佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十四話 白羽の矢 (承)

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:20   >>

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やや時間を戻し、私立三角高校。
ショートヘアの女刑事が、理事長に詰め寄っていた。
「どうしてですか!?」
「いや、しかし、いきなり超能力などと言われても・・・。」
江口白羽の、柔らかくも芯の通った声に、三角龍馬はタジタジになっていた。
美人というのは、それだけである種の迫力を持つが、それに美声とプロポーションが加われば猶更である。
「それに、我が校の教師を疑うのであれば、それこそ確かな証拠でもない限り・・」
「証拠ならあります! あたしの記憶です! 会えば絶対わかります・・・”イヴィル・ヴァイラス”と名乗っていた、あの男に!」
「いや、しかし・・・せっかく立て直した経営が、また警察沙汰になったりしたら、それこそ・・」
「あの男がいるなら、遅かれ早かれです。取り返しの付かない事態になってからでは、もっと酷いことになりますよ。」
「そんなことを言われましても・・」
「今すぐ教職員を集めてください。」
「ですから、それは出来ないと・・」
「わかりました。あたしを潜入操作させてください。臨時講師でも、教育実習生でも。」
「人にものを教える心得が・・・?」
「・・・っ、だったら用務員でも、養護教諭でも、どんな肩書きでもいいですから。」
「無理だ。君のような、若くて綺麗な女性、詮索の的になるのは目に見えている。」
「セクハラですか?」
白羽は、上司の大石に言ったときよりも、数段鋭い目つきで言った。
「あ、いや、すまない・・・。ただ、君が心配で・・・。」
「お気遣いなく。あたしは、そうやって女性を色眼鏡で見る社会に、一石を投じようと思っていますから。」
「そ、そうか。」
「許可を、お願いします。」
「う・・・・。」
「それとも、心配しているのは、あたしや生徒ではなく、学校の評判それのみですか?」
「うぅ・・・」
白羽の真っ直ぐな瞳に射竦められ、三角はたじろぐばかりだった。
「と、とにかく、わたしだけで決めていい問題ではない。まずは理事会で・・」
「悠長なこと言ってる場合じゃないわ! あの男に先手を打たれる!」
「いや、しかし・・」
「しかしもかかしもありません! こうしている間にも、女生徒が奴の毒牙にかけられているかもしれないんですよ!?」
しかし、言い争っている時間すら無かったのだ。
程なくして、この学園は過去最大の危機に見舞われる。そのときまで5分を切っていた。

「瑠璃子、瑠璃子は、どこですか?」
理事長室の扉を開けて入ってきたのは、やや落ち着いた雰囲気の、しかし目の焦点がおかしい中年女だった。
実年齢よりは若く見えるが、どことなく老いたようにも感じられる・・・十島隆子。
「あ・・・十島、さん・・・。」
呆気にとられた三角の、混乱と困惑の中に、冷たい憎悪が垣間見えた。
隆子が仕組んだ狂言誘拐によって、三角学園は大打撃を受けたのだから。
「十島・・・?」
背後の三角に寒気を覚えながらも、白羽は隆子に対して構えていた。
この中年女は、ただならない。
「おお、おまわりさん、瑠璃子が、いないんです。さらわれたんです。わたしが無実の罪で捕まってる間に、どこかの誰かに。ああ、ああ、探してください。お願いします!」
「え、あの、話が見えないんですが。それに、十島って・・」
「刑事さん、離れてください!」
三角の声ではない。年端もいかない少女の声。
息を切らして、三つ編みの少女が駆けつけていた。右頬に×印、左頬に○印、かつての生徒、十島瑠璃子。
「るうりこおおお! 無事だったのねえ! 心配してたのよおお!」
「来ないで!」
涙ながらに駆け寄る隆子を、瑠璃子は強い口調で制止した。
ピタッと止まった隆子は、ぽかんと口を開けて、ぎこちなく首をかしげた。
「ど、どうしたの、瑠璃子? どうして怒ってるの? お母さんね、瑠璃子のこと心配してたのよ。すっごく心配してたのよ。ね、だから怒らないで。わたし心配してたのよ。」
「騙されるもんか。」
冷たい声で瑠璃子が睨み、その後ろから30代の女が出てくる。
「お芝居かしら? それとも自分の記憶を都合よく書き換えてしまったのかしら?」
その口調と声には、聞き覚えがあった。
「ななむら、ななみィ・・・」
「思い出したかしら。この子を虐待していたことも?」
「こっ、こっ、こっ、殺してやる! 刑事さん、あの女が悪いんです!」
そう言うなり隆子は、窓の方へ走って、ガラスを破って中庭に飛び降りた。
言葉も行動も、まるで一貫していない。
「・・・説明してくれる?」
白羽は瑠璃子を見て、その後ろの七村七美を見た。
「あなたは誰かしら、刑事さん?」
「あっと、あたしは江口白羽。この学校に、とある凶悪犯罪者が潜んでいる可能性を調・・」
その声は途中で遮られた。
キィンと響く独特のハウリング音と共に、放送で何者かの声が流れてきた。

   「ぽおいずん」

「ぽいずん。こんにちは皆さん、第九の邪戦士“イヴィル・ポイズン”です。」
ざらざらした女の声が、マイクに乗って学校中に響く。
「この学校は今から第五の邪戦士“イヴィル・ヴァイラス”の支配領域となりますので、どうか心に留め置いてくださいませ。質問がございましたらば、第六の邪戦士“イヴィル・マリオネイター”、第八の邪戦士“イヴィル・テンタクル”、第十の邪戦士“イヴィル・パニック”に、いつでもお尋ねください。ぽおいずん。」
ざらついた声が、ひときわ大きくなる。
「なお、これは通告であり、皆さんの許可を求めるものではありません。邪戦士には絶対服従、さもなくば全ての権利を保障しません。ぽいずん!」
放送を聴いて、三角の顔は真っ青になっていた。
「こ、これは・・・」
「先手を打たれたわ! “イヴィル・ヴァイラス”よ!」
白羽は人が変わったような顔つきで廊下を駆け出した。
「・・・!」
七美は追って加勢するべきかどうかを迷ったが、踏み止まった。
「三角さん、わたしが話すことを信じてくれるかしら?」
「あ、う・・」
「わたしは七村七美。第三の電脳戦士“アインストール”よ。覚えておいてくれるかしら?」
「せ、戦士?」
「そして、三角さんも知る彼女は、第五の電脳戦士“トランジスター”!」
「いや、その・・」
「奴らは“邪戦士”。わたしたち電脳戦士と対を成す存在。わたしたちが人を幸せにする為に行動しているとしたら、奴らは人を不幸にする為に行動している。理解してもらえるかしら。」
「・・・話が、さっぱり見えないんだが。」
三角は頭が真っ白に近い状態で、薄い頭をガリガリと掻いた。
「何を他人事のように言ってるのかしら。あなたもサトリン様に選ばれた十戦士の1人なら、しゃきっと理解してもらいたいわ。」
「は、わたしが・・・?」
「まさか、まだ覚醒してないのかしら? そんな風には見えないのだけど。」
七美は困惑した顔で腕を組む。
「もしかしたら、センセーのときみたいに、無意識の・・」
「なるほど。まずいかしらね。」
瑠璃子の推測に、七美は腑に落ちつつも顔色が悪くなる。
「“ガーディアン”の力は本来の63パーセントだし、ヴァイラスに対抗するには三角さんか八谷さんの能力が有効なのだけど・・・。」
「とりあえず、複数で行動しましょう。あの刑事さんも心配だし。」
そう言って瑠璃子は、両頬の痣に手を当てる。
「・・・うん、やっぱり放送室にポイズンはいないみたい。録音ね。」
「だとすると、邪戦士が本当に5人だけというのも怪しいかしら?」


廊下を走っていた白羽は、すぐに奇妙なことに気付いた。
生徒の姿が見えない。
廊下にも、教室にも、誰もいない。
(これは・・・!)
その先で、1人の男性教師が困った顔で突っ立っていた。
「おっかしいな・・・。あ、えーと・・」
駆けつけてきた白羽を見て笑顔になりつつも、名前が思い出せなくて困っているような様子だった。
「江口白羽。警察です。」
「警察!? や、やっぱり何かあったんですか!?」
「あたしも何があったか探っているところです。」
話しながら白羽は、この男が“イヴィル・ヴァイラス”ではないかと、自分の記憶と照らし合わせていた。
顔は覚えていないが、声や雰囲気でわかるはず。
(・・・違う・・・・・・。)
どちらかというと、人に騙される側のタイプだと感じた。
(でも、まだ疑いを捨てるわけにはいかない。名簿では、この学校の男性教員は、理事長の他に4名。その全員に会うまでは。)
そう考えた次の瞬間、彼女の腹部を激しい痛みが襲った。
「ぐっ!?」
続いて頭をガツンとやられ、更には顎に一撃を入れられた。
脳を揺らされて、意識が歪む。
(しまっ・・・やっぱり、こいつが・・・)
白羽は廊下に倒れ込む。
その光景を、男は黙って見ていた。
「・・・・・・。」
倒れた白羽を、男は黙って見つめていた。

(どうしよう・・・。)
男は、八谷和真は、何が何だかわからずに硬直していた。
授業の準備を整えて教室へ向かえば、生徒が1人もいない。現れた婦人警官は、急に苦しんで倒れてしまった。
この事態は彼の精神的な許容量をオーバーするに十分であり、真っ白になった頭では指一本動かせなかった。
「あ、あの、大丈夫ですか・・・?」
おっかなびっくり声をかけると、白羽はカッと目を開いて跳ね起きた。
「ヴァイラスっ!!」
瞬間、目に見えない衝撃が八谷を襲った。
「ぐぶっ!?」
「えっ・・・?」
白羽は目を丸くして飛び退いた。
彼女の目の前で、八谷は痛みで声も出せずに悶えている。
(この男じゃない?)
白羽は急いで走り出した。
正体不明の敵から謎の攻撃を受けている。止まっているのは危険だ。
(ごめん・・・!)
謝りつつも、しかし完全に疑いは捨てられない。
これが“イヴィル・ヴァイラス”ならば、人を助けようとする心に付け込んでくるのは必至なのだから。
だが、その判断は果たして正しかったのかどうか。
白羽の向かった先には、大勢の女生徒がいた。
それは女子高なのだから、むしろ当たり前の光景なのだが、全員が無表情でシャープペンシルやカッターナイフを構えていることまで当たり前と言うわけにはいかない。
「・・・っ、ヴァイラス! この卑怯者! 女の子を戦わせて高みの見物!? 男らしくないわよ!」
叫んでみたものの、虚しく廊下に反響する。
そして女生徒たちが、無表情で切りかかってきた。
「くっ・・・!」
逃げるしかない。
一般人の子供と警察官では、足の速さが違う。すぐに引き離した。
(操られてるだけの生徒に危害は加えられない・・・!)
しかし逃げた先にも生徒が待ち構えていた。教師も混じっている。
「くっ!」
挟まれた。
万事休すか。
しかし、生徒や教師たちは、白羽を攻撃するのではなく、互いに切りつけ合ったり殴りあったりしていた。
「!?」
わけがわからないが、チャンスだ。
白羽は急いで窓を開けて、中庭に跳び下りた。
(ヴァイラス! 許さないわ!)


操られていた女生徒や教師が同士討ちで倒れていく中、それらを掻き分けて九古鈍郎は走っていた。
「八谷! しっかりしろ!」
親友を見つけて、鈍郎は抱き起こした。
その瞬間、衝撃が飛んできた。
「ぐっ・・・」
だが、白羽や八谷ほどのダメージを受けていない。第二の電脳戦士“ガーディアン”の電子力場プロテクトによって、衝撃には相当強くなっている。
(これが“イヴィル・ポイズン”の能力か。話には聞いていたが、なかなか厄介だ。)
気絶させられることはなくても、体勢を崩すには十分。
今のを、敵を相手にしているときにやられたらと思うと、ゾッとする。
(透視能力を備えた座標攻撃。私の天敵みたいな奴だな・・・。)
戦士名“インビンス”が示す通り、無敵とも思える九古鈍郎の“偶石握殺”(サークルファイア)だが、意外と弱点も多い。
ひとつは言うまでもなく1対1の戦いだが、それよりも問題となるのは、精神系の能力であるがゆえに、対テレパシー、対ヒュプノシスの能力や技術を持っている相手には通用しにくいということ。
それから、同士討ちであろうが鈍郎にまで被害が及ぶほどの、広範囲・高出力攻撃。
そして、“認識の外からの攻撃”である。
(とはいえ、精密で絶え間ない攻撃など、そうそう出来るものじゃない。ましてゴルゴ13のような即殺射撃なんて、それが出来るようなら、とっくに殺されている。)
“イヴィル・アタッカー”との戦いでは、認識対象を魚にまで広げることで勝利を収めた。だが、それは裏を返せば、認識できない相手には使えないということでもある。エスパーでなくても、鈍郎には“死角からの攻撃”が有効なのだ。
(秒数、そして何よりも、本体の位置。考えろ、私が敵の立場なら、どこに隠れる?)
常時発動型の能力であれば、このような弱点は無かったかもしれない。訓練次第では、そういうことも出来るようになるかもしれない。
しかし、自分に敵意を向けただけで同士討ちさせるような能力を、鈍郎は良しとしない。悪意や敵意に対して、どう対応するにしても、思考と理性を介するべきだと考えている。
そして今も、“イヴィル・ポイズン”という悪意と敵意に対して、思考と理性で対決しようとしていた。
(私なら・・・)

“イヴィル・ポイズン”は恐れていた。
彼女の能力“黒煙邪手”(ピルネクス)は、透視能力と座標サイコキネシス攻撃の合成能力であり、居場所さえ突き止められなければ、相手を一方的に倒すことも出来る。
しかし逆に言えば、居場所が割れたときの戦闘力は激減する。
単純に身体的に接近戦に弱いせいもあるが、それに輪をかけて精神的に脆い。人前に出るだけで言語能力すら失ってしまう、重度のコミュニケーション障害。それゆえに、相手に姿を見られる前に倒さなくてはならないのだ。
「ぽいずんっ!?」
真っ直ぐ向かってくる。
迷いなく。
“黒煙邪手”を放つも、予知されているかのように避けられる。
(何で・・・“インビンス”の能力で、こんなことが出来るわけ・・・?)
想定された悪い事態が、現実のものとなろうとしていた。
バタンと音がして、扉が開かれる。
ビクッと体を竦めて、“イヴィル・ポイズン”は醜い顔を土気色に、そして黒ずませた。
「やはり屋上だったか。」
「ぽいずん!? ぽいずん!?」
わずか10メートルほどの距離で、2人は対峙する。
「どうしてわかったかとでも言いたそうだが、ほぼ山勘・・・私ならどこに隠れるかと考えただけのこと。そういう能力を持ってると考えた場合、狭いところに隠れたくはないのでね。」
言いながら鈍郎は前へ進む。
“イヴィル・ポイズン”が座標攻撃を仕掛けるが、当たらない。
「無駄だ、その能力は座標攻撃。超能力戦のプロじゃあるまいし、一瞬で攻撃など出来るはずもない。座標を決定するまで約3秒・・・それだけの時間があれば、私の身体能力でも回避できる。」
言葉で威圧しながら、鈍郎は前へ、前へ。
「ぽいずんっ! ぽいずんっっ!」
“イヴィル・ポイズン”は叫ぶ。
鈍郎は距離を詰める。
(バリケードを築いておくべきだった。いや、そんな時間は無かった。だったら屋上の鍵は盗んでおくべきだった。いや、そんなことをしたら屋上にいるのがバレバレだ。だったら全ての鍵を盗んでおくべきだった。いや、その理由を考えられたら。ああ、ああ、どうしようもなかった。どうしようもない人生だったあああああああああ!!!)
めまぐるしく頭を巡らした“イヴィル・ポイズン”は、フェンスをよじ登って逃げようとする。
「お、おい、よせ!」
鈍郎も決して運動能力が高いわけではない。
これも罠かと躊躇した間に、“イヴィル・ポイズン”はフェンスを乗り越え、地面へ向かってダイブした。
「ぽおいずん!!」


- - - - - -


少し時間を巻き戻して、中庭。
「女の子いっぱいだっつーの。嬉し恥ずかしだっつーの。」
触手を生やした平べったい顔の男、“イヴィル・テンタクル”が、逃げ惑う女生徒たちを捕まえて裸に剥いていた。
ビリビリと服が破れる音も、悲鳴や絶叫に掻き消される。
「可愛い子たくさんいるっつーの。誰から食べようか迷うっつーの・・・っう!?」
学校の塀を乗り越えて、誰かが跳んでくる。
「“百拳連舞”(ひゃっけんれんぶ)!」
「ごふあああ!」
繰り出される拳の弾幕。
あまりの威力に“イヴィル・テンタクル”触手の力を緩めてしまう。
その隙を突いて、何人かの女生徒が脱出。
「ふぬっ!」
すぐに体勢を立て直した“イヴィル・テンタクル”の目に、信じられない光景が映っていた。
「おおおおおう、茉莉花だっつーの!?」
「人を! 随分と懐かしい名前で呼んでくれるじゃないか!」
着地した四方髪凜が、白い歯を剥いて笑う。
「オレの花嫁にしてやるっつーの!」
触手が凜に襲いかかる。
だが、凜は流れる水のような動きで回避していく。
「ふのおお! んだがオレもヴァイラスの力でパワーアップしてるっつーの!」
「なに?」
パワーアップ宣言に、凜は気を取られた。
そこへ電撃!
「っ・・・!?」
「パワーアップだっつーの! 電撃ぃ〜!」
捕まっている女生徒も巻き添えに、電撃。
自身の能力“力場補正”(エナジーギミック)に加えて“ガーディアン”のプロテクトがある凜には、ピリッと痛い程度だが、女生徒たちにとっては雷の地獄だ。
「あああああ!」
「うぐううう!」
その光景を見て、凜は顔を険しくする。
「くたばれ女の敵! “千拳乱舞”(せんけんらんぶ)!」
更なる激しい拳の嵐が、“イヴィル・テンタクル”を襲う。
「うぐっ、うぐっ、きついっつーの!」
しかも、放ち続けていたはずの電撃が掻き消される。
どうしたことかと思った瞬間、背中に痛烈な一撃!
「おごっ!?」
「待たせたな、変態ヤロー! 俺が相手だ!」
九古舜平が啖呵を切る。
「男に変態とか言われてもムカつくだけだっつーの!」
“イヴィル・テンタクル”は触手で薙ぎ払おうとするが、舜平は流れる水のような動きで避ける。
そして凜と舜平の流れが合わさるとき、それは激流となる!
「「“百華百撃双流水”(ひゃっかひゃくげきそうりゅうすい)!!」」
「おぶろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
吹っ飛ばされた“イヴィル・テンタクル”は、それでも反撃しようとビームを撃つ。
だが、そのビームも曲がって吸い寄せられた。
「もふう!? 何でだっつーの!」
「儂の能力を忘れたか?」
既に若返った状態の六道櫃が、吸収したビームをまとめていた。
「性懲りも無く下劣な欲望のままに女を襲っているようじゃの。今度こそ死ねい!」
「ごぴいいいいいい!!」
電撃と閃光のスペクタクルに、“イヴィル・テンタクル”は愉快なほどに歪んだ表情で、のたうちまわった。
既に女生徒は1人も捕まっていなかった。凜と舜平が助け出していた。
「タフじゃのう・・・。」
櫃は怪訝な顔をしていた。明らかに前に戦ったときより強いのだ。
「おばあさま! パワーアップしてるみたいよ!」
「ああ、“いびる・ばいらす”とかいう奴の能力じゃったか? 人を操るだけでなく、強化も出来るとは、恐るべきものじゃな。」
とはいえ、今の“イヴィル・テンタクル”でも、3人がかりなら倒せない相手ではない。
櫃は着物を脱いで、裸にされた女生徒に着せると、自身は全身を雷化させて全開モード。
凜も力場をフル開放し、舜平も構える。
「や、やばいっつーの!」
「「「死ね!」」」
青くなる怪人に、3人が息を合わせて一斉攻撃。
「ひいいいい!」
だが。
流れる水のような凜と舜平の動きが、ぐにゃりと曲げられた。
そして櫃の電撃と共に、見えない壁に阻まれて吹っ飛ばされた。
「“リフレクション物理障壁”! 複数で戦うのが自分たちだけの専売特許だとでも思ったの!?」
“イヴィル・パニック”邑甘恵須実。
「重力は、とても弱い力です。だからこうして、少し相手の動きを狂わせるのが関の山です。」
“イヴィル・マリオネイター”十島隆子。
「遅いっつーの! もっと早く来てくれっつーの!」
「自分の不甲斐なさを棚に上げて喋んな変態! 学校の周囲全体に結界を張るのは大変だったのよ?」
「そんなん関係ないっつーの! オレが死んだら何にもならないっつーの!」
「ま、それはそうね。アタッカーを欠いてる以上、あんたの力が頼りよ。」
「あのオッサン、普段エラそーなこと言ってるくせに、肝心なときに役に立たないってーの!」
言い争いをしている間に、櫃、凜、舜平が立ち上がってきた。
「新手かいな・・・。重力使いの方はともかく、“いびる・ぱにっく”のアレは何じゃい?」
「知りたいなら教えてあげてもいいわ。私の持っていた“退令”(バックコマンド)と“障壁”(マヌバリア)の2つの能力を、ヴァイラスの力で合成させた・・・名づけるならば、“障壁障害”(スタイミウォール)!」
「っ・・・!」
櫃はハッとした。いつの間にか、“イヴィル・テンタクル”と“イヴィル・マリオネイター”の姿が消えている。
「“シースルー視覚障壁”!」
触手とビームが中庭を駆け巡り、櫃たち3人は大きな痛みを覚えて地面に転がる。
そこへ重力の網が被さり、縫いつけるように押さえつける。
更には。
「ぽおいずん」


白羽が中庭に降り立ったとき、そこは異常なほど静まり返っていた。
「・・・?」
何か不自然なものを感じ、感覚を研ぎ澄ませてみる。
(何も・・・無い・・・?)
それがかえって違和感を覚えた。
実際には何もかもある。“イヴィル・テンタクル”が女生徒を捕らえて、ひん剥いているところだ。
その光景や音声は、“イヴィル・パニック”の能力によって遮断されていた。
(おかしい。何も無いけど、何かある。)
足が、この場を立ち去るのを許さなかった。
白羽は“イヴィル・ヴァイラス”を探す前に、ここを見過ごすわけにはいかないと思った。
それでも違和感の正体が掴めない。焦燥感が募る。
「・・・・・・。」
(仮に催眠系の能力だとしたら、ここで何かが起こっている?)
その推測は正しい。
“イヴィル・パニック”の“障壁障害”(スタイミウォール)は、用途に応じて複数の使い方がある。
触れたものを問答無用で吹っ飛ばす、“リフレクション物理障壁”。
電撃を通さない“絶縁障壁”に、可視光線を通さない“暗黒障壁”。
周囲の景色と同化して視覚を眩ませる、“シースルー視覚障壁”。
空気の振動を妨げて、音声をカットする、“サイレンス音波障壁”。
そして、“イヴィル・パニック”の切り札たる、“ヒンダーリアライズ認識障壁”。そこに何も無いと思わせるバリアだ。
(撃つべきか? でも・・・)
先ほど、罪も無い男(八谷)を撃ちかけたことが頭をよぎる。
もしも女生徒を傷つけてしまったらと思うと、思い切れない。
しかし同じだけ、この先で誰かが助けを求めているかもしれないのだ。
(ええい、ままよっ!)
白羽の周囲に風が渦巻く。
「“風翼空弾”(ウイングシュート)!」
白羽が障壁を突破して戦場へ踊り込んだのは、“イヴィル・ポイズン”が跳び下りてから10秒も経たないときだった。
「なっ・・・?」
“イヴィル・パニック”はギョッとした。少女の右目が横へズレて見開かれる。
(あいつは、確か・・・ポリスが唆して、ヴァイラスと対決させようとしている・・・そう、江口白羽とかいうエスパー刑事!)
順直に敵を追い詰めていたはずが、思わぬイレギュラーの連続。
(チッ、まずい!)
相手の認識すら阻害できる、“イヴィル・パニック”の能力だが、当然ながら決して無敵ではない。
“視覚障壁”や“音声障壁”と併用している理由は、単に機械測定への対策というだけでなく、負担を分散する為。
“認識阻害”は確かに強力だが、それゆえに精神への負担も大きく、容易く使えないという意味でも切り札なのだ。
“イヴィル・ポイズン”を隠す為に使用しなかったのも、あがり症の彼女が信用できないというだけでなく、屋上まで力を回している余裕が無かったという方が大きい。
(跳び下りなんかしやがって、甘ったれが!)
おそらく“イヴィル・マリオネイター”の重力操作に助けられる計算はしていなかっただろう。だが、結果は同じだ。
マリオネイターが力を裂いたことで、櫃たちへの追撃が緩くなり、パニックがそちらへ力を分けたことで、白羽を誤魔化しきれなくなった。
認識を阻害するといっても、感覚的に“何も無い”と思わせるだけであって、注意を他へ向けさせるようなアクティブな使い方は出来ない。たとえ力を分けていなくても誤魔化しきれなかったかもしれないが、やるせない苛立ちが彼女の表情を歪めた。
「分散するわよ!」
「はい! わたし弱いから逃げます!」
「おう、わかったっつーの!」
「ぽいずん!」
不利と見れば即座に戦術を変える。
それが“イヴィル・パニック”が大西から非凡と評される柔軟性だった。邪戦士たちも、そこは認めている。
(物理障壁を破ってこられる相手、私では分が悪い。頼んだわよ、ポイズン!)
だが、“イヴィル・パニック”は、ここでひとつミスをした。
彼女自身のミスではないが、ただ、忘れていた。
てんぱったときの“イヴィル・ポイズン”が、どれほど判断力を低下させるのかということを。
「“百拳連舞”!」
「ぽいずんっ!?」
火事の現場で、こんな話がある。
密室ですらない、ただ布がかかっているだけのところを通れば、外へ脱出できて助かったのに、そのことに誰ひとり気付くことなく、大勢が焼死した。そんな痛ましい話。
よく「火事場の馬鹿力」と言うが、信じられないほど上がる力とは反対に、頭の方は文字通り馬鹿になってしまう。
“イヴィル・ポイズン”は何を思ったか、敵が向かってくる方向へ走っていき、凜の制裁技の餌食となった。


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