佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘祭!   Act 7 死相

<<   作成日時 : 2016/10/23 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



「随分と回りくどい勝ち方をするじゃないか。」

席に戻ってきた少年に、サン・レイティアは言った。
少年は気分を害するでもなく、笑って返す。

「くはは、効率が全てのタイヨウ先生には、ジャストキルの美学はわからねぇか?」

あの局面、少年の墓地には《パワー・ウォール》で大量のカードが送られており、プレイングの自由度は高かった。
ジャストキルに拘らなければ、もっと簡単に勝つ方法はあっただろう。

「あんたはどうだい? “トリニティー”のリュドミラさんよ。」
「・・・・・・。」

ショートヘアのロシアン人形は、澄ました顔で答えない。
答えに詰まってるようでもなければ、不愉快そうでもない。

「彼女に話しかけても滅多に返事は返ってきませんわよ。」

煌く光のような声で、もうひとりの少女が告げた。
細くしなやかな体躯をシルクの衣装に包み、月桂冠に飾られた容姿は、端麗かつ荘厳。
そこだけ空気が違うどころではなく、世界が違うような光景。

チーム・インターナショナルの大将、エウレカ・セデミクラ。
彼女も饒舌な方ではない。
今まで変わらぬ尊顔で、試合を眺めていたのだ。

「ふん・・・。」

少年は口の中で舌を回すと、指を組んで座り込んだ。

そしてリュドミラは、涼しげな顔で試合場へ向かった。



◆ ◆ ◆



大河柾:LP8000、手札5
場:
場:

リュドミラ:LP8000、手札5
場:
場:



「ワタシのターン、ドロー。《キャノン・ソルジャー》を召喚です。」

「安定仕様の悪魔の兵器・・・。麗子ちゃんといい、天神といい、女子の間で流行ってんのか?」

肩を竦める大河だが、言葉からして危機感が溢れている。
天神のループコンボの恐ろしさは見たばかりだし、鷹野麗子の1キルも知っている。
それらと同等の危険な匂いを感じ取っていた。

「効果発動。自身を生贄に500ポイントのダメージを与えます。」

大河柾:LP8000→7500


「・・・・・・。」

リュドミラのフィールドからモンスターの姿が消えた。
一見すると素人以下のプレイングだが、ある前提を加えれば、これほど恐ろしい光景も無い。

(レベル5能力・・・。)

かつて、攻守もライフも10分の1にしてくるレベル5能力者と戦ったことがあった。
それゆえに、ダメージが10倍になる程度は覚悟していたが、500ポイントそのまま。
普通なら安堵するところかもしれないが、能力の正体が見えないままなのが恐い。

しかし、その恐怖は、すぐに別の恐怖で上書きされることになる。



「効果発動。《キャノン・ソルジャー》を生贄に、500ポイントのダメージを与えます。」



大河柾:LP7500→7000


「・・・!」

今ので8割がた見当がついた。
大河の脳髄は高速回転すると共に、見当をつけた能力の恐ろしさで、1秒ごとに冷えた。

「再び効果発動。《キャノン・ソルジャー》を」

「・・・っ、手札から《ハネワタ》を捨てる!」


大河柾:LP7000、手札4
場:
場:

リュドミラ:LP8000、手札5
場:
場:



(まずったな・・・。そういう能力なら、最初に《ハネワタ》を撃っとくべきだった。)

情報を得る為とはいえ、1000ダメージは安くない。
デュエル開始時、リュドミラは「手札が良すぎる」と言った。
そのセリフがハッタリでなければ、彼女の手札には間違いなく、例の速攻魔法が来てるはずなのだ。


「魔法カード《光の援軍》を発動。」

「・・・っ、確かに良い手札だな! 《緑光の宣告者》と《朱光の宣告者》を墓地に送って無効だ!」


《えー、おふた方、もといリュドミラさん?》

解説者がマイクを手に取った。

そのとき大河は、ようやく客席が静まり返っていることに気が付いた。
客の大半は、能力デュエルを見ること自体が初めてなのだ。
少なくともレベル5能力者のデュエルなど、見たことも聞いたこともない人間が圧倒的多数なはずだ。

(あーあ、いかに自分が異常な環境で過ごしてるかわかるってもんだぜ・・・。)

大河が頭を掻いてる間に、解説者がリュドミラへ遠慮がちに質問する。

《差し支えなければ、リュドミラさんの能力を教えていただけないでしょうか?》

「いいですよ。」

「・・・!」

意外な返事だった。少なくとも大河にとっては、了承は意外だった。
エキシビションとはいえ真剣勝負。相手に情報アドバンテージを与える真似をしていいのか。
それとも見抜かれてることを織り込み済みで、それならファンサービスに努めようということなのか。

あるいは・・・


「自分のフィールドと墓地を共有する。そういう能力です。フィールドを墓地として扱うことが出来て、墓地をフィールドとして扱うことが出来ます。」


(やはり・・・。)

どよめきが走る中で、大河は自分の推論が正しかったことを知る。

しかし、ぼんやりと違和感が消えない。
違和感というよりは、靄がかかっているような不安感。

《なるほど! 墓地に存在する《キャノン・ソルジャー》は、フィールドに存在する扱いになっている。だから効果を発動することが出来たわけだ! 《ハネワタ》が無ければ即死! 即死! サドンデスだあーーーー!!》

サドンデス。
確かにそうだろう。

しかしそれもリュドミラのターンに限った話であり、墓地に置かれた《光の援軍》が沈黙していることからすると、流石に魔法カードの再利用みたいな反則じみた真似は出来ないようだ。

(それが逆に、引っかかる。)

レベル5相当の力はある。それは間違いない。
あらゆるモンスターが無限の壁となり、永続カードが効果を発揮し続ける、ボード・アドバンテージの極致。
考えれば考えるほどに恐ろしい、化物じみた能力である。

・・・あるのだが、それでも泣笠葉継の“レトロスペクティブ”などに比べれば、まだマシな部類に思える。

本当に、“それだけ”ならば。



「《闇の誘惑》を発動します。」



このとき大河は、ぼんやりとした靄の正体を知った。


「まさか・・・! お前の能力、除外ゾーンも・・・!」


「はい、そうです。フィールド、墓地、除外ゾーン、これら全てを共有する・・・それがワタシの“トリニティー”です。」



“屍元共融”(トリニティー) レベル5能力(所有者:リュドミラ)
自分のフィールド・墓地・除外ゾーンを共有することが出来る。




「2枚ドローして《ネクロフェイス》を除外します。お互いにカード5枚が吹き飛びますね。」

「・・・っ、やはりか。」

大河の表情が曇る。

「更に《封印の黄金櫃》で、《蛇神ゲー》を除外します。速攻魔法《時の飛躍》!」


攻撃力∞の蛇!

それが大河めがけて放たれた。


「こなくそっ、《バトルフェーダー》特殊召喚だ!」

「ではでは、《キャノン・ソルジャー》の効果を発動します。」

「2枚目の《ハネワタ》で防ぐ!」



大河柾:LP7000、手札0
場:バトルフェーダー(守0)
場:

リュドミラ:LP8000、手札2
場:
場:




「死が近付いてきましたね、マサキさん。」

「くっ・・・!」

「ワタシは、分かち合うことが好きです。土地も、財産も、資源も、教育も、医療も、娯楽も、教養も、科学も・・・。そして何よりも、死を分かち合うことが大好きです。」

かつて出会った人形遣いの少女に似た雰囲気を感じながら、大河は黙って拝聴していた。

「死は誰しも平等にやってくる。死に至る過程は不平等でも、純粋な死そのものは僅かな誤差もなく平等です。それでは、平等のものを分かち合うとは、どういうことでしょう?」

「“死を想って生きろ”とでも言いたいのか?」

「そんなところです。死から目を背けて生きている人は、他人の生き死にばかりを語りたがる。自分の生き死にとは関係ない、他人の生き死にを。それでいて死を知った気になっている。」

「ふむ・・・・。」

生き死にを“現実”と言い換えれば理解しやすかった。
大河は今までに多くの人間と出会ってきたが、現実から目を背けている人間ほど、他人に辛辣な評価を下しているように思えた。それでいて本人は、自分は現実主義者であると称しているのだ。傍から見てると恥ずかしい。

「現実を知るというのは、“自分がいつ死ぬかわからない”と知ること、それだけです。」

考えている間に“現実”という言葉が出てきたので、大河は思わぬ親和欲求を満たされた。
それだけでなく、自分と考えていることが似ていると感じた。

「それ以外のことは、死を知る為の手がかりなのです。誰も死ぬことからは逃れられない。ワタシは、いずれ訪れる死を想い、死を知る為にデュエルを続けています。これまでも、これからもそれは変わりません。」

「・・・・・・・・。」

やや極論だが、半分以上は共感できる。

幼い頃、いつか自分が死ぬのだと思い、それを恐れて不安な気持ちにならなかっただろうか。
いつ死ぬのか、いつまで生きるのか、不安でたまらない気持ちになったことはないだろうか。

高熱を出したとき、死者が蘇る夢を見なかったか。
自殺を考えて、泣き叫びたいほど悲しくならなかったか。
終わりが来る恐怖に、夜も眠れないほど苛まれなかったか。

あの世はあるか。天国は、地獄は。死んだらどうなるか考えた。
死んだら無であると科学に言われて、目の前が真っ暗になった。
前世は、来世は。生まれ変わりは。
たくさん考えた。

考えて、考えて、けれど大人になる頃には、そんなことも忘れてしまった。
今の自分が大人かどうかはさておき、子供の頃の恐怖を思い出すのは難しい。

死ぬのは恐い。それは今でも同じだ。
けれど落ち着いている。不安で心が揺さぶられることなく、“ただ恐いだけ”なのだ。
考えたことは覚えているし、知識は無くなっていない。しかし感情は遠い昔のことでしかない。

シンヤや、アルドは、こんな感覚すらも過去に通り過ぎたものとして感じてるのだろうか。

『死んだらそれまでだし、死んでもたかが死ぬだけ』

異口同音に嘯かれたセリフが、心に残っている。



大河柾:LP7000、手札0
場:バトルフェーダー(守0)
場:

リュドミラ:LP8000、手札2
場:
場:




「・・・話が長くなってしまいました。装備魔法カード《D・D・R》で《ネクロフェイス》を帰還させますが、フィールドを除外ゾーンと共有させることで、除外された扱いにします。お互いに5枚除外です。」


結末が、わかってしまった。

リュドミラの狙いは最初から、効果ダメージでも戦闘ダメージでもない。


「除外された《カオス・ソーサラー》の効果で《ネクロフェイス》を除外して、お互いに5枚除外。」


そして《ネクロフェイス》の効果を連発してるからといって、デッキ破壊を目論んでいるわけでもない。


「これで終わりです。ターン終了時に、ライトロード各種の効果で、ワタシのデッキは全て墓地へ。」


デッキ破壊と言えばデッキ破壊ではあるが、彼女が破壊したかったのは自分のデッキ。

手札とデッキ以外に、自分の全てのカードが揃うこと。
《蛇神ゲー》の攻撃コストで、デッキのカードを送ったのも、相手のライフではなく、自分のデッキを削る為だ。



そう、デュエルモンスターズには、フィールドに存在するだけで勝利をもたらすカードがある。



ウィジャ盤 (永続罠)
相手のエンドフェイズ毎に、手札・デッキから
「死のメッセージ」カード1枚を「E」「A」「T」「H」の順番で魔法&罠カードゾーンに出す。
自分フィールド上の「ウィジャ盤」または「死のメッセージ」カードが
フィールド上から離れた時、自分フィールド上のこれらのカードを全て墓地へ送る。
全ての「死のメッセージ」カードが自分フィールド上に揃った時、自分はデュエルに勝利する。


死のメッセージ「E」 (永続魔法)
このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。


死のメッセージ「A」 (永続魔法)
このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。


死のメッセージ「T」 (永続魔法)
このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。


死のメッセージ「H」 (永続魔法)
このカードは「ウィジャ盤」の効果でしかフィールド上に出す事ができない。




「・・・・・・・・・」

死んでもたかが死ぬだけだが、負けてもたかが負けだとは思えない。

思えないのだ。





「・・・・・・・・・くそっ」



◆ ◆ ◆



席に戻ってきたリュドミラは、再び沈黙の少女と化した。
笑顔とも無表情ともつかない、澄ました顔で、膝に手を当てて座り込む。

それを見て少年は、呟くように言った。

「くはは、デュエル中はお喋りなんだな。」
「・・・っ!」

リュドミラの顔が、少年も意外なほどに赤くなった。
言葉を発することはないが、恥ずかしげに俯いて縮こまってしまった。





つづく

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
これがリュドミラさんの能力…!酷いよ!これ酷いよ!(←褒め言葉)
私も「除外ゾーンは第二の手札」とか口走った覚えはあるけど…。これはえげつない能力。レベル5だけのことはありますね。キャノン・ソルジャーもネクロフェイスも邪神ゲーも、全てはウィジャ盤のため!破壊も除外も無意味!これは禁止令ぐらいしか対抗策がない…?
そして、デュエル以外は寡黙。何気にポイント高いですよ、これは。(←何のポイントなのかは不明)
デュエルでテンション上がってお喋りになる。そして、後で振り返って恥ずかしくなる。黒歴史の作り方講座。
最後の赤面にキュンと来ました。
千花白龍
2016/12/05 00:05
>千花白龍さん
ありがとォ、最高の褒め言葉だァ・・・!(誰

今や墓地と除外ゾーンは、第二、第三のフィールドと化しておりますが、比喩的な意味ではなく実際にフィールドとなっている、リュドミラのレベル5能力!
この酷すぎる能力の前に、流石のマサキも成す術もなく敗れてしまいました。
マサキ「再戦に向けて対策を練ってるところだぜ!」

デュエル以外では無口キャラなのは、密かな萌えポイント?
デュエリスト能力の活用をメインに考えていて、キャラの方は何となく即興で作ったのですが、意外と高評価。
再登場の予定もあるので、楽しみに待っていてください!
アッキー
2016/12/05 22:10

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