佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 番外編 豹の駆ける庭

<<   作成日時 : 2016/09/09 00:50   >>

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壊したいなあと・ふと頭によぎった。
しかし・何を壊したいんだろう?
僕は・何を壊したいんだろうか。

いつもの朝が・始まる。思索に耽るのも・大概にしなければ・ならない。
ここは・石泥地区。無法と暴力の街。じっくり考えていたら・生きることに乗り遅れてしまう。
毛布を・纏い・歩き出す。埃の舞う中を・てくてくと。
僕は何も持たない。この・汚れた毛布を除いて。
考えても仕方がないが・僕の人生って何なんだろう。
ほんとに・考えても仕方のないことだ。なのに最近は・こういうことを考えるように・なった。
何故だろう。この・石泥地区の外に・素晴らしい世界が・あるわけでもないのに。
いや・いや・違う。
あるんだ。
僕は・それを知っている。僕は・それを知ってしまった。あの世界を。外の世界を。
だから・こうして・小難しい言葉で物を考えることも出来る。
彼女に・いろんなことを・教えてもらった。
あれから・僕は・まるで哲学者のようだ。
綾小路茉莉花。
彼女に感謝すると同時に・とても憎たらしい。
どうして・僕に・あんな素晴らしい世界を見せてくれたんだ?
ありがとう。
よくも。
相反する2つの感情が・僕をバラバラにしてしまいそうだ。
あのときから・僕は・僕になった。
バラバラになりそうな・本当の僕に。

僕を・外に・連れ出したのは・蔵目翔(くらめ・しょう)という人だ。
同じく・石泥地区の出身で・強い人だ。
『外の世界が見たくないか?』
久々に帰ってきたという彼は・偶然・僕を見つけたと言っていた。
ずっと前にも会ったことがあるとの・ことだったが・僕は覚えていない。人違いかもしれないと思う。
けれど・僕は・蔵目翔に出会った。
出会ってしまったら・出会った理由なんて・どうでもいい。
『外?』
『そうさ、外さ。広いぞ大きいぞ・・って、これは海か。つ〜き〜は〜のぼる〜し〜ひはし〜ず〜む〜♪」
『君・だれ?』
『ああ、そうだ。お互い顔は知ってるけど、名前も何も知らなかった。よくぞ聞いてくれました! 俺はエイ・・・じゃねえや、あ、じゃなくもないけど、いや、とにかく俺は蔵目翔。よろしくな!』
『はあ・うん。』
『お前の名前は?』
『名前?』
『ああ、そっか。俺と同じだ。名前が無いんだな?』
『うん・そう。』
『うむ。これはもう、俺が名付けるしかないってことだ。そういう流れだ。』
どういう流れなのか。このときは・そう思った。
後に・彼も・かつて名前が無くて・恩師に名付けられたのだと・わかった。
『今日は何だか冴えてるから、冴、冴、冴木にしよう。名前は、豹介ってのはどうだ? お前どことなく豹っぽいし。』
『さえき・ひょうすけ。』
そのときから僕は・名前を得た。
冴木豹介。良い名前だと思う。

外の世界は・広かった。
どこへでも行けると思った。
僕は・駆けるように歩いた。
そのうちに・大きな屋敷の前に・辿り着いた。
けれど僕は・はしゃぎすぎていたんだ。日頃から・あんまり食べてないのに・好奇心に任せて歩き続けたから・すっかり動けなくなっていた。空腹で倒れるって感覚・わかる?
『どうしたの!?』
しばらく地面で寝ていると、澄んだ声が頭上で響いてきた。
僕は・ゆっくりと立ち上がった。
そこに・いたのが・綾小路茉莉花。
『そんな怪我して、ケンカでもしたの?』
怪我なんか・してなかったんだけど・こんな汚い格好の人間を見たことがなかったんだろう。
そもそも・見知らぬ人に近付くなんて・名家の・お嬢様の・することじゃないぜ?
けれど・そのときは・ただ彼女に見とれていた。空腹と合わせて・頭が・ボーっとなっていた。
僕は再び倒れた。
何だか気分が良かった。
これが初恋だったのかな。
でも・だとしたら・恋って・憎む心も含まれているのかな?
茉莉花のことが・とっても憎たらしいんだ。
初めて会ったときから・ずっと。
綺麗なものを見たとき・感動と憎悪が一緒に・やって来るんだ。
ボロボロの毛布を握り締めながら・僕は・壊してやりたいと思っていた。
茉莉花を・この手で・壊してやりたかった。
どうしてなんだろう?
心がバラバラだ。
彼女に会ってから・心がバラバラになっていく。
僕が・破壊されていく。

茉莉花は水と・何かの食べ物を・持ってきてくれた。
食べ物が何だったのか・今でもわからない。後で茉莉花は料理の名前教えてくれたけど・聞いたことがなかった。ただ・凄く美味しかったことは覚えている。
お礼を言って・僕は去っていった。
心が熱かった。
同じ場所に・また来たいと思ったのは・初めてだ。
僕は・何度も石泥地区を抜け出して・綾小路家を訪れた。
病気で寝たきりの兄さんを放って。
そのことに罪悪感は無い。
兄さんは文句ばかりだ。僕に何も感動を与えない。
茉莉花と過ごしているのは楽しかった。知らない言葉も・たくさん覚えた。
あの綺麗な庭。
綾小路家の庭は綺麗だった。
とても綺麗だった。
こんな綺麗なものは見たことないって・大はしゃぎすると・茉莉花は驚いたような顔をして・そして謝った。
どうして謝ったんだろう。お嬢様の考えることは・わからない。
茉莉花が・悲しそうな顔をするのを見て・僕は感動したことが悪いことのように思えてしまった。
綺麗なものを・綺麗だって・言ったら駄目なのかな?
壊したい。
そんなことは言ったら駄目だと思うけど。
ああ・でも・壊したいな。
絶対に茉莉花には言えないけど。
いや・もう・言えないのかな。

茉莉花は体が弱いようだった。
虎みたいに強くなりたいって言ってた。
でも・強くなりたいって・意味がわからない。
石泥地区にも・強いやつは・いた。人を殴って・奪っているやつが。
どうしようもなく強かった。僕は抵抗できなかった。
後で・そいつの後をつけて・そいつが眠ってる隙に・包丁で刺し殺した。
強いっていっても・所詮そんなものだ。
だから・強くなりたいと思うのは・やめといた方がいい。きっと・あの男みたいに・全身を切り裂かれて殺されてしまうんだから。茉莉花が・そんな目に遭うなんて・嫌だ。
茉莉花を壊すのは僕だ。
あれ・駄目だ。こんなことを考えたら。
そんなのは嫌だ。
けれど・もう心配ないか。もう何を考えても大丈夫か。
ようやく頭が・はっきりしてきた。
どうして僕は・こんなことを考えているのか?
どうして僕は・こんなことを思い出しているのか?
夜が明ける前に・子供の群れが・ぶつかってきた。
そのときに刺されたみたいだ。
血が滲んできた。
毛布に血が・べっとりしている。
どうして刺されたんだろう。
あの子供たちは・どうして僕を?
わかってる。きっと理由なんか無い。石泥地区では・これも娯楽に過ぎないんだ。
歩くのも疲れてきた。
もう休もう。
茉莉花とのことを鮮明に思い出してるのも・おかしなことを考えているのも・納得した。
人間は・死ぬ間際に・いろんなことを思い出すんだって・茉莉花が言ってた。
ああ・楽しかった。
あの庭を駆け回ったとき・僕は・まるで豹になってる気がしたよ。
それを茉莉花に言うと・笑ってくれた。
今度は間違わなかったよ。だって彼女は嬉しそうだった。
そうか。感動しても・眺めてるだけなのは悲しいって思ったのかな。
あの景色を壊さなくてよかった。
茉莉花を壊さなくてよかった。
けれど・やっぱり死にたくないなあ。死にたくないよ。
もっと茉莉花と話をしていたかった。
死んだ後は・どうなるのかな。
幽霊になる?
そしたら茉莉花のところへ飛んでいける。
ずっと茉莉花と一緒に・あの庭を駆け回るんだ。




   豹の駆ける庭   完

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