佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 「サトリン」 第十三話 光が繋ぐ道の先 (上)

<<   作成日時 : 2016/10/01 00:14   >>

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1916年の春。
六道家の道場で、1人の少女が汗を流していた。
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」
険のある表情をしていて、正拳突きの練習を繰り返す彼女の名は、六道櫃(りくどう・ひつ)。
ひたむきというよりも、どこか思い詰めたような顔の彼女は、やはり内心、大きな焦燥があった。
「はっ・・・はっ・・・」
“六道”という家は代々、超能力者の家系であり、肉体を強化し戦闘能力を高める、サイコキネシスの一種を遺伝的に持っている。肉体強化のみと限定的ではあるものの、それゆえに扱いやすく、暴走しにくく、何より、世間にバレる心配が薄い。かなり使い勝手は良いのだ。
ところが櫃には、10歳を過ぎても超能力の発現は見られなかった。それどころか、15歳を過ぎても、16歳になっても、超能力は開花しなかった。
超能力者の家系に生まれて、超能力が使えないというのは、何かと半人前扱いされるということだった。男に生まれていれば、今の歳までには殺されていたかもしれないが、女に生まれたから良かったというわけでもない。
器量良しの櫃は、ある金持ちの妻として、殆ど身売りに近いような形で引き渡されることが決まっていたのだ。
屈辱だった。
どんなに腕を磨いても、超能力を持った相手には勝てなかった。
櫃には3人の姉と2人の弟がいるが、物心ついたときから姉たちには勝てたことはなかったし、弟たちにも、彼らが超能力に目覚めた頃から勝てなくなっていった。下の弟に助言だか侮蔑だかわからないことを言われたときには、その場で死ぬまで暴れたいほど悔しかった。
自分がやってきたことは何だったのか。木村(きむら)師範に教わった戦闘術が馬鹿にされるということは、木村師範を馬鹿にされているに等しい。
しかし、そういった彼女の悔しさなどは意に介されず、身売りの日は近付いていった。
(嫌だ!)
(行きたくない!)
意に沿わぬ結婚。それも、妻ならまだしも、妾。
いっそ男に生まれて殺されればよかったと、絶望の中で彼女は思った。
しかし、どれほどの絶望を感じようとも、生きてる限り、その日はやって来る。

櫃は誰に祝われることもなく、その金持ちの屋敷へ連れていかれ、処女を失った。


「よく来た。」
屋敷の主人は、でっぷりと太った男だった。
そして櫃に近寄ってきて、いきなり平手打ちを食らわせた。
「うっ!?」
意味がわからなかった。櫃は思わず男を睨みつけた。
すると今度は首根っこを掴まれて、床に押し倒された。そして足で蹴られた。
「何を・・・!」
「脱げ。」
「はっ?」
「さっさとしろ。」
男は苛立った声を出す。
そして戸惑ったままの櫃の服に手をかけると、乱暴に脱がせようとした。
「嫌あ!」
櫃が抵抗しようとすると、男は容赦なく暴力を振るってきた。
「か、はっ・・・」
何発か頭を殴られてクラッとしている間に、服の一部を剥がされ、使用人たちの前で下半身を晒された。
そしてそこに、男の使い込まれた肉棒が、櫃の心を無視して体に入ってくる。
「ひぎっ・・・痛っ・・・あああ・・・!!」
あまりの痛さに、体が破れているのかと思った。実際それに近い状態だった。
「よく締まる。女は若いのに限るな。」
そう言いながら男は櫃を抱き上げ、使用人たちに見せつけながら腰を動かす。
「ぐぎっ・・・がっ・・・」
「うるさい!」
声を出すと殴られた。
「もっと色気のある声は出せんのか! 何の為に高いカネ払ったと思ってるんだ!?」
「うっく・・・・ううっ・・・・」
痛みと悔しさと、そして恐怖で、櫃は泣きじゃくった。
それは男の気に召したようで、彼は上機嫌で突き上げた。
「ひぐっ・・・ひぐっ・・・」
むせび泣く櫃の股からは、赤い涙が流れていた。
「おうっ!」
ドロッとした熱い感触が伝わってきた。
「ふぅ、名器だな。」
「うっ・・・ううっ・・・」
一瞬で大切なものを壊された気がした。
奪われたというより、壊された。取り戻すことすら出来ない。

この様子を2階から、男の息子が見ていた。


それから数日して、男の息子が声をかけてきた。
「いいね、その服。」
「・・・・・・。」
櫃は何かを言う気になれなかった。
この服、やたらとフリルの多い、現代で言うところの“メイド服”は、男から着るように強要されたものであり、それを褒められても嬉しくなかった。
「やっぱり美人は何着ても似合うけど、この服ってそそるんだよな。」
そう言いながら彼は、櫃に近付いていく。
嫌な予感がした。
「あんた、親父の性欲処理係なんだって? 息子の方もよろしく頼むよ。」
「・・・!」
櫃は抵抗しようとしたが、眼前にナイフを突き出された。
「抵抗するなよ。」
「・・・っ!」
こんなときこそ格闘術の出番のはずだった。
一瞬で蹴り上げ、制圧する。
できる。
はず。
なのに。
(嘘・・・)
体が動かない。
恐怖で竦んでしまっている。
そのまま空き部屋に連れ込まれ、乱暴に押し倒された。
「や、やめろ!」
ようやく声が出た。
「はあ?」
彼はナイフを眼球スレスレまで近付ける。
「ひっ・・・!」
「大人しくしてろ、家畜が。」
もしかしたら父親以上の鬼畜かもしれないと思った。
彼は父親と同じように、強引に突っ込んできた。
「ひぎっ・・・!」
「わめくな、切り刻むぞ。」
「・・・っ!」
恐かった。
とにかく恐かった。
必死に両手で口を押さえて、声を殺した。
「おうっ・・・こいつは具合がいい。もう一発いける。」
その日は3回ほど中に出されて、櫃は足腰が立たなかった。

父と子の両方に犯される生活が2年ほど続き、櫃は身籠った。
どちらの子なのかわからなかったし、知りたくもなかった。

妊娠を自覚してから数日後、三日月家の宗主が訊ねてきた。
六道を含む、日本各地の超能力者一族と繋がりのある三日月家は、古くから運営役を担っている。
最近は各自の独立が進んでおり、19世紀以前のような強固な結びつきは失われつつあるが、それでも形骸化してるとまでは言えないし、個人での結びつきは尚更に別物だ。
10歳年上の三日月万里子(みかづき・まりこ)は、櫃にとって、実の姉よりも姉のような存在だった。
「具合、良くないね。」
清楚な色気ある声で、万里子は櫃の背中を撫でた。
この人の妹に生まれたかったと、櫃は思った。器量良しの櫃なら、万里子と並んでも引けを取らないだろう。
「はい・・・。」
櫃が妾になってから、家族も含めた以前の知り合いの中で唯一、万里子だけが交流を保っていてくれた。
病気になったときなども、薬や栄養剤を持ってきてくれたのは万里子だった。
この日も、気を落ち着ける薬と、栄養剤を持ってきてくれたのだ。
「光が、見えないです。何にも見えないです。」
心に溜まったものを吐き出せる相手は、万里子しかいなかった。
もっと楽しいことを話したいのに、気が付けば愚痴ばかり。
「・・・すまん。わらしを恨んでくれてもいい。」
確かに、三日月家が昔のような権力を持っていれば、あるいは万里子が櫃の超能力開発に成功していれば、このような事態は避けられていたに違いない。
しかし前者はもちろん、後者についても万里子に責任があるとは言えない。
人類のうち、6人に1人ほどは、超能力の素質が全く無い。櫃は、その1人だった。
そもそも超能力が遺伝する方が、実は珍しい(後にティンカーベルと呼称される)のだが、それが当たり前である家系においては、遺伝しない者が落伍者と見なされる。
「万里子さんを恨みはしません。恨みたくない。恨まない。では、でも、わたしは一体、何を恨めばいい?」
この家の連中か、六道家か。それとも、運命とやらか。
「何を恨んでも、世界を恨んでもいいから、生きてくれ。おぼろげな予知だが、光のもとに10人の戦士が集うのが見える。そん中に、櫃さんの顔がある。」
「はは、何それ・・・。」
三日月万里子が希代の予知能力者であることは知っているが、今の櫃にとっては現実味の無い話だった。
「生きていれば必ずわかる。わらしは生きていないだろうが、孫の世代には・・・。」


生き延びるということは、決して綺麗なことではない。奴隷としての生活の中で、人としての心を保つことが出来たのは、周囲の何もかもを、世界を恨み憎悪し続けたからであった。
その生き延び方を教えてくれた万里子も次第に足が遠のき、1924年以降は屋敷を訪れることはなかった。
その間に2人の子供を出産した。男の子と女の子を、1人ずつ。
年月が経つのを待っていた。
史上最大の千里眼たる三日月千里が生まれるのを、待ち続けた。
どれだけ人生を無駄にしただろうか。
1929年、ウォール街の悪夢として名高い金融恐慌により、時代は激動の荒波へと呑まれていく。その中で屋敷の主人は軍需産業に目を付け、やがて戦争成金としてのし上がっていった。
その頃には櫃は屋敷にいなかった。30歳を迎えた彼女は、当時としては年増で、それでなくても心身ともにやつれ果てて、男の興味を引かなくなっていた。2人の子供と共に屋敷を追い出されたのだった。
六道家に戻っても、安穏すらも待っていなかった。親兄弟から下女として扱われ、毎日こき使われた。生理の日だろうと、休ませてもらえなかった。

最初の転機は、息子が超能力に目覚めたことだった。それにより、六道家の中で、櫃の扱いは変わった。
「これでもう、お母さん、いじめられなくてすむよね。」
そう言ってくれた息子の笑顔が、愛しくて仕方なかった。
酷い扱いが無くなったわけではなかったが、それでも以前よりは楽になった。

それから・・・それからは、あまり代わり映えのしない日々が続いた。
社会では第二次世界大戦という大きな出来事が起こっていて、六道の家からも男子が兵隊として取られていったが、櫃の日常が変わることはなかった。
1940年までは特筆すべきこともなく、下女として家のことをこなすだけの日々を送っていた。


あるとき、ふと万里子のことが頭に浮かんだ。
皺だらけの手を、ぼんやりと見ながら、櫃は万里子の言葉を思い出していた。
(孫・・・。)
(そろそろ生まれてやしないだろうか。)
そんな彼女の心を見透かしたように、実に16年ぶりに万里子が現れた。やはり16年分老けてはいたが、50歳としては異様なほどに若々しかった。
「久しぶり、櫃さん。」
鋭い目つきで、万里子は気さくに呼びかけた。
「万里子さん・・・もしかして?」
「ああ。孫が生まれた。だから櫃さんに報告を入れなきゃと思ってね。」
16年も音信不通で何を今更と思う一方、どうしても彼女を恨めない自分がいることに、櫃は気付いた。
それは、彼女にも暮らしや事情があるだろうとか、そういう方面の理屈とは別の、感情という理屈。
世の中を恨んでも、運命を呪っても、この人だけは恨めなかった。
やがて2人の交流は、徐々に回復していく。かつての姉妹のような関係に戻るのだと、櫃は思っていた。

しかし程なくして、万里子は失脚してしまう。
そのときの万里子の落ち込みは激しく、逆に櫃が世話を焼いてやらねばならないくらいだった。
(強力な後ろ盾を失ったか?)
そう思いつつも、決して悪い気分ではなかった。どこかで万里子に嫉妬心を抱いていたのか、その万里子の世話をすることで自尊心が満たされた。
万里子の介護を口実に、三日月家に泊り込むことが出来た。三日月家の人間は、櫃を人間として尊重した。
三日月家と懇意にしていたのは、櫃にとって、心の平穏を得るだけでなく、更なる重大な意味があった。
それは、ある日のこと。
「櫃さん、今日は泊まってくれ。心細い。」
やけにハッキリした口調で、万里子が言った。
「わかりましたよ。」
流石に連日の空襲で不安になっているのだろうと思い、櫃は優しく笑って布団を敷いた。
その夜は静かだった。

六道家が空襲で壊滅したとの報せを受けたのは、あくる朝のことだった。


- - - - - -


それから数年後、1946年に六道家の当主となった櫃は、あの日のことを思い返さずにはいられなかった。
万里子が正気に戻った、元気になったのは、つい数ヶ月前のこととされているが、本当は、とっくに正気に戻っていたのではないかと思った。
次期当主候補が、自分を除いた全員、死んでいるか行方不明になっているのは、あまりに出来すぎだった。
万里子が彼らを意図的に死に至らしめたわけではないにしろ、偶然に故意を絡めて、櫃が六道家の当主になるように画策した可能性は十分あった。櫃を当主に推したのが万里子であったのも、その裏付けに思えた。
どこまで故意だったのかはわからないが、何らかの恣意はあったのだろう。
不遇な青春時代を送ってきた櫃だったが、40も半ばを過ぎて、自らの人生の主役に立てた。
覚えることも、やるべきことも、山のようにあったが、大変であっても辛くはなかった。
復活した万里子の尽力もあり、人脈を広げていった。
やがて孫が生まれ、その孫が物心つく頃には、六道家における櫃の地位は磐石なものとなっていた。

ところが、である。
綾小路家に嫁いだ娘が、自殺したという報せが入った。
どうやら以前から姑にいびられていたようであり、慢性的な鬱から、突発的に自殺したということだった。
櫃は我が子を死に追いやった綾小路家を憎み、それこそ一族郎党皆殺しにしたいほど憎んだ。
蛮行に及ばなかったのは、ひとえに孫・草栄の存在があったからだった。
綾小路家を潰せば、草栄が悲しむ。そう思うと、無念ではあるが矛先を収めるしかなかった。
娘の死は事故死として処理し、綾小路家に貸しを作った。
我ながら鬼のような母親だと思った。

程なくして、万里子が死んだ。
この頃には万里子の助力が無くとも揺るがない地位を得ていたが、人情は別である。
ぽっかりと胸に穴が開いたようになって、それから何年も味気ない日々を過ごした。

気が付けば60歳を過ぎていた。
体が思うように動かなくなってきた。
“コンピューター”というものが出来たと聞いたのは、この頃であるが、そのときには特別な関心を示すことはなかった。
そして1964年、六道家にて、櫃は痙攣を起こして倒れた。
そのまま病院に運ばれた。


櫃の意識は、暗い水の中にあった。
キィン、キィンと、金属を擦り合わせたような、そうでないような、奇妙な音が聞こえていた。
(そろそろ、お迎えか・・・。)
万里子が死んだときの年齢も過ぎたと思うと、ここで自分が死ぬことに違和感は無い。
だが、言いようのない悲しさが込み上げてきた。自分が死んだ後のことを考え、そこに自分はいないのだと思うと、寂しくて仕方なかった。
『だったら生きればいいじゃろが。』
(・・・!?)
死んだはずの万里子の声が聞こえてきた。
死に瀕しているせいで、あの世から声が届いているとでもいうのだろうか?
『馬鹿抜かせ。人は死んだら終わりじゃ。だがな、死んだ後の世界に何かを残すことは出来る。わらしは死ぬ前に、櫃さんの脳にテレパシーでメッセージを仕込んでおいた。櫃さんが死にかけたときに発動する仕掛けよ。』
だとしても、寿命で死ぬのではない、このときに?
(儂が死にかけること、わかってたんか。)
『わらしを誰だと思っている? この三日月万里子、1970年くらいまでの未来は、かなり細かいところまで読んであるわ。』
(流石やな。)
『さあ、起きろ。櫃さん。まだアンタにゃ、やるべきことが残っとる。』
その途端、光の筋が暗い水を切り裂いた。
眩い光に目を閉じた次の瞬間、視界に病室の天井が映った。
「こほっ・・・」
体の感覚が今までとは違っていた。
この老いた肉体のどこにこんな力が眠っていたのかと思うほど、活力が漲っていた。
あるいは、老いたというのは錯覚に過ぎなかったのかもしれない。万里子が死んだことで気落ちしていたから、それに伴って肉体も衰弱していたか。
(夢でも幻でもええ。この体に漲る力は、現実じゃ。)


それから更に数年が経ち、万里子の言った1970年も矢のように過ぎていった。
世の中を見渡せば、自分の若い頃とは根本的に違っていた。異世界に迷い込んだような心地の悪さがあった。
あるいは、時代に取り残された寂しさだろうか。
SFというものは、来るべき未来に心の準備をさせる手引きではないかと、ふと思った。人を知的に見下すことしか出来ない三流マニアに嫌気が差して、その方面については若い頃に手を引いていた櫃であるが、70を過ぎて今一度、SFに手をつけてみようと思い立った。
大きな仕事も終わり、達成感と虚脱感を同時に味わいながら、櫃は、しかしまだ心の奥で何かが燻っていることに気付いていたのだ。

1971年に万里子の孫こと、史上最大の千里眼・三日月千里と会ったとき、それは燻りではなく大火となる。
「六道さん、“電脳計画”に協力してもらえませんか?」
別の仕事を日本で終えた直後の彼女は、久々の日本が居心地よさそうに見えた。それはナショナリズムか、そうでなくても彼女への親しみが認識を歪ませたのかもしれないが、あながち間違いでもないだろう。
「電波塔をね、建てたいんですよ。強力なやつを。」
出されたコーヒーを飲みながら、千里は瞼を半開きに笑う。
「今すぐではありません。そのときが来たら、また言います。」
「そうしてくれい。歳を取ると物覚えが悪うなって困るわ。」
「何年も会わなかった私の好みを覚えていてくれた六道さんが、何を言ってるんですか。いつも客に出すのは緑茶でしょう?」
「ほっほ、千里ちゃんと話していると若返るの。そんで、命良ちゃんの引き受け先じゃが、白(つくも)んとこはどうかと思っているんじゃが。当主の萬(よろず)が妻を亡くして、幼い子供を6人も抱えておってな。」
「いいと思います。彼なら良い“中和剤”になってくれるでしょうから。」
「・・・やはり、命良ちゃんも危ないかいな?」
「良平に散々“開発”を受けましたからね。これから出力が増え続けます。訓練で抑え込むのは難しいですね。」
「難儀じゃのう、超能力は・・。良平も昔は、能力こそ拙いが、良き指導者じゃった。今じゃあ能力を使いこなしたのか、能力に使いこなされているのか、ようわからんな。」
「超能力者は多かれ少なかれ皆そんなものです。ですから“中和剤”が必要なのです。私にとってはサムとレックスがそうです。」
「ほほ、隅に置けないの。」
「そんな関係ではありませんよ。」
澄ました顔で、千里はコーヒーを飲んだ。

それから千里は、“電脳計画”の概要を説明していく。
斬新かつ素朴な内容に、櫃は子供のように心を昂ぶらせた。
そして同時に、自分の忌まわしい過去に決別できるかもしれないと。
櫃の頭には、確信にも近い予感が浮かんでいた。

今までの70年余りの人生は、長大なプロローグに過ぎなかったのでは?

櫃は千里の話を聞き終わり、可笑しそうに皺を寄せた。
「ほっほっほ・・・この老いぼれに無茶言うわ。」
「櫃さんの基準では、70代は老いぼれなんですか。それは知りませんでしたよ。史上最大の千里眼といえど、まだまだ知らないことはあるものですね。これだから世界は退屈しない。」
「ほっ、小癪な。」
お世辞のように聞こえるが、それが本心であることは知っている。千里眼の精神構造を、少しは理解している。
やはり万里子の孫だ、そのあたり、同じでなくても似ているものだと思った。
「さて・・・」
櫃はもう引き受けることは決めていた。
ぼんやりと万里子の予知を思い出していた。死に瀕する前の、地獄の中にいた頃に聞いたこと。
久しく忘れていたビジョン。
光のもとに10人の戦士が集う。
その中に六道櫃がいる。
(あれは結局どういう意味だったんじゃろな。未だにわからん。)
すると千里が言った。
「だからです。」
「おん?」
「だからこそ六道さんに協力してもらいたいんです。」
「なるほどの。協力していれば、いずれわかるとな。」
「まあ、そんなところです。」
「ほほ、50年も待ったんじゃ。あと10年は待てるわい。」
しかし10年や20年では済まなかった。
謎の解明まで、ここから実に33年。これまでの71年は本当に、長大なプロローグだったのだ。


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「サトリン」 第十三話 光が繋ぐ道の先 (上) 佐久間闇子と奇妙な世界/BIGLOBEウェブリブログ
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