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zoom RSS 決闘祭!   番外編 確定死刑の摩天楼(後編)

<<   作成日時 : 2017/02/05 00:00   >>

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◆ ◆ ◆



「確定死刑囚、曳砂仕喜歌、ね・・・。」

括屋束は新聞を閉じて嘆息した。
30歳になる彼は、落ち着きのある甘いマスクを春風に晒した。

その横を、元気はつらつとした少年が走っていく。

(ああ、そういえば今日はデュエル・アカデミアの入学試験か。)

途中で人とぶつかり、やり取りの後でカードを渡されていた。
あの特徴的な髪型は、会ったことがなくても見覚えがある。

「・・・?」

こっちへ向かってくる。

「運命のカードだ。こいつがアンタのところへ行きたがっている。」

「・・・!」

差し出されたカードを見て、束は全てを理解した。
この人は全てを知っている。

「アンタを裁きに来たわけじゃない。ただ、アンタの罪を知っている人がいることは覚えておいてほしい。」


スクリーチ レベル4 水属性・爬虫類族
攻撃力1500 守備力400
このカードが戦闘によって破壊された場合、
デッキから水属性モンスター2体を墓地へ送る。




◆ ◆ ◆



優秀な若者ほど孤立を深めると、ただひとりの親友は、後に言った。

括屋束は幼い頃から才覚を顕していた。学業もスポーツも秀でていた。
6歳の頃に反戦平和を希う詩を書き、7歳の頃に中学数学をマスターした。
8歳の頃に柔道で高校生に勝ち、9歳の頃にテニスで大人に勝った。
カードゲームの才能もあり、齢十にして魔術の素養も身に着けていた。
しかし、神童たる彼を持て余した周囲の大人たちは、彼に“普通”を強要した。

強くなくったっていい。賢くなくていい。健やかに育ってくれればいい。
不幸な天才になるくらいなら、凡人のままで、平凡な幸せを掴んで欲しい。
そうした、優しさの皮を被った僻み、嫉妬が、真綿で首を絞めるように彼を苛んだ。
地獄への道は善意で、途方もなく善意の石畳で敷き詰められている。
ざらついた石を裸足で踏みしめながら、笑顔で赤い足跡をつけた。
善意に苛まれるなんて、自分は悪人なのだろうか。

押し潰されかけていた束を救ったのは、彼に絵画を教えてくれた教師だった。
正式な教員ではなく、趣味で絵を描いている、まだ高校一年生だった、実の叔母。
括屋束にとって、心から“先生”と呼べる、ただひとりの人間だった。

いつしか叔母と情けを交わす間柄になっていた。
絵筆を握るときの優しく真剣な顔そのままで、彼女は妖艶な甘い吐息を、幼い肢体に吐いた。
彼女は無言で泣きながら、幼い束の華奢な肉体を、何度も何度も痛めつけた。
彼女の腕には既に、何度も何度も切り刻んだ痕があった。

彼女は絵画の道を志していたが、周囲に反対されていた。
そんな楽な世界じゃないぞ。もっと堅実な人生でいいだろう。趣味では駄目なのか。
大人たちは見合い写真を持ってきて、強引に結婚を承諾させた。
彼女が束と関係を持つようになったのは、その夜からだった。

16歳になった彼女は、すぐに結婚させられた。
相手は倍も年上の、真面目で堅実な男だった。
やがて妊娠が発覚したとき、彼女は幸せそうに笑っていた。
束の中で、何かが壊れてしまった。


高校時代に生涯の友人と出会った。

束の周囲は、大人も子供も、すり寄って来るか、嫉妬するかの2種類。
人間に無数の個性があるなんて嘘っぱちだ。人間は2種類しかいない。
そんな認識に殺されそうになっていた頃に、彼は無堂幻大と出会った。

幻大は、“気にしない”人間だった。
天才だろうが気にしない。平凡でなくても気にしない。尖っていても気にしない。
束と付き合うことで、周囲から悪く言われたり、嫌がらせを受けても、気にしない。
それを束に対して恩を着せるようなことも絶対しない。だって、気にしないから。

壊れていたものが、少しずつ埋められていた。
きっと自分は、優れたまま、真っ当な人間になれると思った。

しかし一方で、女性との交際は上手く行かなかった。
軽い付き合いの女なら、幾らでもいる。だが、人生を共にする女は見つからない。
誰かの代わりであることを、女は敏感に察する。そして束も、察せられたことを察した。
叔母の代わりであっても、いずれ本気で愛せるようになると、高を括っていた。
しかし命短し恋する乙女は、待つことに耐えられなかった。誰ひとり。

高校を卒業すると、幻大はカードデザイナーを目指し、忙しくなった。
疎遠になったわけではないが、置き去りにされた感覚が蘇る。
自分には、やりたいことが無い。将来の夢が無い。
“普通”を強要されて、苛まれているうちに、夢への情熱を失っていた。

それから彼は、自堕落な生活を送る。
デュエルでカネを稼ぎ、その日その日で違う女と床を共にした。
傍目から見れば、人生を謳歌しているように見えたが、彼は狂っていた。


それは必然だったのだろう。

叔母とは疎遠になっていたが、風の便りに様子は聞こえていた。
2人目の子供が出来ないことで、責められているらしかった。
1人目が女児であることで、男児を産めと、時代錯誤な責めを受けているという。
じりじりと心を焼かれるような思いで、彼は自堕落な生活を続けていた。

大学四回生の春、彼のもとへ、月島鈴昌と名乗る医者が現れた。
叔母の夫は、無精子症で、子供が出来ない体なのだと。
レスラーのような体格の医者は、DNA検査の結果も提示して、事実を告げた。
束と叔母の子供は、11歳になり、童実野小学校に通っているという。

あの笑顔は、幸せそうな笑みは、そういうことだったのか。
その事実は、壊れていた心を繋ぎ、狂気の歯車を止めた。
その事実は、彼を正気に戻した。・・・別の正気に戻した。

ふらふらと彼は、これまで一度も会わなかった、叔母の娘に会いに行った。
同級生に曳砂の双子がおり、その取り成しで学校に入れてもらった。

戸籍上は従妹に当たる彼女は、初めて会う従兄を警戒した。
大人の男というだけで苦手な年頃だ。無理もないと束は思った。
そして娘に対して抱きかけていた愛情が、冷めて消えていくのを感じた。

この子を殺せば、彼女は戻ってきてくれるかなあ?

それから3か月後、暑い夏の日に、計画を実行に移した。
自分の遺伝子を受け継いだ娘の首を絞め、気を失わせた。
誰も来ない密室で、目を覚まさせ、録音を開始。
金鎚で頭に1000ダメージを与え続けたら、そのうち冷たくなっていた。
剃刀で全身に切り傷をつけて、海に放り込んで魚に食わせた。

これで、もう一度彼女と会えるはずだと思った。
子供を望まれているのなら、種無しの男ではなく、自分を求めるはずだと。
娘を失って悲しんでいる彼女を、慰めてやろうと思った。

しかし彼女は、人として偏狭な位置にいるものの、最後には普通の側にいる人だった。
そして、どっぷりと異端に浸かった束は、きっと冷静ではなかった。

戻ってこない彼女に痺れを切らして、半年後に2人目の女児を殺した。
切り取った肉を口に詰め込んでいるうちに、死んだ。金切り声は録音した。
叔母の腕にあったような、無数の切り傷を、死体に刻み込んだ。

当然ながら、愛する人は戻ってこない。
喪失感に襲われた束は、1年余り何もしなかった。


曳砂奉佐は、友達ではないが、同士と言えた。

奉佐が訪ねてきたとき、束は魔術で彼を操り、妹の殺人を告白させた。
その手口は、2年前に殺された同級生の死に様を模倣していた。
聞いてしまった束は、あることを思いついた。

自分の中に、衝動がある。括屋束は、正常とは別の正気で笑みを浮かべた。
束は自分の中に叔母がいるのを感じた。
無言で泣きながら自分を痛めつけた、彼女の嗜虐性が棲み憑いていた。

被害者の音声ディスクと《スクリーチ》のカードを、曳砂仕喜歌に贈った。
それから程なくして、捜査本部に音声ディスクが届いたという。
同一犯であることは、これで疑いようもない。
狙い通りの展開に、束は胸が躍るのを感じた。

狂女の凶行に紛れて、道化は火中の栗を拾う。
全ての殺戮は、曳砂仕喜歌―――あらため、死鉤の仕業と認識された。
全ての殺人について、及び音声ディスクの件も、彼女は否認することはなかった。

記憶の曖昧な死鉤だが、初めて殺したのは“元気な人気者”で、死体は水に落としたことは覚えていた。
奉佐の認識では、最初の殺人は中学一年生のときだが、それ以前から凶行に及んでいたとされた。
それは奉佐も、疑わなかった。妹ならやるだろうと、信じていた。

しかし《スクリーチ》のカード。それが束のミスだった。
それは死鉤のデッキに入っていたまま残っていた。
およそ死鉤のデッキに入りそうにないカードに、ある人が注目した。
当然ながら指紋などは残していないが、デュエリストは所有カードに魂の一部が刻み込まれる。
かつて天馬夜行がペガサス・J・クロフォードを復活させたときも、それを応用したのだ。

武藤遊戯は《スクリーチ》のカードに残っていた残留思念を辿り、括屋束に辿り着いた。



◆ ◆ ◆



「・・・オレの罪、か。」

7年前に武藤遊戯に言われたことを思い出しながら、括屋束は刑務所へ向かった。
今日、曳砂仕喜歌の死刑が執行される。この日を待っていた。

ひとたび死刑を執行されて、死亡が確認されれば、再び死刑にされることはない。
死者を死によって裁くなど、レトリックの利いた言葉遊びでしかない。



首の骨が折れた仕喜歌は、まだ温かかった。
束は執行官たちへデュエルディスクを向けた。

「さあ、狂女復活の儀式を始めよう。彼女の魂(カー)が昏き棺へ旅立つ前に。」

「笑わせるな!」
「デュエリスト能力を失ったお前が、我々4人を相手に勝てると思ってるのか!」
「行け、《黒魔導の執行官》!」
「魔法カード《トゥーンのもくじ》発動!」

「クックック、デュエリスト能力を失った程度で、あんたら如きに負けるかよ。」

7年前、能力なしに曳砂兄妹や自分を破ってのけた、武藤遊戯。
彼の言葉を受け止める。己に罪があるのなら。
己の罪を自覚するのなら、このデュエルに勝たなくてはならない。

「《リフレクト・ネイチャー》! 《バベル・タワー》! 《強制詠唱》! ・・・」


- - - - - -


デュエルは終了した。

執行官たちは、魂(バー)を吸い尽くされて、無残な肉の塊と化した。
束も寿命を10年、あるいは20年失い、仕喜歌は白い霧に包まれた。

「・・・・・・んん、あら?」

「おはよう、お姫様。」

ぐっしょりと汗をかいて、少し歳のいった王子様は、苦しげな笑みを作ってみせた。





   確定死刑の摩天楼   完

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