佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「NEKTAR」 二十四、壊帝

<<   作成日時 : 2016/06/17 00:00   >>

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コムザインとカタストロが集合地点に到着したときには、既に日が暮れかかっていた。
東に向かって数千キロ、更に時差も含めて半日の行程。
「このあたりのはずだが・・・。」
コムザインは首をかしげた。
「・・・・・・。」
「フィー姉?」
「最悪の事態を覚悟せねばならないな。」
険しい顔のカタストロ。
「まさか・・・。“神酒”でパワーアップしたヴェネシンを含めた、砕組の精鋭だぞ。」
「移動したんだろう。」
「あん?」
「私が敵の立場なら、ギガマイル・クレッセントが欠けた機会を逃さない。敵は妨害念波を出し続けていたが、敵の側からしても同じ事だ。クレア・・・ギガマイルの千里眼があるうちは、ろくに予知能力を使えない。力の大半を市民に費やしていても、まだアンティローグ全軍よりクレアの予知が強いのだからな。」
「だが、うちの腕利きどもに加えて“叩割空”モースも行ってんだ。アンティローグの凡愚どもに、勝ったところで驚かねえよ!」
「そう思うだけなら自由だが、私はこれから直接ニューヨークへ行く。」
「勝手にしろ! 俺は部下を探す。」
2人は真反対の方角へ飛び去った。
カタストロは北東、アンティローグ本部のあるニューヨークへ。
コムザインは逆方向の南西へ。

実はコムザインの向かった先にこそ、アイド・カルトーの“コンサート会場”があった。
ヴェネシンたちが本部へ真っ直ぐ向かっていたら、コムザインとカタストロはこの会場を見つけていたはずだった。
しかし実際のところ、ヴェネシンたちの進路は南へ大きくズレていた。その原因は地球の丸みにある・・・。
経線は常に大円と一致するが、緯線はそうではない。数キロ程度なら問題はないが、数千キロの移動ともなると、どうしても地球の丸みが問題になってくる。すなわち北半球で東西方向へ直進すると、南下してしまうのである。
今回のケースをこれに当てはめると、アルカディア本部から北米へ向かう際には北東を目指すが、帰りにそれと同じ感覚で南西を目指すと、かなり南へズレることになる。
コムザインやカタストロならば、そんなミスはしない。最短距離の大円を通る。
球面の地球儀か、平面の地図か。頭に浮かぶのがどちらであるかで、長距離移動の感覚は雲泥の差がある。
ヴェネシンも20年以上のベテランだ、知識としては知っている。しかし彼女の頭にあるのは平面地図であり、知識でズレることは知っていても、どれほどズレるのかという感覚は知らない。
それというのも戦後のアルカディアでは地域ごとの役割分割が進み、長距離移動の必要性が無くなってきたからである。1972年の今になっても長距離移動を頻繁に行っているのは、幹部クラスくらいのものだろう。

コムザインは暗闇の中を飛んでいた。
目的地へ向かうとかではなく、部下の捜索。高速では飛べない。
いくら捜しても部下は見つからない。A1級の念力使いとはいえ、この広い北米大陸でESP(超感覚)を使わずに人を捜すのは無理な話だ。まして暗闇の中では、すぐ近くを通りかかっても気付かないかもしれない。
「くそっ!」
仕方なく彼は地上に降りた。
どかっと腰を下ろし、バリアを張って休息する。
「はあ・・・!」
満天の星空も疎ましい。
しかし動いても無意味ならば、待機してるしかない。
事実、とっくにヴェネシンたちは壊滅させられていた。コムザインは、それを知らない。
眠るでもなく、何をするでもなく、ただじっとしているだけの夜は長い。
(こんなとき、フィリップがいればな・・・。)
高出力のテレポーターが不足しているアルカディアでは、フィリップ・ケストナーの能力は貴重だった。
彼の能力はマス・テレポートと呼ばれるもので、30人以上を一度に転移できた。
(結婚して、ガキが出来て、孫が生まれて・・・。家庭を持つと変わっちまうもんかね。)
コムザインは40を過ぎた今でも独身で、過去に恋人がいたこともない。
(守るべきものがあるから強くなれるなど、嘘っぱちだ。)
(フィリップを見ろ。孫が生まれるとなったら幹部の職を辞した。)
(逆にヴェネシンは、妹が死に、姪が死に、その度に強くなった。)
(守るべきものなど俺には必要ない。弱者は仕事で守ればいい。)
(フィー姉、あんたは違うよな。誰かと恋仲になるとか、結婚とか、子供を産むとか・・・。)
「そんなこと、あってはならないんだ。」
思わず口を突いて出たセリフに、彼は苦笑した。
(・・・俺もフィー姉も強者だ。男だろうと女だろうと、強くなくてはならない。強くなくては自分の意思を通せない。)
(自分の弱さを認めることが真の強さだ? くだらねえ戯言だ。自分が弱いと思えば、どこまでも弱くなるぞ・・・。)
(真の強さとは、自分の弱さを補って余りある強さのことだ。)
(強くなるってのは、弱さを無くすことでも認めることでもない。補うことだ。)
(俺の部下たちは力だけで言えば決して強い方じゃないが・・・それを補うだけの技術と精神力がある。力だけのA級など、束になってかかれば負けはしない。だから・・・)
「死んでなんかいない。死んでるはずがない。本当に死んでる確信があるなら、フィー姉は俺を止める。だから、死んでなんかいないんだ・・・。」


- - - - - -


重苦しい夜が明けて、コムザインは再び捜索を開始した。
顔はやつれているものの、気力も体力も十分残っている。昨晩と同じく南西へ飛行した。

しばらく飛んで朝の8時頃。
(何だ、ありゃ・・・?)
何か声がすると思って、方向を変えて飛んでいくと、大勢の人間が集まっていた。
「はいはいは〜。」
正面にいきなり男が現れた。
「ペック・ペア!」
「そうですよ〜。」
それに続いて次々と人間がテレポートしてきた。
「ようこそおいでくださいました!」
「レスト・プロミネ・・・!」
そして最後に現れたのは、華奢で小柄な女の子。
「Fever〜! みんなが大好き、みんなを好き好き、激烈最強アイドル、アイド・カルトーで〜っす!」
十万の観衆が湧き立った。
「はあ・・・・・・?」
コムザインは眉間に皺を寄せて、ぽっかりと口を開いた。
「うふふふ、あまりの驚きに声も出ないようね、“壊帝”さん。そんなアナタに、もっとステキなサプライズ!」
アイドが手を挙げた空間に、1人の男が現れた。
「アイド様の為に!」
「カーム!?」
「死んでもらうぞコムザイン! 必殺“酒の勢い”(スルギム)!」
「馬鹿が!」
コムザインは流体念力をカームごと叩き落した。
「あらら、仲間に対して容赦ないのね。」
「仲間? ・・・ふん、洗脳じゃないんだろ。」
「アイド様の為に〜!」
叩き落されたくらいではカームは終わらない。
「ふん・・」
コムザインがカームを一瞥した瞬間に、再びカームは落下していった。
「わっ、すごーい、何やったの?」
「固定して脳を揺らしただけだが? そんなことよりも、他はどうした。出すなら一気に出せ。」
「無理だよん。灰になっちゃったもん。」
「嘘はいい。砕組の精鋭が、お前らごときに負けるか。」
「でも本当なんだよね。信じられない気持ちはわかるけど、現実を見ないと。」
「・・・・・・。」
(こっちの千里眼が機能してないと思って言いたい放題・・。どうせ捕らえたのはカームだけだろう。集合地点にも、ここにもいないってことは、他の連中はフィー姉と同じ思考でニューヨークへ向かったな? ・・・ってことは、結果的にフィー姉が正しかったわけか。)
「まあいい。それなら俺はこいつらを始末するだけだ。」
コムザインの目が据わった。
「それは無理よ? わたし1人でも十分なのに、レストもペックも付いている。時間が経てばカームも起きてくるよ。」
「半日は起きねえよ。それまでお前らが、この世に存在してられると思うな。」
念力全開。コムザイン全力のサイコキネシス。
それをアイドは全力でガードする。
「流石は“壊帝”コムザインって言いたいとこだけど、わたしの力はあなたの倍はあるわ。みんなの応援がわたしに力をくれるの。えいっ!」
逆にコムザインが吹き飛ばされる。
周囲の十万から歓声が巻き起こる。
「・・・自分を支持する存在が出力を増大させる。それがお前の固有能力か。」
「大・正・解っ!」
アイドの追加攻撃で、コムザインは十万人の輪の外まで吹っ飛ぶ。
「・・・・・・。」
「言っておくけど逃げようなんて考えちゃダメだぞ。」
「馬鹿が。勝てるのに逃げる道理がどこにある。」
コムザインの周囲に200発の念力弾が出現する。
「え?」
「死にな。」
念力弾はアイドではなく、レストでもペックでもなく、十万の観衆に向けて放たれた。
炸裂音と共に、血肉が空を赤く染める。
「まだだ。」
再び200発の念力弾が出現し、観衆へ発射。
「まだだ。」
更に200発を再充填。すぐさま発射。
「まだだ!」
とどめの200発。合計800発の念力弾で、十万の観衆は半分以上が消え去った。
アイドもレストもペックも蒼白。コムザインがここまでするとは予想していなかった。
「何てことするのよ・・・。」
「これでお前のパワーアップは無くなった。」
コムザインは事も無げに言う。
「化けの皮が剥がれたなアルカディア! 守るべき市民を犠牲にするとは、正義の味方が聞いて呆れる!」
レストはコムザインを指差し、鬼の首でも取ったようにまくし立てた。
「守るべき市民? ヒュプノシスで操られているなら俺もこんなことはしない。アイド・カルトーのもうひとつの固有能力は、“魅了”(チャーム)だろう。つまり俺が殺したのは、お前の信者だ。」
「どうしてそうだとわかる? 違ってたらどうするつもりだったのだ? お前は洗脳されてる哀れな市民を虐殺したのかもしれないのだぞ?」
するとコムザインは苛ついた顔でレストを睨みつけた。
「おい、レスト・プロミネ。俺を舐めてるのか? その小娘ほど強力なのは珍しいが、“魅了”自体はありふれた能力だ。知らないとでも思ってるのか。」
「・・・催眠による洗脳と区別がつくとでも。」
「砕組は対テレパシー訓練を積んでいる。カームをあそこまで狂わせる出力なら、俺も無事ではない。もうひとつは・・・超能力の催眠解除はサイコキネシスで可能だってことだ。」
「?」
「サイコキネシスで揺さぶることで、脳の細工を破壊するんだ。ヒュプノシスはデリケートな能力、俺なら壊すことは容易い。だがカームは一撃目では全く元に戻らず、二撃目を入れたときにアイド・カルトーのセリフで確信した。」
「なるほどね〜。でも、わたしのファンはまだ4万人以上残ってる。」
「馬鹿め、そいつらの様子を見てみろ。」
四万の男たちは腰を抜かして怯えていた。
彼らから響いてくる声は、アイドを称える歓声ではなく、傷つき血を流す苦しみの声だった。
「ハッ!?」
「要するにそいつら、至って正気なんだ。さっきまでは心底お前の味方だったから、俺も敵と認識して殺せたし、催眠で操られてるわけじゃないから、人並みに恐怖を感じる。」
「・・・馬鹿はそっちだよ。わたしの“魅了”は今でMAXパワーの20パーセントに過ぎない。」
アイドが念力を集中し、コムザインにはレストとペックが立ち塞がる。
「そこをどけ!」
「どきません。」
「はい〜、ドッペルゲンガー!」
コムザインのパワーを100とすると、レストは80、ペックは40のダブル。足止めには十分だ。
「死にさらえ!」
コムザインは念力でペックを捕らえるが、すぐにドッペルゲンガーと入れ替わる。
本体へ攻撃しようと思えば、レストの炎が飛んでくる。
「はいはいは〜、僕とレストだけでも勝てそうです〜!」
「そのようだな。まあ油断はするなよペック。」
その間にアイドは“魅了”のパワーをどんどん上げていく。
「Charm−up! Charm−up! Charm−up! わたしの為に死んで! All for me! わたしに命を捧げてね〜! オ・ネ・ガ・イ!」
恐怖と苦痛で顔を歪ませていた四万の観衆は、みるみるうちに生気を取り戻した。
アイドを崇拝する気持ちが大きすぎて、痛みを感じていないようだった。
「いっくよ〜!」
再びアイドの出力が上昇する。
四万の男たちから精気を吸い取り、見たこともない輝きを放った。
男達は半ば廃人化しながらも、喜んでアイドに精気を与えていた。
「えぐい真似しやがる・・・。」
「人のこと言えねえよコムザイン!」
レストの炎がコムザインを包み込む。
「ふん!」
炎を振り払ったコムザインの目は、いっそう鋭くなっていた。
「お前は強いな、コムザイン。おれとペックの2人がかりでも苦戦するとは・・・。」
「褒め言葉とは余裕だな。」
「貶してんだよ。その強さでお前は一体どれだけの人々を踏みつけにしてきたんだ!? わかるはずもないだろうな、そんなこと考えたこともないだろうよ! だから平気な顔して何万人も殺せるんだ!」
「お前がそれを言うなよ。幼稚臭い人殺しが。」
「おれが言わなくて誰が言う! 同じことを言う弱者を、お前らは踏み潰してきたんだろうが! お前ら強者はいつだってそうだ。自分が弱者を虐げてるという認識すら持たない。」
「ほざくな。」
言い合いながらも激しい念力の応酬が繰り広げられていた。
生傷の絶えない戦いで、一歩間違えれば首が吹っ飛ぶ。
「結局世の中ってのは強い者が正義なんだよ! 弱者が正義を主張しようとも、踏みつけられて地を這うのみだ。愚民どもに正義を知らしめる為には、おれが強くなるしかないんだ!」
「ふん・・・。」
コムザインは、いったん引いた。
「拙劣だが熱い主張だ。認めたくはないが、正直言って、心にくるものもあったよ。だがな、“愚民”などという言葉を平気で使う人間に、負ける気はしないな。」
すうっと目を細めたコムザインから、今までより速く、強い念力が放たれた。
「ぐがあっ!」
レストは全身の骨を砕かれた。
「こんなもの・・・休め、気をつけっ!」
数秒で回復したレストは、負けずに気を張る。
「いくらでも攻撃してこい。おれの回復能力はアンティローグ最速だ。」
「そうかい。」
コムザインは何故か余裕の表情。
「そろそろ本気を出すか。」
「は?」
「何?」
「お前らごときに本気で戦うなど“壊帝”の名折れだと思っていたが、これ以上頭の悪い主張を聞いていたくないからな。」
「ハッタリとはみっともないぞ。」
「そうですよ〜。僕のドッペルスワップは見切れないでしょ〜。」
「見切る必要の無い技だ。」
コムザインの念力弾が放たれる。
ペックは余裕でドッペルゲンガーと入れ替わる。
「ほーらね、どっちが本物かもわからないでしょ〜。」
「ふん、どっちが本物かわからないのなら、両方同時に攻撃すればいいだけのこと!」
コムザインの念力がペックを捉えた。
「ごふっ!?」
「ちっ!」
レストは炎を放つが、それも相殺されて逆にダメージを受ける。
「回復するというのなら、一撃で殺せばいい!」
念力がレストを貫き、上半身と下半身をぶった切った。
「ぎゃああああーっ!!?」
「馬鹿な馬鹿なぐああああっ!!?」
そのままレストとペックは、コムザインの念力に捕まった。
「ふ、2人とも、今助けるよ! ばびゅ〜ん!」
アイドが向かってくるが、コムザインはそれも薙ぎ払った。
「ひゃっ!?」
「レスト、最後に教えといてやる。強い者が正義なんじゃない。勝った者が正義なんだぜ。」
コムザインはレストとペックを握り潰し、粉々に吹き飛ばした。
「嘘・・・どうして・・・何で・・・?」
アイドは呆然として目を丸くした。
「強かったはず・・・2人合わせたらレストとペックの方が強かったはず・・・。それなのに、わたしの攻撃をはじけるほどの余力を残しているなんて・・・?」
「ああ、強いさ。俺のパワーを100としたら、レストは80、ペックは40ってところだろう。テレポートもテレパシーも予知も透視もある。固有能力もある。確かに、俺よか強い。だがね、言ったはずだ。強い者が正義なのではなく、勝った者が正義だとな。それの意味するところは、強い者が勝つとは限らないってことだ。現に俺は勝ったろ。後はお前だけだ。」
「何か固有能力でも隠し持ってたわけね・・・。いいわ、2人の仇は私が討つ。4万人から限界まで吸い取った精気で、今のわたしの力は、あなたの10倍はあるわ! 既にエネルギーを吸い尽くしたから、殺しても無駄よ〜!」
アイドが強大なサイコキネシスを放つ。
だが、それをコムザインは斜めに弾く。
「誰が好き好んで人を殺すか。」
「平気で人は殺すのに?」
「それがどうした・・・。お前に魅了されていたとはいえ、自分の意思で戦場に出てきて、人殺しの手伝いしてるんだ・・・。後方支援は人道的だとでもほざく気か? 人殺しに加担するってことは、自分も殺されても文句言えないってことだぜ。」
「それがあなたの正義?」
「やけに正義って言葉に拘るね、お前ら。別に正義の御旗を掲げてやってるつもりは無えさ。仕事だもの。アルカディアで生まれて、アルカディアで育ち、アルカディアの為に働く。それが俺の人生だ。俺に正義とか信念てものがあるとしたら、単純にフィー姉の足手まといにならないようにする。それだけさ。」
コムザインは不敵な笑みを浮かべた。
アイドは少し表情を歪めたが、すぐに元に戻る。
「好きなの? フィー・カタストロのことが。」
「無論。」
「照れないのね。」
「小娘相手に照れることなどあるか。」
コムザインは冷たく笑いながら念力弾を放った。
アイドは逃げられない。
「かはっ・・・!?」(どうして・・・?)
アイドが目つきを歪めると、コムザインは尊大な顔で彼女を見下ろした。
「どうしてってツラしてんな。」
「一体どんな固有能力・・・。10倍のパワーをものともしないなんて・・・。」
「馬鹿が。固有能力なんかじゃない。単にお前が念力を“絞れてない”だけの話だ。」
「念力を絞る・・・?」
「レストもペックもそうだったが、お前ら総じて緩すぎる。パワーだけは高いが、念力を垂れ流しだ。実際1割そこそこしか自分の力を活かせてない。だから今の状態で互角だ。10倍のパワーを持ってると思って油断するな。」
「にゃにおう〜!」
アイドはフルパワーの念力を纏って突撃した。
コムザインはそれを受け流す。

ぶつかり合いは数十分も続き、あたりの地形がめまぐるしく変化していく。
ほとばしる、穴、穴、穴。砕け散る地面。
全くの互角。双方ともボロボロになっていく。
「はあっ、はあっ・・・」
「ひゅうっ・・・ひゅ・・・」
なんと皮肉なことだろう。コムザインは何万というアイドファンを殺害していなければ、とっくに死んでいた。
「そろそろか。」
「?」
それからの数分で、アイドは次第に劣勢になっていった。
(何故)(どうして)(力が入らない!?)
「ほらな!」
コムザインの強力な蹴りが炸裂。
アイドは頭から血を流して吹っ飛んだ。
「くう・・・はあ・・・どうして・・・?」
「馬鹿げた素人だ。自分の念力残量も把握せずに戦っていたんだろう。どいつもこいつも“神酒”を過大評価しすぎだ。フィー姉や京狐夜果里は過度に恐れ、お前らアンティローグは期待しすぎている。結局“神酒”なんてものは、出力を増大させるだけなんだ。技量も拙いし、念力の量も赤子同然。フルパワーで戦えば、1時間程度で念力が枯渇する。石を振らせる未熟なエスパーが、短時間で力尽きるのと同じだ。」
「・・あ、あなただって全力で戦っていたはずよ・・・!」
「ああ・・・?」
コムザインは心外そうな声を出した。
そして次第に、堪えきれなくなって笑い出した。
「かっはっは、はっはっは、冥土の土産に教えといてやろう。お前の念力容量を生まれたままの100とすれば・・・砕組の平均値は3000だ。」
「な・・!?」
「出力は殆ど先天的なものだし、いずれは衰える。技術も水物だ。だがね、念力容量は後天的に幾らでも伸ばせるし、衰えもしないし、波もない。だから砕組では容量の増加を主に訓練している。何十時間でも戦えるようにな。」
「つまり、あなたの念力量は、わたしの、30倍・・・!」
蒼白で苦しげなアイドだが、彼女の顔は次の言葉で更に青くなる。
「30倍? 3000はあくまで平均値だ。俺の念力容量は・・・・・・55万だ。」
「にいいいいいっ!?」
「ようやく自分の愚かさを理解したか、小娘。」
「まだよ・・・まだわたしには“魅了”があるわ! 流石はアルカディアの重幹部、恐ろしいほどの精神力だけど・・・魅力をフルにしたわたしに抗えるかしら?」
「はん・・・。」
「今は50パーセントに過ぎない・・・。狂い死ね、“魅了”100パーセント!!」
アイドはキュートなポーズを取って、魅惑的な肢体を魅せつけた。
「チャーム・アップ! チャーム・アップ! チャーム・アップ!」

「うるせえよ小娘。」

コムザインの蹴りが容赦なくアイドの顔面に入った。
「がふぁああ・・・!?」
鼻血を噴きながら飛ばされるアイド。
「どうして!? どうしてわたしの魅力が通用しないの〜!?」
「はあ? その能力は性的魅力を増大させるものだろう? 誰がお前みたいな小便臭い小娘に劣情を催すものかよ。」
その言葉と共に、コムザインはフルパワーのサイコキネシスで、アイド・カルトーを粉々に打ち砕いた。

「ナンバー2でこの程度かよ。俺やフィー姉を温存しておく必要があったのかね?」
爆煙の中、コムザインは苛立ち紛れの溜息を吐いた。



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エスパー奇譚』長編小説 「千里」 NEKTAR 目録
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2016/06/17 00:00

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
火剣「テレポーター不足か。七瀬もテレポートや時空を越えることはできない」
コング「読心術のみ。透視もできない」
ゴリーレッド「魔女もエスパーも決して万能ではない」
コング「暴力皇帝は万能だけど」
火剣「守るべきものがあるから強くなれるなど嘘っぱちだ。痺れる言葉だ」
コング「家族や恋人は弱点になる。半裸で手足を縛られている恋人をスマホで見せられたら言うことを聞いてしまうだろう」
火剣「この狂った世の中では強くなる以外にない」
コング「人生サバイバルか」
ゴリーレッド「正義が勝つとは限らない。勝ったほうが正義になる。だから自分が正義と思うならば絶対に勝つしかない」
コング「コムザインだ! 討ち取って名を上げよ・・・つよいいい」
火剣「でもハービスたちが戦死したことを知ったら?」
ゴリーレッド「そのショックもきっと乗り越えるだろう。迷わず800発。ここが差かもしれない。常人はこれができないんだ」
火剣「コムザインの選択が正しい」
コング「しかしアイドだけは許してあげようよ」
火剣「無理だ」
ゴリーレッド「やはりコムザインには通用しなかった」
コング「NO! アイドー! 激烈最強アイドルが・・・一度も全裸を晒すこともなく」
ゴリーレッド「何の哀しみだ?」
火剣「残るは一人か。そして気になるパラメッタ」
コング「パラメッタとクレア。どっちを選ぶレックス?」
ゴリーレッド「まず戦に勝ってからだ」
火剣「アルカディアとしては侵入者を放置するか、探して罰するか」
コング「ティムには手を出さないほうがいい」
火剣獣三郎
2016/06/17 22:32
>火剣さん
狂った世界。足りない世界。残酷な世界。部下たちが戦死していることを知らないまま、コムザインは戦い、勝ち続けます。
十戒も残るはクリエただひとり。神殿には巫女も残っていますが、パラメッタは何を思っているでしょうか・・・。

山田「凄まじい。この一言に尽きる。アイドが別格なら、コムザインも別格。より上位のな。」
八武「うむ、圧倒的だ。ここまで力の差があるなら、アイドちゃんは生け捕りにするべきだったのでは!?」
佐久間「そこまで余裕があったわけじゃないさ。生け捕りは難しい。殺す方が簡単なんだ。」
神邪「生け捕りにしても、サイコキネシスで反撃されますからね。」
維澄「なまじ強いから殺すしかないとは、皮肉なことだね。」
山田「コムザインの強さは、心の強さでもあるな。セリフが光っている。」
佐久間「こういうときにブレないから、生き残れる。」
神邪「フィリップさんがいたらと言いながらも、いなくても戦い、そして勝つ。真の強者は、どんな状況でも勝てるという言葉を地でいってますね。」
山田「ベインは口だけだったが、コムザインは本物だ。」
佐久間「不足を嘆くのは大切な儀式。今ある状況の中で工夫すること、現状に足りないものを補うこと、どちらも出来て一人前だ。」
維澄「レックスはパラメッタと再会できるかどうか。」
八武「この戦いも、残りわずか・・。ティムは客席に戻ったようだねぃ。」
佐久間「クライマックスはここからだ!」
アッキー
2016/06/17 23:37

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