佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「千里」 第十六話 アルカディア幹部会 (下)

<<   作成日時 : 2016/05/02 00:50   >>

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続いて戦闘力の試験。京狐夜果里とフィー・カタストロが担当する。
20のフィールドが用意されており、それぞれ100点満点、合計2000点満点となっている。
夜果里の担当する最初のフィールドに、受験者たちが集められた。
「まずは肩慣らし。この半径100メートルの円陣の中で、あたしの斬空をかわし続けるだけだ。3分以内に100発放つ。1発よけるごとに1点ね。あたしは残空以外の攻撃は行わない。」
この説明を聞いて、多くの受験者たちはゾッとした。
京狐夜果里の斬空は、空間を切り裂く刃。受験者たちの中に防御できる者はいない。治療スタッフが待機しているとはいえ、命の危険もある。
「受ける受けないは自由だがね。」
その言葉に、受験者たちはいっそう尻込みした。
しかし中には益々やる気を出した者もいて、ヴェネシンが真っ先に出てきた。

「開始!」
合図と共に、空間干渉の刃が雨あられと降り注ぐ。
それをヴェネシンは事も無げにかわしていく。
理屈で言えば、夜果里の斬空は射程30メートルなので、半径100メートルの円の中で逃げ続けるのは難しくない。試験ということで、夜果里も全力で殺しにきてるわけでもない。
それでも、その理屈に命を預けられるだろうか。
受験者たちは、息をするのも忘れて3分間フィールドを凝視し続けた。
ヴェネシンは、100発全てをかわしきって汗もかかなかった。
それを見て、ネイル、レンファ、アトラトが参戦していく。ヴェネシンを見てコツを掴んだのか、3人とも100発全てかわしきった。

「大したものだ。」
待機しているカタストロが呟いた。
「そうか?」
コムザインは首をかしげる。
「京狐夜果里は全然本気じゃない。あの程度なら砕組の大半が出来るだろ。ましてヴェネシンなら、目を瞑っていても余裕すぎる。」
「そういう意味じゃない。夜果里が本気を出さないと、きちんと理解しているということだ。」
「ああ、なるほど。万が一に本気を出されても、斬空しか放たれないとわかっていれば対処できるしな。何しろ斬空は真っ直ぐにしか飛ばないんだ。」
「そう。よければいいんだよ。単純に。」
事も無げに言う2人だったが、それが出来る受験者ばかりではない。手加減した夜果里が相手でも、よけきるのが難しい者が大半を占めている。
だからこそ、受けるかどうかは受験者の意思に任せられるのだ。

カルゼッタやアンドリューなど、戦闘職の面々は、夜果里の“肩慣らし”をクリアしていった。その中にはラドルらキムも混じっていた。ジョナルやノワールは楽々とはいかなかったが、持ち前の能力を駆使して何とか100点をもぎ取った。
問題は、サイコキネシスなどを持たない者である。
ヴェロニバルはB1級のテレパシストであるが、たとえ相手の思考が読めたとしても、体の動きが間に合わない。まして夜果里は対テレパシスト訓練を受けていて、B1級くらいの出力では無力に等しい。
「行きます。」
だからヴェロニバルが挑戦すると言ったとき、何人かは驚きの表情を隠せなかった。
(大丈夫なのかよ?)
そう思ってラドルは、すぐに思い直した。
(いや、大丈夫か。オレに思いつく程度のことを、思いつけない女ではない。)

「開始!」
夜果里の斬空がヴェロニバルを襲う。彼女の身体能力では逃げられない。
見えざる空間の断裂が彼女の咽元に突き刺さ・・・る寸前に、弾けて消えた。
「えっ?」
「どうなってる?」
受験者たちの中には、思わず驚きの声を発した者もいた。
しかし夜果里は驚かないし、ラドルや他数名は安心している。
「どういうことですか?」
「ESPジャマーだよ。」
小声で尋ねるキムに、ラドルは小声で返した。
「そうか、実際の戦いでも用いるような道具、持込みが禁止されてるはずがない・・・。しかし、あれで防げるもんなんですか。」
「京狐さんの恐ろしさは、斬空と格闘術の複合にある。メタルイーター能力で、体重が見た目の5倍あるから、そのこから繰り出される拳や蹴りの威力は想像を絶する。防御しようにも、空間干渉を乗せてくる攻撃なんだ。斬空よか、よっぽど恐いね・・・。真っ直ぐしか飛ばない斬空と違って、あれは洗練された格闘技術なんだからよ。」

ヴェロニバルは無傷で切り抜け、100点を取った。
同じことを考えていた者は他にもいて、それぞれ100点を手に入れ手ごたえを得た。
逆に、ここで挑めなかった者は緊張が動揺に変わり、平常心を無くしていた。

続いて試験官を交替し、フィー・カタストロの出番となる。
「このように私は、10個の風船を念力で操作する。この風船を割ったら、1つにつき10点。私は移動しないし攻撃も加えない。風船は私から半径50メートル内を動く。制限時間は5分。私は念力出力1割までしか出さない。なお、1つも割れなかった場合はマイナス5点だ。」
厳しい試験だと誰もが思った。この条件でカタストロ相手に1つでも風船を割るのは、先程の試験を10回パーフェクトに繰り返すより難しいだろう。
カタストロは、およそ今まで、実戦ですら5割程度の出力しか出したことがない。命懸けの戦いで5割だ。たとえ受験者たちが一斉に襲い掛かっても、1割の出力でいなされてしまう。彼女の強さは、力よりも技の方にあるのだ。
(どうする・・?)
(誰が最初に行くか、だな。)
(最初はごめんだが、受けないわけにはいかない。)
ヴェネシンはフィールドを観察しながら何かを考えている。さっきのように一番手に乗り出さないことが、この試験の難しさを物語っているように見えた。
ネイル、レンファ、アトラト、ラドルなど、砕組の面々は何かを計算しているような素振りを見せていた。
若手のキムは、それらとフィールドを交互に見ていた。
多くがたじろぐ中、ジョナルが一歩前に出てきた。
「受けます。」
「その意気や、良し。」

5分後。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ!」
「1個も割れなかったので、マイナス5点ね。」
「くそっ・・!」
ジョナルは悪態をついて倒れ込んだ。
倒れるまで全力を尽くしたのに、1個も割れなかった。
流石に同情したのか、コムザインが小声で言う。
「フィー姉。弟子にも容赦しねえのな。」
「いや? したけど。」
カタストロは軽く溜息をついた。
「1個も割れないようにしたら2個も3個も割られるから、5分間に1個はくれてやるつもりでやってるんだ。その隙を見抜けずに欲張ったのが失敗の原因だな。普段のジョナルなら見抜けるはずだが、えらく浮き足立っていてね。」
「・・・なるほどな。」
コムザインにはジョナルの気持ちがわからなくもなかった。
認めてほしい人に、いいところを見せようとして気が逸るのは、コムザインも経験してきたことだった。
しかし、それでも成果を出すのがコムザインであり、それがジョナルとの違いでもあった。

参加者の多くが1個しか割れなかった。
唯一ヴェネシンだけが2個割ることに成功した。彼女は開始と同時にカタストロに念力の槍を何十本も放ち、カタストロがよけると同時に全ての風船に向けて針状の念力を無数に飛ばした。そのうちの1つが掠り、かろうじて1個が割れた。残りの1個は制限時間内に割ることが出来た。
ヴェロニバルは受けようと足を出したところで、ハッと気付いた。ESPジャマーだろうがESPリミッターだろうが、出力45万で精密なサイコキネシスを持つカタストロには通用しない。空を飛べない自分では、風船を高く浮かされたらアウトだ。手榴弾や超小型ミサイルも持っているが、カタストロには通用しないだろう。1個も割れずにマイナス5点になってしまうことは、わかりきっていた。
(ここは我慢のしどころよ・・・!)
その判断は正しかった。この試験を受けなくても、ヴェネシンとの差は20点。1個割った面々とは10点。一般教養でトップの成績をとっている彼女は、現時点でまだトップの座を維持している。
とはいえ当然、20項目が終わる頃には逆転していた。

第1位はヴェネシン・ホーネットで、3049点。
2位はネイルで2926点。3位にレンファ、2818点。
2651点のアトラトが5位、2629点のキムが6位に付けていて、ラドルは2615点で7位。ヴェロニバルは2582点で8位まで順位を下げていた。
ちなみにジョナルは2473点で12位である。

「3000オーバーはヴェネシンだけか?」
コムザインは集計を見て首をひねった。
「フィー姉の試験が容赦ないせいだ。」
「容赦してるさ。これより手を抜いたら駄目だ。より上に行くというのは、より多くの命を背負うということ。必要以上に手心を加えることは、人命を軽んじるに等しい。」
「ごもっとも。」
コムザインは指だけをパチパチと叩いた。
「うろおい、やってますねー。」
そこへウロイ・ディムニスが現れた。参加してない彼は、試験の手伝いをしている。
「見るか?」
カタストロが結果を書いた紙を渡した。
「うろおい、やっぱりホーネットさんがトップですか。」
「何か企んでるのか。」
「うろっ?」
急に言われて、ウロイは顔を上げて目をしばたかせた。
カタストロは彼の目を、じっと覗き込む。
「や、やだなー。勘弁してくださいよー。今の話の流れで、どうしてそういうことになるんですか?」
「いや何、お前は分隊長になったときも裏技を使ったことを思い出してな。」
「うろおい、今回の試験では参加してない人は間違っても準星になれないですよ?」
「準星になることが目的ではあるまい。」
「・・・。」
ウロイの目が一瞬ギラリと昏い輝きを放ったのを、カタストロは見逃さなかった。
「ま、何を企もうと私は手を出さない、好きにやりな。」
「何だ、知ってるんじゃないですか。」
闇色の光に満ちた目をして、ウロイは笑った。

そこへラドル・スネイクがやって来た。
「あ、ラドルさん。」
ウロイの顔は、すぐに昼用に切り替わる。
「よー、ウロイ。こっちはイイ感じだぜ。」
「点数比なら2723点必要じゃないんですか?」
「失点は1000点に達していない。まだまだいけるね。」
ラドルは自信ありげに笑みを浮かべた。ふふんと鼻で笑い、唇を曲げて見せた。
「こういうさ、ちょっと足りてないところから逆転するのが渋いんだよ。男の美学ってやつだな。」
「はあ・・・。」
ウロイは首をポリポリ掻いた。
「自信と過信の判別は難しいな。」
カタストロが腕を組んで言う。
「それじゃあ、オレと賭けません?」
「ほう。」
「オレが統率の試験で何点以上取ったらデートしてくれます?」
「・・・1985点。」
「うわぁ、キツい。失点15点しか許されないのか。参ったな・・・でも、約束ですよ。」
ラドルの目が大きく見開かれた。

その頃、ジョナルは不安と後悔で胸が苦しくなっていた。
思ったように点数が取れなかったことや、これからのことを考えると、プレッシャーに押しつぶされそうになる。
そこへイウィーが現れた。
「ジョナル・・・。」
「・・・・・・。」
「もしかして・・・わたしのせい?」
「いや・・。」
そう言ったきり、気まずい沈黙が流れた。
「イウィー。らしくないぜ。」
「えっ?」
「まだ失点は2000点に達してない。落ちたわけじゃない。不安も後悔もあるが、他の奴らも多かれ少なかれ・・。」
「そうね。」
そう言って笑うイウィーの手を、ジョナルが引き寄せた。
「え?」
「もう一度、気合くれ。」
「ちょっと・・むぐ・・・」

統率の試験は軽い筆記テストと、数々の実技を以って行われる。
実際に部隊を指揮し、戦闘を行う試験が幾つかある。戦闘以外にも、号令、救護、炊飯、進軍・・・様々な必要事項を、つつがなく行えるかどうかをチェックされる。
戦闘実技の1つに、コムザインが試験官を務めるものがある。
1対1ではなく、多人数同士の戦いだ。
「8名の部下を指揮して、俺の指揮する5名と戦ってもらう。俺は指揮のみで戦闘は行わない。1人倒すごとに10点、味方が1人倒されるごとにマイナス5点。制限時間は50分で、動けるのは、この山の中のみ。5名を全滅させた場合は追加50点、その上で制限時間を5分切るごとにボーナス10点ずつプラスだ。」
この試験は強制参加であり、受けないなら試験そのものを棄権することになる。
コムザインの指揮は小細工なしの真っ向勝負なので、数的有利がそのまま有利になるが、裏を返せば実力がハッキリ出るということでもある。

この試験において、ヴェネシンとネイルは危なげなく100点を獲得。
レンファは90点、アトラトは75点だった。
ヴェロニバルはテレパシーで敵味方の位置を把握して、遠隔に指示を出していった。90点獲得。
ラドルとキムは、自分が前線に出て行って強引に薙ぎ倒していくという戦術で満点を取り、キムに至っては40分で全滅させたのでタイムボーナス20点まで手に入れた。
散々だったのはジョナルで、部下の8人が命令に従ってくれず、何とか2人を倒しただけで終了。結果は5点だった。
ジョナルは他の科目でもボロボロで、トータルで半分と少ししか取れず、今までの合計点は3571点で15位となった。

「ジョナルは絶望的か?」
結果を見て、コムザインは何となしに訊いた。
「4位との点差は939。たとえ7000点を突破できても、この差を埋めなければならない。また、7000点に達するには、育成試験で3500点中3429点を取らなければならない。確かに絶望的だ。しかし・・」
「しかし?」
カタストロが止めたところで、コムザインが繰り返した。
「ボーナスが残っている。」
「人気投票ね・・。あんなもん、腹の足しにもならないだろう。」
「そっちでなく、もうひとつの方。」
「・・・え? いやいや、あれは隊長が念の為にって付け加えたものであって、そのボーナスで合格するってトップ合格より難しいぞ。」
「普通ならな。」
「ほう。」
コムザインは腕を組んで口をすぼめた。

<現在の総合得点>
1位:4861点、ネイル・グレイ
2位:4856点、ヴェネシン・ホーネット
3位:4543点、ラドル・スネイク
(中略)
6位:4377点、アトラト・ウグヌス
7位:4329点、キム・ヨーカム
8位:4300点、ヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン
9位:4268点、レンファ・アータスティー
(以下略)

ジョナルはイウィーに追われていた。
白組の施設で、走ってはいけない廊下を走っていた。
「ジョ〜ナ〜ル〜!」
「うわああっ、あのしおらしいイウィーはどこに?」
ちょっと本気で逃げながら、ジョナルは角を曲がった。
「らしくないって言ったのはジョナルよ。お望み通り、こうして完全復活してやったわ。何なの、あの点数は! わ、わたしの唇、奪っといて、あんな点数!」
イウィーは悔しそうに涙を滲ませ、ジョナルを壁際に追い詰めた。
改装中で、ジョナルが曲がった角の先は袋小路だったのだ。
「ちょっ・・予定通りだって!」
「は?」
「ここまで追い詰められたのは計算外だけど、首の皮一枚繋がったろ。足きりに引っかかってない。育成で点取れって言ったのはイウィーだろうよ。」
「そうだけど・・。統率試験でもジョナルが若造だと思って舐められてたよね? 育成だって、ちゃんと部下が従ってくれるかどうか・・」
「大丈夫。俺には秘策がある。といっても7000点取るのが条件だ。数十点足りないかもしれないから、イウィーには人気投票の方を頼むよ。」
「わ、わかったわ。任せといて。白組と黒組、総力を挙げてやってるから。」
「頼もしいね。」
ジョナルは自信ありげに笑みを浮かべた。
それを見てイウィーは胸が高鳴るのを感じていた。

育成試験は、砕組の見習いを28日間育て、その成長度合いを評価するものである。
これが4つの試験の中で最重要であることは、3500点という配点にも現れている。
「フィーちゃん、コム君、調子どう?」
カタストロやコムザインに向かって、このような呼び方をするのは、アルカディアに1人しかいない。
「首領。」
いつもながら不意に現れる彼女に、まだコムザインは慣れない。
テレポートするときは空間が歪んだりするもので、それを感知することでテレポーターと戦えるのだが、首領ジュエルのテレポートは空間を揺らしている気配が無い。
「訊くまでもないと思いますが。」
そう言うカタストロは、ジュエルの能力を知っているのだろうと、コムザインは思った。
「あは、そうだね。これからミーティングだから伝えに来ただけ。」
次の瞬間、カタストロとコムザインは会議室の中にいた。
いきなり景色が変わり、姿勢も変わっているが、驚くことはない。完全に慣れてはいないが、驚かないくらいには慣れている。
首領を含む最高幹部4名、そして重幹部4名が集まった。
といっても、ミーティング自体は長いものではない。大まかな流れは会議で決めてあるので、確認と微調整を行うだけである。

育成試験の期間は4週間。受験者35名は、それぞれ8名のサイコキノを訓練し、部隊として育成する。
1週間ごとにチェックが入り、500点ずつ3回が配分されている。最終チェックにおいて2000点の、計3500点。
基本的に介入は無しだが、サイコキノの訓練だ、事故が起こらないとも限らない。ギガマイル・クレッセントによる予知が、ここで重要な役割を果たすことになる。

ミーティングが終わり、コムザインとカタストロは元の場所に戻ってきた。
そこでラドルが点数票を見ていた。
「ラドル。」
「カタストロ副隊長。残念ながら57点足りませんでしたが、次こそは必ずやってみせますよ。」
統率試験におけるラドルの点数は2000点中1928点。ネイルの1935点に次ぐ成績だったが、ラドルに慢心は微塵も無かった。1985点以上を取ればデートできるという約束だったのにという悔しさが心を占めていた。
不敵な笑みを浮かべるラドルを、コムザインは呆れ半分、感心半分で見ていた。
(フィー姉とデートしたい一心で、あれだけの点数を取るとはな・・。)
ラドルの実力からして1600点以上は固いと踏んでいたが、ここまでは予想外だった。

「フィー姉って何気にモテるよな。」
「おかしなことにな。」
「おかしかないだろ・・。」
スラリと引き締まった長身。荒野の埃っぽさを思わせる、長く乾いた黒髪。
皺については賛否両論ありそうだが、コムザインは人間としての深みを感じていた。
何より、強い信念の宿る鋭い眼光。これこそがフィー・カタストロという人物を顕している。
「フィー姉はカッコイイからさあ。」
「色恋沙汰など、無いに越したことはないのだがな・・・。」
煩わしげに目を伏せるカタストロを、コムザインは呆れ半分、嬉しさ半分で見ていた。
「そういうところもラドルなんかにはたまらないんだろう。」
「厄介なことだ。色恋には合理性と別の理が絡むからな。避けて通れぬ問題とはいえ、どうにも理解できない。」
「フィー姉は恋したことが無いんだっけ?」
「これが恋だという確信を抱いたことは無いな。」

アドバイザーのキアラ・テスタロッサは、地面に寝転がっていた。今までは割と人も来ていたのだが、これからは介入禁止なので仕事は無い。
彼女は自分の赤い髪をいじくりながら、ごろごろとのたくっていた。
「なーんか手持ち無沙汰ーっていうか、こーいうのも悪かないかーな。」
暇であることに文句を言わない。ゆっくりとした時間を愛でるキアラだった。
そこへ京狐夜果里が隣へ腰を下ろした。
「退屈そうねえ。」
「ユカリぃ。」
キアラはすくっと体を起こした。
「ヒマしてると思ったから、チーズとワイン持ってきたわ。」
「そりゃ、気が利くこと。」
キアラと夜果里は共に1938年にアルカディアに入っていて、歳も近い。あまり会うことはないが、仲は良い。
この2人に加えて、フィー・カタストロも同じ年に入ってきていて、戦前はアルカディア三人娘と呼ばれていた。
「ところでキアラ。いい暇潰しがあるんだけどね。」
「んー?」
「35人中13人がリタイアしたもんで、その分が育成する予定だった面々を、あたしらが手分けして面倒みるって話。」
フィリップ・ケストナーは引退するにあたって、最後の仕事に砕組の訓練生を大幅に増員した。正規兵には遠く及ばないが、それなりのエスパーを揃えている。
「うわー、だるそーな仕事。お断り。」
「そう言うと思ったわ。キアラは戦闘能力は高いし発想力にも長けてるけど、他のことはからっきしだもんね。」
「からっきしでもないわよ。やりたくないだけ。アタシは、いつも自由でいたいから・・。」
「あたしも自由は好きだね。人を育てるのにも、余計なしがらみに囚われず伸び伸びやるのがいい。砕組では通用しないけどね。」
引退したフィリップが多人数を訓練するのに向いているとすれば、夜果里は少人数・・・個人を指導するのに向いていると言える。
「そう考えると、あらためてフィーの凄さがわかるねえ。」
「本来なら今のような位置で燻ってるような奴じゃないんだけどな。」
フィー・カタストロは、個人指導、集団育成、部下の運用、どれにも優れた能力を持っており、戦闘力も高い。
しかし砕組の主戦力たる25の分隊は、基本的にコムザインの統率下にある。必要に応じてカタストロが率いることもあるが、近年では稀になってきていた。
基本的にカタストロは、火、水、風、土の、属性組の管理・運営を任されている。
「アタシら属性組は、あまり出動の無いマイナー組だからねー。フィーも手持ち無沙汰じゃないの?」
「ギガマイル・クレッセントを重幹部にして、フィーを最高幹部にって意見もある。採用されないだろうけどねえ。」
「どーして?」
「ギガマイル・クレッセントの能力ゆえに、アルカディアのあらゆる機密が奴の頭の中にある。だから必然的に最高幹部にするしかないのさ。」
夜果里は忌々しそうに舌打ちした。
「ふーん、何か不自由でヤだなー。」
「まったくね。奴にとってもな・・・。」
「フィーとコムザインの立場入れ替えは?」
「残念だけど、多人数を指揮する能力はコムザインの方が高い。フィーの指揮は臨機応変で隙が無いけれど、それは同時に、付いていけるだけの人間が少ないということでもあるのよね・・。」
「はあ〜。」
コムザインの指揮は、単純でわかりやすいと言われている。上下関係がしっかりしていて、安定して大きな成果を出している。ただし犠牲も少なくない。
カタストロは部下ひとりひとりの性質を活かす。上下関係よりも人権や感情を重んじ、部下に近い目線で指揮を取る。成果を出すよりも、犠牲を少なくすることを選ぶ。
「アタシが砕組の隊員なら、フィーの部下がいいけどなー。」
「そういう意見も少なくない。けど、隊長のシュシュ・オーディナークの方針だからね。」
「アタシ、あの人嫌いだな。」
「・・・砕組の上層は、揃いも揃って融通の利かない奴らだけど、シュシュ・オーディナークはその最たるものだからねえ。」
「むー。」
「4人の中ではフィーが最も融通きくけど、あれでもうちょっと幸せになる能力があれば・・。」
夜果里は軽く溜息をついた。
「ん、幸せと言えば。」
キアラは思い出したように夜果里を見つめた。
「ユカリも孫が生まれるんじゃん。まさかフィリップさんみたいに辞めたりしないよね。」
「真顔で何を言うかと思えば・・。孫の育成の為にも、しばらくはこの地位にいるさ。」

その頃、ギガマイル・クレッセントはミセス・ジュエルに抱きつかれていた。
「やっほー、クレアちゃん。」
「放していただけませんかね、首領。」
「いーじゃん、、いーじゃん、どーせ暇でしょ? 私と遊ぼうよ。」
「断ったら殺すのか?」
「ああん、またそんなこと言ってー。クレアちゃんのいけずー。」
ぷうと口を膨らませて、ジュエルはつんと上を向いた。
「あんたのそんな姿を見ても、誰ひとりとしてあんたが首領であることに疑問を抱かないのが、心底恐ろしいね。」
「私は恐くないよー?」
ジュエルはギガマイルから手を放して、フルフルと首を振った。
「確かにアルカディアであんたを恐れているのは私くらいだろう。」
「でしょー。」
「だからこそ余計に恐ろしい。」
「んもう。クレアちゃんの恐がり。」
「・・・・・・。」
「あー、その顔。また変な意味に解釈してるでしょ。わかってるんだから。」
「いえ、単に呆れているだけです。」
「かーわいいっ!」
ジュエルは満面の笑みでギガマイルに覆い被さった。
「うっぷ・・・何でそうなる・・・・?」
「可愛い可愛い可愛い可愛い」
ジュエルは頬ずりを始めた。
「や・・・やめろ・・・・!」
「ほーい。」
ジュエルはさっと離れて長い髪を後ろへ振った。
「・・・ところで首領。会議室で話したいことがあるのですが。」
「うん?」

次の瞬間、2人は会議室の中にいた。
「どうも。」
ギガマイルは軽く頭を下げる。
「話って?」
「こんなときに話すようなことでもないのですが、首領なら構わないかと思いまして。」
「うん。私は常にスタンバイオーケーだよ。何かな。」
「“リバース”の件です。」
「あー、それか。」
ジュエルは指を組みながら頷く。
「リバース(7)ティアティム・タロニス。通称“T2”。奴が動き始めたようです。恥ずかしながら、それくらいしか見えませんでしたが。」
「アークちゃんの孫か。いや、ここはリバース(2)ノットー・リ・アースの孫と言った方がいいのかな?」
「どちらでも。」
「とにかく、わかった。心に留めとくねー。」
ジュエルは呑気な顔で両手を開いた。
「もっと危機感を持っちゃくれませんかね。あんたは強すぎるから、“リバース”すら敵じゃないのかもしれないが、奴らを甘く見ない方がいい。」
「それはクレアちゃん、危機感が足りないのは、あなたも同じことだよ。」
ジュエルは呑気な顔のままギガマイルを見つめる。
「クレアちゃんは史上最大の千里眼だけど、その能力を殆ど使いこなせていない。現時点ではレックス君のアンプリファイア能力なんて、宝の持ち腐れでしかないんだよねー。」
「ぐ・・・」
ギガマイルの表情が崩れ、クレア・クレッセントの顔になる。
「かーわいい。乙女の顔だ。」
そう言うジュエルの顔からは、いつの間にか笑みが消えている。
全体的には笑っていても、目が笑ってない。
「レックス君のアンプリファイア能力は、出力を2倍にするだけで、調整能力じゃない。実際あんまりクレアちゃんはパワーアップしてないんだよね。いつまで彼を騙し続けるのかな?」
「・・・・・・。」
クレアは汗をかいていた。
呼吸も少し荒い。
「お前は役に立ってる、だなんて、そうやってレックス君を騙して側に置いてるんだ。悪い子だよねー。」
「・・・黙れ。」
クレアは歯を軋って言葉を搾り出す。
するとジュエルは首を左に傾けて、右手の人差し指を突き出した。
「いつまでグズグズしてるつもりなのかな。レックス君が来てからの感情豊かなクレアちゃんも可愛くて好きだけど、その代償として研ぎ澄まされた心の刃を錆びつかせてしまうクレアちゃんは見たくない。どうしたって、どうなったって、殺したりはしないけれどもね。」
「・・・わかってる。錆びついた心で守れるのは、せいぜい自分だけだ。未来を守るなんてガラじゃないが、自分を生み出した世界の未来に責任も取れないようなら、貴様に殺されるまでもなく死んだも同然だ。」
クレアは拳を握り、机の上に置いた。
「いいだろう、“遊んで”くれ。」
「んふ、やっと私と遊んでくれるんだー。“千里”ちゃん?」

このときに何があったかは、後に語られることになる。
成長するのは、試験を受けている者たちだけではない。試験を行う側にとっても、日々が学びの場だ。
そしてクレア・クレッセントこと三日月千里には、首領からの特別メニューが用意されていたのだった。


- - - - - -


それから1ヶ月が過ぎ、結果発表の日となった。
ジョナルが育成試験において獲得した点数は、3500点中の3355点。受験者の中ではダントツの最高点である。最初の頃は、指導する8人に舐められていたが、何をしたのか途中からジョナルに従うようになり、中間チェック、最終チェック、いずれも高得点。最初の頃とは見違えるように、よくジョナルに従っていた。また、ジョナルの表情も様変わりで、かつてハービスに挑んだときのように、何かをやらかしそうな雰囲気を放っていた。
しかし、結果は以下の通りである。

1位:7862点、ヴェネシン・ホーネット
2位:7617点、ネイル・グレイ
3位:7288点、ヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン
4位:7182点、アトラト・ウグヌス
5位:7001点、レンファ・アータスティー
6位:6926点、X・Q・ジョナル
7位:6875点、カーム・シュミット
8位:6733点、ラドル・スネイク
9位:6679点、ノワール
10位:6493点、キム・ヨーカム
(以下略)

「ジョナルは育成試験ではダントツ。落とすには惜しいね・・・。」
結果を見て、キアラが呟いた。
そこへコムザインが言う。
「仕方あるまい。育成能力だけ高くてもな。フィリップは決して、育て上手なだけの人間ではなかった。」
「あんたフィリップを嫌ってたんじゃなかったっけ?」
「何年も本部に寄り付かない奴は情報も古いな。あの頃だって、嫌っていたわけでもない。嫌っていたとしても、尊敬する部分の方が多かった。それは奴も同じだろうよ。」
「ふーん、ケンカするほど仲が良いってやつか。」
「どうだかな。ともあれ、奴の代わりは決まった。ヴェネシン、ネイル、ヴェロニバル、アトラト。順当なところだろう。」
「つまんないな。人気投票やる意味が無いじゃない。なーんか自由度が足りない感じ。」
人気投票は、アルカディアのメンバーが投票し、得票数の多い順に点を配分するというものである。1位が100点加算、2位が90点、3位が80点と、10点刻みに10位まで続く。11位は9点、12位は8点、1点刻みに19位まで点が入る。
「試験に面白さを求めるものでもあるまい。過度な娯楽要素は不平等の温床でしかない。」
「フィリップ以上の堅物よね、あんた。」
「・・・お前が俺とケンカしても、雨降って地固まるとはいかないと思うぞ。」
「ケンカするような仲じゃあるまい。フランスの三色旗は自由・平等・博愛だが、“自由”と“平等”は相容れない。」
不穏な空気が流れたところへ、横で聞いていたカタストロが口を開いた。
「キアラ。人気投票の結果によっては面白いことになるかもしれない。」
「え?」
「例のやつだ。」
振り向いたキアラに、コムザインが補足する。
「例のやつって・・・あれが出来るようなら、そもそも幹部会で名前を出してたわよ。」
「俺もそう思うんだがな。」
「別に正攻法とは言ってない。ここで言うのは不公平だから黙っておくが。」
そこへ夜果里がやって来た。
「人気投票の集計、出たよ。」
「これは博愛のユカリさん。」
「何だね、フィー。」
夜果里が怪訝な顔をする。
「いや、フランスの三色旗トリオが揃ったと思って。」
「ああ、なるほどね。」
夜果里はキアラとコムザインを見て笑った。

「ジョ〜ナ〜ル〜!」
イウィーが鬼のような形相で詰め寄った。
「うわあああ! せっかくの美人が!」
「コーク・スクリュー・ナッコォ!」
「がふっ!」
聞く耳持たないイウィーから放たれた一撃がジョナルの腹に命中した。
イウィーの超能力により、ジョナルの腹に激痛が走る。
「うごおおおお・・・」
悶え転がるジョナルだが、イウィーは容赦なく踵落としを決めようとする。ちなみにスカートである。
ジョナルは慌てて起き上がり、咳き込みながら手を挙げた。
「ちょっ、ゴホッ、たんま・・・・」
「人の苦労を無にしやがって〜。せっかく人気投票で3位に入ったのに、順位変わらないじゃないのよ!」
「ハナッから順位で合格しようなんて考えてないさ。7000点を超えれば、それでいい。」
「どういう意味よ。まさか参加することに意義があるなんて言わないでしょうね。」
イウィーは拳に息を吹きかけた。
「まさか。俺の力で合格するのに、最も確率の高い方法を取ろうということ。落ちたとき、したり顔で『ほら、まだ準星になるには早かったんだ』なんて言いたくないからな。」

その頃、ヴェロニバルは狂喜乱舞していた。
「ぬひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! やはり・私・勝った! 私が正義! 私が大将! ついにやったぞヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン! 偉いぞヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン! いい子だヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン! まさに報組の星だあああああ!」
そこへラドルがやって来た。
「うるっせえなあ・・。人が落ち込んでるときに、馬鹿みたいに大声出しやがって・・。」
「おや、砕組の第六分隊長どの。もとい負け犬。」
「おい。」
「今の私の言葉で君はたいそう気分を害したことだろう。しかし、しかし、私も大いに喜んでいたところへ水を差されて不愉快だったのだよ。わかるか? わっかるでしょ? わかれ、わかるとき、わかれば!」
「テンションたかー。・・しかしまあ悪かったよ。今のことじゃないぜ。あのときのことだ。」
「何だ、急に真面目になって。」
そう言うヴェロニバルこそ、今しがたのハイテンションが嘘のように静まり返っていた。
彼女は目を見開いて、じっとラドルを見た。
「もういいだろうラドル。お前も、ウロイも、私も、それぞれに傷ついた。ウロイは、もう水に流そうって言ってるんだ。それがわからないお前でもあるまい。」
「やっぱり、あいつの仕業か。」
「テレパシストの傲慢かもしれないが、お前とウロイの間に溝があるのは嫌なのよ。じれったいどころじゃない、不愉快なくらい。私はラドルとウロイの苦しみがわかってるから、それでいい。後は、お前が自分を許せるかだけ。」
「・・・許せるのかな。」
「許せるさ。私も自分を許せた。だから私は謝らない。こんなことで無意味な謝罪合戦をする気は無い。」
「・・・そっか。ありがとよ。」
ラドルは少しだけ微笑むことが出来た。
そこへキムが小走りに駆けてきた。
「ラドルさん、カタストロ副隊長が呼んでますよ?」
「マジで?」
ラドルは顔を明るくして、一目散に駆けていった。
「あー、ちょっと待って、一緒に・・・・ああ、もう見えなくなった。」
「はっははは、恋愛は神速を尊ぶってね。」
「そう言えば、ラドルさんと何を話していたんですか?」
「ほろ苦くも甘く切ない、夜明けのコーヒーの話ってところかな。アドレスンス・ボーイ、君も想い人が出来たら、自分の気持ちに正直に行動することだ。君が思いを寄せている人に、他の人が思いを寄せてないとは限らないのだからね?」


- - - - - -


受験者たちが集められ、カタストロが参加賞を配った。
それぞれの受験者に対する詳細な評価レポートと、おまけとしてドーナツの詰め合わせ。これらは途中で脱落した者たちには渡されない。
その後、7000点を超えた6名が残された。
「最終ボーナスに挑む人は?」
するとジョナルが即座に手を挙げた。
「やります。」
ヴェネシンとネイルはギョッとしてジョナルを見た。アトラトとレンファも訝しげな顔をしている。
あらかじめ知っていたヴェロニバルだけは驚かない。

最終ボーナスとは、受験者が育てた8名を指揮して砕組第一分隊と戦うというものだった。
制限時間は1時間で、1人を倒すごとにプラス100点、1人が倒されるごとにマイナス100点。相手を全滅させたら、得点に関係なく合格になる。
(第一分隊の実力を知らないのか?)
ヴェネシンが怒りすら感じるのも無理ないことだった。
砕組において、個々の実力で第一分隊長を上回る者は多いが、分隊同士の戦いで第一分隊に勝てる分隊は存在しない。たとえ夜の第十分隊であろうとも、第一分隊には及ばない。
分隊の中でも別格と言って差し支えないのが、アルフレッド・フーエ率いる第一分隊なのだ。
(たかが1ヶ月、500PKP前後の連中を訓練したところで、どうにもなるまい。ジョナルにはハービスの柔包結界も貫いたサイコガンがあると聞いてるが、あんなものは避ければいいだけだ。)

「平原と森林、どちらを選択する?」
「平原で。」
その言葉には、コムザイン、キアラ、夜果里も、それぞれに訝しんだ。
小細工しようがない平原では、実力が劣る方が不利になる。もちろん、やってやれないことはないだろうが、ジョナルがアルフレッドを上回る作戦を実行できるとは思えなかった。
とはいえ中止にすることはない。第一分隊の8人が集められ、戦闘が始まった。
半径2キロの円の中、制限時間は1時間。4位以内に入るには、相手より2人多く倒さねばならない。
しかしジョナルは、そんなことは考えていなかった。
「―――。」
ジョナルが小声で何かを呟いた。
眺めていたラドルが、口の動きから読み取った。
「へぇ・・・。」
「何て言ったんです?」
キムが訊いた。
「・・・・・・。全滅あるのみ、だとよ。」
「え?」
キムが試験会場に目を向けると、そこで信じがたい光景が展開されていた。
「サイコイレイズ・・・バージョンアップ。自動追尾サイコガン!」
ジョナルが輝く球形のエネルギーを地面に向けて放ち、生徒8人が同時に念力を放つ。輝く球は8つに分かれて飛翔し、曲線を描いて第一分隊の8人めがけて高速で飛来。
散開したところで、それ以上の速さでサイコガンは炸裂した。
ただ防御だけが間に合い、命を失うことを免れた。全員が気絶してるか、意識があっても動けない状態だった。

「試験終了!」
見ていた者たちは、多くが唖然としていた。

カタストロはジョナルたちのところへ歩いていった。
「なるほど、何かやるだろうとは思っていたが、それを練習していたのか。」
サイコガンのバリエーションの1つ、追尾式。それによる奇襲攻撃。
生半可な奇襲攻撃なら第一分隊の敵ではなかった。しかしジョナルと生徒8名は、これ一本を狙っていた。ただひとつの狙いに絞った特化戦術。それが砕組の最強分隊を打ち破ったのだ。
生徒たちは、最初はジョナルを舐めていた。しかしジョナルが提示した案は、生徒のやる気を一変させた。現役の戦闘部隊に勝てるチャンス、血の気の多い少年少女たちが躍起にならないはずがない。しかも相手が砕組の最強分隊となれば、モチベーションの高まりは尋常ではない。
体育会系の気質ゆえにジョナルを軽んじていた8人だったが、その気質は強敵を倒すことに大きな喜びを感じる気質でもあった。相手が強ければ強いほど、それを倒すことへの意気込みは強くなる。
やる気を引き出せば、これほど教師にとってやり易いことはない。教育は思い通りにいかないのが普通だが、やる気を引き出しさえすれば、驚くほど理想に近付ける。
第一分隊を倒すという目標を掲げることで、ジョナルと生徒8人は一致団結して最高得点を叩き出したのだ。
「しかし正直ギリギリでしたよ。みんな焦ってイライラして・・。何度も駄目かと思いました。」
そのあたりを上手く収めたのは、ジョナルの手際と生徒の根気の合わせ技だった。
奇策を弄するだけではない。そんなものは、実のところジョナルにとっては二の次だった。生徒に対して誠実で丁寧な対応をすること。彼が最も心がけたのは、その点だった。
そして生徒たちも、それによく応えた。

「それでアトラト。お前は5位に落ちたわけだが、最終ボーナス受けるか?」
コムザインが尋ねる。
「いえ。最初から受ける気はありませんでしたから。」
予想通りの答えだった。結果をありのままに受け止めるのが、彼の流儀なのだ。
「レンファは?」
「生徒たちに無理させたくはありません。元々5位ですから、やめておきます。」
これも予想通りだった。
たとえレンファの実力からしても、ここから4位に入るのは無理なことだろう。
可能だとしても、生徒を無理やり酷使してまでやるべきことではない。教育の本質を見失ってはならない。生徒は教師の地位を上げる道具ではないのだ。地位を上げる代償として信頼を失うなら、教師として失格だ。
2人の答えを聞いて、コムザインもカタストロも安心した。


- - - - - -


こうして“準星”の4名は決定した。
ヴェネシン・ホーネット。
ネイル・グレイ。
ヴェロニバル・ゼティエルト・サンデモン。
X・Q・ジョナル。
この順番で3ヵ月ごとに交代で幹部の地位に就く。
試験よりも、その後のことが厳しい。アルカディアにおいては、上に行くほど激務になるのが基本である。4人は、そのことを身を以って味わうことになるのだ。




   第十六話   了

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『エスパー奇譚』長編小説 「千里」 第二部まとめ読み
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佐久間闇子と奇妙な世界
2016/05/02 01:50

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