佐久間闇子と奇妙な世界

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zoom RSS 決闘祭!   番外編 確定死刑の摩天楼(中編)

<<   作成日時 : 2017/02/04 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



ごく普通の両親だったと思う。

ささやかな日々の幸せを噛み締め、不満も小市民的な矮小さに留まっていた。
世界を引っくり返そうとか、戦争反対だとか、大それたことは考えない、普通の人間。

子供が最高位のデュエリスト能力を得れば、それを盛大に祝った。
海馬コーポレーションから援助金(及び口止め料)を貰い、目の色が変わった。
子供がカネになると知れば、利用せずにはいられない。そんな、普通の大人。

財閥や芸能界、政界、法曹界など、両親は僕たちを様々なところへ売り込みにかかった。
しかしてそれは成功し、一生かかっても使いきれないようなカネが入ってきた。
ちやほやされるのは、僕たちにとっても悪い気分ではなかった。
しかし、僕たちの兄は置き去りにされていた。

僕たちの兄・頼座は、療養することも許されず、リハビリと称して働かされていた。
大学も辞めて、小さな工場で、電化製品を組み立てる仕事をしていた。
病気と闘いながら、兄は2年間、文句ひとつ言わずに働き続けた。

両親は褒め言葉ひとつ兄にかけることはなかった。
僕たちへの援助金だけで、兄が2年間に稼いだ額よりも1ケタ多かったから。


優しい兄だった。

この世界で生き抜くには優しすぎた兄は、高層ビルから身を投げて死んだ。
死体の手首には、無数の切り傷があった。リストカットの痕。生々しいミミズ腫れ。
無残に砕けた顔よりも、無数の切り傷の方が恐ろしくて、そして悲しかった。

普通の人間なら、僕たちを暴力の捌け口にしてもおかしくない。
しかし兄は、僕たちを殴らなかった。罵らなかった。死ぬ日の前日まで笑顔だった。

そんな兄を、両親は死んでからも貶めた。僕たちは病院で検査を受け、問診を受けた。
兄が無実であることは証明されたが、そんな疑いをかけたことが許せなかった。
人間が人間を、これほど辱めることが出来るのかと、僕たちは怒りに震えた。

くすんだ眼の妹は、処女を僕に捧げ、僕の童貞を奪った。
それが中学一年生のときで、最初の殺人の半年前。



◆ ◆ ◆



「良い家でしょう。カラッポの家ですよ。」

奉佐は紅茶を淹れて、憧れのデュエリスト武藤遊戯と差向いに座った。
広々とした部屋には、豪華なインテリアの数々、レアカードが飾られている。

「人が幸せになる為に、カネは必要です。だけどカネは人を幸せにしない。」

一缶2万円もするという紅茶は、まろやかな渋味を感じさせる。
この味わいは、カネで買える幸せだ。それを否定するつもりはない。

「遊戯さんは、千年パズルに“友情”を願ったそうですね。」

「ああ。オレは親友が欲しかった。どんなときでも裏切らない、お互いに裏切らない。親友が。」

「闇のゲームは願いを叶える。僕の両親は、カネを望みました。カネを稼いでくれる子供を愛しました。それは人として恥ずべきことではない、浅ましいことではないですが・・・しかし、嫌いです。」

「・・・・・・。」

遊戯は沈痛な顔で黙っていた。
感受性の強い彼としては、ここまでの告白だけでも心が悲鳴をあげている。

「憎まれっ子、世にはばかる。嫌な人間は長生きします。」

奉佐の両親は、この屋敷で贅沢な日々を過ごしている。
専属の医者、整体師、トレーナーなども雇い、健康管理も万全だ。
ともに50代としては若々しく、気力の充実した姿。

「いったい誰が悪かったんですか? 援助金を渡した海馬コーポレーションですか? それに目が眩んだ両親、デュエリスト能力の強さに基づく価値観、きっとどれも違う。どれも・・・。」

曳砂兄妹より以降、海馬コーポレーションは高位能力者への援助金を打ち切った。
秘匿に関する諸経費を、海馬コーポレーションが負担するに留め、多額の援助金制度は消滅した。
その代わりに、高校を対象とする大会を新たに設立し、優勝校へ莫大な援助金を齎すことにした。

「この能力が悪いのか。違う。」

奉佐も妹も、自身の能力のせいで兄が死んだなどとは思っていない。
そんな発想は、あの優しかった兄に対して失礼というものだ。
優しさで心を病んだ兄は、心が弱かったわけではない。嫉妬心や劣等感から死を選んだはずはない。

「むしろ僕は、この能力を失うことを恐れています。今更カネの心配などしていませんが、この能力が今となっては兄との絆なんですよ。失いたくない。」

迫害された者は、長く苦しみ続けることで、迫害されたことをアイデンティティーとしてしまうという。
他のことが手につかず、常人より劣るままで、迫害に関する知見を蓄え、それを心の支えにしてしまう。
そんなことを述べて、自己嫌悪に陥っていた兄の言葉が、兄が心を病んだ歳になって理解できた。

自分たちの能力が兄を殺した。それは責任を伴わず、誰からも責められず、だから自分で責めるしかない。
自分を苛み続けた末に、この能力が兄との最も深い絆になってしまった。失えば絆が絶ち切れる恐怖。

「武藤さん、この世の中どうしようもないことがあるって、僕は兄から教わりました。」

奉佐と仕喜歌がレベル5能力に覚醒したとき、頼座は心から喜んだ。
デュエルモンスターズがあれば、三兄弟は幸せだった。

「兄のデュエリスト能力“不安定な不貞”(トランキライザー)は、レベル−5の判定を受けました。」

「マイナスレベルのデュエリスト能力か。その中でも、デュエルすることがおぼつかないほどの能力・・・。」

「あんな能力に目覚めなければ、兄は死なずに済んだのに。」

遊戯に言うのではなく、独り言を繰るように、奉佐は俯き呟いた。

「遊戯さんなら、絶望せずにいられますか? 『自分が勝利したとき、6分の5の確率で無効になり敗北する』などという、ふざけた能力を得たとして。」


“不安定な不貞”(トランキライザー) レベル−5能力(所有者:曳砂頼座)
自分がデュエル・マッチに勝利した場合、ダイス判定が行われる。
6以外が出れば自分の勝利は無効になり、敗北する。



いっそのこと、確実に敗北する能力だったら、まだ救いはあったかもしれない。
その“確実性”を利用する方法は、幾つか考えられるし、普通に考えても努力を放棄する言い訳も成り立つ。

だが、自力勝利の可能性がある以上、頼座は努力を強いられる。
それも「100分の99負ける」とかではなく、「6分の5」であるあたりが、“努力すべき”印象を与える。

どれだけ努力しても、6分の5は無駄になる。他人の6倍努力して、ようやく人並み。
スタイリッシュな勝利を決めたとしても、最後は純粋に運頼みの判定が待っている。
そんなデュエルを続けているうちに、頼座の意欲は崩壊していった。

これが神から与えられた能力である以上、通常の運の良さ(引き運など)と無関係に、冷酷なジャッジが下る。
純粋で理想的な、完全なるランダム性。残酷なるデュエルモンスターズのテーゼ。

そして最も残酷なのは、能力レベルに関するルール。

「マイナスのレベルを持つデュエリスト能力は、20歳を過ぎても消失しないんです。」

デュエリスト能力を持たないデュエリストは、普通は“無能力者”とは呼ばれない。
“通常デュエリスト”あるいは“レベル0能力者”と呼ばれる。
蔑む意味を回避する為もあるが、本質的に全てのデュエリストは能力を授かる可能性があるからだ。

例えばデュアルモンスターは、特定の条件を満たすと効果モンスターになる。
それと同じように、現在レベル0であっても、何らかの切っ掛けで能力者になる可能性を秘めている。

だが、そのことがマイナス能力者にとっては桎梏となる。
20歳を過ぎるとデュエリスト能力を失うということは、レベルが1〜5が、レベル0になるということだ。
元からマイナスのレベルを持つデュエリスト能力が、「自動的にレベルが上がる」などということはない。
マイナス世界で人口の大半が能力者なのは、これが理由だ。

「この世界が残酷なら、残酷を支配する神になってやる。だから僕は、闇のデュエルで人を殺した。くだらない人間を殺しても、誰も悲しまない。だから僕は選別した。まだ年端もいかない子供で、みんなの人気者で、出来れば女の子がいい。その方が残酷だから。沖縄で暴行事件が起きたときも、成人女性なら大して騒ぎにならず、幼い女の子が被害者になったときは大騒ぎになった。日本って、幼女の好きな人が多いですよね。」

優しかった兄は、被害者の性別や年齢で運動の高揚が左右されることを、悲しんでいた。
男性より女性、成人より子供が大切にされる世の中に、悲しみと憤りを感じていた。
そんな兄は、飛び降りるとき何を思っただろうか・・・?

「これで話したかったことは全部です。あとは死刑にでも何でもなりますよ。」


「妹を庇って?」


「―――っ!?」

今まで虚ろな色をしていた奉佐の目が、一気に見開かれた。
それだけで状況証拠は十分だった。



◆ ◆ ◆



ごく普通の妹だった。

兄が死んでから、心に欠けたものを埋めるように僕を求めた。
僕も兄を失った穴を埋めるように、妹の肉体を貪った。

忘れもしない、中学一年生の秋。妹が濡れた顔で笑っていた。

良い子のみんなの人気者♪水に落とされて殺される♪

妹から話を聞いて、死体を見つけた。
闇のデュエルに敗北し、切り刻まれた女の子は、明るく元気な人気者だった。
その子とは親しい仲で、将来の夢を話したりしたこともあった。

僕は、体が折り畳まれて、無くなってしまいそうな気持ちになった。
しかし同時に、度し難いほどに惨めな興奮を覚えていた。

耐え難いストレスが、妹は嗜虐的な、僕は被虐的な方向へ向かっていた。
僕たちは、ごく普通の兄妹だった。普通“だった”。


いつか破滅がやって来る。

僕は破滅の誘惑に抗いながら、他のレベル5能力者を尋ねて回った。
そこに破滅を回避する糸口があると思っていたのか、今となっては定かではない。
ただ、話をしたかっただけなのかもしれない。

日本のレベル5能力者は当時、僕たちを含めて累計7名。
1人目と2人目は行方不明。4人目は宝探しで旅行中。
3人目と5人目、括屋さんと秋野さんは、気さくに応対してくれた。
糸口は見つからなかったが、僕の心は落ち着いていた。

破滅が来るというのなら、それまで僕は妹の味方をしよう。
とっくに僕も普通でなくなっている。

妹は何人も何人も殺した。
この6年間で、見つかってないものも含めると3ケタを殺している。



遊戯さんが帰ってから、程なくして警察が来た。

僕は妹を守れなかった。



◆ ◆ ◆



はじめて ひとを ころしたよ

あかるい みんなの にんきもの

なまえ? おぼえてないし どうでもいい


なんにん やったか おぼえてない

やみの デュエルで ころしたよ

それいがいは おぼえてない


ほんとうは

さいしょに ころしたのは おにいちゃん

わたしと ほうざが おにいちゃんを ころした


ごめんね

ごめんね

おにいちゃんが とびおりたのは わたしたちの せい


わたしたちが ころした

わたしたちが ころした


じさつ? にくたいてきには そうかもね

でも こころを ころしたのは わたしたちの つみ


やさしかった おにいちゃんは

じぶんの りふじんを うったえたら

わたしたちが くるしむと おもって

じぶんから しを えらんだ


わたしたちが ころした

ころした

ころした

ころした





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