孤独の王者は死を統べる (遺血)

この世界は死に向かっている。

世界の本質は生ではなく死である。
あらゆる生物は死から逃れられない。
何を得ようとも、何を成そうとも、いずれ死ぬ。
エネルギーは高いところから低いところへ流れる。
集積し、やがて消滅する。
宇宙は膨張を続け、やがて死に至る。
開闢は想像も出来ない温度の火の玉。
終焉は寒々しい暗黒の世界。

なぜ死を恐れるのだ?
死は美しい。
死は優しい。

なにゆえ、もがき、生きるのか?
生きることは残酷だ。
生きることは悲しい。

何の為に生まれて、何の為に死んでいく?
どうして生まれてきたのか。
死んでいくときに、それが理解できるのか。

恐れることはない。
死ぬことは安らぎだ。
死体は悩まない。
骨こそ骨子。
死霊の影が来たるとき心軽やかに。


―――さァ、我が腕の中で生き絶えるがよい!




◆ ◆ ◆



魔物使いが魔王城へ辿り着いたのは、四天王が死族と戦いを繰り広げている頃だった。
留守番を任されている老兵のアーク婆は、魔物使いを見て驚いた。
いずれ人間が来ることは、魔王から聞いて知っていたし、付き従っている魔物3体にも驚かない。
だが、冥王の右腕であるピルト・ダウン。それが媚びへつらうように従ってるのには、流石に目を丸くした。

「え、いないの?」

「ああ、魔王様なら竜族の里に行ってるはずじゃ。ロック鳥が手紙を届けてきたわぃ。」

青い顔をして尋ねる魔物使いに、アーク婆は冷静に答える。
内心では激しく動揺しているのだが、そこは流石に年の功だ。

「何か急ぐんか。ならばワケは訊かん。早よ行け。」

アーク婆はピオリムを唱えた。
これで少しでも速く移動できる。

「ありがとうございます!」

魔物使いは礼を言って、竜族の里へ向けて出立した。


魔族の温かみに触れたのは収穫だったが、このタイムロスは痛かった。
もしかすると、間に合わないかもしれない。
胸が少女のように不安になった。

「ねえねえ、ベスラおばさん。そんなに急がなくてもいいんじゃないですか? ピルト走るの疲れたんだけど。」

「そりゃあ、お前にとっては急がない方がいいわよね。」

「そうでなくて、冥王様が復活しても、叩きのめして封印すればいいかと。あ、様つけちゃった。まあいいや、ピルトそういうの気にしないし。」

「側近のクセに冥王の強さを知らないの? 話に聞く冥王は・・」

「はい、知りません。マジで。」

「・・え?」

とぼける相手に嫌味を言ったつもりが、返ってきたのは予想外の答だった。

「だって、前に冥王が封印されたときピルトまだ存在してなかったし、もちろん戦ったことなんてないもん。仕方ないもん。ピルト相手の強さとかわかんない方だし。」

「とぼけてるわけじゃないみたいね。」

「ベスラおばさんこそ、いやさ、人類も魔族も、冥王様を恐れすぎじゃないですか? そりゃあ、昔の冥王様は強かったのかもしれないですけどね、ピルトどっちかというとベスラおばさんの方が恐いんですが。」

「・・・・・・。」

「伝承に尾ひれがついてるか、冥王様が弱体化してるのか、それはピルトわからないですが。」



◆ ◆ ◆



竜族の里では、勇者パーティー、魔王父娘、竜王姉妹が一堂に会していた。
しかし談笑という雰囲気ではなく、張り詰め、戦慄さえ漂っていた。

「ハルカが、生きている・・・?」

魔王は、喜びよりは恐れに近い表情で呟いた。
その意味を、この場にいる誰もがわかっていた。

死んだはずの者が生きているということは、すなわち。

「ま、待ってくれ。魔王の妻が、第46導師と同姓同名ってだけの話だろ?」

言ってみたはいいものの、そんな偶然など期待できないと、当の勇者が一番よくわかっていた。
かつて邪竜を封印したハルカの力は、紛れもなく“導師の特性”だ。
苗字も名前も同じで、同じ希少な力を持っていて、しかも容姿は酷似している。
それで別人などと、どうやって思えばいいのだ。

「・・・冥王が、関わってるのか?」

誰もが思っていて言えなかった、恐ろしい結論。
それを口にすることを竜王が引き受けた。
疑問系ではあったが、彼女自身も含めて全員の確信だった。

そして次の瞬間にも、その沈黙さえ許されない状況になった。


「「「「「「「「・・・・・・っ!!?」」」」」」」」


強大な“死の波動”。
あるいは鼓動。
感知能力に関係なく、等しく持つ死への恐怖よろしく、全員が同時に戦慄を覚えた。

もはや言葉は要らなかった。8名は急いで外に出た。

「全速力で飛ぶわ! つかまって!」

竜王は両手足を、大きさ以外は元に戻した。
手足それぞれに、勇者、戦士、魔法使い、賢者が掴まる。
腰には魔王の娘ハルが掴まり、魔王の首は竜王の胸の谷間に挟まれた。

「んっ・・・」

少し喘いだ竜王は、背中から翼を生やし、それらが空を覆わんばかりになるや否や、上空へ舞い上がった。
飛翔している間の衝撃に耐える為に、全員にスクルトがかけられる。防御力アップ。
竜王の速さを上げるべく、ピオラがかけられる。
かつて冥王を封印した場所へ向かって、飛ぶ!


本気の竜王は速い。並んで飛んでいた妹が、早くも後方へ見えなくなった。
景色が流れるように過ぎ去っていく。
こんなときに不謹慎だが、どうしても胸が躍ってしまう。それも全員が共有する思いだった。

ただし、魔王と竜王については少し事情が違った。
物理的に踊る胸の谷間に挟まれて、魔王は息が出来なかった。竜王の鼓動が直に伝わってくる。
その鼓動に特別な意味が込められていることを、魔王は知らない。




つづく

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