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zoom RSS 「サトリン」 番外編 水火の夏

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:26   >>

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「しくだい(宿題)終わったあー!」
ひゅんっと三つ編みで風を切って、十島瑠璃子は喜びの鬨(とき)をあげた。
「というわけで、プール行こうよ七美!」
「どういう脈絡なのかしら!? この歳になって水着姿を晒したくないわよ。」
同年代の友人に話すように気さくな瑠璃子だが、七美とは20歳も離れている。(誕生日から、正確には21歳)
どちらかと言えばボディラインは自信がある方だが、ピチピチの女子高生と比べる気は無い。
「何を今更なこと・・・。普段からスカートで、生脚ヘソ出しマーメイド♪なのに。」
「ヘソを出した覚えは無いかしら!?」
脚だけならまだしも、水着となると話は別だと、首を横に振るのだが、瑠璃子は聞かない。
「わかった、ワンピースならいいのね?」
「くっ・・・瑠璃子あなた、押しが強くなってきてないかしら最近?」
それは母親の懸案に一応の決着がついて、本来の性格に戻ってきたということなのだろう。宿題も7月中に片付けてしまう、バイタリティを発揮している。
喜ばしいことではあるが、若いエネルギーに振り回される。
「仕方ないわね。けれど瑠璃子、それなら瑠璃子は、ビキニで決めるのかしら?」
「着るわけないよね!? あんなの下着と同じじゃないの!」
「わたしが水着になるなら、瑠璃子にもビキニくらい着てもらわないと釣り合いが取れないんじゃないかしら?」
「くっ・・・なんだか有無を言わせぬ説得力。だけど私は、パレオで粘ってみせる!」
「ふーん、他の戦士たちも呼ぼうと思ったけれど、ビキニで悩殺しなくていいのかしら?」
「はわわ!? せ、センセーが来るなら、な、猶更ビキニとか!? 恥ずかしいよ!」
「はい文句言わない。決定。」
そして七美はメールを送信した。
行き先は、海水浴場クラスの広さを持つ、"ウォーターワールド”だ。


せっかくなので、市民プールではなく、温泉もある施設へ。
集まった10人は、思い思いの水着で、青い空間へ歩みを進めた。
「どうした、凜?」
いつになく凜は、もじもじした様子で竦んでいる。
トイレは済ましたはずだしと、舜平は首をかしげた。
「あは、ちょっと引け目っていうか。」
そこで舜平は、自分の迂闊さを殴りたくなった。凜は傷だらけの体を気にしているのだ。
パレオにサングラスも、傷が目立たないようにする為の工夫なのだ。
(あっちゃあ・・・。見慣れてるから忘れてたぜ。)
むしろ傷のある女体に妙な興奮を覚える舜平だが、一般的には侮蔑や詮索に晒されることは理解している。
メールが来たとき、行こうと決意したのも、美人の彼女を見せびらかしたいという幼稚な欲求があった。
「あ、大丈夫。私は来たかったから来たし。」
「そうだな。さしあたり、凜ほどの女も見当たらねえし。」
お世辞ではなく、正直な感想だった。
実際、均整の取れたボディラインや、整った目鼻立ちは、既に男の目を引きつつある。
そして、女の方も、嫉妬と羨望が入り混じった表情が多い。
(傷も、だいぶ目立たなくなってきたしな。)
忘れていた理由には、それも大きい。
ぱっと見た限りでは、傷があることに気付きにくいだろう。
舜平は唾を飲んだ。
(人目につかない場所は無えかな。)
そう思いながら目を動かしていると、凜はジトッとした目で見つめてきた。
「何か、いやらしいこと考えてない?」
「や、や、別に。」
「そういうことは、夜に、ね?」
「お、おう。」
ウインクする凜の可愛らしさと色気が、舜平のハートを撃ち抜いた。

老人と美少女がプールサイドを行く。
しかし実際には、一回りほどしか歳は離れていない。37歳と23歳だ。共に素数。
白髪の見える三角は、体の方も皺が目立ち、あまり水着になりたくない。しかし隣に白ビキニの白羽が歩いているとなると、劣等感や羞恥心も些細なことに思えた。
「・・・申し出を受けてもらえるとは思っていませんでした。」
照れながら三角は、勇気を出して白羽を誘ったときのことを思い出していた。
七美がメールを送ったのは、あくまで電脳戦士たちに対してであって、そのから先は各自の勇気だ。
「三角さんは、もっと自信持っていいと思いますよ。」
初めて会ったときの刺々しい態度が嘘のような、柔らかい笑顔。胸が高鳴る。
つんとした態度から親しくなるギャップは、三角でなくても虜になるだろう。
「あたしをヴァイラスの魔手から助けてくれたのは、三角さんじゃないですか。」
熱っぽく語る白羽の手が、三角の手を掴む。
「あ・・・」
「三角さんがいなかったら、あたしは、あんな男に初めてを奪われるところでした。」
“イヴィル・ヴァイラス”との対決は、三角にとって人生初の、人助けの経験だった。
学園を経営し、人を育ててきたつもりではあるが、人を助けたことはない。
まして物語のヒーローのように、女の子を助けるなど、自分には一生縁が無いものだと思っていた。
「シンデレラ」や「白雪姫」を嫌う女がいるように、三角はヒーローが活躍する話が嫌いだった。
しかし今は、自分が物語のヒーローのようになっている。心なしか気分が若い。
「あのときは、無我夢中だったよ。」
口から出てくるのは、謙遜の言葉。
もっと気の利いたことを言いたいが、この手に関して三角のボキャブラリーは貧弱だ。
「・・・男の人の真価って、ここぞというときに出ますよね。」
照れたように頭を振って、白羽はプールへ脚を浸けた。

30代の男が、顔を赤くして歩いていた。
その理由は、横を見ればわかる。際どいスリングショットのナイスバディ。若い姿の六道櫃だ。
老人の面影は微塵もなく、瑞々しさに満ち溢れた16歳の頃の肉体。
しゃんとした足取り、スラリと伸びた二の腕、小悪魔スマイル。
どこの誰が、彼女から100歳を超えた老婆を連想できるだろうか? 言われてもピンとこないに違いない。
「はっ、若い体はいいね。気力が充実し、力が漲ってくるわ。」
口調まで、以前より若くなっている。もちろん声は凜と似た、澄んだソプラノ。
八谷は思わず前かがみになる。
「どうしたの?」
「・・・あそこが、勃起してしまいまして。」
「ふふ、正直ね。」
少女の顔で妖艶な笑みは反則だ。いよいよ八谷は窮地に陥り、トイレに行くと言って走り去った。
「若いねえ。」
クスクス笑う櫃は、思いっきり青春の空気を舌に乗せていた。
実年齢が一致していた頃は、暗黒時代。遊びに興じることも出来ず、惨めな気持ちで生きていた。
あのときに味わえなかったゴンドラの唄を、今になって歌う機会が来ようとは。
「長生きはするものね。」
超能力の存在が櫃を苦しめたが、しかし今、櫃が任意の若さを手に入れたのも超能力。
これまでの労苦が、凄まじい勢いで報われていく気がする。
(まあ、寿命まで延びるわけじゃないだろうけど・・・。)
流石に、そこまで都合のいい夢は見ていない。
そして永遠に生きたいとも思わない。
(まあいいわ。若く死ねれば本望よ。)
気持ちが前のめりになっているのか、櫃は攻撃的な目つきで、虎のように笑った。

黄色のワンピースを着た女が、物憂げな顔をしていた。
彼女の年齢を知らない人が判断したら、確実に実年齢より10は下に見られるだろう。
「はあ、この歳になって水着はキツいかしら。」
本当にスタイルの悪い女が聞いたら、殺意を抱きそうなセリフだ。
どうしてスタイルの良い女に限って、人を羨んだり自分のスタイルに劣等感を抱くのか、昔から作者は不思議で仕方がない。
「似合ってるべ。」
パーカーを羽織った男が、率直に感想を述べた。
五留吾永須は引き締まった体つきの30代。実際は彼の方が年下だが、七美の方が若く見える。
「お世辞は結構よ。」
つんとしたセリフだが、頬が赤い。
永須は何もかも見通したような顔で、にこやかに笑う。
それを見ていると、七美は申し訳なく思う。
「・・・あなたには、申し訳ないことをしてしまったわ。」
8年前の悪夢は終わっていない。この平穏も、終わりは近いと思うと、胸がゾワゾワと騒ぐ。
「気にすることはないべ。・・・罪なら、オレもある。」
永須の口調が変わる。一人称も、普段は“オラ”のはずだが、過去に立ち戻ったかのようだ。
「サトリンやイヴィルのことで、七美さんに隠し事があるように、オレにも隠し事がある。いずれ言わねばならないだろうがな・・・。」
彼の視線の先には、凜と舜平の姿があった。
険しい表情を、普段の温和な顔に戻してから、永須は笑った。
「オラは七美さんを信頼するべ。言うべきときが来たら、言ってくんろ。」
「・・・ありがとう。」
七美は目じりを押さえて、涙声で礼を述べた。

四方髪凜は、パレオとサングラスだった。
江口白羽は、白いビキニだった。
六道櫃(若)は、スリングショットだった。
七村七美は、黄色のワンピースだった。
では、十島瑠璃子は?
「はーはは、どしたの瑠璃子?」
黒月真由(くろつき・まゆ)は、紐つきの黒いビキニで笑っていた。長い黒髪に、青いリボン。
いつもは兎耳帽子を被っているが、プールなので外している。リボンも水泳用だ。
「うう〜、恥ずかしいよ。」
結局、青いビキニで決定された瑠璃子は、落ち着かない様子だ。
感覚的には、かなり裸に近いのである。当然の反応と言えるだろう。
「なーに言ってんの。あたしら花の女子高生、肌見せてナンボでしょ?」
「真由はいいよね、スタイル抜群だし。」
「あーはあ、わかってないなー。スタイル抜群の女よりも、ちょっとコンプレックスを抱えてる方が、男心をくすぐるんだって。中間テストに出るよ!」
だいたい、瑠璃子も相当なスタイルの良さである。人のスタイルを羨む奴に限って、自分もスタイルは良いものだ。
細身だが、出るところは出ている美少女2人。ビキニ姿で並ぶと、男の視線を引き寄せる。
しかし、その中に瑠璃子の想い人はいない。
「・・・はあ、センセーに見せたかったな。」
「お?」
「わわわっ、今のナシ!」
「いやー、ははは、ようやく瑠璃子も素直になってきたみたいだねー。命短し恋せよ乙女♪赤き唇褪せぬ間に♪」
「違うから! 今のはノーカウント! ノーカウント!」
「ちなみに九古さんは、何で来れないって?」
「人の大勢いるとこ苦手なんだって。」
「あー・・・。」
真由の顔から笑みが消えた。
彼女も相当な過去を背負っているのだろうかと、瑠璃子は察した。
(過去、か・・・。)
ただならぬ過去は瑠璃子にもあるが、そう言えば、いつの間に人ごみが平気になったのだろうか。
記憶を辿っても、ぼやけていて思い出せない。8年くらい前は、人が数人いるだけで吐き気を催したものだが。
(いつから私は、笑えるようになったんだっけ?)
隣の友人を見ながら、瑠璃子は出会った頃を思い出していた。
真由と付き合っているうちに、随分と明るくなった気がする。


プールで遊んだ後は、三角学園に集合した。
戦いの惨禍が生々しく残っている。
「・・・・・・。」
三角龍馬は、呆然としたような、しかし清々しい顔で、廃墟と化した校舎を眺めていた。
7月の戦いで、三角学園は完全に破綻し、保護者やマスコミから激しい追及を受けてきた。警察が緘口令を敷いたことで、かえってジャーナリスト気取りが躍起になって、関係者たちの傷を抉り続けていた。
仲間たちや、大西や小森の粘り強い協力が無ければ、精神が参ってしまっていただろう。持つべきものは仲間だと、深く深く実感する。
実家からは勘当され、三角龍馬は、ただの龍馬になった。これが「ロミオとジュリエット」なら決まるかもしれない。
あるいは、坂本と苗字を変更したい、ヤケクソな気分だ。ただし、前向きなヤケクソ、開き直りであるが。
彼の能力“老化現象”(タイムオールド)は、イヴィル・ヴァイラスの“暗黒顆粒”(チャームウイルス)をも退けた能力であるが、その代償として自らも老いてしまう。まだ30代なのに、50代と見られてもおかしくない外見なのは、能力が肉体を蝕んでいたということだ。
若くして老いるのは、残酷だ。超能力の代償としては、かなり酷い部類に属するに違いない。
回転王のような短命は、さぞかし愉快だろうと思う。短い命を「可哀想だ」とは、三角は決して思わない。
「なんとか、なりますよ。」
大西や小森と並んで、後始末に協力してくれた白羽が、肩に手を置いて言った。
月並みな言葉も、誰が言うかで変わる。尽くしてくれた者の言葉は、シンプルでいい。
「あ、センセー。」
「こんばんは、十島。」
九古鈍郎が現れた。昼間の喧騒が嫌いな彼も、夜の空気は好きらしい。
月明かりの中で、それぞれの顔もよく見えない状況だが、意中の人は輪郭が際立っているように思える。
瑠璃子は自分の中の痛みを堪えながら、笑顔を作った。

それからみんなで、花火をして、流れ解散となった。


- - - - - -


<イヴィルんチャット>

バトラー:調子はいかがですか、ヴァイラス
ヴァイラス:正直いまひとつです。体を動かすことは出来ますが、能力の消耗が酷く、どうにもなりません。
バトラー:どうしたものかな。イヴィル様は焦るなと仰るが、ぐずぐずしてると“アインストール”が完全になる。
ヴァイラス:殆ど反則みたいな能力ですからね。
バトラー:ああ。我々の中で、完全体の“アインストール”に勝てるのは、イヴィル様かアイシーくらいだ。
ヴァイラス:バトラーさんでも無理ですか。
バトラー:やってみなければわからないと言いたいが、そんなことを言ってる時点で負けてるようなものだ。
ヴァイラス:しかしバトラーさんもトップスリーの1人でしょう?
バトラー:私などは、A級戦力というだけで、お情けで幹部に入れてもらってるようなもの。アイシーとの差も大きい。
アイシー:キャハハ、それ何て謙遜? マトモにバトラーと戦ったら、私だって勝てるかどうかわかんないよ?
バトラー:そんなことを言ってる時点で、既に段違いの差があると言ってるようなものです。
アイシー:紙一重だと思うけどなあ。魔人ブゥだってゴテンクスを吸収しないと悟飯に勝てなかったよ?
バトラー:なんですか、その例えは。
アイシー:キャハハ、ドラゴンボール読んでない?
バトラー:あなたが読んでることの方が驚きです。
アイシー:女子は少年マンガ読まないってのは、キモい男の偏見よ? キャハハハハ!
バトラー:私も読んでますし、そんな珍妙な偏見を持った覚えはないですが・・・。アイシーは読みそうにないので。
アイシー:キャハハ、バトラーの中で私どういうイメージなんだろ。
ヴァイラス:実質、アイシーさんが一番真面目なんですよね。
アイシー:キャハハハハ、わかってるねヴァイラスは!
バトラー:ヴァイラス、あまりアイシーを調子に乗らせないでください。鬱陶しいですから。
アイシー:そう言っておきながら私のことは高く評価してるあたり、バトラーはツンデレだよね! キャハハハ!
バトラー:ならばアイシーはヤンデレですか?
アイシー:
バトラー:すいません、今のは無しで。
ヴァイラス:?
アイシー:キャハハ、ごめんごめん、私も至って普通の人間ってことよ。
バトラー:自分で言いますか、このバケモノ
アイシー:キャハハハハ! 私ごときは化物のうちに入らないって!
バトラー:何ですか。小悪魔でも気取りたいので?
アイシー:だったらイヴィルは大悪魔だね! キャハハハハハハ!!





   水火の夏   了

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