佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「NEKTAR」 十四、嵐の前

<<   作成日時 : 2016/06/01 00:00   >>

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クレア・クレッセントとフィー・カタストロは険しい顔をしていた。
これから行うことは、彼女らにとって気の進まないことだった。
“大雀蜂”の二つ名を持つヴェネシン・ホーネット、そして赤子のときに“神酒”を投与されたカーム・シュミット。
この2人にこれから“神酒”を服用させるのである。
「決心は変わらないか。」
カタストロが沈痛な面持ちで問う。
「だからこそクレッセント最高幹部も、わたしとカームを残したのでしょう・・。」
「そうです。僕の決心も変わりません。僕は自分の力を憎んでいますが、カタストロさんの恩に報えるなら惜しみなく使いますよ。」
ヴェネシンもカームも、迷いの無い顔で言った。そこには苦悩から脱却した清々しい瞳があった。
「ならば是非もない。お前たち2人をA級戦力にすれば、十戒の下位クラスは全滅だ。」
クレアは懐から小瓶を2つ取り出した。
中には薄いピンク色の液体が入っている。“神酒”を純水で20倍に薄めたものだ。
「これを服用すれば、お前たちの出力は今の約2倍になる。そしてサイコキネシスだけでなく、テレポート、テレパシー、透視、予知を身につける。」
しかし、その急激なパワーアップは心身ともに重大な負荷を与える。
そうでなければ、とっくに使っていたし、クレアもカタストロも険しい顔にはならない。
「補助を。」
「ああ。」
カタストロの念力が、ヴェネシンとカームを包み込む。
そして2人は瓶をつまみあげて蓋を取り、中身を口の中へ注ぎ込んだ。
「んっ・・・・んん・・・」
「うくっ・・・・ん・・・」
ヴェネシンの細い肩がひくひくと震え、カームの白い唇が薄く桃色に染まる。
(んんっ!)
(くあああっ!)
早くも悪寒にも似た激痛が全身に迸った。
今まで目の視えなかった人間が視えるようになると、光の洪水に目が眩む。聞こえなかった耳が聞こえるようになると、騒音でつんざかれる。固い腱のまま筋力が強化されれば、肉離れや筋違いを起こす。
サイコキネシス、テレポート、テレパシー、透視、予知、これらの能力が一度にB1級の出力分加算されたのだ。
肉体的にもフワフワしたような、重苦しいような、引き裂かれるような、奇妙で不快な感覚。
精神的には更に酷く、頭の内外をぐるぐると掻き回されつつ、虚空へ吹き飛んでいくような。
取り留めの無い映像や音声が次々と入ってきて、少しでも気を抜けば錯乱して元には戻れない気がした。
「ぐ・・・・んぐ・・・・く・・・・」
「ひ・・・・ぎ・・・・・い・・・・・」
歯を食いしばり、息を堪えて2人は必死に耐えた。手がカタカタと震え、顔の筋肉がピクピクと動く。
クレアは鈴を取り出して、しゃん、しゃん、と一定の間隔で振り始めた。
寸分の狂いもなく、0.98秒の間隔で、大きさも一定。
しゃん、しゃん、と鈴の音だけが部屋に鳴り響く。ヴェネシンもカームもトランス状態になり、落ち着いていく。
そうなってからクレアは徐々に鈴を鳴らす間隔を広げていった。0.981秒、0.982秒、0.983秒と、0.001秒ずつ長くして、0.99秒まで広げる。そうなったら今度は0.989秒、0.988秒、0.987秒と縮めていく。
そうして0.97秒まで縮めたら、再び0.001秒ずつ間隔を広げていく。
広げたり縮めたり、ゆらゆらと波のように何十回もサイクルを繰り返す。次第に変化の幅も0.93秒から1.03秒までになる。そしてまた0.97秒から0.99秒までの変化に戻していく。
その二重の波を何度も何度も繰り返し、何時間も過ぎていく。その間カタストロはサイコキネシスを緩めない。

最初に感覚が変わったのはヴェネシンだった。何の前触れもなくトランス状態が浅くなり、我に返った。
正常な感覚の戻ってきた体で、彼女は両手をゆっくりと握ったり開いたりを繰り返した。
それより少し遅れて、カームのトランスも浅くなり、彼の瞳に正常な景色が戻ってきた。
そうなったところでクレアは一際大きな音で鈴を鳴らし、それで終了した。
カタストロの補助はまだ続いているが、これで第一段階は乗り切った。
クレアは部屋の扉を開けて、離れて待っていたレックスとサムを呼んできた。
「終わったのか。」
「第一段階はな。これからはサイコキネシスの補助も最低限でいい。」
クレアは遅ればせながら大きく息を吐いた。
カタストロも椅子に腰掛けて表情を緩めた。
「この面子が一箇所に集まるなんて珍しいな。」
クレアは笑って言った。
「それよりも分隊の方はどうなってる。」
カタストロが取り合わずに尋ねる。
「まあ互角というところかな。あれから死人は出ていない。奇数分隊はもうすぐノーティとぶつかる。」
「また死人が出るな。」
「ああ。」
一同は暗い顔になる。
そんな中でヴェネシンとカームは顔色を変えていなかった。


- - - - - -


その頃、砕組の二、四、六の分隊は、七罪巫女の1人“色欲”のホーニー及び、ごろつきB級と交戦していた。
第二分隊長ラプソディア、第四分隊長ハービス、第六分隊長ラドル。3人のコンビネーションは抜群だ。
同期で分隊長になったからだろうか、息を合わせた戦いは、足止めに徹していてさえホーニーを圧倒する。
「くう〜、アタシが、この“色欲”のホーニーが、押されてる〜?」
人数で勝っていても、所詮は烏合の衆である。
よく訓練された砕組24名の前には、蹴散らされるのみだ。
「念円舞曲!」
「柔弾撃!」
「ワインド・ウィップ!」
「げええっ!?」
3人の連続攻撃に、ホーニーは全く歯が立たない。そもそもハービス1人でホーニーと互角のパワーだ。
それに加えて、全く性能の違う攻撃が折り重なってくる。わかっていても捌き切れない。予知しても無駄だ。
ホーニーにとって幸運だったのは、ハービスの攻撃さえ止めていれば残るはB2級に過ぎないということ。
エネルギードレインの応用で回復できるので、なんとか持ちこたえているのだ。
しかしそれでも不利なことには変わりない。日が沈みかけてくると、その差はより顕著に顕れた。
普通に考えれば、透視能力を持っているアンティローグ側が有利に戦えそうなものである。
だが、そこが訓練を積んでるかどうかの違いなのだ。能力を活かしきれず、時間と共に同士討ちが増える。
そして、夜になると第十分隊の出番である。
「うろおおおおおいいっ!」
砕組第十分隊、通称“夜部隊”。率いるは“ナイト・ヘッド”の異名を持つウロイ・ディムニス。
ウロイは夜にはハイテンションになり、攻撃範囲が広くなるという性質がある。
「うひええ、逃げるが勝ちよ〜!」
ホーニーはテレポートで逃げ去った。
ごろつきエスパーたちの多くはウロイ分隊に片付けられ、ただ数人だけが逃げ延びた。
「うろい、うろい、うろおおい! 俺様は夜の帝王! うろおおおおお・・」
「やかましいわボケッ!」
ハービスがウロイの頭を叩いた。
「ぶほっ?」
「てめーはまたオイシイとこ持っていきやがって・・・。」
言いながらラドルが指でつつく。
「まあまあ、こっちも引き上げましょう。」
ラプソディアがそう言ったとき、暗闇の中から下卑た笑い声が響いてきた。
「げへっ、げへっ、お、おで、お前ら、犯す。」
口の中にいつまでも苦味と臭さが残るのと同じように、いつまでも耳にこびりついて離れない、くちゃくちゃした声。
アンティローグ十戒の第七位、“姦淫”のルード・アタルが裸で立っていた。
夜なので普通の人には見えにくいが、パラメッタに注ぎ込んだ残りがべっとりとついた物がそそり立っていた。
「逃がさん、よ。」
ここで逃げ出せば誰かが犠牲になる。ノーティのときとは違うのだ。
幸いにも烏合の衆は一掃したので、相手はルードだけだ。偶数分隊が4つも合わせれば勝てると考えた。
4人は攻撃態勢に入った。


- - - - - -


八、十四、十六の分隊は、苦戦していた。
相手は七罪巫女が2人、“暴食”のミールディッシュと“憤怒”のレイジーナ。それに下位の巫女が5人。
第八分隊長アトラトは45歳のベテランだが、第十四分隊長セト・シズミは日が浅く、24歳と若い。
第十六分隊長のキムに至っては、10代の少年である。もちろん力量に不安は無いが、経験値は別だ。
1対1の戦いで問題となるのは力量、技量だが、多人数の戦いでは経験が物を言う。
力量や技量のみで多数を戦うとなれば、コムザインほどの圧倒的な力か、カタストロほどの卓越した技巧が要る。
「沈!」
セト・シズミの能力は、下方向へ特化したサイコキネシスで、B2級であっても特化してる分だけ強力だ。
しかし範囲攻撃なので、味方を巻き込んでしまうのがいただけない。
キュートな禿頭に数珠を手にした出で立ちは、僧侶そのものだが、しかし破戒僧の方だろう。
「どわあっ、ちょっとシズミさん・・・!」
キムは沈降サイコキネシスに巻き込まれて地面に押し付けられた。
2年前に比べて少年の面影が薄くなってきており、青年の体つきになってきている。
「ハー!」
セト・シズミは構わず上空へ跳び、サイコキネシスでミールディッシュ他数名を地面に押し倒した。
「まったく・・・。」
アトラトは若い2人のフォローに回っている。
能力に(セトは性格的にも)難のある2人だが、アトラトが上手くフォローすれば逆に武器となる。
苦戦していながら死者を出していないのは、この妙なコンビネーションが機能しているからだ。
そして3つの分隊は、少しずつ後退していた。押されているのは確かだが、それを逆手に誘い込んでいるのだ。
既に彼らは報組のヴェロニバルからテレパシーで情報を受け取っていた。
入り乱れての戦いから、はっきりと両グループが分かれた戦いとなっていった。これは狙ったものだ。
「ひゅっ!」
突然上空から1人の男が飛んできて、攻撃を放った。
「クラッシュ・キャノン!」
空間を叩き割る強烈な一撃。それによって5人の下位巫女は潰された。
ミールディッシュとレイジーナは、すんでのところで逃れた。
「ちっ、惜しい。」
アトラトよりも更に年上の50歳。“叩割空”モース・リーガル、堂々の参上である。
「馬鹿な、お前は多数戦闘では使えないはず・・・!」
「そうさ。クレアはそう言った。そしてそのことはテレパシーやら予知やら何やらでアンティローグに伝わる。その逆を突いただけだが?」
「くっ、そんな〜!」
「アンティローグの弱点は、情報が伝わるのが遅いってことだ。俺を多数戦闘に使わないとか、そんな古い情報にいつまで頼ってる気だ。」
「くそっ、逃げるわよ!」
「覚えてやがれ〜!」
ミールディッシュとレイジーナはテレポートで逃げ去った。
ごろつきエスパーたちも逃げていく。
「よし。」
モースは一息ついた。
「モースさん、どうしてここへ? ヴェロニバルから連絡を貰ったときは驚きました。」
アトラトは納得いかぬという顔だ。
確かに苦戦してはいたものの、わざわざモースが来るまでの状況ではなかった。
「ああ、そうだな。お前らには話しておこう。・・・実は、クレアが俺を使わないと言ったのは、あらかじめ示し合わせた芝居だ。」
「えっ!」
「皆の前でああ言えば、アンティローグはテレパシーなどでお前らの記憶を読み取る。その裏をかける。」
「なるほど・・・。あれが芝居だとは気付けなかった。」
「そりゃあな。俺もクレアには本気でびびったくらいだ。」
モースは軽く頭を掻いた。
「だが、この芝居の本当の意味は、裏切り者の有無を確かめる為だ。」
「!」
アトラトの表情が歪み、セトもキムも目を見開いた。
「注目すべきは情報の伝わる早さだとクレアは言った。俺がしばらくは出ないという情報が、伝わるのが早すぎれば、内通者がいる可能性が高い。」
「まさか・・・!」
「クレアもコムザインも裏切り者がいないとは言ってないはずだ。何故だか上層は最初から裏切り者がいることを前提に戦いを進めているらしい。理由は薄々わかるがな・・・。」
「それは?」
「アトラトがアルカディアに来たのは戦後だったな。」
「1946年です。」
「1940年にも今と同じようなことがあったのは、聞いたことがあるだろう。そのときの主犯は内部の者・・・しかも幹部クラスだった。」
「・・・!」
アトラトも他の面々も青ざめた。
「お前らを信用してる。だから裏切り者の存在する可能性は心に留めておいてくれ。・・・そして、俺が他のどこでもなく、ここへ来た理由はな・・・・」
モースが言い終わる前に、彼の視線の先にナイフを持った血まみれの男がテレポートしてきた。
「“殺戮”のマーダ・アタル! こいつが来るからだ!」


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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
コング「神酒を飲ます?」
火剣「覚悟の戦士か」
コング「僕も飲もうかな。テレポートでバスルームへ行けるし、透視があれば街を歩くのが楽しくなる」
火剣「でもこんなに苦しくなるなら躊躇するだろう」
コング「女子のトランス状態は良い良い」
ゴリーレッド「また死人が出るな、か。もはや一人の犠牲者も出さないと言える戦闘ではない」
火剣「すでに出ているし勝つ以外の道はない」
ゴリーレッド「ラプソディア、ハービス、ラドル、ウロイ、それにヴェロニバル。懐かしのあの頃を思い出すがそんな状況ではないか」
コング「うろーい・・・あ、来た! ルード・アタル、しかも裸。ア、タ、ル! ア、タ、ル! さあみんなでルードコールだ。r」
ゴリーレッド「延髄斬り!」
コング「NO!」
火剣「誘い込み作戦は難しい。退き方で敵にバレたら終わりだ」
ゴリーレッド「壮絶な予知合戦」
火剣「来たかマーダ・アタル」
コング「巫女は潰さず生け捕りにしようよ。みんなむごいね」
ゴリーレッド「軽い」

火剣獣三郎
2016/06/01 16:35
>火剣さん
“神酒”に人生を狂わされたカームと、家族を失ったヴェネシンが、“神酒”の被験者となりました。
戦況は既にアタル兄弟と砕組が対峙しています。

八武「むふう、じゃなかった。ふむう。」
佐久間「苦痛の段階で大概は躊躇する。副作用を考えて、今まで使わなかった。」
山田「暴走の危険性か・・。」
佐久間「それだけじゃないけどな。」
神邪「裏切る危険性が出るということですか。」
佐久間「それもあるが、“神酒”を飲んだ者が増えると、たとえそれが味方であっても良くないことがある。」
八武「ほう。」
佐久間「まあ今はアタル兄弟が注目点だ。」
維澄「マーダの方が強いとしても、ルードの方が厄介な印象を受けるね。」
八武「全裸とはチャレンジャーだ。いや、違う・・・みんな裸になろうというメッセージか。」
山田「ありえるから困る。」
八武「巫女たちは逃げていくか。生け捕りにしたかった。」
佐久間「テレポーターを生け捕りにするのは難しい。」
神邪「“神酒”の効果だから、ESPリミッターも効かないんでしたよね。」
山田「・・・しかし、ホーティネには効いていたが。」
佐久間「それが伏線だ。」
アッキー
2016/06/01 21:55

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「NEKTAR」 十四、嵐の前 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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