にそんなんじゃねえよ。あのロン毛がムカついただけだ。」
レックスは顔を赤くして飯をかっ込んだ。
「照れなくてもいい。お前には特別な才能がある。超能力だけでなくな。お前と関わった人間は何がしか変化する。お前の上司もそうだ。」
「クレアが?」
「お前が月組に入ったのは、ヘッドシーフの一件がきっかけらしいな。」
「ああ。」
「彼女が変わったのは、その頃からだ。以前の彼女は、孤独と絶望の闇に棲む邪気そのもの・・・。私が心の底から恐怖を感じた人間は、彼女で2人目だ。」
「・・・・マジかよ。」
確かにクレアは恐いが、フィー・カタストロほどの人物が恐れるほどとは思わなかった。
「お前は“ギガマイル・クレッセント”を知らないからな。お前の知ってるのは“月組隊長クレア・クレッセント”だ。アルカディア最高幹部としての彼女は知らない。お前との出会いで人間的な一面も取り戻したようだが、今でも底知れぬ邪気は健在だ。恐ろしいよ。」
「・・・・・・。」
「お前には感謝している。彼女が人間でいられるのは、お前のおかげなのだと思う―――」


- - - - - -


それから数日して、レックスはリュウと一緒にクレアのもとへ飛んだ。
「やあ、レックス。アルカディアはどうだった。」
「思ってたよりいいとこじゃねえの。こんなこと言うと、無知を責めるんだろうけど。」
「穿ち過ぎだ。私にとってのアルカディアと、レックスにとってのアルカディアが違うのは当たり前だろう。」
「よく言うぜ。」
しかしレックスは笑っていた。
「ま、いいことばかりじゃねえが、そういうもんだろう。御伽噺じゃあるまいし、この世に理想郷なんてものが最初からあるわけねえ。」
「その通りよ。・・・ところで、カタストロから余計なことを吹き込まれたようだけど。」
「あー・・・。」
「安心しろ、私は人間だ。神でも悪魔でもない。」
「それは安心できねえな。オレは神や悪魔より人間が恐いんでね。」
「「ハッハハハハ。」」
クレアとレックスは同時に笑い合った。




   第十四話   了

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
□□□□□□□□□□ ...続きを見る
佐久間闇子と奇妙な世界
2016/05/02 01:50

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
「千里」 第十四話 結束のサイコイレイズ 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる